『ミラクル・ワールド/ブッシュマン』:1980、南アフリカ

アフリカのカラハリ砂漠は、人間にとっては危険な場所である。短い雨期を除くと水場も川も干上がり、動物も移動する。そんな環境の中で、狩猟採集民族のサン人たちは暮らしている。彼らは食べられる実の場所も、水を確保する方法も知っている。彼らに罪や法の概念は無く、悪の存在を信じていない。現代文明とは無縁の生活を送っておる。そこから1000キロ南方の大都市では、人々が文明の中で時間に追われる日々を過ごしていた。ジャーナリストのケイトは障害児の記事を書きたいと望むが、「深刻すぎる」と却下された。ボツワナで教師を募集していると知った彼女は、応募することにした。
サン人のカイたちが暮らす場所では最近、上空を飛行機が通過することが多くなった。しかしカイたちは飛行機を知らず、羽ばたかない妙な鳥だと思っていた。ある日、小型機の操縦士が飲み干したコーラの瓶を投げ捨てた。空き瓶を拾ったカイは、神が地上に落とした物だと思い込んだ。カイは集落に持ち帰り、紐に吊るして回転させる遊具にしてみた。一族の面々は蛇皮をなめしたり、楽器にしたり、固い物を潰したりと、様々な利用方法を考え付いた。
空き瓶が1つしか無いため、一族の中で奪い合いが起きた。カイは空き瓶を神に投げ返そうとするが、当然のことながら、すぐに落下した。そこでカイは、離れた場所に埋めて処分した。ところが夜中にハイエナがエサと間違えて、掘り起こしてしまった。ハイエナは空き瓶をくわえて去ろうとするが、イボイノシシに追われて落としていった。
翌朝、カイの娘が空き瓶を見つけ、集落に持ち帰った。また奪い合いが起きたため、一族は空き瓶の扱いについて会合を開いた。カイは地の果てを見つけ出して空き瓶を捨てようと決意し、家族に別れを告げて出発した。同じ頃、3200キロ北方では事件が起きていた。閣僚会議がテロリストであるボハの手下8名に襲撃されたのである。一味は閣僚3名を銃殺するが、大統領は軽傷で済んだ。警備隊は2名を射殺し、2名を捕まえた。残る4名はジープで逃亡した。
大統領は将軍に、捕まえた2人をヘリコプターに乗せるよう命じた。ボハは大統領が死んでいないことをニュースで知り、大いに悔しがる。将軍は捕まえた男を脅し、一味が隠れているバナナ林の場所を白状させた。一味はバズーカ砲でヘリコプターを撃ち落とすが、戦車が突っ込んで来たのでジープで逃走した。一方、カイは少し目を離した隙に、ヒヒに空き瓶を奪われてしまった。カイが説得すると、ヒヒは木の上から空き瓶を落とした。
砂漠で象の調査をしていた微生物学者のスタインは、牧師の訪問を受けた。牧師は新任教師のケイトを迎えに行く予定だったが、車が故障したので借りに来たのだ。スタインのオンボロ車も調子が悪く、助手のプディーに修理させていた。走ることは可能なので、スタインは貸すことを承諾した。しかし扱いが難しくてスタートさせるのも大変だと聞かされた牧師は、代わりに行ってほしいと依頼する。スタインは「女性は苦手で」と断るが、牧師の懇願を受けて承知した。
プディーはスタインに、「エンジンを切ったら二度と掛からない」と忠告した。スタインは車で出発するが、エンジンを止められないので苦労する。何とかケイトの元へ辿り着くが、帰りも苦労の連続だった。とうとう池でエンストを起こしてしまい、ケイトは不機嫌になった。スタインは彼女を抱き上げ、濡れないように岸まで運ぼうとする。しかし足を滑らせてケイトを川に落としてしまい、また彼女の機嫌を損ねた。着替えようとしたスタインは、イボイノシシが突っ込んで来たので慌てて逃げ出し、着替えていたケイトに激突した。スタインはケイトに事情を説明するが、全く信じてもらえなかった。
その夜、スタインとケイトが焚き火に当たっていると、サイが突進してきた。サイは火を見ると、踏み潰す習性があるのだ。スタインはサイに気付き、激突を避けるためにケイトを押し倒した。するとケイトはスタインが襲って来たと誤解し、慌てて木の上に避難した。彼女は走り去ったサイに気付かず、スタインが事情を説明しても信じなかった。一方、ボハの一味は国境ゲートを突破してボツワナに入った。戦車は追い掛けようとするが、検問所で「他国軍の越境は認められない。ボツワナ警察が捕まえて引き渡す」と止められた。
スタインはウインチを使って、車を川から引き上げようとする。着替えようとしたケイトは木のトゲに下着が引っ掛かり、スタインに助けを求めた。スタインがトゲを取り除いている間に、車は木の上まで引っ張り上げられてしまった。カイはケイトを見つけて神だと思い込み、空き瓶を返そうとする。しかしケイトは不審な原住民としか思わず、無視してスタインの元へ行く。スタインを見たカイは神だと思い、事情を説明して空き瓶を返そうとする。しかしスタインはサン人の言葉が分からないので、カイの目的は伝わらなかった。
そこへ小型の牽引車に乗ったプディーが現れ、通訳を買って出た。カイが「これは要らないので返す」と言っていることを知ったスタインは、「要らないなら捨てればいい」と告げた。カイは神が地の果てまで行けと要求しているのだと思い込み、その場を去った。スタインは車を下ろし、プディーの牽引車に引っ張ってもらう。しかし速度は遅く、なかなか先へ進まない。牧師から事情を聞いたツアーガイドのジャックが自分の車で駆け付け、ケイトはそちらに乗り換えて村へ赴いた。
スタインはケイトが忘れた靴を渡すため、授業中の彼女を訪ねた。しかし、またドジをやらかして教室を散らかしてしまい、子供たちに笑われた。カイはヤギの群れを見つけ、それが放牧中の家畜だと知らずに矢を放って仕留めた。カイがヤギを調理しようとしていると、連絡を受けた警官が駆け付けた。警官はヤギを車に積み、カイを連行しようとする。しかし言葉の分からないカイが別のヤギを捕まえようとしたので、警官は彼の足に発砲して捕まえた。
プディーは通訳係として法廷に呼ばれ、カイが3ヶ月の懲役刑を受ける場に同席した。スタインの元へ戻ったプディーは、「サン人は3ヶ月も収監されたら死んでしまう」と相談する。スタインはカイを憐れむプディーの様子を見て、カイの釈放に協力することにした。彼は判事の元へ行き、自分が雇うのでカイを釈放してほしいと申し入れた。判事は11ヶ月間の雇用を条件に、カイを釈放した。そんな中、ボハ一味が学校を襲撃し、ケイトと生徒たちを人質に取った…。

脚本&製作&監督はジャミー・ユイス、製作総指揮はボート・トロスキー、撮影はジャミー・ユイス&バスター・レイノルズ&ロバート・ルイス、衣装はゲイル・グロベラー&ミジ・レイノルズ、アニマル・トレーナーはヴィヴ・ブリストウ&ジャック・シール、音楽はジョン・ボショフ。
ナレーターはパディー・オバーン。
出演はマリウス・ウェイヤーズ、サンドラ・プリンスロー、ニカウ、ロウ・ヴァーウェイ、マイケル・ティス、ニック・デ・ジャガー、ファニアナ・H・シドゥモ、ジョー・シーカツィー、ブライアン・オショーネシー、ケン・ガンプ他。


『ビューティフル・ピープル/ゆかいな仲間』『ファニー・ピープル』のジャミー・ユイスが脚本&製作&監督を務めた作品。
タイトルの「ブッシュマン」は、カラハリ砂漠に住む狩猟民族のサン人を指す言葉。しかし「ブッシュマン」が差別的な言葉だということで、後にビデオの邦題は『コイサンマン』へと変更された(ちなみに「コイサンマン」というのは東宝東和が勝手に作った呼称)。
アンドリューをマリウス・ウェイヤーズ、ケイトをサンドラ・プリンスロー、カイをニカウ、ボハをロウ・ヴァーウェイが演じている。
ちなみにニカウは実際に劇中のような生活をしていたわけでなく、スカウトされた当時は庭師として働いていたらしい。

序盤は完全に、サン人の生活を描くドキュメンタリーになっている。
ナレーションによって「普通の人間なら死ぬような場所で、サン人は暮らしている」「木の根の在りかや食べられる実を知っている」「水も確保できる。例えば前夜に葉っぱを並べておき、朝露を集める」「ただの茂みに見えても、下を掘れば大きな球根が生えている。尖らせた枝で削り、親指を下に向けて絞ると水分を得られる」「毒蛇も悪ではなく、肉は美味しいし、皮袋も作れる」「家族単位で生活し、仲間とは数年に一度出会う」「世の中から隔絶しており、外の人間には気付かない」「言葉は独特で、舌打ち音を多用する」などと説明し、それに合わせた映像が写し出されるという構成だ。
それ以降の展開も含めて、サン人の登場するシーンは、とにかく何から何までナレーションで説明しまくっている。
サン人の言語は特殊であり、会話劇として描くのが無理だという事情はあるんだけど、ナレーションで説明しなくても、映像を見ていれば何となく伝わるようなこともある。
あまりにもナレーションが過剰で、映像が語りのための補足になっている映画としての流れ、映画としてのドラマ性が、全く感じられない状態になっている。

その後、ケイトが住む大都市の様子が写し出され、サン人の暮らしとの違いを強調するようなナレーションが入る。
ギャップを見せて、近代文明を批判的に批評しようという狙いがあったのかもしれない。
しかし、そうだとすると、かなり中途半端だ。
それに、文明批判の意図があったとしても、オープニングでサン人の生活を丁寧に説明する必要は無い。先に都会で暮らすケイトの様子を見せて、彼女がカイと出会った後に、初めてサン人の生活を見せる形にした方が、驚きや面白味は出るだろう。

ケイトがボツワナの教職に応募しようとした動機が、どうにもハッキリしない。
ケイトは障害児に関する記事の執筆を却下され、昼食の時に食堂で隣に座った同僚から「頭で音がする?」と訊かれ、オフィスに戻って教師に応募することを決めている。
だが、「時間に追われる生活で頭がおかしくなりそうだから転職を決意した」ってことなのか、「望み通りの仕事をさせてもらえないから転職を決意した」ってことなのかが良く分からない。
それに、どっちの理由だったとしても、「だからボツワナで教師になる」ってのは飛躍しすぎだわ。

大統領官邸の襲撃シーンは、明らかにNGカットだ。
何しろ、武装した連中が会議室に突入してドアを開けた時、勢いが強すぎてドアが戻って閉じてしまうのだ。
で、また一味がドアを開けて、ようやく閣僚に向けて発砲するもんだから、すんげえモタついた襲撃シーンになっている。
どう考えたって、それはNGだろうに。
なんで撮り直さなかったんだよ。変なトコロで苦笑が起きちゃうでしょうに。

撃ち合いで大勢が命を落とす様子が殺伐とした雰囲気の中で描写されているのに、秘書が部屋に突っ込んで来たテロリストに物を投げて撃退する様子や、車で一味を追った兵士たちがガス欠で停止しちゃうとか、そういう様子はユーモラスに演出されている。
それは明らかにバランスがおかしい。
そもそも、「サン人のカイが空き瓶を捨てるために地の果てを目指して旅に出る」という導入部だったのに、悪党が閣僚を殺害して逃亡する話を盛り込んでいることに違和感がある。
「犯行グループの逃走」という要素を入れるにしても、「テロ行為」ってのは殺伐としすぎだわ。せめてダイヤ泥棒とか、人を殺していない銀行強盗だとか、そういう犯罪にしておけば良かったのに。
激しい銃撃戦とか、ヘリの爆破とか、そういう派手なアクションも邪魔なだけだし。

っていうか、やっぱり「サン人のカイが空き瓶を捨てるために地の果てを目指して旅に出る」という入り方をしていながら、それとは全く関係の無いストーリーを2つも入れている時点で構成としては失敗だろう。
ケイトがボツワナへ行くことを決めた時点では、「ボツワナに到着した彼女がカイと出会って云々」という形にすれば、それで成立しただろう。しかし、ケイトをカイと交流させる展開に移行しないだけでなく、テロリスト一味が逃亡するという新たなストーリーを描いてしまうのよね。
テロリスト一味が逃亡する様子の後でチラッとカイが登場するけど、完全に「カイの話」「ケイトの話」「テロリストの話」が分離してしまっている。その後にはスタインが登場し、さらに構成は散らかった状態になってしまう。
スタインはケイトを迎えに行くことになるから、そこの2つの要素はすぐに合体するんだけど、カイの物語が完全に脇へ追いやられているという状況は変わらない。
スタインが登場すると、彼がブレーキの壊れた車で必死にケイトの元へ向かう様子がユーモラスに描かれ、完全に焦点がボヤけてしまう。

文明人であるスタインやケイトを、カイと絡ませるために登場させるなら、それは理解できる。
しかし、彼らはカイと絡まないまま、自分たちだけでエピソードを進めてしまうのだ。エンストの翌朝になって少しだけカイと絡むが、すぐに別行動へと戻ってしまう。
スタインとケイトが初対面なので、出会ってからの2人の交流を描く必要が生じている。それによって、この2人が映画のメインになっている。序盤でカイが主人公のように提示されたが、彼が要らないキャラになってしまっている。
盛り込み過ぎてゴチャゴチャしているのだが、その中で「ここを排除すればスッキリする」と思わせる一番のポイントは、カイのストーリーなのだ。

終盤、プディーが通訳係としてカイの裁判に立ち会い、そこから「スタインがカイを雇うことで釈放の許可を得る」という展開になって、ようやくスタインとカイが本格的に交流する状況が訪れる。
だが、もう残り30分ぐらいしか無いわけで、あまりにも遅すぎる。そこから取り戻そうとしても、スタインとカイの交流は薄っぺらくならざるを得ない。
ケイトに至っては、その時点でも、まだカイとは1シーンで絡んだだけに留まっている。
その3人とボハ一味も全く絡まず平行線のままで終盤に至っているし、構成がデタラメすぎるわ。

(観賞日:2015年2月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会