『モネ・ゲーム』:2012、アメリカ

イギリスで絵画鑑定士をしているハリー・ディーンは、雇い主であるメディア王のライオネル・シャバンダーから無能呼ばわりされ、侮辱を受けた。恨みを抱いたハリーは復讐のため、シャバンダーの所有する絵画を盗む計画を立てた。彼は贋作作りを趣味とするネルソン少佐を相棒にして、テキサスへ向かった。もう一人の重要人物、PJ・プズナウスキーと接触するためだ。ハリーの計画を成功させるためには、絶対に彼女の協力が必要だった。
ハリーと少佐はロデオ大会の会場へ行き、参加者であるPJを観察した。夜になると酒場でPJを観察し、ハリーは彼女に50万ポンドの報酬で仕事を持ち掛けた。ハリーはPJのトレーラーハウスへ赴き、彼女と祖母の写真を撮影する。その際、背後の壁には少佐が作ったモネの絵画『積みわら−夕暮れ』の贋作を飾った。それはシャバンダーの会社が発行する雑誌に掲載される写真として、彼の元に届いた。写真を見たシャバンダーはハリーを呼び、ロンドンへ招いたPJを空港まで迎えに行くよう命じた。
ハリーはシャバンダー社へ向かう車の中で、PJに事情を説明する。かつて『積みわら−夕暮れ』はナチスのゲーリングが別荘に飾っていたが、パットン少佐の第一師団が襲撃した。その指揮官を務めていたのが、PJの祖父だった。その襲撃以来、『積みわら−夕暮れ』の行方は分からなくなっている。『積みわら−夕暮れ』と対になる『積みわら−夜明け』を、シャバンダーは既に所有していた。20年前のオークションで、ライバルである日本人のタカガワに競り勝ったのだ。それ以来、彼は『積みわら−夕暮れ』を探していた。
ハリーはPJに1200万ポンドの売却価格を告げるよう指示し、シャバンダーと会わせた。ハリーは絵を鑑定し、本物だとシャバンダーに言う。計画を成功させたハリーは、PJに50万ポンドと帰りの航空券を渡した。ただし、それは全て、成功することを想定したハリーの楽観的な妄想に過ぎなかった。実際のところ、ハリーは酒場でPJに話し掛けようとして、カウボーイに顔面を殴られた。もはや初っ端から、全てが狙い通りに進むと思っているハリーの計画は狂ってしまった。
ハリーは改めてPJに報酬を持ち掛け、彼女のトレーラーハウスへ行く。すると貞淑なイメージを抱いていた彼女の祖母は、下品で粗野な女性だった。ハリーは写真を撮影したが、シャバンダーは食い付かなかった。ハリーはシャバンダーの元を訪れ、写真の絵画について触れる。しかしシャバンダーは「複製だ。テキサスのトレーラーハウスだぞ」と相手にしなかった。ハリーが調査メモを届けたことで、ようやくシャバンダーは興味を持った。しかしハリーが「彼女を呼びましょうか」と言うと、「向こうが売る気なら下手に出る必要は無い。ロンドンまで来るなら、数分だけ会ってやると伝えろ」とシャバンダーは冷淡に告げた。
計画が狂ったため、金の無いハリーはPJを自宅に泊めた。しかし早朝からPJがトレーニングを初めて大きな音を出したため、ハリーは腹を立てた隣人に殴られた。彼はPJを連れて、シャバンダーの元へ赴いた。自分の妄想とは違い、PJが上品さのかけらも無い態度を取るので、ハリーは動揺を隠せなかった。ハリーは何とか自分の計画通りに進めようとするが、PJは馴れ馴れしい態度でシャバンダーと会話を交わした。PJの絵は火曜日に届くことになっていたが、シャバンダーはハリーに「私の別荘へ運べ」と命じた。
シャバンダーはPJに、「今夜、ビジネスのディナーがある。そこへ来ないか」と誘う。ハリーが同行しようとすると、シャバンダーは「お前はいい。彼女と2人で行く」と告げた。シャバンダーとの会話の流れで、ハリーはPJを高級ホテルのサヴォイに宿泊させる羽目になった。仕方なくハリーはPJをサヴォイ・ホテルへ連れて行くが、ルームサービスを使うなと釘を刺した。クレジットカードが限度額を超えて使えなくなっていたため、ハリーは別のカードを使った。
シャバンダーはPJをレストランへ連れて行き、絵画鑑定士のマーティンと会わせた。シャバンダーはPJに、「彼が君の絵を鑑定する。コレクションの管理も担当させる。ハリーはクビだ」と告げた。PJはハリーの家へ行き、計画から降りると告げる。ハリーが腹を立てて罵ると、PJは「シャバンダーは貴方をクビにして、マーティンという男を雇うと言ってたわ」と告げた。ハリーはマーティンに電話を掛け、「シャバンダー社の経営が危ないから辞めるつもりだ。小切手が落ちなかった」と嘘を吹き込んだ。
ハリーはサヴォイ・ホテルへ行き、PJの部屋をチェック・アウトするようフロント係に頼んだ。するとフロント係は、シャバンダーが料金を支払ってPJがシニア・スイートに移ったこと、2人が一緒に出掛けたことを話す。シャバンダーはタカガワのケーブルTV局を手に入れるため、幹部のカツハラたちと会った。一方、ハリーはホテルの壺を盗み出そうとするが、客室係が来たので用具室に隠れた。しかし客室係がドアに鍵を掛けたため、ハリーは閉じ込められてしまった。
シャバンダーはカツハラと強気に交渉するが、相手も全く譲らない。そこでPJは、1対1で付き合うためにもカツハラたちをパーティーへ招待するようシャバンダーに提案した。ハリーは窓から外へ出るが、ズボンが木に引っ掛かって脱げてしまった。シャバンダーはPJを称賛し、帰りの車内で一緒に酒を飲んだ。窓の外で立ち往生していたハリーは、PJを送って来たシャバンダーがキスする姿を目撃した。上に目線をやったPJは、情けない格好のハリーに気付いた。
シャバンダーがPJをホテルの中へ連れて行く様子を見たハリーは、不快感を露わにした。ホテルの中に戻った彼は、シャバンダーがPJに「部屋で一杯やろう」と持ち掛けている様子を目撃した。ハリーが身振り手振りで必死に何か訴えるのに気付いたPJは、困惑しながらシャバンダーを部屋に連れ込んだ。シャバンダーを奥の部屋へ導いた後、PJはハリーを呼び寄せる。ハリーは「シャバンダーを部屋に入れるなんて、羞恥心が全く無い」と批判し、PJも言い返した。シャバンダーはハリーに全く気付かなかった。
次の日、PJはホテルの前で座っていたハリーに声を掛け、計画を断念するよう諭す。「世の中には二種類の人間がいる。シャバンダーのように全てを持っている人間と、私や貴方のような人間。絶対に成功しないわ。シャバンダーみたいになりたいの?無理して自分を変える必要なんてないわ」とPJは言うが、ハリーの気持ちは変わらなかった。PJが諦めて「分かった、貴方の計画通り、パーティーに出席するわ」と告げると、ハリーは「今夜、君は生まれ変わったハリー・ディーンを見て驚くだろう」と自信を見せる…。

監督はマイケル・ホフマン、脚本はジョエル・コーエン&イーサン・コーエン、製作はアダム・リップ&ロブ・パリス&マイク・ロベル、共同製作はジェーン・フレイザー、製作総指揮はリザル・リシャド&フィリップ・エルウェイ、製作協力はブレット・ヘッドブロム&キャシー・シュルマン、撮影はフロリアン・バルハウス、編集はポール・トシル、美術はスチュアート・クレイグ、衣装はジェニー・ビーヴァン、音楽はロルフ・ケント、音楽監修はマギー・ロッドフォード。
出演はキャメロン・ディアス、コリン・ファース、アラン・リックマン、トム・コートネイ、スタンリー・トゥッチ、ジュリアン・リンド=タット、ピップ・トーレンス、セリーナ・カデル、伊川東吾、クロリス・リーチマン、サダオ・ウエダ、マサシ・フジモト、アンナ・スケラーン、ジェラード・ホーラン、ジョー・ベリーマン、スペンサー・カミンズ、シャーロット・イートン、テレンス・パークス、ポール・レナード、タンロー・イシイ、ケンジ・ワタナベ、ヨシノリ・ヤマモト、リョーゾー・コヒラ他。


シャーリー・マクレーン、マイケル・ケイン、ハーバート・ロムが共演した1966年の映画『泥棒貴族』のリメイク。
『シリアスマン』『トゥルー・グリット』のコーエン兄弟が脚本を担当し、『ライフ・イズ・ベースボール』『終着駅 トルストイ最後の旅』のマイケル・ホフマンが監督を務めている。
PJをキャメロン・ディアス、ハリーをコリン・ファース、シャバンダーをアラン・リックマン、少佐をトム・コートネイ、マーティンをスタンリー・トゥッチ、タカガワを伊川東吾が演じている。

冒頭で少佐が「ディーンは雇い主に無能呼ばわりされ、侮辱を受けた。雇い主はメディア王で美術コレクターのシャバンダー。情け容赦の無い男だった。ディーンは屈辱を晴らすべく、計画を立てた」とナレーションを語るのだが、それだけでハリーの犯行動機を済ませてしまうのは、あまりにも弱い。
中途半端に主人公の動機としてモラルを持ち込んだせいで、むしろ説得力が失われている。
シャバンダーが怒鳴っている様子がチラッとだけ挿入されるが、その程度では全く足りないし、ハリーの復讐心に共感できない。
それならオリジナル版の「泥棒だから美術品を盗もうとする」という形の方が、遥かに説得力がある。

序盤で計画が成功する様子を描き、「全てはハリーの妄想」ということで酒場のシーンに戻って来るのは、オリジナル版と同じ構成だ。
オリジナル版では、そういう構成にすることで、2つの効果が得られていた。
1つは、後から失敗例を描く時に、妄想の中で見せた成功例が前フリとなり、比較することで笑いに繋がるという効果だ。もう1つ、成功例を見せたネタ振り部分と実際には異なることが起きることで、それがサスペンスにも繋がるという効果もあった。
しかし本作品では、その構成をオリジナル版ほど上手く機能させているとは思えない。オリジナル版を細かい部分まで鮮明に覚えているわけではないが、改変した部分が、ことごとく裏目に出ているのではないかという印象も受ける。
オープニング・クレジットのレトロなアニメーションや、「これは勇敢で愚かな友人、ハリー・ディーンの物語」という少佐の語りから始めるやり方や、そこで流れるBGMなどからすると、クラシカルなテイストを狙っているんだろうけど、それも上手く行っていない。

妄想した成功例のラスト部分が描かれていないってのは引っ掛かる。
ハリーが贋作を本物だと鑑定した後、PJとシャバンダーが去り、ハリーは2枚の絵を眺める。そこに猫が入って来て、ハリへは抱き上げる。そこでシーンが切り替わり、ハリーが車内でPJに報酬とチケットを渡している様子が写し出される。
つまり、どうやってハリーか監視カメラの作動している場所から絵を盗み出したのか、それが描かれていないのだ。
だから「成功例」としてボンヤリした印象になってしまうし、本当に『積みわら−夜明け』が盗む標的かどうかもハッキリしなくなる。
後の展開を考えると、ミスリードの意味も含め、そこは盗む様子をハッキリと見せておくべきだ。

それと、その妄想シーンのテンポが悪い。
ハリーの犯行動機や盗む対象、PJを引き入れる理由などをオリジナル版から変更したことに伴い、『積みわら−夕暮れ』が行方不明になるまでの経緯やPJとの関係性、シャバンダーがオークションで『積みわら−夜明け』を競り落としたことをハリーが説明するんだけど、それもテンポを悪くする一因になっている。
ただし、成功例の妄想が終わった後も、テンポの悪さが続いているんだけど。

オリジナル版では、ハリーはプライドが高くて自信満々だけど少しでも予定通りに計画が進まないと動揺し、その度にヒロインが上手く立ちまわってフォローするという関係性があった。
しかし本作品の場合、「計画通りに進まないのでハリーがアタフタする」という部分ばかりに重点が置かれ、「何かに付けて至らないハリーを、その度にPJがフォローする」という面白さは薄い。
オリジナル版でも、後半に入るとハリーが自分でピンチを回避する方法を思い付くことが続き、「ハリーの至らなさをニコールがフォローする」という関係性が崩れてしまうのが残念だったが、このリメイク版では、その残念っぷりが比較にならないほど強くなっている。

それと、キャメロン・ディアスとコリン・ファースの芝居が合っていないように感じるんだよなあ。
いかにもイギリス的で上品に振る舞うハリーと、いかにもアメリカンで粗野に振る舞うPJのステレオタイプな対比ってのは意図的にやっているんだろうけど、そういうことじゃなくて、コメディー芝居としての相性が良くないんじゃないか。
あまり噛み合わず、スウィングしていない。
キャメロン・ディアスは素晴らしいコメディエンヌだと思うけど、映画全体のテイストからすると、彼女の方が合っていないなあ。

そもそもオリジナル版は、「シャバンダーはハリーが嘘をついていると見抜いた上で泳がせている」「ヒロインが死んだ妻に瓜二つなのでシャバンダーがアプローチする」という設定だった。
だが、その両方を変更してしまったせいで、シャバンダーが無愛想ながらもハリーの提案した話に乗って来る流れに無理が生じている。彼がPJを口説き始めるのも、違和感が強い。
あと、オリジナル版でも恋愛劇は上手く描写できていなかったけど、このリメイク版も同様だ。
恋愛劇の内容や進め方は大きく異なるが、内容が薄っぺらいとか、取って付けた感が強いってのは全く一緒。

冒頭でハリーの相棒&語り手として登場した少佐が、ほとんどPJと絡まず、存在意義が皆無に等しいのはキャラの使い方としてマズい。
キャラの使い方と言えばマーティンも同様で、もうちょっと活用した方がいい。
特に引っ掛かるのは、ハリーはマーティンに電話を掛けて「シャバンダー社の経営が危ないから辞めるつもりだ。小切手が落ちなかった」と嘘を吹き込んだのに、これが後の展開に全く繋がっていないこと。マーティンが嘘を信じるとか、マーティンの報告でシャバンダーがハリーの嘘を知るとか、そういった方向への展開が無い。
だったら、嘘の電話を掛ける展開の意味が無いでしょ。

PJとハリーのコンビネーションで笑いを生み出すために、いかにもステレオタイプで対照的なキャラ設定にしているはずなのに、この2人が別々に行動している時間帯も多いんだよなあ。
PJがシャバンダーと会食に出掛けるとか、壺を盗んだハリーがホテルを右往左往するとか、そういう様子を描いているけど、コメディーとして膨らませるべきポイントが明らかにズレている。
PJとハリーを出来る限り一緒に行動させるべきでしょ。

ケーブルTV局「コンニチワ・メディア」のステレオタイプな日本人キャラを使い、「シャバンダーに分からないよう、笑顔を見せながら日本語で悪口を言う」みたいな描写で笑いを取りに行っているけど、そういうのは別の映画でやればいいことであって、その映画では邪魔。そういうのを入れるにしても、PJとハリーの2人が彼らに絡む内容にすべき。
そもそも、なんでPJがシャバンダーを巧みにフォローする役割を担っているのかと。
しかもシャバンダーって、そんなに悪い奴じゃないイメージになっちゃってるぞ。ここを徹底した悪役として描写しておかないと、復讐心で絵画を盗もうとするハリーを応援できなくなってしまうでしょうに。
むしろハリーよりシャバンダーの方が、キャラとして魅力的になっちゃってるぞ。

(観賞日:2014年12月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会