『マウス・タウン ロディとリタの大冒険』:2006、イギリス&アメリカ

ロンドンの高級住宅街であるケンジントンで、ネズミのロディは人間のペットとして暮らしている。幼い女の子のタビサが、彼の飼い主だ。ある時、タビサと両親が旅行へ出掛け、ロディは自由な時間を楽しんだ。しかし友達はいないので、1人で過ごすことしか出来ない。夜になって眠りに就くロディだが、不気味な音がしたので様子を見に行く。台所の蛇口を調べていると、ドブネズミのシドが飛び出してきた。パブで酔っ払ったシドは、水道管を流されて屋敷に入って来たのだ。
ロディはシドを疎ましく思い、早々に追い出そうとする。しかしシドは豪邸が気に入った様子で、勝手にくつろぎ始めた。そのままシドが居座ろうとするので、ロディは帰るよう要求した。しかしシドに凄まれると、すっかり怯えてしまう。そこでロディはシドを騙して風呂場へ導き、水洗トイレに流そうと目論む。しかしロディの策略は露呈しており、逆にトイレへ落とされてしまった。下水道を流されたロディは、何とか外へ出ようとする。そこにはネズミたちの暮ら賑やかなす町、マウスタウンがあった。
ロディは露天商のペグレグと出会い、事情を説明した。するとペグレグは、ジャミー・ドジャーという船の船長を見つければ力になってくれるかもしれないと言う。波止場へ赴いたロディは、その船長がリタという女の子のネズミだと知った。ロディが帰りたい旨を話すと、彼女は「私のヤバい身だから助けられない」と告げる。ロディが大きな音を出してしまい、ギャングネズミのスパイクやホワイティーたちに見つかってしまった。彼らはリタがボスから盗んだルビーを取り戻すため、リタを捜していたのだ。
ギャングに捕まったロディは、リタが隠しているルビーに気付いた。彼が隠し場所を教えたので、ギャングはルビーを手に入れた。一味はロディとリタを連行し、ボスであるザ・トードに会わせた。リタはルビーがパパの所有物だと主張するが、トードは否定した。ロディは家に帰らせてもらおうとするが、トードは全く耳を貸さない。しかしロディがケンジントンで暮らしていたと知り、トードは途端に態度を変えた。彼はロディに、自慢のコレクションを見せた。
ロディは不用意な発言でトードの機嫌を損ねただけでなく、誤ってコレクションを破壊してしまう。ロディとリタは冷凍庫に閉じ込められ、処刑されることになった。しかしリタは冷蔵庫から脱出し、ルビーを奪還する。リタはマスターケーブルを引き千切ってワイヤーの滑車に利用、しがみついたロディと共にアジトから脱出した。ボートでギャングネズミから逃亡する途中、ロディはルビーが偽物だと気付いた。リタは否定するが、ルビーはルビーを破壊することで偽物だと実証した。
リタはロディに怒りをぶつけるが、偽物だと分かって落ち込んだ。ロディは家に戻れば宝石をプレゼントすると告げ、ケンジントンまで送ってもらう約束を取り付けた。一方、トードはスパイクたちに、ワールドカップの決勝までにマスターケーブルを奪還するよう命じた。リタはパパの地図を手に入れるため、ロディを連れて自宅へ戻った。リタが上の町へ行くつもりだと知ったパパは、危険だからと反対する。しかしリタは報酬がもらえるのだと言い、まるで臆する様子を見せなかった。
ママはロディに、「上の町にいたネズミを知ってるわ。老婦人のペットだった。でも話し相手がいなくて寂しかったそうよ。そんなの、生きてると言える?」と語った。ロディはリタが自分に懸けられた懸賞金を狙っていると誤解し、ボートを奪って逃亡した。しかし途中でエンジンが故障してしまい、修理できずに川を漂う。ギャングはロディがケンジントンへ向かうと知り、ラットモービルを出動させた。リタはロディに追い付き、悪態を並べ立てる。ロディは激しく反発するが、自分の誤解に気付かされて謝罪した。
ロディとリタが船で移動していると、ギャングネズミたちが追い掛けて来た。リタは巧みな操縦で逃走し、襲って来た一味をロディと共に撃退する。失敗の報告を受けたトードは、スパイのル・フロッグを差し向けることにした。トードはフロッグに、忌まわしいネズミを一掃する計画のためにマスターケーブルを奪還するよう命じた。トードがネズミの皆殺しに執念を燃やすのは、パラダイスから追い出された因縁があるからだった。
トードはバッキンガム宮殿で暮らし、チャールズ皇太子に可愛がられていた。しかし1匹のネズミが現れたことで、幸せな日々は終わりを迎えた。皇太子がネズミに夢中となったため、トードは執事によってトイレに流されたのだ。フロッグは部下たちを集め、ロディとリタを捕まえるよう命じた。ロディはリタから仕事について問われ、バンドのリードボーカルだと嘘をついた。「上の暮らしって、どんな感じ?家族や友達は?」と訊かれた彼は、「大家族で楽しくやってる。最高だよ」と適当なことを口にした。リタが「それなら帰りたいわよね」と言うと、ロディは複雑な表情で「ああ」と答えた。
翌朝、ロディとリタがケンジントンへ向かっていると、フロッグと部下たちがボートに乗り込んで来た。フロッグが持っている携帯電話にトードが現れ、マスターケーブルの返却をリタに要求した。リタがマスターケーブルを欲しがる理由を尋ねると、彼は「ワールドカップの決勝を見れば分かる」と含んだ笑みを浮かべて告げた。ロディとリタはフロッグ以外の連中をボートから追い払うが、激流に飲み込まれそうになる。パラシュートを使って脱出した2匹は、タビサの邸宅へ降下した…。

監督はデヴィッド・バワーズ&サム・フェル、原案はサム・フェル&ピーター・ロード&ディック・クレメント&イアン・ラ・フレネ、脚本はディック・クレメント&イアン・ラ・フレネ&クリス・ロイド&ジョー・キーナン&ウィル・デイヴィス、製作はセシル・クレイマー&ピーター・ロード&デヴィッド・スプロクストン、共同製作はメリーアン・ガージャー、視覚効果監修はウェンディー・ロジャース プロダクション・デザイナーはデヴィッド・ジェームズ、編集はジョン・ヴェンゾン、共同編集はエリック・エリック・ダプケウィッツ、アート・ディレクターはピエール=オリヴィエ・ヴァンサン&スコット・ウィリス、クリエイティヴ・コンサルタントはトム・マクグラス&トレイシー・ウルマン、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。
声の出演はヒュー・ジャックマン、ケイト・ウィンスレット、ジャン・レノ、イアン・マッケラン、ビル・ナイ、アンディー・サーキス、シェーン・リッチー、キャシー・バーク、デヴィッド・スーシェ、ミリアム・マーゴリーズ、レイチェル・ローリンソン、スーザン・デューアデン、マイルス・リチャードソン、ジョン・モットソン、ダグラス・ウェストン、ロジャー・ブレイク、クリストファー・フェアバンク、ポール・シャードロウ、コンラッド・ヴァーノン、ジョナサン・キッド、ニューウェル・アレクサンダー、スーザン・フィッツァー、ジョシュア・シルク他。


アードマン・アニメーションズとドリームワークス・アニメーションが共同製作した3編目の長編アニメーション映画。
この作品で、両者の提携は終了した。
いずれも映画初メガホンとなるデヴィッド・バワーズとサム・フェルが、共同で監督を務めている。
ロディの声をヒュー・ジャックマン、リタをケイト・ウィンスレット、フロッグをジャン・レノ、トードをイアン・マッケラン、ホワイティーをビル・ナイ、スパイクをアンディー・サーキス、シドをシェーン・リッチーが担当している。

序盤、一家の出掛けた邸宅でロディが遊び始めると、スパイ映画のDVDを観賞するシーンがある。
そのタイトルは『トゥモロー・ネバー・ダイ』と『ダイ・アナザー・デイ』を組み合わせたような『ダイ・アゲイン・トゥモロー』で、ロディは007シリーズのオープニングの真似をする。
トイレに流されて水道管を滑り落ちるシーンでは、「パパを見なかった?」と尋ねるニモっぽい魚が登場する。
ニモを登場させる辺りは、いかにもアンチ・ディズニーなドリームワークスっぽいとは思う。
ただ、他にも幾つかの映画ネタは用意されているが、そんなに多くないし、中途半端な扱いなので、だったら要らないなあと。

マウスタウンに入り込んだロディは、初めて見るネズミの町に興奮する。
だったらマウスタウンを舞台にして、「町のネズミたちとの交流や初めての体験」ってのを描けばいいものを、すぐに「ロディがリタと共にトードの元へ連行される」という展開へ移ってしまう。
そこから逃げ出すものの、やはり町民との交流や町での生活が描かれるわけではない。
ずっと「トードの一味に追われる話」が続くし、それが繰り広げられる場所は主に川なので、マウスタウンという舞台を用意した意味が乏しいのだ。

最初は「ルビーを巡ってリタがトードに追われている」という状態だったのに、ルビーは偽物だと判明した上に粉々に砕け散り、トードも「ルビーはいいからマスターケーブルを取り戻せ」と言い出す。
リタにとってルビーはパパから貰った大切な物だったはずなのに、そこの関係性も雑に放置されてしまう。
争奪戦を繰り広げる対象が途中で摩り替わってしまうのは、上手い構成とは到底言えない。
途中で無意味な物品へと成り下がるぐらいなら、最初からルビーなんて登場させない話にしておくべきだわ。

ロディが全く魅力的に見えないってのは、かなり厳しい。
「軽薄で無責任でヘマばかり」というキャラクターにしてあるのは、冒険の中で変化&成長するドラマを描くための設定だってことは分かるのよ。
ただ、その軽薄さやヘマを繰り返す様子が笑えるのかというと、これが全く笑えないのよね。
しかも、そんなに成長ドラマが充実した描写になっているわけでもないんだよね。
それは85分という上映時間だけが問題なのではなくて、そもそも成長ドラマに対する意識が薄いってことよ。

終盤に入ると、トードが洪水を起こしてマウスタウンを破壊しようとする計画が明らかになる。
それを知ったロディはマウスタウンへ戻ることを決めるのだが、その時に「みんなが大変だから、助けないと」ってなことを言うんだよね。
だけど、ロディはマウスタウンの住民と全く交流していないんだし、町で生活していた時間も皆無に等しいんだぜ。だから、そんなに思い入れなんて無いだろうに。
「仲間を救うため、町を守るため」というモチベーションが全く見えず、段取りを消化しているだけに感じるのよ。

「ロディは高級住宅街で何の不自由も無い贅沢な暮らしを送っているが、仲間がいない」という初期設定があって、そこから物語が進んでいく。だから「裕福ではない暮らしでも、仲間がいる方が素晴らしい」という結論に至るのは当然の流れだし、それは理解できる。
ただし、ロディはマウスタウンで全く生活していないから、「決して裕福ではない暮らし」に触れていない。リタの家族が暮らす家は訪れているが、わずかな時間だけだ。
しかも、マウスタウンの住民とも親しくなっていない。彼が仲良くなるのはリタだけだ。
せっかくマウスタウンを設定したのなら、ロディが町の住民と親しくなって、仲間がいることの素晴らしさを感じる話を描くべきじゃないかと。

っていうかさ、「ロディは孤独」ってことにしてあるけど、「タビサはどうなのか」と言いたくなっちゃうのよね。
そりゃあ、相手は人間だし、言葉は通じないよ。だけど、タビサは間違いなくロディを可愛がってくれているはず。
飼い主とペットの関係ではあっても、そこの繋がりを完全に無視しているのは大いに引っ掛かる。
っていうか、この映画の主張だと、ペットとして動物を飼う行為って全否定されるぞ。
ペットを飼っている人は大勢いるだけに、大胆な主張と言えなくもないけど、面白いのかと問われたら答えはノーだ。

ロディがケンジントンでの生活を捨ててマウスタウンへ行くのは、「タビサに対して何の親しみも感じていなかったのか」と言いたくなる。
ロディがマウスタウンへ行くのは、単純に「高級住宅街での暮らしを捨てて、大勢の仲間がいる場所へ行く」ってだけじゃなく、「自分を可愛がってくれた飼い主を捨てる」ってことでもあるのだ。
この映画は、そこを思いっきり軽視している。
ロディがいなくなったことに対してタビサがどう思うのかも全く描かずに終わっているけど、そこはモヤモヤするわ。

アードマン・アニメーションズと言えば、「ウォレスとグルミット」シリーズを始めとするクレイ・アニメーションで有名だ。
しかし、ドリームワークス・アニメーションと提携したこともあってか、CGを導入するようになった。
共同製作の第2作となった『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』でも、技術的な事情でCGが持ち込まれた。
しかしメインとなるのはクレイ・アニメーションだったし、そんなにCGの影響は感じなかった。

ところが今回は、とうとう全編を3DCGで表現した長編アニメーション映画になっている。
どうやら水の表現がクレイ・アニメーションでは困難だということで、フルCGになったらしい。
だけど、それなら主な舞台を川から他の場所に変更すれば良かったのよ。
「大半のシーンで水が使われる内容へのこだわり」と、「クレイ・アニメーションへのこだわり」と、どっちを優先すべきかと考えたら、それは後者じゃなかったかと。

クレイ・アニメーションの特徴と言えば、独特の動きと温かみを感じさせる質感だ。そういう特徴が、アードマン・アニメーションズの作品が放つ大きな魅力でもあった。
しかし今回はフルCGなので、そういう面白味が全て失われているわけだ。そして本作品は、ごく平凡なCGアニメーションに成り下がってしまった。
アクション主体の構成になっているが、そのことが尚更「これがクレイ・アニメーションだったらなあ」と強烈に感じるのである。
5本の共同製作が予定されていたドリームワークスとの提携は3本で終了したが、それは大正解だと思うのである。

(観賞日:2017年4月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会