『Mr.ボディガード/学園生活は命がけ!』:2008、アメリカ

高校入学を翌日に控えたウェイドは、深夜になって親友のライアンに電話を掛ける。ウェイドは「人気者になるには積極性が必要だ」と話すが、ライアンは「力むと失敗する」と諌める。翌朝、ウェイドは義理の弟であるチャックとニックに叩き起こされる。ウェイドの母のバーバラは再婚しており、チャックとニックは義父であるジムの連れ子だ。ライアンは母のドロレスに起こされ、ノリノリでシャワーを浴びる。同じ頃、ホームレスのドリルビット・テイラーはハイウェイへ赴き、車を運転する面々に金を恵んでもらう。
貧弱な体のウェイドはジムから筋トレを勧められるが、全く興味を示さない。小太りのライアンは母と離婚した父に電話を掛け、「高校生活を楽しめ」と軽く言われる。ウェイドとライアンはスクールバスに乗るため合流し、同じ服だと知ってショックを受ける。スクールバスが到着したので、2人は仕方なく同じ服で乗り込んだ。登校した2人は、エミットという小柄の生徒が上級生のフィルキンスとロニーから虐められている様子を目撃した。ウェイドは「やめろ」と叫び、フィルキンスとロニーに睨まれる。ライアンもウェイドに同調すると、今度は2人がイジメの標的になった。
翌日、ドリルビットは住処に戻るが、土地の無断使用で警官に私物を全て捨てられてしまう。ウェイドは前日にロッカーの使い方を教えてくれた女子生徒のブルックを見つけ、彼女と同じ写真クラブとアジアの遺産クラブに入部を決めた。エミットが前日の自分たちと同じ服で現れたので、ウェイドとライアンは困惑する。しかしエミットは能天気な態度で、「君たちは本当の親友だよ」と言う。ライアンは無視しようとするが、そこへフィルキンスとロニーがやって来た。彼らは「これからは、もっと虐めてやる」と通告し、3人に様々な形で嫌がらせを繰り返した。
ドリルビットはホームレス仲間のドンたちと会い、「この街は暮らしにくい。秋にはカナダへ行く」と告げる。しかし同じことを何度も語っているので、ドンたちは相手にしなかった。ウェイドはネットでボディーガードを雇えるサイトを見つけ、フィルキンスたちをぶっ飛ばそうとライアンに提案する。しかしライアンが難色を示したため、ドップラー校長に相談する。しかしドップラーはフィルキンスに話してしまい、彼を校長室へ呼ぶ。
フィルキンスは反省している態度を装ったので、嘘だと確信したウェイドは両親を呼ぶようドップラーに頼む。しかし両親が香港にいることを聞き、ウェイドは顔を強張らせた。放課後、ウェイドたちはウィルキンスとロニーに車で追い回され、慌てて逃亡した。その夜、ウェイドはサイトにメールを送り、ボディーガードを募った。ドリルビットはカフェで他人のパソコンを勝手に操作し、ボディーガードの募集を知った。
翌日、ウェイドたちはボディーガード候補を面接するが、報酬が安すぎるので誰も引き受けてくれなかった。そこへドリルビットが現れ、元陸軍特殊部隊で著名人の警護経験もあると嘘をつく。週給387ドルを請求されたウェイドたちは、「今は87ドルしか無いけど払える」と告げて彼を雇うことにした。ウェイドが家へ案内すると、ドリルビットは「必要な道具」と称して金目の物を次々に袋へ入れた。家を出た彼は、すぐさま質屋へ駆け込んだ。
ドリルビットは手に入れた金を持ってカナダへ行こうと考えるが、ドンは「その子たちは金蔓だ。勿体無い。もっと搾り取れ」と勧める。盗品だったせいで安く買い叩かれたこともあり、ドリルビットはウェイドたちに張り付くことにした。次の朝、ドリルビットは一日分のギャラを受け取り、ウェイドたちに「敵をぶっ飛ばすのは簡単だが、仕返しされるぞ」と告げる。彼は「敵の倒し方を教える。武術の手本を見せる」と言い、飛び掛かってくるよう3人に促す。しかし武術の経験など何も無いので、適当に誤魔化した。
ドリルビットは3人に食事をおごらせ、映画を見せて参考にするよう指示する。ウェイドたちが期待したほど金を持っていなかったため、彼はドンに「これじゃカナダは無理だ」と漏らした。「もう戦えるか」とドリルビットが問い掛けると、エミットは「まだ怖い」と言う。するとドリルビットは、「だったら選択肢は1つ。敵を愛するんだ。共通点を見つけ、同類だと思ってもらえればイジメは止まるかも」と述べた。ライアンはフィルキンスにラップ・バトルを仕掛けるが、怒りを買っただけだった。ウェイドは鼻を殴られ、見守っていると約束していたドリルビットは姿を見せなかった。
ウェイドたちはドリルビットを見つけると、アンタの助言は何も役に立たなかった」と怒りを示した。するとドリルビットは、「これからは第2段階だ。俺も加わる。明日は一緒に登校する」と告げる。次の朝、ドリルビットはウェイドたちと学校へ行く。するとドップラーが立ちはだかるが、彼はドリルビットを臨時教師だと思い込んだ。ドリルビットは話を合わせて教員用ラウンジへ行き、国語教師のリサと会話を交わした。
ドリルビットはリサを口説くが、授業終了のベルが鳴ったので子供たちと落ち合う教室へ行こうとする。リサから「まだ次の授業まで5分あるわ」と言われたドリルビットは、しばらく話し続ける。しかし時計を確認した彼は、後で会う約束を交わしてラウンジを飛び出した。ウェイドたちはフィルキンスとロニーに見つかり、追い詰められてしまう。ドリルビットは何とか辿り着き、消火栓を作動させてウェイドたちを救った。
ドリルビットは教師としてフィルキンスとロニーをシゴいたり、ウェイドたちにトランシーバーで居場所を知らせたりする。彼は空き教室でリサとの密会を繰り返し、デートの約束を交わす。ドリルビットはウェイドがブルックに片想いしていると知り、積極的な行動を促した。ウェイドはアジア遺産クラブへ行き、ブルックに「君と話したくて同じクラブに入った」と告げた。ブルックの反応が脈ありだと感じたウェイドはドリルビットに感謝し、「作戦が終わっても友達でいて」と告げた。
ロニーは母が運転する車で移動中、ビーチでシャワーを浴びているドリルビットを目撃する。「ウチの先生だ」とロニーが驚くと、母は「まさか。私は毎日、小銭を恵んでるわ」と言う。ドリルビットが金を無心していた常連の中に、ロニーの母がいたのだ。ドリルビットがホームレスだと知ったロニーは、フィルキンスに知らせる。一方、ドリルビットはドンに、「盗みの計画は延期する。子供たちは俺を英雄視してる」と告げる。しかしドンたちは受け入れず、仲間たちと共にウェイドの家から金目の物を持ち出した…。

監督はスティーヴン・ブリル、原案はエドモンド・ダンテス&クリストフォー・ブラウン&セス・ローゲン、脚本はクリストフォー・ブラウン&セス・ローゲン、製作はジャド・アパトー&スーザン・アーノルド&ドナ・アーコフ・ロス、共同製作はクリストフォー・ブラウン、製作総指揮はリチャード・ヴェイン、製作協力はデジリー・ヴァン・ティル&アンドリュー・エプスタイン、撮影はフレッド・マーフィー、美術はジャクソン・デ・ゴヴィア、編集はトーマス・J・ノードバーグ、追加編集はブレイディー・ヘック、衣装はカレン・パッチ、音楽はクリストフ・ベック、音楽監修はマニシュ・ラヴァル&トム・ウルフ。
主演ははオーウェン・ウィルソン、共演はレスリー・マン、ネイト・ハートリー、トロイ・ジェンティル、デヴィッド・ドーフマン、アレックス・フロスト、ジョシュ・ペック、ダニー・マクブライド、スティーヴン・ルート、リサ・アン・ウォルター、イアン・ロバーツ、ベス・リトルフォード、ヴァレリー・ティアン、ケヴィン・ハート、チャック・リデル、ランス・ハワード、リサ・ランパネリ、セドリック・ヤーブロー、ロバート・マスグレイヴ、ジョー・ウィルソン、アダム・ボールドウィン、フランク・ホエーリー、アミール・ペレツ、ロバート・“ボーンクラッシャー”・ミュークス、クリストス、ダヴォーン・マクドナルド、ロジャー・ファン、マット・ベッサー、ケイシー・ボアーズマ、ディラン・ボアーズマ、マイケル・ヤマ他。


『リトル★ニッキー』『Mr.ディーズ』のスティーヴン・ブリルが監督を務めた作品。
『40歳の童貞男 』『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』のジャド・アパトーが製作に携わっている。
原案者の1人として表記されるエドモンド・ダンテスは、ジョン・ヒューズの変名。
ドリルビットをオーウェン・ウィルソン、リサをレスリー・マン、ウェイドをネイト・ハートリー、ライアンをトロイ・ジェンティル、エミットをデヴィッド・ドーフマン、フィルキンスをアレックス・フロスト、ロニーをジョシュ・ペック、ドンをダニー・マクブライド、ドップラーをスティーヴン・ルートが演じている。

最初にウェイドとライアンが親友2人組として登場するのだから、この2人がフィルキンスたちの標的にされるという形で充分だろう。
すぐにエミットが加わって3人組になるけど、それには全く賛同できない。
一番の理由は、エミットが不愉快なキャラクターだからだ。
こいつは最初に虐められていたんだから、ホントなら同情すべき対象のはずだ。
ところが、登校2日目にウェイドたちと同じ服で現れて一方的に「親友だ」とベタベタ付きまとう様子や、ウェイドの家へ来てノリノリで踊る様子を見せられると、「イジメは悪いことだけど、少なくとも嫌われるガキではあるな」と感じてしまうのだ。

イジメを受ける側に少しでも「落ち度や問題がある」と感じさせてしまったら、それは絶対にマズいでしょ。
こいつらは全面的に擁護し、応援したくなる連中じゃないと、この話は綺麗な形で成立しない。少なくとも、「面白いコメディー映画」としては成立しない。
だからエミットを加えるにしても、キャラ造形は変更すべきだ。
っていうか、どうせ大して中身があるわけでもないし、そもそも邪魔だから要らない。
極端に言ってしまえばウェイドだけでも充分なので、エミットを加えるメリットが全く見えない。

ウェイドたちがイジメを受ける様子が描かれる間は、笑える箇所が微塵も見当たらない。
一応はノリのいい音楽で軽快に描いているけど、普通に「イジメが繰り返される」という様子を見せているだけだからね。それを周囲の面々は見て見ぬフリで誰も止めに入らないし、ただ不愉快なだけのシーンになっている。
「コメディー映画なんだから、マジに受け取っちゃダメだろ」と思うかもしれんけど、フィルキンスとロニーのイジメは笑って済ませることの出来るような内容じゃないし。
例えばウェイドたちが反撃しようとして失敗するとか、そういうタフな部分でもあれば印象は違って来るだろうけど、「何も出来ない哀れな弱者を強者が虐めて楽しんでいる」ってだけだ。

ドップラーが全く役に立たないどころかイジメを助長するような行動を取るのも、これまた全く笑えない。
この映画を作っている連中は、きっとイジメの加害者になったことはあっても、被害者になった経験は無いんだろうなあ。被害者の経験があったら、これで笑えるという感覚は絶対に生じないはずだ。
車で追い回される途中にウェイドとライアンが水着のネーチャンたちを携帯で撮影する様子が描かれると、ようやく「そういうことなら分かるけど」という感想になる。
イジメを受けていても、そこに余裕があればコメディーとして成立する。
でも、そういう描写が、そこまでは全く無かったのよ。

ドリルビットが経歴を詐称してボディーガードの面接に現れるのは、金を手に入れたいからだ。
だったら相手が高校生だと知った時点で、「これは金にならないかも」と感じて落胆したり、立ち去ろうとしたりしてもいいんじゃないか。
そんで、例えば「最初は全く乗り気じゃなかったけど、ウェイドの家が広いので気持ちが変化する」という流れにでもするとかさ。
ドリルビットが最初から前向きな態度で面接に臨むのは、どうにも違和感がある。

ただ、その前に来ていた連中も、立派な経歴があるにも関わらず「高校生がいじめっ子を倒してほしい」という依頼に対して真剣に面接を受けているので、そこからして違和感があるんだよね。
もちろん、「次々に現れるボディーガード候補」の様子で笑いを取りたいのは良く分かるのよ。
だけど、目の前の小さな笑いを取りに行って大きな違和感を生んだら、それはマズいんじゃないかと。
しかも、そんなに笑えるわけでもないし。

ドリルビットがウェイドの家で金目の物を袋に入れ、質屋へ駆け込むと、「最初からそれが目的だったのか」と理解できる。それならば、ボディーガードの仕事のギャラに関係なく、最初から引き受ける気満々で面接を受けていたのも筋は通る。
ただ、それが分かりにくいのよ。
コメディーとしては、ウェイドの家に入った段階で初めて「そういうことだったのね」とドリルビットの目的が伝わるってのは、上手い見せ方とは言えない。
面接を受ける時点で、「引き受ける気なんて無くて、家へ行って金目の物を盗むのが目的」ってのが分かる形にしておいた方が絶対に得策だ。

どうやら「ドリルゴットが途中から本気でウェイドたちの役に立ってやろうと考えるようになって」という話を描きたかったようだが、それが成功しているとは到底言えない。
訓練の日々が短くザックリと処理され、それが一段落した時点でドリルビットがドンに「可愛い奴らだ。親は共稼ぎで、昼間は子供だけ」と言うが、それがどういう気持ちから来ている言葉なのかはボンヤリしている。
それに、仮に「ちょっとだけ同情心が湧いている」という意味があったとしても、そういう気持ちになるきっかけが全く描かれていないしね。
その上、直後のシーンでは、ウェイドたちがイジメを受けているのに駆け付けないという無責任っぷりを見せちゃうし。

子供たちに非難されたドリルビットが「明日は俺も登校する」と言い出すのは、どういう心境なのか分からない。
ウェイドが殴られたのを見て、責任でも感じたのか。
だとしても、いざ登校するとリサを口説くモードに入っちゃうので、台無しになってしまうぞ。
ただ、もしも「責任を感じたわけじゃない」と解釈した場合、学校へ潜入しようとする理由が全くの不明だ。
どういう風に受け取ったとしても、そこは大いに難がある展開と言わざるを得ない。

そもそも、ドリルビットのロマンスそのものが邪魔になっている。
ドリルビットと子供たちの交流がメインなのに、リサとの関係で恋愛劇を持ち込むと、そっちが疎かになってしまう。
もちろん両方を厚く描いたり、2つを上手く絡ませて相乗効果に繋げたりすればOKだが、それは出来ていない。
リサとのロマンスなんて、ほぼ意味の無い要素と化している。
あと、リサがドリルビットに最初からグイグイと押していくのは、どこに惚れたのかサッパリ分からないし。

ドリルビットが学校へ行くと、そこからは「彼が臨時教師として活動する」というターンが終盤まで続く。
そうなった時に、「じゃあ校外で訓練していたシーンって無駄な時間帯だよね」と言いたくなる。
そんな手順をカットして、さっさと「仕事を引き受けたドリルビットが学校へ潜入する」という展開へ突入させればいい。
「ドリルビットが臨時教師だと誤解され、誰にも疑われずに働き続ける」ってのは強引極まりない設定だし、雑っちゃあ雑だ。でも、他も丁寧にやっているわけじゃないので、そこの粗さは大して目立たない。
それは決して褒められたことじゃないけどね。

訓練の手順だけじゃなくて、ウェイドたちがイジメを受けるシーンも、もっと短く済ませてしまえばいい。
そこを全カットするのは無理だけど、かなりの短縮バージョンで片付けてもいい。前述したように、どうせそこに笑いは無いんだから。
短く済ませて、さっさと子供たちとドリルビットを対面させてしまえば、その分だけ「ドリルビットが臨時教師として働く」という時間を増やすことも出来る。
前述した「リサがドリルビットに惚れる理由が不明」という問題も、描く時間を増やせば解決できる。「最初は同僚として対面し、次第に好意を抱くようになって」という経緯を描くことが出来るからね。

ただし、そこには「臨時教師を始めると、子供たちのボディーガードという設定が半ば死んでしまう」という問題があるぞ。
子供たちをサポートしたり、いじめっ子をシゴいたりしているけど、「ボディーガード」と呼ぶには違和感がある。
まあ、そもそも訓練している時点で違うんだけどね。
ともかく、基本設定が死ぬことを回避したければ、臨時教師になる手順は採用しちゃいけない。
「臨時教師」という表向きの仕事の方が、「ボディーガード」よりも圧倒的に強くなってしまうからだ。

後半、ドリルビットはドンに「盗みの計画は延期する。子供たちは俺を英雄視してる」と言い出す。その前日にウェイドから感謝され、「作戦が終わっても友達でいて」と言われたのが、大きなきっかけになっていることは明白だ。
ただ、それまでにドリルビットの気持ちが少しずつ変化していく経緯を描いておいた方が、ドラマとして厚くなることは確実だ。
でも、そういう作業は全く足りていない。
結局、色々な要素を盛り込んだせいで、色々なことが全て雑で薄っぺらくなっているんじゃないかと。
脇役キャラも活用し切れていないし、コメディーとして今一つ弾け切れていない印象もあるし。

(観賞日:2017年8月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会