『ミステリー・ツアー』:2004、アメリカ
コスタリカのプレジャーアイランド。カップルのロロとステイシーはジャングルに入り、マリファナとセックスで楽しもうとする。人影に気付いたステイシーが怖がると、ロロは「もっと静かな場所へ行こう」と古い墓石がある場所へ連れて行く。彼は墓石を蹴り倒し、軽く笑う。またステイシーが人影に気付くと、ロロは「見てろよ」と言う。彼は棒を構えて人影に近付くが、そこには石像が立っていた。2人の元に仲間のケリーが現れ、酒を差し出して「どこでやるの?」と尋ねた。
ステイシーは近くの洞穴を見つけ、2人を誘う。3人が洞穴でセックスを始めようとすると、仮面の男が現れた。男が刀でロロを殺害し、ステイシーとケリーは絶叫して逃げ出した。ケリーは仮面の男に追い込まれ、崖から海に転落した。ステイシーは大勢が集まるプールへ向かうが、辿り着く直前に男の餌食となった。その1時間前。大勢の観光客が船で島に降り立ち、スタッフが出迎えた。島を運営するのはココナッツ・ピートという男で、エアロビ担当のジェニー、ウォータースポーツ担当のホアン、テニス担当のパットマン、DJとドラッグ担当のデイヴ、警官のサムといったスタッフが働いている。
ケリーはスタッフのユーが酒とおつまみを用意している場所へ行き、「遅れてゴメン」と仕事を始める。彼女はデイヴが仲間のカルロスと歩いているのを見つけ、酒にドラッグを入れるよう頼んだ。ステイシーはパットマンに声を掛け、「パーティーの前にジャングルで遊ぶけど、来ない?」と誘う。そこへロロが来て「クソして寝ろ」と馬鹿にすると、パットマンは腹を立てた。ピートはステージに登場し、ギターを弾いて陽気に歌った。サムは無料ドリンクが用意してあることを観光客に説明し、プールへ案内した。
1人で歩いていたペネロピーはジェニーと遭遇し、「道に迷った」と説明する。「貴方を見たことがあるわ。前にも来たことが無い?」とジェニーが訊くと、彼女は少し動揺しながら「いえ、無いわ」と答えた。冒頭の事件が起きるが、スタッフも観光客も全く気付かなかった。代理のマッサージ師として島に来たラーズは、ジェニーとユーに挨拶した。その夜、観光客はクラブに集まり、大いに盛り上がった。ラーズはスタッフのハンクと来店したピートを見つけ、「雇ってくれて感謝してます」と礼を述べた。
ラーズはピートの昔のライブも見ており、影響を受けていることを語った。ピートはホアンから、クラブにいる女性がツーソンのライブを見ているという情報を伝える。ピートは女性に声を掛けて、「ライブに来てたよね。島を案内するよ」と告げた。ホアンはペネロピーを口説き、馬鹿な発言を繰り返した。休憩のために外へ出たカルロスは、散らかっているゴミを片付ける。そこへユーが現れ、包丁が汚れているので洗うよう指示した。ユーが去った後、カルロスは殺人鬼に殺された。
デイヴは観光客の面々に、15年前に起きたナタ殺人のことを語った。ある夜、スタッフのフィルが美女に誘われて、ジャングルに入った。セックスを始めたフィルは、そこがマヤ族の古い墓地だと気付いた。彼が抱いていたのは、墓から掘り起こされた死体だった。フィルはスタッフを惨殺し、自分の股間を切断してジャングルに消えた。デイヴは「まだフィルは生きている」と観光客を脅かすが、パットマンが笑いを取って雰囲気を一変させた。スタッフを集めたピートは、ロロとステイシーとケリーがいないことに気付く。しかし彼は大して気にも留めず、明日のハワイ祭りの準備をデイヴとサムに任せた。
翌日、観光客はそれぞれの方法で島を楽しみ、デイヴは迷路で鬼ごっこをするゲームを担当した。果物のキグルミで仕事をしていたクリフは、殺人鬼にナタで殺された。ラーズとジェニーが話していると、パラシュートを装着したカルロスが小屋に激突した。慌てて駆け寄ったラーズとジェニーは、彼が死んでいることを知る。カルロスの胸には血文字が刻まれており、無人のモーターボートが海の向こうへ去った。パットマンやデイヴたちは、胸に血文字が刻まれたクリフの遺体を発見した。クリフの胸には、「スタッフ・オンリー」と書いた札が掛けてあった。
スタッフから報告を受けたピートは、騒がないよう注意する。ジェニーたちが香盤表を見に行くと、殺されたスタッフの名前が消されていた。黒板には、「仕事を続けろ。客に話したら死ぬぞ」というメッセージが残されていた。ジェニーたちは客を避難させようとするが、ボートは2つとも無くなっていた。固定電話も無線機も破壊されたため、外部に連絡する方法は無かった。かつてFBIだったハンクは、「島から脱出できないなら、犯人を捕まえるしかない」と言う。彼はスタッフに、「いつも通りに仕事をしろ。奴のゲームに乗ってやる。落ち着いていれば、向こうから姿を見せる」と自信満々に語る。ハンクは遺体の傷を見て、犯人が左利きだと確信していた。
ユーは「客に全て話すべきよ」と苛立ちを示し、ジェニーが「駄目よ、メッセージを見たでしょ」と言っても納得しなかった。彼女は客を集めて全て知らせようと考えるが、殺人鬼が現れたので慌てて逃げ出す。そこにはハンクが待ち受けていたが、殺人鬼に殺された。ユーはカートを見つけて操縦するが、殺人鬼に追い付かれた。翌日、ラーズはジェニーたちに、掲示板に記されていた謎のメッセージはピートのアルバムの歌詞だと教えた。ジェニーたちはアルバムの曲を聴き、歌詞の内容をなぞった見立て殺人だと気付いた。
ユーとハンクの遺体がビーチで発見されるが、ピートは恒例のファッションショーを開催した。彼はスタッフに、いつも通りの業務を指示した。サムが犯人や次の犯行について推理を語ると、ジェニーは「それよりボートを探した方がいいんじゃない?」と言う。パットマンが「一緒に探しに行かないか?」と誘うと、ジェニーは困惑した。ラーズはジェニーを助けるため、パットマンに「僕と探そう」と誘った。ホアンは自分を誘惑するペネロピーを怪しみ、確かめるために彼女の部屋へ行く。ジェニーやサムたちはクローゼットに隠れて観察するが、ペネロピーの潔白が明らかになったためセックスを延々と見る羽目になった。
ラーズとパットマンはボートを発見できず、砂浜で野営することにした。パットマンは「ジェニーはお前に気がするようだが、俺はお前の秘密を知ってる」と言うが、ラーズは相手にせず眠りに就いた。デイヴとサムはラーズを疑って部屋を調べると、ピートの写真が神のように飾られていた。パットマンが目を覚ますと、ラーズは姿を消していた。パットマンは自分の姿をした男に襲われるが、それは夢だった。ラーズが起こすと、パットマンはジャングルへ逃げた。翌朝、ラーズはボートを発見し、ジェニーたちの元へ戻る。しかしボートは故障しており、使えなくなっていた。彼が「パットマンはジャングルに逃げた」と言うと、デイヴとサムは「昨夜、お前の部屋を調べた。お前は異常だ」と告げる。サムはラーズが連続殺人鬼だと断言し、部屋に閉じ込めた…。監督はジェイ・チャンドラセカール、脚本はブロークン・リザード、製作はリチャード・ペレロ、製作総指揮はランス・フール&ピーター・E・レンギエル、共同製作はコンラッド・フール、撮影はローレンス・シャー、美術はベンジャミン・コナブル、編集はライアン・フォルシー、衣装はメリッサ・ブルニング、音楽はネイサン・バー、音楽監修はバリー・コール&クリストファー・コヴァート。
出演はブロークン・リザード(ジェイ・チャンドラセカール、ケヴィン・ヘファーナン、スティーヴ・レミー、ポール・ソーター、エリック・ストルハンスク)、ビル・パクストン、ブリタニー・ダニエル、ジョーダン・ラッド、M・C・ゲイニー、リンゼイ・プライス、マイケル・ウィーヴァー、ナット・ファクソン、サム・レヴィン、ダン・モンゴメリーJr.、エレーナ・ライオンズ、ターニャ・ライヘルト、リチャード・ペレロ、ジュリオ・ベコール、ジェシカ・モレノ、ヘザー・M・ペンブル、グレッグ・サイプス、ベンジャミン・ディグビー、ライアン・フォークナー、マイケル・ユーチャック他。
コメディー製作集団のブロークン・リザード(ジェイ・チャンドラセカール、ケヴィン・ヘファーナン、スティーヴ・レミー、ポール・ソーター、エリック・ストルハンスク)が、『だめんず・コップ』に続いて監督&脚本&出演を兼任した映画。
パットマンをジェイ・チャンドラセカール、ラーズをケヴィン・ヘファーナン、ホアンをスティーヴ・レミー、デイヴをポール・ソーター、サムをエリック・ストルハンスク、ピートをビル・パクストン、ジェニーをブリタニー・ダニエル、ペネロープをジョーダン・ラッド、ハンクをM・C・ゲイニー、ユーをリンゼイ・プライスが演じている。ブロークン・リザードはコメディー集団だが、オープニングのシーンは完全にホラーだ。コメディーの要素は全く無い。
もっと具体的に言うと、「ある場所に集まった若者が殺人鬼によって次々に殺される」という、何回も使われてきたようなスラッシャー映画のパターンを強く感じさせる内容になっている。
後からコメディーの要素は入って来るんだろうと思いつつも、冒頭から「これはコメディーですよ」とアピールしておいた方が得策じゃないかと。
ただし、それよりも気になるのは、「純然たるスラッシャー映画の掴みとして捉えても、その質が低い」ってことなんだけどね。まず、ロロとステイシーのカップルだけで充分なのに、そこにケリーを加える意味が全く無い。「普通はカップルだけど、3Pという捻りを付けてみました」ってことなのか。だとしても、無意味なのは変わらない。
ロロは墓石を蹴り倒すが、そんなバチ当たりな行為は「彼が殺人鬼に殺される」という展開に何の関係も無い。そのロロが殺されるシーンは「背後から肩を斬り付けられる」というだけで、残虐描写としてはヌルすぎる。
ケリーは崖から落ちるので、殺人鬼に殺されるわけではない。そこもやはりヌルい。最後のステイシーにしても、やっぱりスラッシャー映画として低品質だ。
純粋にスラッシャー映画として観客を引き込む力は無い上に、パロディー的な面白さも皆無なのよね。冒頭の殺人シーンが終わると、1時間前に戻る。そこでは主要キャラが順番に登場するのだが、ここでは「容疑者のアピール」という作業も実施されている。
デイヴはケリーに頼まれて酒にドリンクを入れ、立ち去る彼女を見ている。その時、不穏な空気を漂わせるようなSEが入る。ロロに馬鹿にされてパットマンが腹を立てる時も、同じ演出がある。
それは「こいつらは怪しいですよ」と観客にアピールするための演出だ。
ただ、狙いは分かるが、「殺人の動機が弱すぎるだろ」と言いたくなる。デイヴに至っては、何の動機も発生していないし。
ミスリードを狙うにしても、あまりにも質が低い。そこで変に容疑者っぽいアピールなんて、やらない方がいい。冒頭は純然たるホラーでも、後からコメディーの要素が入るんだろうと思っていたことは前述した。
ところが、その予想は間違っていた。この映画、コメディーではなかったのである。
「じゃあ純然たるスラッシャー映画なのか」というと、それも微妙だ。っていうか邦題にあるように、一応はミステリーの要素もある。犯人はジェイソンやブギーマンのような怪物キャラではなくて、普通の人間だからね。
ただ、この映画のジャンルを問われたら、「ミステリーにもスラッシャーにもコメディーにも成り切れず、それを上手く組み合わせているわけでもなく、ただ中途半端になっているだけ」と答えるのが正解ではないだろうか。コメディーとしての半端さは、殺人が起きていないシーンの描写にある。
殺人シーンなんて多くの時間を必要とするわけではないから、おのずと上映時間の大半は「それ以外のシーン」ってことになる。
で、そこで何が描かれるのかというと、「スタッフと観光客が島で遊ぶ様子」である。
もちろん、それを喜劇として描くことは可能だ。しかし実際には、ただ能天気に遊んでいる様子をダラダラと描くだけだ。
笑いを取るための仕掛けは、決して多くない。っていうか根本的な問題として、「殺人シーンに喜劇の要素が乏しい」ってことがあるのよね。
ホラーとコメディーが、ほぼ分離されている状態になっていて、それで「ホラー・コメディー」を作ろうってのは至難の業でしょ。そしてダラダラとした時間が多いことによって、ホラーとしての魅力も著しく減退することに繋がるし。
それを抜きにして殺人シーンだけを集めても魅力は無いので、「ダメの上塗り」なんだけどさ。
「殺人鬼かと思ったら違いました」という肩透かしを繰り返すのも、「もういいよ」と呆れてしまうし。そしてミステリーの要素だが、これまた酷い。
前述したように序盤でミスリードを狙っているが、これが後の展開には全く繋がっていない。最初に匂わせたことを、すっかり忘れてしまっている。
いざ殺人が発生した後は、「こいつが犯人かも」と匂わせる作業は全く無い。
前述したようにデイヴとパットマンだけで序盤のミスリードは終了しているが、そこから何も広がらない。こいつらの容疑を濃くする仕事もしていないし、他のキャラに疑惑を抱かせる仕事もしていない。単に「出てくる奴らがバカばっか」というだけで、ほぼ思考が停止している。
時系列をいじって最初に殺人から始めたのも、ほとんど意味が無い。ただ「最初に殺人シーンから始めたかった」というだけに留まっている。
それ以外でも、「ここは笑いに出来るでしょうに」と感じるトコで、ことごとくチャンスを逃している。
例えば「ハンクが殺人鬼の前で得意げに喋っていたら殺される」というシーンなんて、本気でコメディーにしたいのなら、絶対に逃しちゃダメなトコでしょ。でもスプラッター映画の範疇で処理されてしまい、ちっとも笑いに繋がらないのだ。その後の「カートを見つけたユーが操縦するが、スピードが遅いので歩く殺人鬼に追い付かれる」というシーンは、ちゃんと笑いの作り方になっている。
でも、そこも「映像の見せ方を変えれば、もうちょっと笑いが増えるだろうに」という勿体無さを感じる。
ジェニーたちがデイヴとペネロピーのセックスを見せられるシーンも、ちゃんとコメディーになっている。でも全体を通して考えると、そういう意識は低い。
そしてパットマンが悪夢を見るなど、必要性に首をかしげたくなる余計なシーンで時間を無駄にする。ちなみに完全ネタバレを書くと、犯人はサムで、「ピートが島の相続権をデイヴに譲り渡したから」ってのが動機だ。
だけど、そこから「だからスタッフを次々に殺す」という行動には、まるで繋がらないよね。動機からすると憎いのはピートとデイヴだけなので、そいつらを殺せば事足りるわけで。
他にも色々と辻褄の合わないトコはあるんだけど、いちいち真面目に考えるだけ無駄なので、やめた方がいい。
どうせミステリーとしては完全に破綻しているし、たぶん最初からマトモに描く気も無いんだろうし。(観賞日:2020年4月10日)