『マーヴェリックス/波に魅せられた男たち』:2012、アメリカ

8歳のジェイ・モリアリティーは年上の女友達であるキムと共に、浜辺へ遊びに来た。ジェイは波の大きさに強い興味を示し、その間隔を読んだ。キムの愛犬がボールを追って海へ落ちそうになったので、ジェイが助けた。ジェイは高波に飲まれて海に転落するが、サーフィンをしていた隣人のフロスティーが救った。サーフボードに乗せられたジェイは、楽しいと感じた。ジェイが波を呼んでいたこと、うねりの長さと間隔の関係に自分で気付いたことを知り、フロスティーは驚いた。1987年、カリフォルニア州サンタクルーズでの出来事だ。
ジェイの父親は軍人で、パナマ基地に勤務している。クリスとは別れており、たまに手紙が届くだけだ。ジェイの母であるクリスは、酒に溺れる日々を過ごしている。ジェイにも手紙は届いているが、彼は読まずに片付けている。建築現場で働くフロスティーはブレンダという女性と結婚し、生後間もないロケという娘がいる。帰りが遅かったことに妻が触れると、フロスティーは「仕事の帰り、友達の手伝いをしてた」と告げ、サーフィンに行っていたことは内緒にした。
翌朝、クリスはジェイに「新しい仕事の面接へ行く。12時には帰るわ」と言い、家を出た。しかし1時を過ぎても、彼女は戻らなかった。ジェイはガレージに入り、折れたサーフボードを見つけて修繕した。ジェイはフロスティーの家へ行くが、彼は出掛けていた。ジェイが昨日のことを話したので、ブレンダは夫がサーフィンに行っていたことを知った。ジェイが「ボードの裏のパーツが無い」と告げると、ブレンダは納屋にあったフィンをプレゼントした。
ジェイが海へ出掛けると、大勢のサーファーに交じってフロスティーが波に乗っていた。サニーという同年代の男児が車のバックミラーをバットで破壊したので、ジェイは驚いた。ジェイは海に入ってサーフィンを始めるが、もちろん初心者なので失敗を繰り返す。ジェイが口から出血するのを見たブロンディーという同年代の男児が、「もう海から上がれ。血が出てる」と促す。しかしジェイが「立てるようになるまで」と言うので、ブロンディーは彼にアドバイスした。ジェイがチャレンジすると、一発でボードに立つことが出来た。
7年後、ジェイはブロンディーと共にサーフィンを続け、その技術は上達している。サニーは仲間2人を引き連れてビーチに来ており、相変わらずバットを持ち歩いている。ジェイは他の男友達と仲良くしているキムに思いを寄せているが、その距離を近付けることは出来ていない。クリスは家賃の支払いを延滞しており、催促に来た家主に触れられて喚く。そこへ帰宅したジェイは家主に掴み掛かり、危うく警察沙汰になるところだった。
深夜、ジェイは隣家の物音に気付き、外へ出た。フロスティーがボードを持って出掛けようとする様子を目撃した彼は、密かに車の屋根へ飛び乗った。車が目的地である秘密のビーチに到着すると、ジェイは身を隠した。フロスティーは3人の仲間と共に、伝説として語られていた大波のマーヴェリックスを攻略した。その様子を見たジェイは興奮し、フロスティーの名を叫んだ。フロスティーはジェイに「付いて来たことは許す。だが、あの波は神話のままにしておきたい」と内緒にするよう釘を刺した。
ジェイが「あの波に乗りたい」と言うと、フロスティーは「無理だ。20年間、あの波に乗って来た。死なないためには、強靭さと知識が必要だ」と述べて帰らせた。その様子を見ていたブレンダは、フロスティーに「彼は貴方に憧れてる。命懸けで波に乗ろうとするわ」と告げ、コーチするよう促した。一度は難色を示したフロスティーだが、結局は妻の助言に従うことにした。彼はジェイがバイトするピザ屋へ赴き、「あの波を生き延びる方法だけ教えてやる。言う通りにしろ。明朝6時半、ウチの納屋に来い」と告げた。
翌朝、フロスティーはボードを持って来たジェイをビーチへ連れて行き、一緒に海へ入った。彼が「モントレーまで58キロ。パドルで到達できたら、大波に乗れる」と口にすると、ジェイは「無理だ」と当惑する。しかしフロスティーは、次の大波が来る12週間後まで特訓を積むよう命じた。ジェイへのコーチを開始したフロスティーは、2人目を産んだブレンダから「サーフィンが生き甲斐なのは分かるけど、大波に乗ることを優先して、子供たちを犠牲にしないで」と頼まれ、「約束する」と断言した。
フロスティーはジェイに、「自然の法則を真鍋。観察すれば、道は必ず開ける。それについて3枚の作文を書け」と宿題を出した。ジェイはキムを観察し、作文をフロスティーに提出した。作文を読んだフロスティーは、「何かの冗談か。大波で死なないための訓練だぞ」と激怒した。しかしブレンダに「こういうことは忍耐が必要よ」と諭され、コーチを続けることにした。ジェイは学校をサボり、波の観察に出掛けた。フロスティーの仲間が高波に飲まれるが、無事に岩場まで辿り着いた。
ジェイは自宅の浴槽で長く息を止める練習を積み、ウェザー・ラジオを買うためにバイト代を貯める。しかしクリスから「駐車違反の罰金を払わなきゃいけないの。お金を貸してくれない?」と頼まれると、金を渡した。フロスティーはジェイをビーチへ連れて行き、「墓場と呼ばれる岩場に流されたら砕け散る」と忠告した。注意事項を説明するため、彼はジェイを連れて潜水する。鮫を見たジェイがパニックに陥ると、彼は「恐怖とパニックは異なる感情だ。パニックを起こせば死ぬぞ」と警告した。そんな風に訓練の日々が続く中、ブレンダが発作で倒れて急死した。フロスティーの落ち込みは酷く、生きる意欲さえ失ってしまう…。

監督はカーティス・ハンソン&マイケル・アプテッド、原案はジム・ミーナハン&ブランドン・フーパー、脚本はカリオ・セイラム、製作はカーティス・ハンソン&マーク・ジョンソン&ブランドン・フーパー&ジム・ミーナハン、製作総指揮はジェラルド・バトラー&アラン・シーゲル&ジョージア・カカンデス&デヴィッド・ヴェイル、共同製作はエリック・N・ヘフロン、製作協力はキャスリーン・コートニー、撮影はビル・ポープ、美術はアイダ・ランダム、編集はジョン・ギルバート、衣装はソフィー・デ・ラコフ、視覚効果監修はスコット・E・アンダーソン、音楽はチャド・フィッシャー、音楽監修はアンドレア・フォン・フォースター。
出演はジェラルド・バトラー、ジョニー・ウェストン、エリザベス・シュー、アビゲイル・スペンサー、レヴェン・ランビン、テイラー・ハンドリー、デヴィン・クリッテンデン、ジェニカ・バージェレ、グレッグ・ロング、ピーター・メル、ザック・ウォームフート、クーパー・ティンバーライン、マヤ・レインズ、ハーリー・グレアム、ジェームズ・アンソニー・コットン、シャノン・ロー、トーマス・フレイル、L・ピーター・カレンダー、アンドリュー・ピアーノ、コイ・コフマン他。


若くして亡くなった天才サーファー、ジェイ・モリアリティーと師匠であるフロスティー・ヘッソンの関係を描いた伝記映画。
『8 Mile』『イン・ハー・シューズ』のカーティス・ハンソンが監督を務めていたが、体調不良で途中降板を余儀なくされたため、『アメイジング・グレイス』『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』のマイケル・アプテッドが後を引き継いで完成させた。
脚本は『スコア』のカリオ・セイラム。
フロスティーをジェラルド・バトラー、ジェイをジョニー・ウェストン、クリスをエリザベス・シュー、ブレンダをアビゲイル・スペンサー、キムをレヴェン・ランビンが演じている。

冒頭、海に落ちたジェイはフロスティーに救助され、サーフボードで波を滑って楽しさを感じる。ガレージで見つけたボードを修繕し、フロスティーがサーフィンをしている海に自分も入ってチャレンジする。
そういう流れで進めるなら、「初めてボードに立って波に乗る」ってのは、自分の力だけで何とかするか、あるいはフロスティーからアドバイスを貰うか、その二択しか無いはずでしょ。
ところが実際には、ブロンディーの助言でボードに立つのだ。フロスティーは、チラッと見るだけなのだ。
なんでやねん。

ジェイがブロンディーのアドバイスを受けてボードに立つと、7年後に飛ぶ。すると青年になったジェイは、ブロンディーとサーフィンを楽しんでいる。
そういう形を取るのであれば、7年後の物語でもジェイとブロンディーの友情が軸になるのかと思っても不思議ではないだろう。
しかし実際には、「ジェイがフロスティーからコーチしてもらい、大波の攻略を目指す」ってのが本筋なのだ。
それなら、幼少期と7年後を繋ぐ箇所は、「ジェイとフロスティーの交流」の絵にしておくべきじゃないのかと。

1987年のシーンでは、「仕事の面接に出掛けたクリスが1時を過ぎても戻らない」という状況が示される。
ジェイの言葉を聞いたブレンダは、フロスティーが内緒でサーフィンに行っていたことを知る。
だが、「約束の時間になっても帰宅しなかったクリスは何をしていたのか、戻って来た時の様子はどんな感じなのか」「夫の嘘を知ったブレンダは、それに対してどういう態度を取るのか」といったことを描写しないまま、7年後に飛んでしまう。
そこは、ちょっと引っ掛かるモノがある。

1987年のシーンでは、「ジェイの年上のガールフレンド」としてキムが登場する。バットでバックミラーを破壊する乱暴な男児として、サニーも登場している。
2人とも、7年後の物語でも絡んで来る。だから、それに向けての前フリみたいなモンだ。
ただし、その辺りは欲張り過ぎて上手く処理できていないと感じる。
また、クリスが酒に溺れて自堕落な生活をしているとか、家賃を滞納しているので家計が苦しいとか、ジェイが決して幸せではない家庭環境にあるとか、その辺りの描写も物足りない。

フロスティーと仲間たちが秘密のビーチへ行く時、ジェイは密かに車の屋根へ飛び乗る。
彼はフロスティーがボードを車に乗せるのを目撃しても冷静沈着に対応しているので、どうやら「以前からフロスティーの行動を察知し、機会を狙っていた」ってことなんだろう。
だが、「フロスティーが怪しげな行動を取っているのを知り、秘密の大波を攻めているんじゃないかとジェイが考える」といった描写は、事前に用意されていなかった。だから、流れとしては上手くない。
フロスティーが大波を攻める様子をジェイが目撃する時点で、そこが秘密のビーチであること、フロスティーが伝説の大波を攻めていること、そもそも「伝説の大波」と呼ばれている波が存在していたこと、それがマーヴェリックスと呼ばれていることなども、事前の言及が全く無かった。
冒頭でジェイから「もっと大きな波はあるの?」と問われたフロスティーが「世界は広い」とボンヤリとした答えを口にするけど、その程度なのよ。

7年後に飛んだ時、最初にジェイが接しているのはブロンディーだ。次に会話を交わすのはサニーで、その次がキムだ。
そういう様子が描写されている間、ジェイがフロスティーを意識している気配は全く無い。
その後、早朝に出掛けるフロスティーの車に乗り込むのだが、7年間の間、ジェイと彼の関係はどういうモノだったのか、サーフィンを通じての交流があったのか、そういうことは全く分からない。
ジェイにとってフロスティーがどういう存在だったのか、それが伝わって来ない。

本来なら、家庭に恵まれているとは言えないジェイがフロスティーを人生の指導者のような存在として認識し、疑似親子関係が芽生えるというドラマが充実しているべきじゃないかと思うんだよね。どうであれ、少なくともジェイとフロスティーの交流に重点を置くってのは必須事項なわけで。
それを考えると、キムやブロンディー、サニーといった面々との関係はバッサリと削り落とし、もっとフロスティーとの関係に絞り込んでも良かったんじゃないかと。
もちろん、ジェイがキムやブロンディーたちと交流する様子を上手く活用できれば、ドラマに厚みを生み出すことが出来る。
しかし実際のところ、ただ散らかしているだけなのだ。
しかもジェイとフロスティーの交流という肝心な部分も、皺寄せを食らって薄味になっている。キムにしろブロンディーにしろ、「ジェイとフロスティーの交流」とか「ジェイのサーファーとしての成長」という要素には、ほとんど無関係な存在になっているのよね。

フロスティーが大波に乗るのを見たジェイは、「この世に生まれた理由だ」と感じ、ピザ屋の仕事も手に付かないぐらい上の空になる。彼はフロスティーから止められても、命懸けで大波に乗りたいと考える。
だが、そこの説得力が弱い。
「大波に乗るフロスティーを見て興奮した」という映像だけで納得するってのは、実際にサーフィンをやっている人やサーフィンが好きな人が自身の体験を重ね合わせて脳内補完する作業をしないと、ちょっと厳しいんじゃないかと。
段取りとしては理解できるが、心には響かないのよね。

基本的にはジェイの伝記映画だが、フロスティーの側からもドラマを描いている。こっちの方は夫婦関係に絞っており、むしろジェイの周辺ドラマよりもスッキリしていて焦点が定まっている。
両サイドから描くってのは悪くないけど、だからこそ尚更、ジェイ側のドラマが散漫になっているのは大きな欠陥だ。
ジェイがキムやブロンディーと深夜のプルーに忍び込んで楽しむシーンなどは、話の流れをブッタ切っているとしか感じない。ブロンディーが不良になっちゃうとか、サニーがジェイにネチネチと絡んで来るとか、そういうのも心底から「どうでもいい」と感じる。
その辺りは、上手く着地させられないまま消化不良に終わっているし。

キムに関しては、後でジェイの妻となる人物なので、そこを削るのは難しいだろう。
ただ、それならそれで、ちゃんと活用していくべきだ。彼女もブロンディーと同じぐらい、「ホントは重要なはずなのに必要性の乏しい存在」になっている。
恋愛劇なんてペラッペラの状態で、キムのジェイに対する感情もペラッペラだったのに、急に気持ちを吐露してキスする手順が訪れるので、「色んなトコを見落としたのか。もしくは知らない内に小人がシーンをカットしちゃったのか」と思ってしまうわ(それは嘘だけど)。
あと、そもそもブレンダだって実在の人物じゃなくてホントのフロスティーの奥さんは「ロビン・ヘッソン」だったわけで、それならキムの存在を完全に抹消する脚色をしても良かったんじゃないかと。

この映画は「ジェイがマーヴェリックスの攻略に情熱を傾け、そのために準備を進める」というエピソードに絞り込んでいる。サーフィンを始めるきっかけとなった出来事から映画を始めているが、その後に「ジェイがサーファーとして成長していく」という物語を描くわけではない。
しかし「大波の攻略に燃える」という目的だけに話を向かわせるのなら、フロスティーのようなキャラを主人公に据えた方がいい。映画が始まった時点で既に「サーフィン馬鹿」であり、そんな男が「さらなる高みにチャレンジしたい」ってことで大波を狙うが、家族のことを考えてほしいと妻に頼まれて葛藤する、というドラマにした方が締まりがいい。
まだサーファーとしては発展途上の段階である若者を主人公に据えたのに、「様々な経験を積んだり、壁にぶつかって乗り越えたりする中で少しずつ成長していく」という物語ではなく、「伝説の大波を攻略することに打ち込む」という1点に内容を集約すると、そこが上手くマッチングしないと感じる。
大波はあくまでも若者が成長する上で乗り超える1つの難関として登場し、「他にも様々なことがあって」という構成にした方が、適していると思うのだ。

(観賞日:2016年2月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会