『女神が家(ウチ)にやってきた』:2003、アメリカ

弁護士のピーター・サンダーソンは、チャット・ルームでシャーリーンという女性と知り合った。顔も知らないシャーリーンに、ピーターは恋心を抱いていた。出勤したピーターは、会議に出席する。事務所としてはコーヒー会社を相続したアーネス夫人を顧客にしたいと考えていたが、彼女は保守的で倹約家だった。上司のエドはピーターに任せようとするが、生意気な若手のトッドが担当に名乗りを挙げる。トッドは挑発的な態度を取るが、ピーターが「私有財産は無料で管理し、コーヒー会社に食い込む。損して得取れです」という方針を提案し、アーネス夫人の担当を任された。
ピーターは同僚のハウイーにシャーリーンからのメールを見られ、「出会い系なんかじゃなくて、法律サイトで知り合ったんだよ」と説明する。シャーリーンからはインタビューを受けるブロンド美女の写真が送られて来ており、今夜7時に会う予定が入っていた。ピーターは別れた妻のケイトに電話を掛けるが、子供たちをハワイに連れて行く約束をキャンセルしたため、怒りを買ってしまった。娘のサラと息子のジョージーは、ケイトに「いつもこうだ」と諦めたような態度を示した。
ピーターはレストランへ行き、アーネス夫人と対面した。彼女の連れているフレンチ・ブルドッグのシェークスピアを褒めるピーターだが、噛み付かれそうになった。ウェイターが来て「ペットは御遠慮頂けますか」とアーネス夫人に言うので、ピーターは立ち上がった。彼はアーネス夫人のに背中を向けた状態でウェイターと対峙し、「そんな断り書きは無かったはずだ」と言いながらチップを見せた。ピーターはウェイターを上手く説得したと思い込ませ、アーネス夫人に好印象を与えた。
ピーターが帰宅すると、向かいに住むクライン夫人が声を掛けて来た。クライン夫人は人種差別主義者で、ヒスパニックが近所に家を購入する予定で下見に来たのに、「まさか、家の手入れに来るなら分かるけど」と信じなかった。愛想笑いで応対したピーターは、急いで家に入り、シャーリーンを迎える準備を整えた。だが、やって来たシャーリーンは写真とは別人で、かなり太った黒人女性だった。ピーターが追い出そうとすると、彼女は写真を改めさせる。するとブロンド女性の背後で保安官に連行されているのが彼女だった。
シャーリーンは悪びれた様子も見せず、刑務所に入っていたことを話す。「だけど無実だよ」とシャーリーは言うが、ピーターはさっさと追い出そうとする。するとシャーリーンは「銀行強盗で逮捕されたけど、再審請求したいんだよ」と話す。ピーターは追い出してドアに鍵を掛けるが、シャーリーンは大声で喚き散らした。ピーターは慌ててシャーリーンを茂みに隠れさせ、銃を持って出て来たクライン夫人が「変な声がしたけど」と言うので「空耳ですよ」と誤魔化した。
ピーターが警察に連絡しようとすると、シャーリーンはEメールの内容を印刷した紙を見せて「法律事務所のボスは、アンタが犯罪者をナンパしたと知ったら、どう思うだろうねえ」と脅しを掛けた。ピーターは仕方なく、「一晩だけ」と条件を付けて泊めてやった。彼はシャーリーンが寝ている間にEメールの記録を全て抹消し、翌朝に彼女を起こして閉め出した。しかしピーターが週末を一緒に過ごすためにサラとジョージーを連れて戻ると、シャーリーンは仲間を勝手に呼んでパーティーを開いていた。ピーターは何とかパーティーを中止させ、シャーリーンを追い出した。
ピーターは子供たちを連れてカントリークラブへ出掛け、2人を遊ばせる。その間に彼はレストランへ行き、ハウイーと合流した。そこでアーネス夫人と会い、契約を交わすことになっているのだ。ところがシャーリーンが現れ、そのまま居座ってしまう。そこにアーネス夫人が来たので、ピーターは早く帰ってくれと頼む。シャーリーンから「家に置いてくれる?再審請求してくれる?」と要求され、ピーターはそれを承諾した。アーネス夫人が声を掛けて来たので、ピーターはシャーリーンを「ベビーシッターです」と紹介した。
カントリークラブのレストランにはケイトの妹のアシュリーが来ており、一部始終を目撃していた。彼女は年下の恋人グレンとデート中のケイトに電話を掛け、ピーターが黒人女性と一緒にいたことを告げた。「あの女、ベビーシッターじゃないって」とアシュリーは言うが、ケイトは笑い飛ばした。翌朝、ピーターが会社で仕事をしていると、シャーリーンがやって来た。秘書からエドが来ることを知らされ、ピーターはハウイーと共にシャーリーンを連れ出そうとする。しかしエドが来てしまったので、ピーターは動揺する。シャーリーンは節税相談に来たシスターとして振る舞い、その場を去った。
エドはピーターに、他の事務所がアーネス夫人を狙っていることを告げた。早く契約を交わすよう求められたピーターは、「すぐに話はまとまります」と告げた。彼はカントリークラブで夫人を接待し、下手なゴルフに付き合った。ハウイーがシャーリーンとデートしているのを目撃したピーターは、慌てて2人の元へ行き、カントリークラブから立ち去るよう要求した。アシュリーに侮辱されたシャーリーンは腹を立て、洗面所で格闘して叩きのめした。
読み書きの学習が著しく遅れているジョージーに、シャーリーンはポルノ雑誌を渡した。ピーターは激怒するが、ジョージーは字が読めるようになっていた。驚くピーターに、シャーリーンは「この子は文章の内容を見ずに当てずっぽうで読んでたのよ。だから、読みたくなるようなエロい文章をゆっくり読ませたの」と説明した。クライン夫人がポーカー大会のディーラーとして、ジョージーを呼びに来た。シャーリーンがお構いなしに歩き回ったので、ピーターは慌てて夫人に見られないようにした。
サラは恋人のアーロンが迎えに来たので、ピーターに紹介した。今夜はアーロンの家族とディナーを取るというので、ピーターは「行き先が分かってるのなら」と承諾する。だが、それは大嘘だった。好青年に見えるアーロンは車を運転するための同行者に過ぎず、サラが本当に付き合っているのはマイクという別の男だった。車に隠れていたマイクは、サラとキスを交わした。ピーターはシャーリーンを誘い、外食に出掛けた。シャーリーンに誘われたピーターは、バンド演奏に合わせて一緒にダンスを踊った。
ピーターたちが訪れたレストランには、ケイトとアシュリーも来ていた。ケイトはピーターとシャーリーンが踊っている様子を目撃し、ショックを受けた。彼女はピーターの元へ行こうとするが、シャーリーンに痛め付けられていたアシュリーが制止した。帰宅したピーターは、シャーリーンからケイトにアプローチするための方法を教わる。ジョージーを送り届けたクライン夫人が、その様子を目撃した。彼女の兄が法律事務所の共同経営者だったため、翌朝に出勤したピーターは注意を受けた。
ピーターはシャーリーンがウィドーという男と会っているのを目撃し、その関係について尋ねた。シャーリーンは、ウィドーが4年前に収監されるまで付き合っていた恋人であり、ヨリを戻したいと言って来たことを話す。シャーリーンはサラからの電話で、「パパには内緒て迎えに来て」と頼まれる。何かワケ有りの様子なので、すぐにシャーリーンは教えられた家へ出向いた。そこには大勢の若ものたちが集まり、ドラッグ・パーティーを開いていた。サラはシャーリーンに、マイクが力ずくで関係を持とうとしたことを話す。シャーリーンはマイクを捕まえ、お仕置きして謝罪させた。シャーリーンにピーターに事情を説明し、優しく話を聞いてあげるよう諭した。
翌朝、ピーターは車で出掛け、ケイトの家を眺めた。すると別荘へ旅行に行っていたはずのケイトが、荷物を持って帰って来た。ピーターは彼女に「子供たちを金曜まで預かりたい」と提案し、了承を貰う。そこへシャーリーンから電話が入り、アーネス夫人が向かっていることを知らせる。すっかり忘れていたピーターは、急いで帰宅する。アーネス夫人はピーターに「貴方の私生活について色々とよからぬ噂が入って来る」と言い、懸念を示す。シャーリーンと子供たちはピーターに協力し、夫人の前で「良い家庭」を演じた…。

監督はアダム・シャンクマン、脚本はジェイソン・フィラルディー、製作はデヴィッド・ホバーマン&アショク・アムリトラジ、共同製作はトッド・リーバーマン、製作協力はクッキー・カロセラ、製作総指揮はジェーン・バーテルミ&クイーン・ラティファ、撮影はジュリオ・マカット、編集はジェリー・グリーンバーグ、美術はリンダ・デシェンナ、衣装はパメラ・ウィザース=シルトン、音楽はラロ・シフリン、音楽監修はマイケル・マッカーン。
出演はスティーヴ・マーティン、クイーン・ラティファ、ユージン・レヴィー、ジョーン・プロウライト、ジーン・スマート、ミッシー・パイル、キンバリー・J・ブラウン、スティーヴ・ハリス、アンガス・T・ジョーンズ、マイケル・ローゼンバウム、ベティー・ホワイト、ジム・ヘイニー、エンガス・ジェームズ、ジャーナード・バークス、ブロンゼル・ミラー、マット・ラッツ、ランディー・オグルズビー、ジェシー・コーティ、スモールズ、ヴィクター・ウェブスター、テディー・レーンJr.、ヴィンセント・M・ウォード、マイケル・エンサイン、トレイシー・チェレル・ジョーンズ他。


『ウェディング・プランナー』『ウォーク・トゥ・リメンバー』のアダム・シャンクマンが監督を務めた作品。
シナリオを執筆したジェイソン・フィラルディーは、これが脚本家デビュー作。
ピーターをスティーヴ・マーティン、シャーリーンを製作総指揮も兼ねているクイーン・ラティファ、ハウイーをユージン・レヴィー、アーネス夫人をジョーン・プロウライト、ケイトをジーン・スマート、ケイトの妹アシュリーをミッシー・パイル、サラをキンバリー・J・ブラウン、ウィドーをスティーヴ・ハリス、ジョージーをアンガス・T・ジョーンズ、トッドをマイケル・ローゼンバウム、クライン夫人をベティー・ホワイトが演じている。

この映画、黒人差別を大きく取り扱ったコメディーである。
もちろんコメディー映画なので、「黒人差別反対」というメッセージを声高に訴えるわけではなくて、それをネタにしているわけである。
クイーン・ラティファが製作総指揮を兼ねているので、「白人が黒人を茶化している」というわけではなくて、黒人が自らの人種を笑いにしているってことだ。
しかし残念ながら、そんなに笑える形に転化されておらず、それどころか、ちょっと不快感が強くなっている。

それと、そもそも「この映画に黒人差別って必要なのかな」というところからして、疑問が沸いてしまう。
この映画から黒人差別という要素を排除して、それで何が困るんだろうと考えた時に、それほど大きな支障が無いように思えてしまう。
ピーターは中流階級のWASPで、「自分の暮らしに黒人が入って来るのを嫌がる」という形にしてあるが、これって例えば「黒人」じゃなくて「パンク野郎」とか「ゴスロリ女」とか「ヒッピー」とか、そういうことでも成立してしまうんじゃないかと思うのだ。

ピーターはシャーリーンがブロンド美女じゃなかったので追い出そうとするが、それは「黒人だから」ということではなく、「写真で見た美女ではなかったから」である。
シャーリーンが白人でも、何の問題も無く成立する。
ピーターはシャーリーンを追い出そうとするし、子供たちと関わりを持たせないようにしようとするが、それも相手が黒人じゃなくても成立する。
というのも、シャーリーンは自分を騙した女だし、しかも犯罪者なのだから、「そういう奴とは関わりたくない」ということで成立してしまうのだ。

クライン夫人をゴリゴリの人種差別主義者、アーネス夫人を保守的な老女にしてあるので、「彼女たちに黒人との関わりを知られたら大変なことになる」という部分に関しては、シャーリーンが白人だと成立しない(まあ黒人じゃなくてヒスパニックや黄色人種でも成立するけど)。
ただ、そもそもクライン夫人を人種差別主義者にしなければ済むことで。
彼女を「中流階級の環境に馴染まない異質な連中を嫌悪する」というキャラにでもしておけば、シャーリーンが「上品さに欠ける女」というだけでもOKになる。
アーネス夫人に関しては、「保守的」という設定のままでも、シャーリーンが「上品さに欠ける女」ということで成立する。

もう1つの困った問題は、シャーリーンが不愉快な女に見えてしまうってこと。
本人としては「無実を証明するために再審請求したい」という願望があるんだろうけど、すげえ態度が偉そうだし、振る舞いが傍若無人なんだよね。
自分の目的を達成するためなら、ピーターがどれだけ迷惑を被っても構わないという感じなのだ。
彼女が偉そうな態度で身勝手に行動し、ピーターが振り回されたりオロオロしたりするというところで喜劇を構築しようとしているのは分かるんだけど、笑えないんだよなあ。

だってさ、ピーターは何の非も無いのよ。
もちろんチャットて話していた時に少しの詐称はあったけど、そんなのは大した問題じゃない。写真の女性じゃないから追い出そうとするのは当然だし、「再審請求したい」というのを無視するのも決して冷淡な行為ではない。
例えばシャーリーンが低姿勢でお願いして、それでも荒っぽく追い出されたのなら、少しは同情心が沸いたかもしれないけど、いきなり家に乗り込んで好き勝手に行動するんだから、迷惑な女でしかない。
あと、がさつで荒っぽくて、可愛げが全く無いんだよね。
これに関しては、申し訳ないけど、「クイーン・ラティファがミスキャスト」と言わざるを得ないなあ。

っていうかさ、シャーリーンの特徴って、「黒人である」という部分じゃなくて、その荒っぽい口調とか、がさつな行動とか、そういう部分にあると思うんだよね。そこがあれば、黒人である必要性が無いと思うのよ。
ひょっとすると「ステレオタイプの黒人を演じている」ということなのかもしれないけど、それが笑いに繋がっているわけでもないしなあ。
っていうか、「黒人である必要性」ということを考えると、ますますクイーン・ラティファじゃなくても(ない方が)いい気がしてしまう。
まあ製作総指揮を担当しているぐらいだから、まず彼女の出演ありきで進められた企画なんだろうけどさ。

後半に入ると、ピーターの受け入れ態勢が見え始めることもあって、シャーリーンの傍若無人ぶりは随分と抑えられたモノになる。
それによって不快感は薄まるが、だからと言って笑いが増えるわけではない。
しかもシャーリーンが少しおとなしくなるのは、ピーターとの交流で変化するとか、反省して態度を改めるとか、そういうことではない。ただ単に、段取りとして抑え気味になっているだけだ。
それに、シャーリーンがおとなしくなって、「ピーターが振り回される」というのが減るのは、本末転倒だし思うし。

ピーターがシャーリーンを外食に誘う時点で、まだ好意を抱くきっかけとかドラマはほとんど無い。「息子を字が読めるようにした」ということでの感謝があるだけで、それ以外にシャーリーンへの嫌悪感や拒絶反応が一気に好感へ傾くだけの要素は全く無い。
たった1つのポイントだけで「ディナーに誘う」という行動になるのは、ちょっと性急に思える。
しかも、ピーターとシャーリーンは最終的にカップルとして結ばれるわけではないんだよね。ここに関しては、「白人と黒人をカップルにすることは許されない」という、ハリウッド映画における暗黙のルールを守っているわけだ。
メインの男女が仲良くなっても、「結ばれました」というオチが無いので、何となくフワッとした着地になってしまう。シャーリーンの相手役としてハウイーを用意しているけど、取って付けたような感じがするし。

シャーリーンが子供たちの役に立つというストーリーもあるのだが、それはサラとジョージーでそれぞれ1つのエピソードだけ。それ以外では、シャーリーンと子供たちの絡みってのは、そんなに多くない。
あと、「シャーリーンが子供たちの役に立つ」ってのが、ピーターにとってどれほどの意味を持つことかってのを考えた時に、あまり上手く機能していないと感じる。
そもそも、そういうことをやりたいのなら、子供たちがピーターに懐いていないという設定にしておいた方がいいと思うんだけど、そんなに反発心があるわけでもないんだよな。ものすごく仲良しってわけでもないけど、まるで懐いていないわけでもない。
一応、サラのエピソードでは「シャーリーンのアドバイスに従ってピーターが行動し、怒られなかったのでサラが笑顔で父に抱き付く」という展開はあるけど、「シャーリーンのおかげで親子関係が良好になる」という筋書きは弱い。
色んなことを盛り込んで、どれも薄味になっている印象を受ける。

「ピーターがアーネス夫人の契約を取ろうとしている」という話と、「シャーリーンが無実を晴らそうとしている」という話は、上手く絡み合っていない。
っていうか、そもそも「シャーリーンが無実を晴らそうとしている」という話は、ちっとも進展しないのだ。
彼女は登場した段階から再審請求したいと言っているが、そのためにピーターが行動を起こす手順は、ほとんど描かれない。
それにシャーリーンの関わった犯罪についても、「銀行強盗」ということぐらいしか情報が無くて、詳細が全く説明されないし。
で、残り30分ぐらいになって思い出したように取り扱い、「シャーリーンが無実だと知ったピーターが行動を起こす」という展開にするんだよな。

(観賞日:2014年1月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会