『マイアミ5』:1986、アメリカ

フロリダ州マイアミ。ストリート・ギャングの抗争が勃発し、双方のリーダーであるルーベンとモスが逮捕された。麻薬の運び屋をしているカルロスは取引のために空港へ行くが、囮捜査官に逮捕された。彼を空港まで車で送り届けた恋人のニッキーは、その場から逃走した。誰もいない学校の教室を爆破したJLは自宅へ戻り、母に暴力を振るう父を射殺した。すぐに警察が駆け付けるが、彼は無抵抗で逮捕された。窃盗犯のドーシーは、少年院から何度も脱走を図って失敗していた。
同じ少年院に収容された5人は手錠を掛けられ、護送車に乗せられた。カルロスの面会に訪れたニッキーは、看守に「そんな奴はいない」と冷たく告げられた。護送車がエヴァグレーズに到着すると、看守たちは5人をエアボートに移動させた。しばらく進むと看守たちは5人を放り出し、エアボートで去った。ルーベンとモスが争っていると、ジョーという男が来て彼らを乱暴に引き離した。ジョーが「明日から始める」と通告すると、5人は口々に「施設は?」「食事は?」などと質問する。ジョーは「全てこの中にある」と答え、その場を後にした。5人が慌てて追い掛けようとすると、姿が見えなくなったジョーの「戻れ」という声がした。
5人は食べる物も無いので、仕方なく野宿した。翌朝、彼らが目を覚ますとジョーが来て火を起こしていた。彼は魚を投げ、ナイフで調理するよう命じた。「ここで生活するのか?いつまでだ?」とドーシーが尋ねると、彼は「ここで生活できるようになるまでだ」と答えた。5人が抗議すると、ジョーは彼らのファイルを取り出して「お前らは未成年だが、悪質なので成人扱いになった。刑務所の代わりに俺が預かった」と言う。彼は「生と死を学ぶのだ」と鋭く告げ、服従を要求した。
ジョーが寝る場所を作るよう促すと、5人は拒否した。ジョーが「だったら構わない」と告げた後、雨が降り出した。モスは簡易テントを張って寝ているジョーに歩み寄り、ナイフを突き付けて「ここから連れ出せ」と要求する。ジョーは彼を簡単に投げ飛ばし、ナイフを奪い取った。ドーシーは逃亡を企てるが疲労で倒れ込み、毒蛇に噛まれた。そこにジョーが駆け付けて蛇を始末し、血清を注射した。他の4人が協力して魚を捕まえていると、ジョーが意識の無いドーシーを抱えて戻って来た。ドーシーが息を吹き返すと、心配そうに様子を見ていたルーベンは喜んだ。
ディスコで踊っていたニッキーは、麻薬組織のボスであるネスターに呼ばれて彼の豪邸へ付いて行った。「カルロスがいなくなった」とニッキーが捜索を要請すると、ネスターは「任せておけ」と告げて自分の女になるよう要求した。ニッキーは困惑するが、結局は彼の要求に従った。ルーベンたちはサバイバル生活に少しずつ順応し、仲間意識は強くなった。イノシシ狩りに出掛けた彼らは、追い掛けられると慌てて逃亡する。しかしジョーの号令で団結し、イノシシを仕留めて肉を食らった。
ジョーは5人に地図と方位磁石を渡し、「テストだ。目的地は地図に書いてある。跡を追って来い」と告げて立ち去った。5人は目的地を捜索するが苛立ちからルーベンとモスが口論になった。モスがルーベンに襲い掛かると、JLが「やめろ」と怒鳴った。「ジョーの言った通りにしないと死ぬんだぞ」と彼が熱く訴えると、ルーベンとモスは反省した。夜になったので彼らは野営するが、熊が現れたので慌てて木の上に避難した。
翌日、5人は地元のフェスティバル会場に辿り着き、ジョーを発見した。ジョーは彼らに、「マイアミへ行く。そこに家がある。これからが始まりだ」と告げた。彼は5人を車に乗せてマイアミへ行き、スラム街にある2階建ての建物に案内した。そこは玄関に落書きのある家で、ジョーは「市から年1ドルで借りた」と言う。家はジャンキーたちの溜まり場になっており、2階にはハイチからきた数名の不法移民が暮らしていた。ジョーたちはジャンキーの連中を追い出し、壁を塗り直して改装を始めた。
その辺りを仕切っている売人のクリームは、知らせを受けて様子を見に来た。クリームは警察さえ恐れる男だが、ジョーはルーベンたちに「放っておけ」と告げた。カルロスはニッキーと会うため、家を出て仲間を訪ねた。彼がニッキーのことを訊くと、仲間は住所を教えた。カルロスは教えられた高級マンションへ行き、ニッキーと再会する。不審を抱いたカルロスの質問に、ニッキーは女友達から借りている部屋だと嘘をつく。しかし彼女がネスターの仕事をしていると話すと、カルロスは「奴と寝たな」と激怒して部屋を出る。そこへネスターが現れ、「お前には何も無い。マイアミから失せろ」と告げてカルロスを追い払った。
ルーベンとモスは家に仲間が来ると、ペンキ塗りを手伝わせた。ジョーは警察署へ出向き、ある男に報告書を見せる。しかし男は「君らの試みは書類上は立派だ。予算も出る」と言うものの、報告書の内容を全く信頼しなかった。ジョーが「大事な試みだ」と主張すると、彼は「前回の少年は強盗して殺された」と指摘する。ジョーは「今度の少年たちは生き抜くことを学んだ。成果が出てる」と説明するが、男は「君の所の少年がツバを吐いて捕まったら、全員を少年院に戻す」と通告した。
ジャンキーたちが女を連れ去ろうとする現場を目撃したカルロスは、駆け付けて戦う。ルーベンたちも加勢して争っているとジョーが現れ、カルロスを制止して「手は出すな」と命じる。しかしジャンキーの攻撃で頭から出血したカルロスは襲い掛かり、ルーベンたちも戦う。一味が退散すると、ジョーは「ケンカを許したか」と鋭く言い放った。クリームは手下を率いて現れ、ジョーに「俺のシマを荒らしたな。殺されたいのか」と拳銃を向けた。ジョーは彼を制圧して銃を奪い取り、「部下に銃をを捨てるよう命じろ」と凄んだ。ジョーは一味を車に乗せ、その場から去るよう要求した。
ルーベンたちが奪った武器に触れていると、ジョーぱお前らに銃が扱えるか」と怒鳴り付けた。彼は5人に、「少年を2人、街に戻して殺された。ラリって強盗を働き、努力も全て失った。もう引き下がらん。クリームには負けん。環境を変えねば人は変えられん。家を掃除した。次は街の掃除だ」と語る。そして「これは俺の課題だ。お前らはもう自由の身だ」と告げ、5人に卒業を言い渡した。しかしジョーが「俺は戦争を始める」と宣言すると、5人は協力を申し出た。ジョーは彼らに、銃の撃ち方や戦い方を教えた。クリームはネスターに報告を入れ、商売の邪魔になる連中を早く始末するよう命じられた。カルロスはジョーに「俺は抜ける。俺の戦争がある」と言い、説得に応じず彼の元を去った…。

監督はポール・マイケル・グレイザー、脚本はレオ・ガレン&ジャック・バラン、製作はマイケル・ラウチ、製作総指揮はマイケル・マン、製作協力はドン・カート、撮影はレイナルド・ヴィラロボス、美術はグレゴリー・ボルトン、編集はジャック・ホフストラ、衣装はロバート・デ・モーラ、音楽はマイケル・ルビーニ。
出演はスティーブン・ラング、マイケル・カーマイン、ローレン・ホリー、ジェームズ・レマー、ジョン・キャメロン・ミッチェル、ダニエル・クイン、レオン・ロビンソン、アル・シャノン、ダントン・ストーン、ポール・カルデロン、ラリー・フィッシュバーン(ローレンス・フィッシュバーン)、トニー・ボラノ、フランク・ギルバート、アーラ・ジュルミステ、デボラ・キング、ジミ・ルッコロ、ビル・スミトロヴィッチ、ルイス・ヴァルデラマ、ロイ・ダッツ、ジェームズ・エロス、ケン・カルマン、カール・コーフィールド、T・R・ダーフィー、エディー・エデンフィールド、マット・バトラー、ダン・フィッツジェラルド他。


TVドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』のマイケル・マンが、製作総指揮を担当した作品。
TVドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』でスタスキーを演じていたポール・マイケル・グレイザーが、劇場映画の初監督を務めている。
ジョーをスティーブン・ラング、ルーベンをマイケル・カーマイン、ニッキーをローレン・ホリー、ネスターをジェームズ・レマー、JLをジョン・キャメロン・ミッチェル、カルロスをダニエル・クイン、モスをレオン・ロビンソン、ドーシーをアル・シャノン、アルドをダントン・ストーン、チトをポール・カルデロン、クリームをラリー・フィッシュバーン(ローレンス・フィッシュバーン)が演じている。

冒頭、5人の犯行が短く描かれ、罪状が表示される。そこでは「ルーベンとモスが犬猿の仲」、「JLがイカれてる」、「カルロスに恋人がいる」、「ドーシーは脱走未遂を繰り返している」といった情報が観客に与えられ、それは後の展開にも繋がっている。なので時間は短いが、それなりに機能は果たしている。
それ以上のキャラ紹介は、ジョーの訓練教室が始まってからでも遅くない。でも困ったことに、湿地帯での生活が始まってからキャラの厚みが増すことって、ほとんど無いんだよね。冒頭で提示した基本情報を使うだけに留まっている。
何より問題なのは、「それぞれの特技が何も無い」ってことなのだ。
彼らは犯罪撲滅チームとして活動していくんだから、ヒーロー的な得意技はあった方が絶対にいいわけで。それが彼らの特徴になるわけで。
そういうのが無いのは、大きなマイナスだ。

ジョーは5人が来た時、「未成年だが悪質なので成人扱い」と説明する。
でも成人扱いされるほど、5人が特別に凶悪な犯罪者だとは到底思えない。
ルーベンとモスはストリート・ギャングとして争っているが、殺人罪ではない。カルロスは麻薬組織の下っ端で、ドーシーは窃盗犯。
JLは殺人罪だけど、標的はは母に暴力を振るった父であり、快楽殺人でもなければ連続殺人犯でもない。
まあ実際に「成人扱いされるほどの凶悪犯」だとしたら、そんな奴らが正義の味方として活躍する展開を描かれてもスッキリしないかもしれないので、それは別にいいのよ。
ただ、だったら最初から「悪質なので云々」とか言わなきゃいいのに。

っていうか、凶悪で成人扱いだからジョーの元に送られたわけじゃなくて、たぶん「更生の見込みがあるし、ジョーが考えるチームに適任の資質を持っている」ってことでメンバーに選ばれているはずでしょ。
でも、そういうことに言及するシーンが全く無いのよね。
本人たちにジョーが教える必要は無いにしても、誰かが別の場所で「彼らは犯罪者だけど、まだ若いし見込みがあるし」みたいなことを話すシーンを用意した方がいいんじやないかと。

カルロスだけはニッキーという恋人がいて、彼女がネスターの女になる展開が前半の内に描かれている。その人間関係が、後半の展開にも関連してくる。それによって、ルーベンたちがジョーの特訓を受けている間も、まるで無関係なトコで別の出来事が進攻していることが示されるわけだ。
好意的に解釈すれば、そこが前半と後半を繋ぐポイントってことだ。でも全体のバランスを考えると、前半からニッキーの動きを追うシーンが挿入されているのは好ましくない。マイアミ5の中でカルロスがリーダー格式で特別扱いを受けているならともかく、そうじゃないんだし。
だったらニッキーというキャラは登場させず、ルーベンたちの動きに集中した方がいい。どうせニッキーなんて、そんなに存在価値があるキャラでもないんだし。
「娯楽映画にヒロインは必要だろ」と言われたら否定しないけど、だったら後半から登場させてもいいし。あるいは、「ジョーの妹」みたいな形で女性キャラを出してもいいし。

マイアミに戻った後、カルロスが女を連れ去ろうとする連中に襲い掛かり、ルーベンたちも加勢するシーンがある。この時、ジョーは彼らを叱責し、手は出すなと命令する。
だけど、女を連れ去ろうとする連中がいて、そいつらを攻撃するのを「ダメな行為」と言われたら、「じゃあテメエは何のためにルーベンたちを集めたんだよ」と反発したくなる。
そこで「手を出すな」と言うのも、まるで納得できない。攻撃を受けて出血しているのに、それでも手を出すことを批判しているからね。
ジョーの主張は、まるで筋が通らない。

しかもジョーは「手を出すな」と命じた矢先、クリームたちが来ると自分から襲い掛かるんだよね。
そりゃあ相手は拳銃を向けて脅していたけど、それを良しとするなら女を連れ去ろうとした連中を攻撃するのも認めるべきだろ。
「以前もジョーはスラムで少年の更生をしていたが、2人の死で中止になった」という設定があって、「だから今度は犠牲者を出したくない」という思いがあることになっている。
だけど死者を出したくないのなら、そもそも危険な地域に住まわせるなよ。そんなトコに外から入って来て勝手なことを始めたら、シマを仕切っている連中の怒りを買うのは当然のことでしょ。

そんでジョーは「クリームと戦争を始める」と言うんだけど、それはカルロスに「手を出すな」と命じたことと矛盾するだろ。
「その時と心境が変化した」ってことなのかもしれないけど、だとしてもジョーの心の動きを上手く描写できていないから違和感が強くなっている。しかも彼はクリームとの戦争に5人が協力することを申し入れると、何の迷いも無く引き込むのよね。
そいつらも死ぬ危険があるのに、それは平気なのかよ。メチャクチャだな、こいつの感覚は。

終盤、カルロスは「俺は抜ける」とジョーに言って立ち去り、ニッキーとヨリを戻してマイアミから去ろうとする。
だけどジョーが「戦争を始める」と宣言した時、ルーベンたちは協力を申し出て戦い方を教わっているわけで。
そこにカルロスも参加しているのに、一段落してから「俺は抜ける。俺の戦争をする」って、それは勝手すぎるだろ。
カルロスを離脱させるなら、そのタイミングが遅すぎる。
ネスターに追い払われるシーンがあるけど、その後に持って来るべき手順だろ。そこから時間が経ち過ぎているぞ。

っていうか、カルロスはニッキーがネスターの女になっているのを知って、裏切りに激怒したはずだよね。
それなのに、ニッキーとヨリを戻そうとしているので、タイミングが云々という以前に、その展開自体に引っ掛かるわ。
そりゃあ、カルロスがニッキーへの未練たらたらでヨリを戻そうとするってのは、心情は理解できるよ。
ただ、ニッキーが「裏切ったわけじゃなくて」と弁明したり、謝罪したりすることも無いのよね。丁寧な手順を踏んでいないんじゃないかと。

カルロスが離脱した後、クリームと手下たちがマイアミ5の家を襲撃する。ジョーが命を落とす出来事を経て、マイアミ5がネスターの一味と戦って退治する最終決戦に至る。
マイアミ5の成長と独立に向けて、ジョーを死なせるのは分からんでもない。彼を生かしておくと、いつまでもマイアミ5は「ジョーの庇護下にある若者たち」という立場のままだしね。
ただ、「燃える家を眺めていたらクリームに射殺される」という形なので、なんかマヌケなのよね。一緒にいたルーベンたちを突き飛ばして命を救っているけど、相手の死を確認することなく不用意に家を眺めていたのはジョーも一緒だからね。
あと、それで「怒りに燃えたマイアミ5が復讐に立ち上がる」という展開へ突入するのかと思いきや、「ひとまず解散してから再集合」という手順を踏むので「モタモタすんなよ」と言いたくなるわ。

ルーベンたちは、最初から「麻薬組織を潰すため」とか「ネスターを逮捕するため」といった目的があって集められたわけではない。一応はジョーが計画に基づいて指導しているが、その目的は「少年の更生」というだけだ。
彼らがネスターの組織を潰すのは、「たまたま一味と揉めてジョーが殺されたので、仇討ちとして戦った」というだけだ。
そのため、「ジョーが彼らを集めて特訓し、チームとしての結束を高めて行く」という前半と、スラム街に移動してネスターの組織と戦うようになる後半は、ハッキリとした形で分断されている。
これは長編映画の構成として、決して成功しているとは言い難い。

湿地帯でのサバイバル生活は、「人種の違いを乗り越えて5人が結束する」という目的のためにジョーが用意したテストだ。
そこで得た知識や能力が、マイアミに戻ってから役に立つわけではない。
なので外部から隔離された場所であれば、別に湿地帯じゃなくてもいいのだ。っていうか隔離された場所である必要性さえ疑問だしね。
ともかく、サバイバル生活が目に見える形で役立つことは無いので、ますます「前半と後半の分断」を感じる羽目になっている。

本来なら、最初からジョーがルーベンたちを集めて特訓する目的は設定されていることが望ましい。それを序盤で説明する必要は無くて、スラム街に移動してから「実はこういう目的がありまして」と明かす展開でも構わないけどね。
ただ、この映画の場合は「実は」と後から明かすわけでもないから、後半の展開は全て「結果論」でしかない。
そんなマズい形になってしまったのには、理由があるのだ。
この作品、当初はテレビシリーズとして企画されていた。そして、この映画はパイロット・フィルムの予定だったのだ。

ところがテレビシリーズの企画が没になってしまい、だったらパイロット・フィルムも無くなるのかと思いきや、そこだけは残った。で、それがテレビ映画ではなくて、劇場版映画として独立して公開されることになったのだ。
これがテレビシリーズのパイロット版なら、前述した構成になったのも理解できる。「テレビシリーズでは、マイアミ5が悪党と戦う様子が1話完結で描かれる」ってことを考えれば、腑に落ちる。
ただ、企画が潰れて映画オンリーになったのなら、それに合わせて内容も修正すべきだったんじゃないかと。
パイロット版であることを無意味に引きずった結果、「単独の映画」として冴えない仕上がりになったんじゃないかと。

(観賞日:2020年4月14日)


第9回スティンカーズ最悪映画賞(1986年)

ノミネート:作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会