『ミラクル・ニール!』:2015、イギリス&アメリカ

1972年、四段ロケットのアトラス・セントールによって、探査機が宇宙へ送られた。探査機は人類に似た知的生命体の探索という任務を与えられ、男女の絵と地球の場所を記した金属板が搭載された。現在のイギリス。ニール・クラークは小説で文学賞を獲る夢を抱いているが、まだ1冊も書き上げていない。飼い犬のデニスが騒がしく吠えるので、アパートの上の階に住むフィオナが文句を言いに来る。ニールは「盲導犬だ」とバレバレの嘘をつくが、フィオナは「躾が出来ないなら保護施設へ送り込むからね」と告げた。
ニールは下の階に住むキャサリンに好意を抱いているが、気持ちを打ち明けられずにいる。優等種銀河間評議会の異星人4名は金属板を回収し、「友好的に」というメッセージを見て嘲笑する。彼らは地球の映像を確認し、人類は知能が低いと判断して絶滅させようと考える。しかし法的な手続きが必要だと提言するメンバーもいたため、優等種だと証明するチャンスを地球人に与えようと決めた。ニールは教師として働いているが、やる気は全く無い。彼は同僚のレイに金を借り、競馬に注ぎ込む。
キャサリンは夏で終わった交際相手のグラント大佐から、執拗に付きまとわれている。彼女は別れたつもりなのだが、グラントは分かってくれないのだ。キャサリンは書評番組のディレクターをしており、推薦した作品について司会者のフェネッラに「あの作家を潰すと言ったでしょ」と文句を付けられる。彼女が「最高傑作ですよ」と言うと、フェネッラは「だからこそツラを汚してやるの」と述べた。同僚のスティーヴはキャサリンに、「あの人は本を読まないんだ。嫌いなのさ」と教える。
キャサリンはプロデューサーのジェームズから、「世間はフェネッラのエゴを求めてる。本や作家はどうでもいい。本に未来は無い。我々が提供するのはゴシップや誹謗中傷だ」と告げられる。悔しい気持ちになったキャサリンは、スーパーで泣きながら買い物をする。それを目撃したニールは全く見当違いの理由で泣いていると思い込むが、彼女を慰めた。異星人たちは無作為に地球人1名を選び、善悪の違いを理解しているかどうか確かめることにした。全能の力を与え、悪用すれば地球を破壊するのだ。1週間だけ猶予を与えて見極めることにした彼らが選んだのは、ニールだった。
自転車で学校へ向かっていたニールは、車とぶつかって転倒する。その直後、全能の力が彼の体に入り込む。車が走り去ったので、腹を立てたニールは「くたばれ」と吐き捨てた。車がガタガタと縦に揺れて運転手の男は焦るが、ニールは気付かなかった。キャサリンは友人のロージーと会い、男性関係について語り合う。グラントについて「独占欲が強くて病的に嫉妬深い人だった」と彼女が言うと、ロージーは「上の階の人は?」とニールのことを訊く。キャサリンはスーパーで励まされたことを話し、「いい人よ」と述べた。
ニールは何度も学校に遅刻し、その度に適当な嘘をついていた。そのため、彼は校長から疎ましそうに「早く辞めさせたいよ」と言われる。教室で騒いでいる生徒たちを見たニールは中に入らず、廊下で競馬新聞を読み始めた。レイはニールに、「どんな望みも叶うならどうする?」と尋ねる。片想いしている同僚のドロシーに自分を崇拝させたいのだと彼が語ると、ニールは「彼女はお前をバカにしてる」と口にする。レイが「人生を好転させるためなら何をする?」と訊くと、彼は「宇宙人に俺のクラスを破壊させる」と答えた。その直後、教室は宇宙からの光線を受けて爆発し、38名の生徒が死亡した。
帰宅したニールはデニスに話し掛け、「糞よ消えろ」と冗談めかして言う。すると糞が歩き出して便器に飛び込んだので、ニールは困惑した。手を振りながら願いを言えば叶うと知った彼は、ウイスキーに向かって「シングルモルトに代われ」と告げる。するとボトルが部屋を出て酒屋へ向かったので、ニールは後を追った。既に店は閉まっていたが、ボトルはガラスを割って飛び込んだ。ニールは警官に強盗と誤解され、慌てて逃げるが包囲される。ニールはパワーを使い、自宅へ瞬間移動した。
ニールは生徒のことを思い出し、「死人を生き返らせろ」と言う。しかし全ての死者が蘇ったので、慌てて「あの爆発を無かったことに」と告げた。すると時間が巻き戻り、爆発の直前になった。フェネッラはモーティマーという作家を番組に迎え、攻撃的な質問ばかりを繰り返した。キャサリンはジェームズから「上手く立ち回れ」と言われ、暗に関係を迫られた。テレビ局にグラントが押し掛けたので、驚いたキャサリンは帰るよう告げる。「好きじゃないの」と彼女が告げても、グラントは理解しなかった。ジェームズが恋人のフリをすると、彼は脅すような言葉を吐いて立ち去った。
ニールは騒がしい生徒たちに辟易し、「親切で思いやりがあり、勉学に励むクラスになれ」と言うと現実になった。「校長が俺に親切になれ」という言葉も、すぐ現実になった。レイがドロシーに無視される様子を見た彼は、「彼女にレイを崇拝させろ」と述べた。ニールはアメリカ大統領になるが、命を狙われたので即座に辞めた。彼はレイにパワーのことを明かし、信じてもらうため骨格標本に自己紹介させた。レイが「馬主になるってのは?」と提案すると、ニールは「世界中の競走馬を持てる」と言う。どのレースも必ず勝てると分かり、レイは嫌になった。彼はニールに、「何でも出来る。どんな女もモノに出来る」と告げた。
グラントはキャサリンへのストーキングを続け、「2人のために高級タワーマンションを借りた」と鍵を渡した。キャサリンはフィオナと部屋で酒を飲み、「上の階の人と寝なさいよ」と促される。銀河パワーが故障し、しばらく使えない状態になった。そんなことを知らないニールは、「キャサリンが俺を愛する」と言う。すぐにキャサリンがニールの部屋を訪れ、キスをしてベッドに誘った。アパートを覗いていたグラントは憤慨するが、捕まっていた排水管が外れて転落した。ニールがセックスした後、銀河パワーが復活した。
ドロシーのレイに対する崇拝はエスカレートしていき、生徒たちも巻き込んでカルト教団のような状態と化した。ニールは簡単な願いを次々と実現させ、デニスに人間の言葉を喋らせた。デニスがビスケットのことしか考えていないと知った彼は、合理的な思考を持たせた。キャサリンが部屋へ来て、「昨夜のことだけど、いつもはあんなことしないのよ」と釈明した。奥の部屋でデニスが「愛してると言って。脚にシコシコさせて」と喋ったので、キャサリンはニールがゲイだと誤解した。
激怒したキャサリンが部屋を去ったので、ニールは慌てて後を追い掛けた。ニールは弁解しようとするが、キャサリンは耳を貸さなかった。彼女がアパートへ戻ると、グラントが部屋に忍び込んで待ち受けていた。驚いたキャサリンはグラントを部屋に閉じ込め、「もう私には関わらないで」と怒鳴る。騒ぎを聞き付けたニールは、「裏から回って俺の部屋に。下心は無い。安全のためだ」と告げる。キャサリンが部屋に来ると、ニールはパワーのことを明かすが全く信じてもらえなかった…。

監督はテリー・ジョーンズ、脚本はテリー・ジョーンズ&ギャヴィン・スコット、製作はビル・ジョーンズ&ベン・ティムレット、製作総指揮はマイク・メダヴォイ&クリス・チェサー&ベン・ホワイト&マーク・サンデル&エドワード・シモンズ&ケント・ウォルウィン&ディーン・ゴールドバーグ&デヴィッド・ロジャース&ジェイソン・ギャレット&ジェレミー・マーテル、共同製作総指揮はアンジェラ・フグエット、共同製作はガイ・コリンズ&ポール・レヴィンソン&ケン・トゥーイ、撮影はピーター・ハナン、美術&衣装はジェームズ・アシェソン、編集はジュリアン・ロッド、コンセプチュアル・デザイン&イラストレーションはポール・カトリング、音楽はジョージ・フェントン。
出演はサイモン・ペッグ、ケイト・ベッキンセイル、サンジーヴ・バスカー、ロブ・リグル、ロバート・バサースト、エディー・イザード、ジョアンナ・ラムレイ、マリアンヌ・オルダム、エマ・ピアソン、ミーラ・サイアル、ジェームズ・デヴィッド・ロビンソン、ジュディー・ロー、アレクサ・デイヴィース、エリー・グリーン、プロフェッサー・ブライアン・コックス、ジェームズ・カーマック、ブリンダ・エマナス、ネヴィル・フィリップス、エドワード・フィッシャー他。
声の出演はロビン・ウィリアムズ、ジョン・クリーズ、テリー・ギリアム、エリック・アイドル、テリー・ジョーンズ、マイケル・パリン。


『エリック・ザ・バイキング/バルハラへの航海』『たのしい川べ』のテリー・ギリアムが監督を務めた作品。
脚本は、テリー・ギリアムと『スモール・ソルジャーズ』『美女&野獣』のギャヴィン・スコットによる共同。
ニールをサイモン・ペッグ、キャサリンをケイト・ベッキンセイル、レイをサンジーヴ・バスカー、グラントをロブ・リグル、ジェームズをロバート・バサースト、校長をエディー・イザード、フェネッラをジョアンナ・ラムレイ、ロージーをマリアンヌ・オルダム、ドロシーをエマ・ピアソン、フィオナをミーラ・サイアルが演じている。
デニスの声をロビン・ウィリアムズ、異星人の声をジョン・クリーズ&テリー・ギリアム&エリック・アイドル&テリー・ジョーンズ&マイケル・パリンというモンティー・パイソンの面々が担当している。

1972年の探査機打ち上げに関するナレーションが終了すると、オープニング・クレジットに入る。それが終わると、ニールが文学賞を獲得し、キャサリンの司会するパーティーでスピーチする様子が描かれる。そこへ犬たちが乱入し、大騒ぎになったところでニールが夢から醒める。
その入り方、まるで要らんわ。
「ニールは夢見がちな男」ってのを示しておきたかったのかもしれないが、だとしても邪魔なだけ。
その後に夢のシーンが何度も入るわけでもないし、そんなにニールって夢見がちな奴でも無いし。

シーンの切り替えが無駄に多いってのも感じる。
オープニングの後、すぐに異星人が金属板を回収するシーンへ移り、そこから「ニールに全能の力を与えると決める」というトコまで一気に片付けてしまった方がいい。
何度も地球のシーンと異星人のシーンを切り替えながら進めるのは、テンポを悪くしているだけ。
「無作為に選んだ相手はニール」というタイミングで、ニールを初登場させればいい。で、彼と周辺を少し紹介してから、全能のパワーが注入される展開に移ればいい。

銀河パワーが初めて発揮されるシーンは、ものすごくボンヤリしている。
「くたばれ」とニールが吐き捨てた直後、運転手は焦る様子を見せ、車はガタゴトと異常が起きているような動きをする。だけど、何が起きたのか良く分からないんだよね。
しかも、車が走り去る様子を描いてシーンが切り替わるので、その後でどうなったのかも分からないし。「くたばれ」ってことは、その運転手は死ななきゃ願いが実現しないことになるけど、後からニュースで事故死の情報が出るわけでもないし。
っていうか、運転手を殺してしまったことについては、まるで解決されないままで終わっているし。

次の「デニスに原稿を吐き出させるさ」という台詞の実現も、ちょっと分かりにくい。
家の様子が移ると、デニスの下半身しか写らない。どうやら何か嘔吐しているような様子ではあるけど、そこは写さない。
で、レイに「不可能を可能に出来たら?」と問われたニールが「元の状態に戻させるさ」と言うと、嘔吐した物が原稿用紙に変化する様子が写し出される。
つまり「原稿用紙を吐いてドロドロになっていたけど、それが元の状態に戻った」ってことで、現象としては間違っていないけど、無駄に分かりにくいのよね。

ニールが作家志望の男で、彼が恋するキャサリンは書評番組のディレクターだ。
キャサリンは真剣に本や作家を応援したいと思っているが、フェネッラは本を読まずに作家を攻撃し、ジェームズは「本に未来は無い」と冷たく告げる。
そういうのを序盤で描いているんだから、「ニールが執筆している小説」や「本の未来に関する意見」について何かしらの答えを用意するんだろうと思っていたが、何も無い。
そこを放り出したまま終わらせるんだったら、ニールとキャサリンの職業設定から何から全て要らないわ。

教室が爆発して生徒が全滅しても、ニールは全くショックを受けないし、「もしかすると自分のせいで」なんて微塵も思わない。
幾ら教師としての仕事に何の情熱も持っていないにしても、ずっと受け持っていた生徒たちが死んだのに何の感情も抱かないってのは冷淡すぎるぞ。
もちろん後から生徒のことを思い出して蘇らせているけど、ここの処理はマズいわ。
そこはブラック・ユーモアじゃなくて、ただ無神経で雑だとしか思えない。

そこに限らず、ニールの好感度が著しく低いってのは大きなマイナスだ。
品行方正である必要は無いけど、こいつはキャサリンから好意を抱かれるわけで。でも映画を見ている限り、キャサリンが惚れる要素なんて全く見当たらないのよ。
教師の仕事はサボり、ギャンブルに没頭する。やたらと根拠の無い自信だけはあるが、中身は全く伴わない。ただのダメ人間なのよね。
それが愛すべき奴ならいいけど、彼の無責任さはカラッとしていないし、なんか笑えないんだよな。

ニールがキャサリンとセックスする時だけ、銀河パワーが故障して使えない状態になる。
ここでの御都合主義の発動は、あまりにも下手。
そりゃあ極端に言ってしまえば、娯楽映画なんて多かれ少なかれ御都合主義が付き物だと言ってしまってもいい。だから、それを使うのが絶対にダメだとは言わない。ただ、もうちょっと狡猾に混ぜ込まないとさ。
「キャサリンの気持ちだけは本物」ってのを見せたいのは理解できるが、そんな手口を使うぐらいなら要らないなあ。
例えば「ニールが銀河パワーでキャサリンとセックスしようとするけど、いざとなると罪悪感で中止する」とか、パワーの絡ませ方はそういう形でもいいんじゃないかな。

ニールが全能の力を得るのなら、それを使うことで巻き起こるドタバタ劇に集中すればいい。
でも「キャサリンが2人の男から言い寄られ、グラントのストーキングで困っている」というのは、余計なトコへ手を広げているとしか思えない。そこだけで1本の映画にした方がいいんじゃないかと思ってしまう。
さらに強く「これは違うだろ」と感じるのが、途中でデニスが人間の言葉を喋るようになること。
非日常の仕掛けは「主人公が全能の力を得る」ってことなのに、それとは別の仕掛けになっている。
もちろん複数のネタを1つの映画に盛り込んで、全てが上手く融合すれば面白くなるだろうが、まるで混ざり合わずにそれぞれが自己主張している。

終盤に入ると、ニールが全能の力を持っていると知ったグラントが彼を拘束し、デニスを撃ち殺すと脅して自分の望みを次々に叶えると いう展開が用意されている。「キャサリンがグラントにストーキングされて云々」という要素さえ、無造作に捨て去っているのだ。
あと、グラントの脅しでニールが指示に従うというシーンだけを取っても、かなり無理がある。
グラントは「関係ないことを少しでも言ったら犬を撃ち殺す」と脅しているけど、幾らでも対処する方法はあるでしょ。
「グラントを遠い場所へワープさせる」とか「デニスを離れた場所に飛ばす」とか、「グラントの持っている銃から弾が出なくなる」とか、色んな言葉で当面の危機は回避できる。

グラントの暴走を止めた後、ようやくニールは「自分のことしか考えていなかった」と反省するが、あまりにも遅すぎる。
で、彼は自分が実現した世界スケールの願いのせいで戦争が多発したり、氷河期を超える寒さが訪れたりしたことで全能の力を持つことに耐え切れなくなり、自殺を図る。
でも、その展開は唐突すぎるわ。
そんなニールから全能の力を譲ってもらったデニスは、「この力の源を破壊し、永遠に使えないようにしろ」と言い、問題を綺麗に解決する。
そういうことをニールが全く思い付かず、自殺という方法を安易に選んだのは、「こいつがバカだから」ってことで受け入れよう。
だけど、デニスは「こう言えば解決する」ってのに気付いていたんでしょ。だったら、それをニールに教えてやれば良かったでしょうに。

(観賞日:2018年1月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会