『ホワイト・ライズ』:2004、アメリカ
マシューは恋人レベッカの婚約指輪を宝石店で選ぼうとするが、なかなか決められない。ニューヨークの広告代理店で働いていた彼は、 2ヶ月前、レベッカと共に故郷のシカゴへ戻ってきた。彼は広告代理店を辞め、今はレベッカの兄ウォルターの会社で働いている。その日 、マシューは夜の飛行機で中国へ4日間の出張へ向かうことになっていた。「本当に僕でいいんですか」と弱気なことを言うマシューに、 ウォルターは「これは出世のチャンスだぞ」と告げた。
レストランでのミーティングに向かったマシューは、靴店「レディー・ドラゴン」を営む旧友ルークと遭遇した。彼と別れた後、マシュー はウォルターと共に、中国人企業家ホンとのミーティングを行った。そこへレベッカもやって来た。彼は中座して電話を掛けに行くが、 ボックスには先客がいた。トイレで時間を潰していると、電話ボックスから女性の声がした。「リサ?」とマシューは驚き、慌ててフロア に戻る。すると、立ち去る女性の背中が見えた。彼女は人とぶつかり、ハイヒールのヒールを片方折ってしまった。
マシューは電話ボックスへ行き、残り香を嗅いで昔を回想した。2年前、まだマシューがシカゴの写真&ビデオ店で働いていた頃、彼は ビデオに写っている美しい女性に一目惚れした。それがリサだった。店の外にリサを発見したマシューは、彼女を尾行した。するとリサは ダンス・アカデミーへと入っていった。マシューはダンスの練習を覗き見し、さらにリサの後を付けた。
電話ボックスで、マシューはドレイク・ホテルのカードキーを発見した。彼は上海行きの飛行機には乗らず、ホテルへ向かった。勝手に カードキーを使って部屋に侵入すると、中には誰もいなかった。彼はコンパクトを見つけた後、ベッドに寝転んでリサのことを回想した。 マシューはリサを尾行した数日後、ルークの店を訪れて「素晴らしい女性と出会った」と話した。そこへリサが来店したため、マシューは 店員を装って応対した。緊張のせいで、彼は退屈なジョークを口にした。
何とか挽回しようと試みるマシューに、リサは彼の尾行を指摘した。彼女は気付いていたのだ。だが、完全に嫌われたと感じたマシューに 、リサは「明日の夕方、カフェで会いましょう」とメモを残した。翌日、カフェで食事をした後、2人は街を散歩した。リサはマシューが カメラマンだと知り、「私を撮って」と持ち掛けた。マシューがアパートまで車で送ると、リサは彼にキスをした。見送って帰ろうとした マシューだが、すぐに戻って部屋へ行く。マシューとリサは、激しく体を求め合った。
ドレイク・ホテルの部屋で、マシューはいつの間にか眠り込んでいた。目を覚ましたマシューは、破り捨てられた新聞記事を見つけ、それ を持ち去った。彼はルークの店へ行き、その記事が企業家ダニエルの妻のひき逃げ事件を報じた内容だと知った。彼女の葬儀は今日だ。 マシューは「2年前、なぜリサは何も言わずに姿を消した?何か事情があるはずだ」と漏らした。彼は手掛かりを得るため、葬儀へ行こう と考えた。車を貸してほしいと頼むと、ルークは「今日は恋人とデートがあるから、早く戻れよ」と告げた。
マシューはレストランへ行き、リサへのメッセージを店員に託した。彼が墓地へ行くと、ダニエルが車で去るところだった。マシューが後 を追うと、ダニエルはアパートへ入っていった。ダニエルは部屋のドアを激しく叩き、「リサ」と呼び掛けた。応答が無いため、ダニエル はドアの下から手紙を滑り込ませて立ち去った。マシューはベルトを使って手紙を引き出し、開封した。そこには鍵が入っており、手紙 には「言われた通り、鍵は返す。どうしても最後に会ってくれ。愛してる」と書かれていた。
マシューは鍵を抜き取り、手紙を元に戻した。彼は予定より遅れてルークの元へ戻り、謝罪した。デートに行けなくなったルークが怒って いると、恋人のアレックスから電話が掛かってきた。ルークが弁明すると、彼女はマシューに代わるよう頼んだ。マシューが「ある問題を 抱えていて」と説明すると、彼女は「是非とも聞きたいわ。話して」と口にした。マシューは「ある女性を捜していて、時間を忘れて しまった」と告げた。
翌日、マシューはアパートへ行き、鍵を使って勝手に部屋へと侵入した。そこへ住人が戻ってくるが、それはマシューの知らない黒髪の 女性だった。女性はマシューに噛み付き、「警察に電話するわ」と言い出す。マシューは慌てて「僕はリサの友人だ」と告げるが、その 女性は「私がリサで、この部屋の住人よ」と言う。マシューがレストランで見たのも、ホテルの部屋を取っていたのも、彼女だった。彼女 はダニエルに付きまとわれ、逃げるためにホテルで泊まっていたのだ。
落胆したマシューが立ち去ろうとすると、黒髪のリサは噛み付いた手を見て「血が出てるわ。手当てしてあげる。看護師なの」と告げた。 酒を飲みながら、2人は会話を交わした。マシューが上海へ行くため去ろうとすると、彼女は「ダニエルが怖いの。泊まっていって」と 頼んだ。マシューは「分かった」と承諾し、ソファーで眠りに就いた。深夜、マシューが目を覚ますと、すぐ近くに黒髪のリサがいた。 彼女は服を脱ぎ、マシューにキスしてきた。マシューは彼女を抱き締め、肉体関係を持った。
マシューはリサと交際を始めて2ヶ月後、ニューヨークの広告代理店に就職する話が飛び込んできた。それは大きなチャンスだったが、彼 はリサに「僕はシカゴで君といたい。一緒に暮らさないか」と持ち掛けた。リサは「リハーサルの時間なの。明日の同じ時間、公園で 会いましょう」と告げて去った。しかし翌日、リサは公園に現れなかった。ダンス・アカデミーへ赴いたマシューは、振付師から「リサは 昨日のリハーサル中にスカウトされて、急にヨーロッパへ巡業に出掛けた」と告げられた。
黒髪のリサはマシューと関係を持った翌朝、「また会えるでしょ?」と告げて部屋を出た。実は、彼女には秘密があった。本当は、彼女の 名前はリサではなく、アレックスだった。ルークが交際している相手のアレックスだ。あの日、レストランの電話ボックスにいたのは本物 のリサだった。そしてリサが「ダニエルに電話してから行くから」と話していた相手がアレックスだった。アレックスはリサの向かいの アパートに住んでいて、親しくなったのだった。
アレックスがマシューと別れて自分のアパートに戻ると、そこにはリサがいた。彼女はダニエルから逃れるため、アレックスの部屋で宿泊 させてもらっていた。リサはアレックスに、「友人から振り付けを頼まれたので、ロンドンへ行くわ」と告げた。アレックスはルークと デートした夜、彼からマシューのことを聞いた。アレックスはデートを早く切り上げ、リサの部屋に赴いたのだった。
マシューはルークから、「今夜、アレックスの芝居の初演だから、彼女を紹介するよ」と告げられた。2年前、アレックスはマシューが リサを見掛ける前に、公園で彼を目撃した。アレックスはマシューに一目惚れして、彼を勤務する店まで尾行した。だが、マシューはリサ に一目惚れして、2人は交際を始めてしまった。リサはコンパクトを探しにレストランへ行き、店員からマシューの手紙を渡された。リサ は手紙に書いてあったルークの番号に電話を掛けるが、誰も出なかった。
マシューは芝居を見ないで上海へ出発しようとするが、ルークから「実はアレックスと上手くいっていないんだ。お前に手助けしてして ほしい」と頼まれ、劇場へ行くことを承諾した。夜、舞台で演技をしていたアレックスは、客席に来たマシューの姿を見て激しく動揺した。 しかしアレックスが舞台用のメイクをしていたため、マシューは彼女の正体に気付かなかった。マシューは「空港へ行く」とルークに告げ 、芝居が終わると劇場を出た。しかし彼は空港へは行かず、リサの部屋へ向かった…。監督はポール・マクギガン、オリジナル脚本はジル・ミモーニ、脚本は ブランドン・ボイス、製作はアンドレ・ラマル&マーカス・ヴィシディー&トム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ、製作総指揮は ジョルジュ・ベナユン&ジル・ミモーニ&ヘンリー・ウィンタースターン&ハーレイ・タネンバウム、撮影はピーター・ソーヴァ、編集は アンドリュー・ヒュルム、美術はリチャード・ブリッグランド、衣装はオデット・ガドーリー、音楽はクリフ・マルティネス、音楽監修は ライザ・リチャードソン。
出演はジョシュ・ハートネット、ダイアン・クルーガー、ローズ・バーン、マシュー・リラード、クリストファー・カズンズ、ジェシカ・ パレ、ヴラスタ・ヴラナ、エイミー・ソボル、テッド・ウィットール、イザベル・ドス・サントス、ジョアンナ・ノイエス、ケリーリン・ キース、マーク・カマチョ、マーセル・ジャニーン、ステファニー・バクトン、スタンリー・ヒラリー、ジェンフー・ハン、ルー・イエ、 クリスチャン・ポール、ジリアン・フェラビー、フランク・フォンテーン、ミランダ・ハンドフォード他。
1996年のフランス映画『アパートメント』をハリウッドでリメイクした作品。
一時期はジョエル・シューマカーが監督、ブレンダン・ フレイザーがマシュー役で企画が進んでいた。その後、ポール・マクギガン監督で企画が進み、ポール・ウォーカーがマシューを務める 予定だったが、『ワイルド・スピードX2』の撮影時期と重なったために降板し、ジョシュ・ハートネットが演じることになった。
他に、リサをダイアン・クルーガー、アレックスをローズ・バーン、ルークをマシュー・リラードが演じている。リサがマシューを知った段階では、彼は「尾行してくる見知らぬ男」である。普通なら気持ち悪くて不愉快な相手のはずなのに、なぜか 彼女は自分からカフェに誘い、自分からキスをしている。
そこに何か秘密が隠されているのか、「実はマシューが目撃するより前からリサは彼のことを知っており、密かに好意を抱いていた」と いう設定だったりするのかと思ったら、何も無かった。
っていうか、もし謎が隠されていたとしても、「何かあるのでは」という方向へ観客の思考が行くよう促す仕掛けが必要なはずだが、 そこをサラッと流してるし。
いや、まあ実際には謎が無いから、いいっちゃあいいんだけどさ。序盤から、静かで落ち着いたタッチで話は進められていく。マシューがリサの回想を始めると、どことなくミステリアスな雰囲気も漂って くる。
だが、マシューがリサをアパートまで送った後、急にテンポの速いBGMが流れる。
そんなBGMに合わせて、マシューが階段を駆け上がり、リサと関係を持つシーンを描くのは、センスが無いと感じる。
なぜ、そこで急に静かなタッチを壊すのかな。雰囲気を壊して軽快なノリにしちゃうのかな。
そういうノリの映画じゃないでしょ。マシューはレベッカという婚約者がありながら、リサの声を聞くと、彼女のことを夢中で捜し始める。
そこには、「レベッカがいるのに、昔の女を捜そうとするのは間違っているんじゃないか」「自分はどうかしてるんじゃないか」という 葛藤・ためらいは全く無い。完全に「リサまっしぐら」という感じだ。リサを捜し求める彼には何の迷いも無く、レベッカへの罪悪感は 微塵も感じさせない。
だが、そんなにリサまっしぐらだったのに、別のリサから誘われると、部屋に泊まり、それどころか簡単に肉体関係まで持ってしまう。
ここも逡巡はゼロだ。
それは優柔不断とか、そういう問題ではない。単に浮気者でエロい奴というだけだ。
「オリジナル版の主人公がそういう行動だったから、そこは仕方が無い」と言われたら、そうなのかもしれない。
だが、ともかく感情移入することが難しい。っていうか無理だってことは確かである。黒髪のリサがアレックスだという回想の後、マシューにルークが彼女とのデートを語るシーンがある。
その中で、舞台用の濃いメイクをしていたアレックスがそれを落としていく経緯を丹念に描いているのだが、それは無意味だ。
「メイクが取れたら、実はマシューが関係を持った相手でした」というサプライズを狙っているのかもしれないが、もうアレックスの回想 で彼女が「アレックス」と呼ばれるのを見せた時点で、それがルークの付き合っている舞台女優だということは分かっちゃってるわけ だから。どうやら製作サイドは(というか、私は未見だが、たぶんオリジナル版からしてそうだったんだろうが)、「すれ違いのドラマ」という ことを強く意識しているようだ。
だから、例えば「飛行機のチケット売り場からマシューが出て来た直後、そこへリサが入って行く。リサが出てくるが、マシューは鍵を 拾うことに夢中で気付かず、リサも逆方向へ歩いている」というシーンがあったりする。
ただ、すれ違いをさせようとしているのは分かるけど、やっぱり「なんでマシューもリサも携帯電話を持ってないの?」ってのが強く 引っ掛かる。携帯を持っていれば、2年前の問題は起きてないんだよね。
で、2年前どころか、現在のシーンでも2人は携帯を持っていない。
「ひょっとすると携帯電話が無い世界観を強引に設定しているのか、そういうファンタジーとして観賞すべき映画なのか」と思ったら、 アレックスは携帯電話を使ってるし。
そこは無理があるなあ。あと、「なんでアレックスは今になってマシューにアタックするの?」というのが疑問。
2年前、彼女はリサから頼まれたメッセージをマシューに渡さず、マシューの留守電に入ったリサのメッセージを消去して、2人の仲を 引き裂いた。
そこまでして別れさせたのなら、なぜ、その時にマシューにアプローチしなかったのか。
今になってアタックするのが、彼が欲しいからではなく、「2年前の嘘を隠蔽するため」とか、「マシューとリサを再会させないため」 とか、別の目的のように思えてしまう。
でも、違うはずでしょ。それと、そこにも少なからず関係があるんだが、この映画には、ほとばしるような情念、呆れるぐらいの執念ってのが足りないと 思う。
アレックスには、もっと「歪みまくった恋の炎」「そのジコチューさを天晴れだと感じてしまうほどの情熱」が欲しい。
ダニエルにしても、アレックスとマシューがいる部屋の窓を外から眺めて、それで出番が終わりってのは、あまりにも淡白な処理 だろう。
リサのストーカーと化していたんだから、もっと危ない行動に走ってくれよ。ダニエルの存在意義が、ほとんど無いじゃないか。この映画で何よりもダメなのは、ハッピーエンドにしてしまったことだ。
それは、オリジナル版とは異なる展開らしい。ハリウッドだから、ハッピーエンドに改変したんだろう。
だが、マシューとリサがハッピーになっても、それは2人だけのハッピーであり、観客からするとハッピーエンドには到底思えない。
最もダメなのは、その直前、マシューがレベッカを冷たく切り捨てることだ。
そんな身勝手な野郎がリサと抱き合っても、祝福できねえよ。(観賞日:2010年11月28日)