『ホワイトアウト』:2009、アメリカ

1959年、冬。ソ連の貨物機が南極圏上空を飛行していた。副操縦士は操縦士と会話を交わした後、貨物室へ行って警備員たちにウォッカを振る舞った。彼は計画通りに警備員たちを殺害しようとするが、抵抗を受けて撃ち合いになった。銃弾が窓に命中して穴が開き、機体は急降下を始めた。流れ弾が命中した操縦士が死亡し、貨物機はコントロールを失う。そのまま貨物機は南極の地に不時着した。
現在の南極大陸。邦保安官のキャリー・ステッコは、米国観測所であるアムンゼン・スコット基地で滞在している。彼女は2年の任期を終え、もうすぐ母国へ戻ることになっていた。医師のジョン・フューリーが彼女の部屋へ来て、嵐が来るので出発が早まったことを伝える。フューリーも同じ飛行機で帰国するという。所長のサム・マーフィーに呼び出されたキャリーは、新人パイロットのデルフィーが死体らしき物を発見したことを聞かされ、確認に出向くよう依頼された。
キャリーはフューリーに同行してもらい、デルフィーの操縦する貨物機で現場へ向かう。そこは人が行くような場所ではなかったが、確かに死体が転がっていた。死体は登山用具を持っておらず、防寒着も着用していなかった。首から下げていたIDにより、死体の身許は地質学者のワイスだと判明した。1年前には観測所にいた調査隊のメンバーだ。キャリーとフューリーは、遺体を基地に運び込んだ。フューリーが調べると、最近の傷を縫合した跡があった。また、胸にはピッケルで刺された致命傷があった。
ワイスの死は事故ではなく、殺人事件だと確定した。しかし今年の最終便は2日後であり、それを逃せば半年は帰国できない。フューリーはキャリーに、「マクマード基地へ送って、向こうで捜査してもらったらどうだ」と促した。しかしキャリーは捜査の続行を決め、情報を得るために無線室のマクガイアを訪ねた。マクガイアによると、遺体発見現場の辺りは隕石を見つけるのに適しているらしい。
調査隊のメンバーはワイスの他に、ルービンとムーニーの2名だ。マクガイアはキャリーに、数日前にキャンプの誰かがワイスの捜索願を出していたという。キャリーが無線でキャンプと交信してみるが、何の応答も無かった。そこへ、ボストーク基地からキャリー宛てに匿名の電話が入ったという知らせが届いた。キャリーが電話を受けると、相手はムーニーだった。事情説明を求めるキャリーに、ムーニーは「ボストーク基地へ一人で来てくれ。ここに来れば全てが分かる」と切羽詰まった様子で告げた。
キャリーは航空管制官のロンダに指示を出し、デルフィーの貨物機を飛ばしてもらう。彼女はボストーク基地に到着し、向かいの建物に足を踏み入れた。するとムーニーは、首を切られて瀕死の状態となっていた。ヘルメットを被って防寒着を着用した何者かが部屋に潜んでおり、ピッケルでキャリーに襲い掛かった。キャリーは慌てて外へ逃げ出し、デルフィーのいる建物に戻って扉を施錠した。
意識を失ったキャリーは、目を覚ますとデルフィーに介抱されてベッドにいた。キャリーはデルフィーに先程の出来事を語り、彼に同行してもらって向かいの建物に戻った。するとムーニーの遺体を調べている男の姿があった。警戒しているキャリーたちに、彼は国連調査官のロバート・プライスだと自己紹介してバッジを見せた。ワイスの事件でマーフィーがFBIに連絡し、そこから国連にも話が届いたため、調査に訪れたのだと彼は説明した。
キャリーはプライスに疑念を抱き、反発する。しかしプライスの方が大きな権限を持っているため、従わざるを得なかった。3人は貨物機に乗り、ひとまずデルタ11地質調査キャンプで待機することにした。キャンプに入ったプライスは、調査隊の使っていた地図を発見した。調査は碁盤割りで行われていたが、セクション104でストップしていた。デルフィーは幾つもの爆弾を見つけ、「地質調査で、こんなに多くの爆弾を使うかな?」と疑問を口にした。
キャリーたちがセクション104へ行くと、何かを掘り起こして埋めた形跡があった。雪面に穴が開き、キャリーは転落した。すると、その穴の中には50年前に墜落した貨物機があった。キャリーたちが中に入ると、撃たれた数名の死体が転がっていた。機内の状況を目にしたキャリーは、そこで何があったのかを悟った。プライスが貨物室の箱を調べると、中身は空っぽだった。キャリーは、調査隊が箱の中身を持ち去ったこと、その際にワイスが怪我を負ったことを確信した。
キャリーはプライスの発言を聞き、彼が箱について知っていたことを見抜いた。指摘を受けたプライスは、「2日前、君の基地から何者かが武器商人に連絡を取った。旧ソ連の貨物機で金属製の筒6本を見つけたから見てくれという内容だった」と話す。筒の中身について質問された彼は、「中身は分からないが、1950年代のソ連は南極で核爆弾の燃料を採掘していた。それをワイスたちが見つけて武器だと思い、売ろうとした可能性はあるだろう」と述べた。
突然の雪崩が発生し、穴が塞がれてしまった。デルフィーの何気無い発言を受け、改めて死体を見たキャリーは、犯人がワイスを貨物機から落下させたのだと睨んだ。プライスは貨物機の脱出用ハッチを爆破し、地上に出る穴を開けた。3人は雪上車に乗ってキャンプまで戻り、そこからアムンゼン・スコット基地へ帰還した。マーフィーは2つの殺人事件が発生したことを受け、基地の閉鎖と全面退避を決定していた。キャリーは反発するが、もう基地の隊員たちは退避の準備を始めていた。
キャリーはワイスが殺された前日にフライトしたパイロットを調べようとするが、データは消去されていた。犯人から逃走した際に素手で凍り付いた扉に触れた彼女は、左手の指2本に酷い凍傷を負っていた。診察したフューリーは壊死していることを宣告し、キャリーは2本の指を切断した。彼女は部屋にやって来たプライスに、マイアミで勤務していた頃の出来事を語る。彼女は相棒のジャックと共に、麻薬の売人を逮捕した。しかし大金で買収されたジャックが裏切り、彼女は犯人に殺されそうになった。キャリーは拳銃を手に取ろうとしたジャックに銃弾を浴びせた。ジャックは後方に吹っ飛び、高層ビルの窓から転落死した。
キャリーの元に、ルービンが見つかったが科学棟から逃走したとの知らせが入った。キャリーが拳銃を取りに自分の部屋へ戻ると、そこにルービンの姿があった。キャリーが「貴方をを助けたい。何があったのか話して」と説得すると、ルービンは「最初は隕石を探してた。セクション104で、レーダーに巨大な物体の反応があった。旧ソ連の貨物機が埋まっているという情報を聞いた俺たちは、幾つも爆弾を使い、ようやく掘り当てた」と語った。
さらにルービンは、「ワイスは箱を開けようとした時、誤って足に大怪我を負った。そこへ奴が来て、ワイスを基地に運んで治療すると言った。ムーニーの言う通りだ、奴は信用できない」と話す。キャリーが「奴って誰なの?」と聞き出そうとしていると、フューリーが来てドアをノックした。ルービンはフューリーを突き飛ばし、逃走を図る。キャリーは追い掛けるが、ルービンは基地の外へ出た。そこへ何者かが現れ、ルービンに襲い掛かった。キャリーは殴り倒し、基地の隊員であるラッセル・ヘイデンを拘束した…。

監督はドミニク・セナ、原作はグレッグ・ルッカ&and illustrated byスティーヴ・リーバー、脚本はジョン・ーバー&エリック・ ホーバー&チャド・ヘイズ&ケイリー・W・ヘイズ、製作はジョエル・シルヴァー&スーザン・ダウニー&デヴィッド・ガンビーノ、共同製作はリチャード・ミリッシュ&アダム・カーン、製作協力はイーサン・アーウィン&アーロン・アウチ、製作総指揮はスティーヴ・リチャーズ&ドン・カーモディー&グレッグ・ルッカ、撮影はクリス・スース、編集監修はスチュアート・ベアード、編集はマーティン・ハンター、美術はグレアム・“グレイス”・ウォーカー、衣装はウェンディー・パートリッジ&ニコレッタ・マッソーネ、視覚効果監修はデニス・ベラーディー、音楽はジョン・フリッゼル。
主演はケイト・ベッキンセイル、共演はガブリエル・マクト、トム・スケリット、コロンバス・ショート、アレックス・オロックリン、ショーン・ドイル、ジョエル・ケラー、ジェシー・トッド、アーサー・ホールデン、エリン・ヒコック、バシャー・ラハル、ジュリアン・ケイン、デニス・ケイファー、アンドレイ・ランツォ、ロマン・ヴァーシャヴスキー、スティーヴ・ルチェスク、ポーラ・ジーン・ヒクソン、クレイグ・ピンクス、ショーン・タッカー他。


グレッグ・ルッカが文章を書き、スティーヴ・リーバーがイラストを担当した同名のグラフィック・ノベルを基にした作品。
ちなみにグレッグ・ルッカは、ボディーガードのアティカスを主人公とするシリーズ(第一作がデビュー作の『守護者』)で人気のハードボイルド作家。
監督は『60セカンズ』『ソードフィッシュ』のドミニク・セナ。
キャリーをケイト・ベッキンセイル、プライスをガブリエル・マクト、フューリーをトム・スケリット、デルフィーをコロンバス・ショート、ヘイデンをアレックス・オロックリン、マーフィーをショーン・ドイルが演じている。

オープニングで描かれる1959年のシーン、副操縦士の行動が、あまりにもマヌケだ。
ウォッカを警備員たちに飲ませ、そのウォッカの瓶をわざと床に落とし、拳銃で一人を射殺する。だが、他の警備員に掴み掛かられて揉み合いになり、撃ち合いへと発展する。
そりゃあ、そうなるだろうよ。
それが計画通りの行動ってんだから、なんちゅうマヌケなんだよ。
どう考えたって、一人を撃ったところで他の連中が抵抗するに決まってるでしょ。それでビビるような連中じゃないでしょ。もっと利口な作戦を練れよ。

ワイスとムーニーを殺した犯人の候補は、3人しかいない。
登場順に挙げると、フューリー、デルフィー、そしてプライスだ。他に何名か、それなりに存在をアピールする連中がいるが、どう考えたって容疑者にならない程度の扱いだ。
まず犯人候補が少ないという時点で、犯人探しのミステリーとしては、話を作っていくのが難しい。
おまけに、その3人全員に、殺人の動機は提示されない。
では逆に、誰も怪しくないという方向で作っていくのかと思ったら、プライスだけに疑念を向けさせようとする。

そういう作り方をすると、よっぽどミステリーに慣れていない人でなければ、「ってことはプライスは犯人じゃないんだな」と判断できてしまう。
「裏の裏をかいて」というわけでもない。
しかも、キャリーがプライスに対して抱いた「犯人ではないか」という疑念は、すぐに消えてしまうという中途半端さ。
さらに、デルフィーはデルタ11で自分から調査用の地図を取り出しているので、完全に犯人ではないことが分かってしまう(犯人だとすれば、わざわざ墜落した貨物機の場所へキャリーを導くような行動を取るのは不自然)。

そもそも、プライスへの疑念にしても「キャリーが建物に戻った際、ワイスの死体を調べていたから」というだけであり、ミスリードとしては非常に弱い。
一緒に行動しているデルフィーに関しては、もう丸っきり「犯人ではないか」と思わせるようなミスリードが用意されていない。
そしてデルタ11で爆弾を見つけてキャリーに「地質調査にしては爆弾が多いのは変だ」と言っているので、これまた犯人の可能性が消える(犯人だとすれば、自分からヒントを与えるような言動は不自然。
そのシーンでプライスやデルフィーにミスリードしたいのであれば、キャリーが自分で地図を発見したり、爆弾への疑問を抱いたりする形にすべきだろう)。

前半からキャリーのフラッシュパックが何度も挿入され、後半に入ると彼女が「マイアミが相棒に裏切られて云々」という過去を語る。
だが、そのトラウマは、物語において何の効果も発揮していない。
そのせいで仲間が信用できなくなっているわけでもない。
「相棒を殺したことへの悔恨から発砲できなくなっていたが、クライマックスでは犯人を射殺する」という展開があるわけでもない。

キャリーが壊死した2本の指を切断する展開も、まるで物語には影響を与えていない。
切断に至らなくても、何の影響も無い。
「切断したせいで色んな物が上手く動かせず、それがハンデとなって云々」とか、そういう使われ方をしているわけでもないし。
それは終盤、「縫合の跡を見たキャリーがワイスの傷の手当てと同じだと気付き、犯人が誰なのか気付く」というところで使われているんだけど、そのためだけに指2本を切断しなきゃならないって、そりゃ犠牲がデカすぎるわ。

ルービンを殺そうとした実行犯をキャリーが殴り倒し、それがラッセル・ヘイデンだと判明するのだが、一瞬、「誰だよ」と思ってしまう。
思い返せば前半でチラッと登場していたけど、そいつが犯人だという種明かしに繋がるような伏線なんて皆無だった。
なので、「彼の単独犯ではなく、共犯者、もしくは黒幕が他にいないとシャレにならんぞ」と思っていたら、やっぱり別の犯人が最後に待っている。
ただ、そいつに繋がる伏線も、ほぼ皆無に等しいんだけどね。

「自然(猛吹雪と極寒)の脅威」と「殺人犯の捜査」という2つの要素が、上手く絡み合っていない。
むしろ、それが互いを打ち消し合っている。
ルービン殺害を目論む実行犯としてヘイデンが登場し、彼が逃亡を図ったところで、ようやく「自然の脅威」と「犯人との格闘」という2つの要素になって、融合を果たしている。
ただし、肝心のアクションは、「猛吹雪で視界が悪い」「カット割りが細かい」「みんな似たような防寒着」という3つの要因が重なり、誰が誰やら、何が何やら分かりにくい。

フーダニットだけでなく、ホワイダニットとしての側面もある。
だが、墜落したソ連の貨物機をキャリーたちが発見したところで、犯人の狙いが箱の中身にあることは分かる。
で、そうなると、もはや箱の中身が金塊だろうと、麻薬だろうと、武器だろうと、どうでも良くなる。
あと、「旧ソ連の操縦士たちが、あのルートでダイヤを運んでいた理由は何なのか」「なぜ地質学者であるワイスたちは、貨物機があるという情報を得た時、必死になって捜索したのか」という疑問は残る。

(観賞日:2013年7月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会