『ホワット・ライズ・ビニース』:2000、アメリカ

ヴァーモント州。クレア・スペンサーは、夫のノーマン・スペンサー、娘ケイトリンの3人で湖畔の邸宅に暮らしている。ノーマンがデュポン研究所で遺伝子の研究に従事することになり、1年前に引っ越してきたのだ。ノーマンは論文の発表に向けて、多忙な日々を送っている。ケイトリンが大学の寮に入ったため、夫妻は2人きりになった。
隣の邸宅には、3週間前に夫婦が引っ越してきていた。まだ挨拶も交わしていないが、クレアは夫妻の言い争いを2度に渡って目撃していた。ある日、クレアは塀の向こうで泣いている隣家の妻を目撃し、声を掛ける。彼女は夫を怖がっている様子だったが、詳しいことは何も語ろうとしなかった。クレアの元に、友人ジョディーがやって来た。彼女はケイトが落ち込んでいるだろうと考え、心霊術に詳しい知人の勧めたお茶をクレアにプレゼントした。雷雨の夜、クレアは隣家の夫が何かを車に積んで運び出す様子を目撃した。
クレアは飼い犬クーパーが落としたボールを拾おうとして、湖に女性の顔が浮かぶ幻覚を見た。その日、彼女は勝手に扉が開いたり、奇妙な人の声を室内で聞いたりした。クレアは、隣家の夫妻の名前がウォーレン・フュアーとメアリー・フュアーだと知った。彼女が隣家の様子を探っていると、ウォーレンが姿を現した。クレアが「奥さんは?」と尋ねると、彼は「いません」と言うだけだった。その夜、クレアは隣の家を双眼鏡で覗いた。ウォーレンは、一人で食事を取っていた。
クレアはノーマンに、ウォーレンがメアリーを殺害したに違いないという考えを語った。しかしノーマンは本気にせず、それよりも妻が友人スタンや彼の恋人エレナとの会食を忘れていることを指摘した。クレアは自宅で鍵を拾うが、何の鍵かは分からなかった。バスタブへ行ったクレアは、水面に女性の亡霊が写るのを見た。
精神科医ドレイトンの元を訪れたクレアは、「亡霊は知っている人か」と尋ねられた。「心当たりはあるが、今は言いたくない」とクレアは答えた。彼女は、それがメアリーだと確信していた。ドレイトンから亡霊との接触を試みるよう勧められたクレアは、心霊盤を購入して降霊に挑戦した。その時は何も起きなかったが、直後にバスルームの鏡に「分かっているはず」というメッセージが浮かび上がり、さらにパソコンの画面には「MEF」というイニシャルが何度も表示された。
クレアはウォーレンを発見し、「あなたが奥さんを殺したんでしょ」と詰め寄った。しかし、そこへメアリーが駆け寄ってきた。ノーマンとクレアは、学長夫婦の主催するパーティーに参加した。クレアは学長の妻ロイスから、「去年の研究所の歓迎パーティーで取り乱していたので、心配していた」と告げられる。そう言われるまで、クレアはそのことを完全に忘れていた。
自宅に戻ったクレアは、女子学生の失踪事件に関する新聞記事の切抜きを発見した。失踪記録を調べた彼女は、「マディソン・エリザベス・フランク」という名前を発見し、それが「MEF」のことだと確信した。マディソンの顔写真を見たクレアは、彼女がバスタブの亡霊の正体だと気付いた。マディソンが派手に遊び歩くタイプだったことから、警察は彼女が家出したと断定していた。
クレアはマディソンの実家へ行き、彼女の髪の毛を密かに盗み出した。自宅に戻ったクレアは、「死者を蘇らせる方法」という本を読み、それを実践する。帰宅したノーマンの前で、マディソンの霊が憑依したクレアは彼を誘惑した。突き飛ばされて我に返ったクレアは、デュポンの歓迎パーティーの日にノーマンとマディソンの浮気現場を目撃したことを思い出した。
クレアは釈明しようとするノーマンを拒絶し、ジュディーの元へ行く。クレアが再び自宅に戻ると、ノーマンがバスタブで感電死しそうになっていた。ノーマンはクレアに、マディソンと別れようとしたら「自殺するか奥さんを殺す」と言われ、その直後に彼女が失踪したと語った。クレアは、マディソンが死亡し、亡霊となって家に来たのだと確信する・・・。

監督はロバート・ゼメキス、原案はサラ・ケルノチャン&クラーク・グレッグ、脚本はクラーク・グレッグ、製作はジャック・ラプケ&スティーヴ・スターキー&ロバート・ゼメキス、製作協力はスティーヴン・J・ボイド&チェリラン・マーティン、製作総指揮はジョーン
・ブラッドショウ&マーク・ジョンソン、撮影はドン・バージェス、編集はアーサー・シュミット、美術はリック・カーター&ジム・ティーガーデン、衣装はスージー・デサント、音楽はアラン・シルヴェストリ。
出演はハリソン・フォード、ミシェル・ファイファー、ダイアナ・スカーウィッド、ジョー・モートン、ジェームズ・レマー、ミランダ・オットー、アンバー・ヴァレッタ、キャサリン・タウン、ヴィクトリア・バイドウェル、エリオット・ゴレットスキー、レイ・ベイカー、ウェンディ・クルーソン、スローン・シェルトン、トム・ダールグレン他。


『コンタクト』のロバート・ゼメキスが監督した作品。
ノーマンをハリソン・フォード、クレアをミシェル・ファイファー、ジョディーを
ダイアナ・スカーウィッド、ドレイトンをジョー・モートン、ウォーレンをジェームズ・レマー、メアリーをミランダ・オットー、マディソンをアンバー・ヴァレッタ、ケイトリンをキャサリン・タウンが演じている。

ロバート・ゼメキス監督は、「アルフレッド・ヒッチコックが今も生きていたら、こんな映画を作るだろう」という考えに基づいて、この映画を作ったそうだ。
しかし、そもそもヒッチコックがミシェル・ファイファーを自ら望んでヒロインに据えるとは思えないが。さらに、ハリソン・フォードを犯人役に据えるとは思えないが。
それにヒッチコックなら、この映画に130分も使わない。まあ100分以内に収めるだろう。例えばスタン&エレナと外食をするシーン、例えばケイトリンを学生寮まで送っていくシーンは、カットできるはず。
というか、そもそもケイトリンが要らないんじゃないか。どうやら「クレアが神経質になっている理由」としてケイトリンを使おうとしているようだが、あまり効果が出ていないし。
いや、もっと言うなら、「クレアが神経質になっている理由」を観客に示しておく必要性さえ疑問だ。

前半、クレアは隣人のウォーレンに殺人の疑いを抱く。
しかし中盤でクレアの完全なる思い込みに過ぎなかったと分かった後、ウォーレンと妻メアリーは、見事にスクリーンから姿を消してしまう。
そりゃ構成としてどうなのよ。
あと、かなりショッカー演出が多いように思うが、それはヒッチコック風サスペンスじゃなくてホラー映画のテイストになってないか。

ウォーレンがメアリーを殺したというのクレアの思い込みだと途中で判明するが、しかし心霊現象に関しては、実際に起きていたということになっている。
さらに終盤、クレアがピンチに陥った時には、亡霊が助けてくれるのである。
それは行程と着地点を考えた時にどうなのかとも思うし、ヒッチコックなら亡霊に頼ることはしないんじゃないか。

この映画の最も恐ろしいトコロは、宣伝コピーや予告編などによって、観客が映画を見る前にネタを明かしていることだ。
この映画には、「クレアは隣家で殺人事件が起きたと思っているが、実は夫ノーマンが浮気相手の女子学生を殺していた」というドンデン返しがある。そして劇中では当然のことながら、それを終盤までは隠したままで進めていく。
いつも善人の主人公ばかり演じているハリソン・フォードが悪人役を演じているということも、隠しておくからこそドンデン返しの瞬間のインパクトが強くなるわけだ。

ところが公開前の宣伝によって、そのドンデン返しは既に明かされている。
つまり、どれだけシナリオや演出としてドンデン返しを隠していても、それが明かされた時の驚きは無いのである。

配給元であるドリームワークスのマーケティング部長は「『パーフェクト ストーム』は大波に襲われるシーンを知らせてもヒットしている」などと語っているそうだが、『パーフェクトストーム』はミステリーじゃなくて実話を基にした災害映画だから、ネタバレしてもマイナスにならんのよ。

しかし20世紀フォックスとドリームワークスが勝手にトチ狂った宣伝をやらかしてしまったのかというと、そうではない。
そういう宣伝を、ゼメキス監督も容認していたらしいのだ。
その結果として、浜村淳さんもビックリの「ミステリーのオチをバラす」という宣伝方法が取られたのだ。
そんな宣伝方法、まず間違いなくヒッチコックなら認めないよな。

 

*ポンコツ映画愛護協会