『ハッピー・フライト』:2003、アメリカ

ドナ・ジェンセンはネヴァダ州の小さな町シルヴァー・スプリングスで生まれ育った。ドナの幼い頃からの願いは、出来るだけ町から 離れた場所へ行きたいというものだった。しかし願いは叶わず、今もドナはシルヴァー・スプリングスで暮らしていた。元ショーガールの 母は、4人目の夫ピートと結婚している。飲んだくれで全く働こうとしないピートには、ロドニーという連れ子がいる。
ドナは高校生の頃、フットボール部のQBをしているトミーと付き合い始めた。やがて2人は卒業し、ドナは旅行鞄の販売員、トミーは ディスカウントの副店長になった。トミーが昇進してツーソンへ転勤することになり、ドナは彼に同行すると決めていた。しかし喜んで いたドナは、トミーから別れを告げられる。ツーソンへは他の女と一緒に行くというのだ。トミーはドナに「君は田舎の女の子だから、 この町が合ってる」と告げた。
ショックを受けたドナは、あるテレビ番組に目を留めた。それはインタビュー番組で、本を出版したばかりの元客室乗務員、サリー・ ウェストンが出演していた。サリーはテキサスの田舎娘からカリスマ客室乗務員になった女性だ。彼女は視聴者に向かって「夢は空の上に 合った。貴方は必ず、なりたい自分になれる。そのためには今すぐ行動を起こすこと」と語り、「どうすればいいかは、私の本を読んで」 と宣伝した。ドナはすっかり感化され、すぐにサリーの著書を購入した。
ドナは町を出て、シエラ航空という小さなローカル会社の面接を受けた。「フレズノからラフリンの間しか飛ばないし、航空機は5機だし 、客はギャンブラーと酔っ払いばかりだ」と言われるが、それでもドナは客室乗務員になりたかった。彼女は訓練性となった。客室乗務員 の制服はボディコンでミニスカートだ。彼女は先輩のシェリーに挨拶し、飛行機に搭乗する。操縦席へ行くと、操縦士は居眠りしていた。 しかし副操縦士のスティーヴ・ベンチは、「棒で叩けば起きるし、起きなければ僕が操縦するよ」と軽く言う。
初めて飛行機に乗ったドナは、激しい揺れでパニック状態に陥った。落ち込むドナに、スティーヴは「君なら、いいスチュワーデスに なれるよ」と励ましの言葉を掛けた。ドナが仕事に慣れるまでに、そう時間は掛からなかった。クリスティーン・モンゴメリーという後輩 も出来た。週末になると、ドナ、クリスティーン、シェリーは湖で日光浴をした。ドナはシェリーの恋人の親友であるテッドと知り合い、 湖を案内してもらう。テッドはオハイオ大学で法律を学んでいたが、決められたレールの上を歩く人生に疑問を抱いて辞めていた。そんな テッドに、ドナは好感を抱く。ドナはテッドから、デートに誘われた。
ある日、ドナたちが空港で休憩していると、給油で立ち寄った大手航空会社のスチュワーデスたちがやって来た。彼女らはシエラ航空と 全く違う制服を着ており、高級ブランドのバッグを持ち、高価なアクセサリーを身に付けていた。ドナは「ずっとシエラ航空なんかで仕事 を続けるのは嫌だわ」と言い、クリスティーンとシェリーに大手企業であるロイヤルティー航空の応募チラシを見せる。サンフランシスコ で週末に説明会が開かれるのだ。
ドナ、クリスティーン、シェリーの3人は、ロイヤルティー航空の面接を受けることにした。面接官はジョン・ホイットニーという男性だ 。シェリーは面接で落とされ、ドナとクリスティーンは訓練性になった。ドナはテッドとデートし、合格したことを報告した。訓練は テキサスで実施されるため、しばらくテッドとは会えなくなる。ドナは寂しさを感じながらも、テッドと握手を交わして別れた。
ドナとクリスティーンが訓練施設へ行くと、ホイットニーが教官として待っていた。ドナはサリーが講師を務めると知って興奮する。ドナ やクリスティーン、ランディーなど7人の訓練生が選ばれ、サリーの豪邸に招待された。ドナはサリーに、国際線乗務について熱心に質問 した。サリーはドナに「貴方には特別な物を感じる。私に似てるわ。私もパリ行きの国際線ファーストクラスに死ぬほど憧れた。それが 貴方の幸せに通じる道よ」と語った。
研修が始まると、ドナはノートを取って熱心に取り組んだ。彼女は頑張って研修に取り組み、トップの成績を出す。クリスティーンがヘマ ばかりやらかして落ち込んでいるので、ドナは「頑張れば上手く行くわ」と元気付けた。ドナはクリスティーンがサリーの家から客用石鹸 を盗んで来たことを知る。ドナは呆れるが、クリスティーンは「これは備品だし、みんなやってるわ」と全く悪びれなかった。
筆記による卒業試験を受けたドナは、「国際線に配属されてニューヨーク勤務になるのは確実」と自信を持った。しかし彼女は近距離線に 配属され、なぜかクリスティーンはニューヨーク勤務になった。納得できないドナはホイットニーに抗議し、答案用紙の確認を求めた。 しかしホイットニーは却下し、「近距離線で頑張って1年後に試験を受け直すか、ここで会社を辞めるかだね」と告げた。
ドナは仕方なく近距離線での業務に就くが、仕事をしている最中も冴えない顔だった。彼女はクリーヴランドの社員寮に戻ると、国際線 での勤務に向けてフランス語を勉強した。そんなある日、彼女は実家のあるクリーヴランドへ戻っていたテッドと再会する。彼は大学に 戻り、法律の勉強を再開していた。暗い気分に包まれていたドナは、彼と付き合い始めたことで晴れやかな気分になった。
クリスマスが近くなり、ドナはテッドからホームパーティーに誘われる。同僚のランディーは「良かったじゃない」と言うが、ドナは 「家族に嫌な思いばかりさせられてきたから」と戸惑いの表情を見せる。さらに彼女は「テッドを本気で好きになったら、これまでの自分 の頑張りはどうなるのかって不安なの」と吐露する。ドナクリスマスにテッドの実家を訪れ、彼の家族から温かく迎えられた。プレゼント まで贈られるドナだが、テッドに送ってもらう車内では複雑な表情を見せた。
ある日、ドナが勤務を終えて会社に戻ると、クリスティーンが現れた。機体にトラブルが生じたので、その日はクリーヴランドで泊まると いう。ドナはテッドも呼んで、3人で夕食を取った。ドナはクリスティーンが備品を盗んでいると知り、呆れ果てた。「パリ、国際線、 ファーストクラス」というサリーの言葉を思い出して眠れなくなったドナは、彼女の元を訪れた。ドナはサリーに、「最終試験で何か 手違いがあったんじゃないかと思うんです。でもホイットニー教官は、規則だから答案は見られないって」と訴えた。
サリーが電話を掛けると、たちまち答案のコピーが送られてきた。それを見たドナは、クリスティーンが答案の受験番号を書き換えていた ことに気付いた。つまり、ドナの答案がクリスティーンの物として提出されていたのだ。サリーはドナに、「来週、再試験を受けられる ようにするわ。配置換えになったら、すぐにクリーヴランドを発てる?」と問い掛けた。ドナが「テッドに話さないと。お付き合いして いる相手なんです」と告げると、サリーは「だったら決断しないといけないわね」と述べた。ドナは再試験を受け、満点で合格した。彼女 はテッドに別れを告げ、国際線のスチュワーデスとしてパリ行きの飛行機に搭乗した…。

監督はブルーノ・バレット、脚本はエリック・ウォルド、製作はブラッド・グレイ&マシュー・ベア&ボビー・コーエン、共同製作は ローラ・ホッパー&フランチェスカ・シルヴェストリ&エリザベス・ゾックス・フリードマン、製作総指揮はアラン・C・ブロンクィスト &エイミー・スロトニック&ロビー・ブレナー、撮影はアフォンソ・ビアト、美術はダン・デイヴィス、編集はクリストファー・ グリーンバリー&レイ・ハブリー&チャールズ・アイルランド、衣装はメアリー・ソフレス、音楽はセオドア・シャピロ、音楽製作総指揮 はランディー・スペンドラヴ。
主演はグウィネス・パルトロウ、共演はクリスティーナ・アップルゲイト、マイク・マイヤーズ、ケリー・プレストン、ロブ・ロウ、 マーク・ラファロ、キャンディス・バーゲン、ジョシュ・マリーナ、マーク・ブルカス、ステイシー・ダッシュ、ジョン・ポリート、 コンチータ・トメイ、ロビン・ピーターソン、ナディア・ダジャニ、ジョン・フランシス・デイリー、コニー・ソーヤー、フレデリック・ コフィン、クリスティーナ・マルペロ、チェルシー・コール、メアリー・マクニール、ステファニー・ミラー他。


『N.Y.殺人捜査線』『クアトロ・ディアス』のブルーノ・バレットが監督を務めた作品。
脚本のエリック・ウォルドは、これがデビュー作となる。
ドナをグウィネス・パルトロウ、クリスティーンをクリスティーナ・アップルゲイト、ホイットニーをマイク・マイヤーズ、 シェリーをケリー・プレストン、スティーヴをロブ・ロウ、テッドをマーク・ラファロ、サリーをキャンディス・バーゲン、ランディーを ジョシュ・マリーナ、トミーをマーク・ブルカスが演じている。
アンクレジットだが、国際線スチュワーデス役でジェシカ・キャプショー、サリーの夫ジャック役でチャド・エヴェレット、ウォッカを 注文する国際線の客としてジョージ・ケネディーが出演している。

序盤、トミーと一緒に町を出ようと思っていたドナは、彼にフラれる。
ここから考えられる筋書きは、「一人で町を出て頑張り、成功を収める」とか、「トミーがヨリを戻そうと迫って来た時に心が揺らぐが、 最終的には新しい男を選ぶ」といったモノだ。
また、「幼い頃から町を出たいと願っていた」という入り方からは、「町を出たドナは憧れていた華やかな暮らしを手に入れるが虚しさを 感じ、改めて田舎町の良さに気付き、故郷へ戻る」という展開も考えられる。

ところが本作品は、そういう道を辿らない。
「町を出たい」というところから始まったのに、すぐに「スチュワーデスになりたい」というところへドナの願望が摩り替るのだ。
ドナが幼い頃から願っていたのは、「出来るだけ町から離れた場所へ行きたい」ということだった。
「町を出たい」という願いからすれば、町を出てから始める仕事なんて、極端に言えば何だっていいはずだ。
しかし彼女がスチュワーデスになると、スチュワーデスという職業に重点を置いた内容になっていく。

で、だったらスチュワーデスとして頑張る成長物語が描かれるのかというと、そうではない。彼女は「大手の会社で働きたい」「国際線で 働きたい」という「一流」「トップ」への成り上がり精神は強く持っているが、中身のクオリティーが高いスチュワーデスになろうという 意識は全く持っていない。
しかも、「ドナは最初はヘマもするし、壁にぶつかったりもするが、懸命に頑張って欠点を克服し、少しずつ上達していく」という物語 は無い。
一応、「研修では熱心にノートを取り、前向きに取り組む」という様子は描かれているものの、「スチュワーデスとしての成長」という のは全く描かれていない。
何しろドナには最初から才覚があったのか、既に研修の段階でトップの成績を出しているのだ。
最初から優秀なんだから、そりゃあ成長物語なんて無いわな。

サリーが「パリ行き国際線ファーストクラス。それが貴方の幸せに通じる道」と言い、ドナが憧れを抱くシーンがあるが、その段階で、 そこが本作品の終着点にならないことは見えている。
で、どうなるのかというと、この映画は「ドナはパリ行き国際線ファーストクラスという夢を手に入れたが、本当に彼女が求めていたのは 愛する男との幸せな生活でした」という答えに到達する。
で、ドナは国際線のスチュワーデスを辞めてクリーヴランドでテッドと暮らすことを選ぶのだ

だが、そのハッピーエンドを、ちっともハッピーな気持ちで受け入れられない。
「仕事での成功よりも愛する男との生活」という保守的で古臭い考えに引っ掛かるってのもあるんだけど、この映画の流れからすると、 ドナの出した答えが愚かしいモノにしか思えないんだよな。
途中でドナが「テッドを本気で愛したら、これまでの頑張りはどうなるのかって不安になる」と漏らしていたけど、まさに、その言葉の 通りだと感じるのよ。
それまで頑張ってきたモノを、そんなに簡単に捨て去ってしまうのかと。
思い付きみたいなモノだったとは言え、「サリーのようなスチュワーデスになりたい」と強く熱望していたわけで、一応は「夢の実現に 向けて頑張るヒロイン」という作りになっていたはずなのに、その夢は簡単に捨てられ程度のモノだったのかと。

あと、スチュワーデスという仕事の中での選択じゃなくて、「仕事か男か」という選択にしていることに、疑問を覚えるんだよな。
例えば「国際線での仕事は華やかだけど、近距離線の職場の方が生き甲斐を感じられたから、そっちに戻る」とか、そういうところへ着地 するなら、ともかくとしてさ。
そもそも「町を出たい」という願望を叶えようとしていた物語の入り方からすると、着地点が違うんじゃないかと思っちゃうし。

(観賞日:2012年10月23日)

 

*ポンコツ映画愛護協会