『バイブス/秘宝の謎』:1988、アメリカ

イーライ・ダイアモンドと手下のバート・ワイルダーは現地ガイドのフアンに案内させ、霧に覆われた山頂に辿り着いた。イーライたちはは遺跡を発見し、それを壊して財宝を手に入れようとする。フアンが慌てて制止しようとすると、イーライは射殺した。彼らが遺跡を壊すと、中から小型の輝くピラミッドが出現した。予想と違う中身に困惑しながらも、イーライは両手でピラミッドに触れる。すると彼は謎の呪文を唱え始め、バートが触れると激しく吹き飛ばされた。イーライは消失し、バートは手に残った遺跡の破片を見た。
ニューヨーク大学の超自然現象研究所では超能力者のインゴ・スウェドリンたちが集められ、テストを繰り返していた。優れた透視能力を持つインゴはスコット博士に対し、生意気な態度を取った。ニック・ディージーは優秀なサイコメトラーで、シルヴィア・ピッケルは予知能力と霊媒能力の持ち主だった。シルヴィアたちは以前から研究に参加して顔見知りだったが、ニックはその日が初めてだった。所長のハリソン・スティールはシルヴィアたちに、1週間の研究が終了したことを伝える。彼はシルヴィアとニックが過去15年で最高の超能力者だと評して、その場を去った。
シルヴィアが後を追って誘惑すると、スティールは「電話番号は、この胸に」と笑顔で告げた。ニックはシルヴィアから、「幽霊の友人であるルイーズが、アンタの恋人が浮気してると言ってる」と告げられた。研究所の外でシルヴィアがスティールにキスして抱き合う様子を、ハリー・バスカフスコという男が密かに撮影していた。気付いたニックがスティールに教え、ハリーは逃走した。ニックはサイキックを辞めようと決意し、勤務する博物館に戻った。しかし同僚から中古車の走行距離や食品の安全性をサイコメトリーで調べるよう頼まれ、彼は不快感を抱いた。ミール館長は理事たちを呼び寄せ、余興としてサイコメトリーを披露するようニックに頼んだ。
シルヴィアは元カレのフレッドに頼まれ、ルイーズの力を借りて競馬の勝ち馬を当てる。金を手にしたフレッドは、新しい恋人のグロリアと共に競馬場を去った。シルヴィアの言葉が気になっていたニックは、恋人のヒラリーが浮気していたことを示す証拠を発見する。するとヒラリーは開き直った態度を取り、「責められるのはお断り。私を許さず今までの思い出も終わりにするか、この試練を乗り越えるか、2つに1つよ」と選択を迫った。
シルヴィアがアパートに帰宅すると、ハリーが部屋に侵入していた。ショットガンを向けられた彼は、「広告を見て依頼に来た」と説明する。彼は5万ドルの報酬を約束し、エクアドルで行方不明になった息子を見つけてほしいと依頼した。ハリーが泣き出すと、シルヴィアは同情して仕事を引き受けた。シルヴィアはニックにも手伝ってもらおうと考え、彼に会って事情を説明した。シルヴィアは彼に、幽体離脱も出来ることを話した。
即決を避けたニックだが、またミールから余興を頼まれたので「エクアドルへ行きます」と宣言した。シルヴィアとニックはエクアドルへ行き、ハリーと合流した。ホテルにチェックインすると、すぐにハリーは捜索へ行くことを要求した。少し楽しもうとしていたシルヴィアだが、ハリーの泣き落としにすっかり騙された。ハリーはシルヴィアとニックを車で村まで案内し、「ジュニアの足取りは、ここまでだ。大学のゼミのレポートで、山に出掛けていたらしい」と告げた。
ハリーはシャツをニックに触らせ、足取りを追ってもらおうとする。ニックが「息子にしては年を取り過ぎている」と指摘すると、ハリーは「私が息子だ。親父だよ」と告げる。ニックが「アンタと同年代だ」と指摘すると、ハリーは「私は養子だ。母が同級生と再婚した」と説明した。ニックは彼の言葉が嘘だと見抜き、呆れて「ニューヨークに帰る」と言う。シルヴィアも腹を立てて一緒に去ろうとすると、ハリーは慌てて「事実を言えば君たちに盗まれると思った」と釈明した。フードを被った男が歩み寄って民芸品を差し出したので、ハリーは苛立ちながら受け取って金を渡した。
彼は男を追い払った後、「黄金の部屋を探している」とシルヴィアとニックに打ち明けた。さらに彼は、「俺の仲間が山奥に入った。1人は戻らず、もう1人は精神をやられて町の病院にいる。そいつのシャツだ」と説明した。ニックが病院にいる男に会わせるよう要求するとハリーは難色を示すが、「だったら協力しない」と言われたので仕方なく承諾した。彼は翌日に病院へ行くと約束し、ホテルへ戻ることにした。民芸品を売り付けたカールという男は、そんな3人の様子をじっと観察していた。
シルヴィアは金持ちの男を見つけようと考え、レストランでニックに協力してもらって芝居を打つ。彼女の狙い通り、アレハンドロという男が声を掛けて来た。インゴがレストランに現れたので、シルヴィアとニックは困惑した。2人はフロアで踊りながら、インゴに近付いた。シルヴィアとニックは、交際していて旅行に来たのだと嘘をついた。インゴが去った後、シルヴィアはアレハンドロと踊る。ニックはコンスエロという女性と目が合い、彼女に誘われて部屋へ行く。コンスエロの座っていた隣には、カールの姿があった。
コンスエロは媚薬だと騙し、ニックに覚醒剤を飲ませようとする。しかしニックに見抜かれるとナイフを取り出し、「先は越させないわ。黄金は渡さない」と襲い掛かる。ニックが右肩に怪我を負いながらも攻撃をかわすと、コンスエロは窓から転落して死亡した。ニックはシルヴィアが危険だと感じ、慌ててアレハンドロの部屋へ向かう。アレハンドロがシルヴィアにネックレスをプレゼントしている姿を見た彼は、絞殺するつもりだと思い込んで殴り掛かった。しかしアレハンドロはスペイン大使で、本気でシルヴィアを口説いていたのだった。邪魔をされたシルヴィアが憤慨すると、ニックは事情を説明した。
ニックはシルヴィアとハリーにコンスエロの遺体を見せようとするが、何者かが運び去っていた。ハリーが「今夜の内に病院へ行こう」と提案すると、ニックは「ニューヨークへ帰る」と言い出す。しかしシルヴィアに治療を受けるよう勧められ、病院へ行くことを受け入れた。病院に着いたハリーは看護師と話し、シルヴィアとニックに「受付時間は終わりだ。面会できない。早く山へ行って黄金を見つけよう」と告げる。しかしシルヴィアがルイーズに導かれて病室へ行くと、バートの姿があった。
ハリーは早々に面会を切り上げて去ろうとするが、ニックはシルヴィアにルイーズの協力を得るよう告げる。するとバートが口を開くが、混乱して情報がまとまっていなかった。バートがパニック状態に陥ったので、ニックは慌てて体に触れた。光と共に激しく吹き飛ばされたニックは、バートが黄金と無関係の何かを発見したのだと悟る。彼はバートが持っていた遺跡の破片に気付き、山へ行くことにした。3人が病院を去ろうとすると、受付にインゴが来ていた。インゴは拳銃を構えて、バートが何を言ったのか教えるよう迫った。シルヴィアはバートの母親の霊を自分に憑依させ、彼の動きを制した。
翌日、シルヴィアたちは山へ行き、黄金の部屋を向かおうとする。しかしシルヴィアはルイーズから、「危険だから」という理由で反対の方向へ行くよう忠告される。ハリーは彼女を説得し、ニックが遺跡の破片から読み取ったルートを進む。そんな3人の様子を、カールとインゴが観察していた。テントで一泊した時、シルヴィアはニックを誘惑してキスを交わした。しかし彼女は些細なことで腹を立て、口論になった。遺跡の破片が動くのを見たニックは、導かれて1人で山を登る。すると破片が空を飛び、霧の中に消えた。
翌朝、ニックはシルヴィアとハリーの元へ戻り、「見つけた」と口にする。ハリーは案内を指示するが、ニックは「もう行かない」と拒否する。彼は「ロスト・シティーに黄金は無い。何か別の物だ」と言うが、ハリーは「黄金の部屋がある」と告げる。そこへインゴが現れ、ハリーの背中にナイフを投げた。ハリーは5万ドルが偽札だと打ち明け、息を引き取った。インゴはニックにシティーの場所を教えるよう要求し、拒否されると射殺しようとする。そこへスティールが駆け付け、インゴの発砲を阻止する。しかし彼はインゴとカールの雇い主であり、ロスト・シティーの場所を教えるよう要求した。一味はシルヴィアとニックを連れて山を登り、ロスト・シティーのピラミッドを発見する…。

監督はケン・クワピス、原案はデボラ・ブラム&ローウェル・ガンツ&ババルー・マンデル、脚本はローウェル・ガンツ&ババルー・マンデル、製作はデボラ・ブラム&トニー・ガンツ、製作総指揮はロン・ハワード、共同製作はレイ・ハートウィック、製作協力はデヴィッド・ウルフ&ケイト・ロング、撮影はジョン・ベイリー、美術はリチャード・ソーヤー、編集はキャロル・リトルトン、衣装はルース・マイヤーズ、視覚効果プロデューサーはリチャード・エドランド、音楽はジェームズ・ホーナー。
出演はシンディー・ローパー、ジェフ・ゴールドブラム、ピーター・フォーク、ジュリアン・サンズ、グーギー・グレス、エリザベス・ペーニャ、マイケル・ラーナー、アーロン・イペイル、ロナルド・G・ジョセフ、ビル・マカッチェオン、スティーヴ・ブシェーミ、カレン・エイカーズ、ハーヴェイ・J・ゴールデンバーグ、ラモン・ビエリ、ジョン・カペロス、ブルース・マクヴィッティー、ジョセフ・V・ペリー、パーク・オーヴァーラル、ヴァン・ダイク・パークス、スティーヴン・スコット、レイ・ストッダード、トム・ヘンシェル、スーザン・バグ、ロドニー・カゲヤマ、ジェリー・ヴィッキ、ヘラクレス・ヴィルチェス他。


歌手のシンディー・ローパーが、映画初出演にして主演を務めた作品。
監督のケン・クワピスは、これが3作目。
脚本は『スパイ・ライク・アス』『ガン・ホー』のローウェル・ガンツ&ババルー・マンデル。
シルヴィアをシンディー、ニックをジェフ・ゴールドブラム、ハリーをピーター・フォーク、スティールをジュリアン・サンズ、インゴをグーギー・グレス、コンスエロをエリザベス・ペーニャ、バートをマイケル・ラーナー、アレハンドロをアーロン・イペイル、カールをロナルド・G・ジョセフが演じている。

まずシルヴィアのキャラ設定に失敗している。
彼女はスティールを誘惑し、路上でキスして抱き付く。のっけからアバズレ体質をアピールしているのだが、ヒロインの造形として完全に間違ってるでしょ、それは。
そうやってスティールに色目を使うような行動を取っているせいで、元カレのフレッドに利用される様子を描かれても「シルヴィアもビッチだしなあ」と同情心が薄れるわ。
ただ、それはそれとして、フレッドにはちゃんと超能力を使って仕返しするべきだと思うけどね。
「フレッドがシルヴィアを利用して競馬で稼ぎ、新しい恋人と共に去りました」というだけで終わってるのは、消化不良に思えるぞ。

劇中で登場する超能力者の面々は、それぞれに異なる能力を持っている。しかし、そこの見せ方も使い方も上手くない。
例えばシルヴィアには「幽霊のルイーズと話すことが出来る」という能力があるのだが、だったらルイーズを登場させたり、姿は見せないにしても台詞だけは聞かせた方がいい。
あと、ルイーズと話せるだけかと思ったら途中で自分に幽霊を憑依させる力も見せるが、それは引っ掛かるし。
あと、予知能力が全く使われないのもダメだろ。霊媒の力より、そっちの方が重要だと思うぞ。「ルイーズとの対話」を主力として使うのなら、ますます「ルイーズ」の姿や声を出した方がいいし。

ニックはシルヴィアから「恋人が浮気している」と聞いて動揺し、博物館に戻っても気にしている。でも、実際にヒラリーと会うまでには、他のシーンを幾つも挟んでいる。
そこは構成として上手くないでしょ。シルヴィアの言葉を気にしたのなら、今すぐにでも確かめようとすべきじゃないのか。つまり車に飛び乗って、すぐに自宅へ戻った方がいいんじゃないのか。どうしても仕事が入っていて無理だとしても、電話を掛けてヒラリーと話そうとすべきじゃないのか。
でも、まあ前者でいいかな。「浮気を指摘される」→「その言葉が気になる」という状態から、実際に浮気を確かめるまでに、間隔を開けても何の意味も無いからね。
で、それが終わってから、「ショックを引きずって博物館で働いていたら、館長や同僚から超能力を使うよう次々に頼まれて嫌気が差す」という流れでもいいんじゃないか。

ハリーは息子の捜索を依頼し、シルヴィアとニックは仕事を引き受けてエクアドルへ行くことになる。
現地に到着した後、ニックに「息子にしては年を取り過ぎている」「親父にしてはアンタと同年代だ」と指摘されると、その場でハリーは言い訳を用意する。
でもニックが嘘だと見抜いて去ろうとするので、事実を説明する。
そういう流れになっているのだが、この「不審点を指摘されたハリーが釈明する」という箇所の見せ方が下手だ。

そもそも泣き落としを使ったりしている時点でハリーはウサン臭い奴ではあるのだが、そこはもっとハッキリした形で「下手な嘘ですよ」ってことをアピールした方がいい。
そして「ニックが嘘だと確信する」というタイミングでは、少し間を取ってから「嘘だと見抜いた」という言動を取らせた方がいい。
言葉で細かく説明するのが難しいんだけど、喜劇としての演出が雑なのよ。
間やテンポ、リアクションやメリハリなど、何もかもが不足していたり間違っていたりするのよ。

ニックに嘘を見抜かれたハリーは、黄金の部屋が狙いだと打ち明ける。ここでニックが「インカ帝国か」と悟るけど、それ以上の説明が何も無い。ハリーはイーライとバートが山へ行った出来事については話すけど、「黄金の部屋とは何か」ってことについての説明が無いのだ。
そこは「こんな言い伝えがあって、こういう財宝が眠っているんですよ」という説明が必須でしょうに。
そりゃあ、黄金の部屋ってのはマクガフィンみたいなモンではあるけど、だからって説明しなくてもいいってわけではないぞ。
シルヴィアは詳細を全く知らない状態で手伝う形になっちゃうし、そういう意味でも説明は必要でしょ。

ニックがバートとの面会を求めると、ハリーは何かと理由を付けて阻止しようとする。病院に行った時も、「面会時間は終わりだから」ってことで去ろうとする。シルヴィアとニックがバートを見つけても、早々に切り上げようとする。
だが、バートとの接触を出来るだけ避けようとする理由が、サッパリ分からない。
彼の目的は、黄金を見つけ出すことなんでしょ。だったらシルヴィアとニックをバートに会わせて、そこから情報を引き出してもらった方がいいはずでしょうに。
まだ嘘をついていて、バートが余計なことを喋るとマズいってことなら分かるけど、そうじゃないんだからさ。

インゴがエクアドルまで来ていること、黄金の部屋を見つけようとしていることに関して、シルヴィアとニックは、そんなに疑問を持っていない。
レストランで見つけた時には驚いているけど、単に「真の目的は隠そう」と決めるだけ。「インゴが来ている理由」については、まるで気にしていない。病院でインゴの目的を知っても、「なぜ彼が黄金の部屋を知っているのか」「なぜバートの存在を知ったのか」ってなことについては、まるで気にしていない。
それは変だろ。「コンスエロとも関係があるのか」ってことも、なぜ気にならないのか。
看護師がインゴをKOしたら逃げ出すけど、彼を拘束して尋問した方がいいと思うぞ。どうせ放置しておいたら山へ来るのは明白なので、どこかに監禁したりしてもいいだろうし。

ハリーはインゴに殺されるが、ちっとも同情心を誘わない。
何しろ、こいつは最初から最後まで、「財宝のためならエンヤコラ」という愚かしくて醜い欲望オンリーで行動している奴だからね。
危険を感じたシルヴィアを説き伏せたり、「財宝は無い」と言うニックの主張を聞き入れなかったりと、金に目がくらんだチンケな悪党のままだ。
瀕死になってから「5万ドルは偽札」と明かすけど、そんな程度では「最期に善玉へ鞍替え」ってのは成功していないからね。

終盤にスティールが登場し、「実はカールとインゴの黒幕で最初からロスト・シティーを探していた」ってことが明らかにされる。彼はハリーと顔見知りだが、そこに財宝があるとは思っておらず、最初から「インカより古代の霊エネルギーがピラミッドに込められている」ってことを分かっていたようだ。
でも、そこに向けての伏線が何も無いので、こいつが黒幕として配置されていることからして計算能力が低くて行き当たりばったりみたいに思えてしまう。
あと、スティールがピラミッド・パワーを手に入れて何がしたいのか、それがサッパリ分からないってのも手落ちに感じるし。
この映画ってシンディー・ローパーだけが酷評を浴びやすいけど、他も酷いよ。むしろシンディー・ローパーは、ちゃんとキャラに合った存在感を示せていると言ってもいいかもしれない。

(観賞日:2021年7月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会