『バーティカル・リミット』:2000、アメリカ

ピーター・ギャレットは妹アニーや父ロイスと共に、ロッククライミングを楽しんでいた。だが、別の2人組の転落事故に巻き込まれ、ピーター達は宙吊りになってしまう。ロイスは全員が犠牲になることを防ぐため、ロープを切って自分だけを落とすようピーターに命じた。ピーターは苦悩の末にロープを切断し、ロイスは転落して死亡した。
3年後、山登りをやめたピーターは、自然カメラマンになっていた。K2登頂を目指す面々が待機しているパキスタン軍のキャンプにやって来た彼は、偶然にもアニーがいることを知る。だが、あの事故以来、兄妹の間には大きな溝が生じていた。
アニーは、会社の宣伝のために登頂を目指す起業家ヴォーンの一行に加わっていた。ヴォーン達は熟練の登山家ウィックから無謀だと批判を受けるが、それを無視して出発した。ピーターは天候の急変に気付き、ガイドのスキッパーと共に一行の隊長トムに連絡を入れる。だが、ヴォーンは登頂の続行を主張し、トムも折れた。
アニーの一行は雪崩に巻き込まれ、彼女とヴォーン、トムはクレバスに生き埋めになる。アニーによるモールス信号での連絡をキャッチしたピーターは、キャンプにいたモニク、カリーム、シリル、マルコム、そしてウィックと救助隊を結成した。彼らはクレバスを爆破するためのニトログリセリンをパキスタン軍から入手し、山へと向かった…。

監督はマーティン・キャンベル、原案はロバート・キング、脚本はロバート・キング&テリー・ヘイズ、製作はマーティン・キャンベル&ロバート・キング&マーシャ・ナサティア、製作総指揮はマイク・メダヴォイ&ロイド・フィリップス、撮影はデヴィッド・タッターサル、編集はトム・ノーブル、美術はジョン・バンカー、衣装はグラシエラ・メイゾン、音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード。
主演はクリス・オドネル、共演はビル・パクストン、ロビン・タニー、スコット・グレン、イザベラ・スコルプコ、ニコラス・リー、アレクサンダー・シディグ、ロバート・テイラー、タミュエラ・モリソン、スチュアート・ウィルソン、オージー・デイヴィス、スティーヴ・リマーカンド、ベン・メンデルスソーン、ローシャン・セス、アレハンドロ・ヴァルデス=ローチン、ロッド・ブラウン他。


『ゴールデン・アイ』『マスク・オブ・ゾロ』のマーティン・キャンベルがメガホンを執った山岳アクション映画。ピーターをクリス・オドネル、ヴォーンをビル・パクストン、アニーをロビン・タニー、ウィックをスコット・グレン、モニクをイザベラ・スコルプコが演じている。

迫力のある雪山の映像。迫力のあるアクションシーンの連発。どうしても、それを見せたかったのだと。そういうことなんだろう。そのためには、ものすごく強引なストーリー展開、スカスカなドラマも仕方が無いのだと、そういうことなんだろう。
アクションを見せるために、人間ドラマには、そっぽを向いている。そして、派手なアクションを連発するため、どう考えても無理にトラブルを作っている。もっと他に利口な方法があるはずだろうと思ってしまう。そう思わせてしまうのだ。

まず、最初に転落したロッククライミング2人組の意味が無い。それはいいとしても、そのシーンそのものの意味が非常に薄い。ピーターが父を殺したことへの苦悩を見せるわけでもないし、彼とアニーの確執が和解へ導かれるドラマにも乏しい。父親を兄が妹の目の前で死なせてしまったという事件が、後の救出劇とほとんど関係しない。
そのシーン、見せ方もヘタだと思う。ピーターがロープを切って父親が転落死するわけだが、いきなり画面が切り替わって、父親が地面に落ちた瞬間だけを映すのである。これでは、悲劇性もピーターの苦悩も全く見えない。ピーターがナイフを切るシーンや、父親が転落する際のピーターの表情を見せるべきではないのだろうか。

ドラマの弱さは、ピーターとアニーの関係だけに留まらない。雪山でのヴォーンとアニーの関係、ヴォーンを憎むウィックのドラマなども弱い。ウィックが雪山で妻の遺体を発見するシーンなんてのもあるが、そこには掘り下げたドラマが付随していない。

出てくる奴がアホばっかりなので、登場人物に感情移入するのは難しいだろう。特にメインとなるピーターとアニーがアホってのは厳しい。アニーはヴォーンに同調して危険な登頂を続けるわけで、そりゃあ死んでも自業自得じゃないのかと思ってしまう。
もちろんヴォーンとアニーもアホだが、勇気ある撤退を決断しなかったトムもアホだ。何か予想できないトラブルで遭難したのならともかく、3人は自分達の愚かな行動で遭難したわけで、そんな連中を助けるために次々に人が犠牲になっていくのは、どうにも腑に落ちない。正直、助けてやりたいとは、これっぽっちも思えない。

アホみたいな形で人が死んでいくのだが、利口にやってりゃ大多数は助かっただろうと思ってしまう。特に救助隊の面々の死に方は、どうしようもない。大量のニトロを持っていくのもアホだし、酸素ボンベぐらいは装着していくべきじゃないのか。
ニトロに関しては、色々とツッコミ所が満載だ。ニトロが落ちた靴を投げて爆発するのだが、その衝撃で爆発するのであれば、救助に向かう途中、どう考えても爆発するんじゃないかと思える衝撃が加わっている場面が何度か出てくるのだが、そこでは爆発しない。あと、爆破に使うニトロの量からすると、大量に持って行きすぎだろう。

山は登る時よりも下りる時の方が怖いとも言われるのだが、下山する様子は描写されない。まあ、それはいいとしようか。ただ、下山の部分を省略するのはいいとしても、どう考えてもハッピーエンドじゃないだろ。あれだけ大勢の人々が犠牲になっているのに。アニーが助かったらハッピーエンドで終わりって、それでいいのか。
まあね、演出や話の進め方が「リアルでハードなアクション」を見せる映画だと勘違いさせちゃってるのがダメなんだろうね。これ、実際は「荒唐無稽なバカバカしいアクション」だけを見せる映画なんだろうな。お気楽なノリで見せる映画なんだろうな。

 

*ポンコツ映画愛護協会