『プロジェクトV』:2020、中国

ロンドンのトラファルガー広場で春節のパレードが催され、実業家のチョン・クォックラップは若い後妻のメイメイを連れて参加した。チョンと先妻の娘であるファリダは、アフリカで動物保護活動を行っていた。チョンからテレビ電話を受けた彼女は、笑顔で話す。しかしチョンがメイメイに代わろうとすると、「電波が悪い」と嘘をついて電話を切った。チョンとメイメイは犯罪集団「北極狼」の2人に襲撃され、その場から連行された。
民間警備会社「ヴァンガード」のトン・ウンテン最高司令官はチョンか誘拐されたという報告を受け、近くにいた非番のロイとホイシュンを派遣することにした。チョンとメイメイは北極狼が占拠したレストランに連れ込まれ、リーダーのブロトと対面した。ブロトはチョンに、「オマルの父の金はお前が持ってるんだろ」と詰め寄った。チョンが「何も知らない」と否定すると、ブロトは手下がメイメイに拳銃を向けた。ロイとホイシュンはレストランに突入し、敵と戦う。ロイはチョンを連れて逃亡する際に身分証を落とし、それを拾ったブロトはヴァンガードの存在を知る。ミヤは車で駆け付けてロイたちを回収し、その場から脱出した。
チョンとメイメイはヴァンガード本部に移動し、トンに会う。トンから狙われる理由を問われたチョンは、「中東でマシムと仕事をした。彼の石油や美術品を売ったが、過激派の首領で大量破壊兵器を買う資金調達を要求された。ロンドン警察に連絡し、資料を渡した。マシムは米軍に殺されたが、息子のオマルは生きていた」と説明した。彼はトンに、「敵は娘を狙うはずだ。すぐに連れ戻してくれ」と依頼した。オマルはブロトから報告を受け、チョンの娘を連れて来るよう命じた。
トン、ロイ、ミヤの3人はアフリカに飛び、ヴァンガード隊員のジョナサンが運転する車でファリダの元へ向かった。ファリダは密猟者を糾弾する動画をネットに上げており、密猟グループのボスであるトゥンダから恨まれていた。ブロトはトゥンダに前金を渡し、ファリダを生け捕りにするよう命じた。ファリダはライオンのチャーリーを可愛がり、現地人のジュマに写真を撮らせていた。そこへトンたちが到着し、チョンの依頼で迎えに来たことを告げた。
ブロトやトゥンダの一味が来たので、トンたちは戦う。ファリダは麻酔銃を構えるが、誤ってロイに麻酔弾を撃ち込んでしまった。彼女はロイをジープに乗せ、その場から逃亡する。トンたちは怪我を負ったジョナサンとジュマを車に乗せ、ロイたちとは別ルートで逃亡する。トンは本部のユンから連絡を受け、ロイとファリダの居場所を知った。車では行けない場所だと聞いたトンとミヤは、徒歩で向かうことにした。ファリダはジャングルに入り、ロイを連れてツリーハウスに避難した。
翌朝、ロイとファリダはブロトやトゥンダの一味が近付いて来るのを知り、ツリーハウスから抜け出した。トンとミヤは一味の数名を倒し、ロイとファリダに合流した。4人はファリダの水陸両用車に乗り、川を下った。すぐに一味が追って来て、激しい戦いになった。ミヤは滝壺に落下しそうになるが、トンが水上バイクで救助した。ロイは頭を殴られて昏倒し、ファリダと共に拉致された。ヴァンガードの本部にはブロトのビデオメッセージが届き、「チョンを引き渡さなければロイとファリダを殺す」と脅された。
チョンはファリダを助けるため、人質交換に応じる考えをトンに伝える。さらに彼は人払いをした上で、金のありかを知っていると告白した。トンは怪我が完治していないホイシュンを後方支援に回そうとするが、本人が志願したので連れて行くことにした。トンはチームのコンドルたちを率いて、アフリカのジャデバラへ飛んだ。彼は地元の協力者であるアバティーと会い、砦へ入るための手助けを依頼した。ホイシュンは砦に近い家から、カメラを搭載した虫型ドローンを飛ばす。砦で拘束されていたロイは、ドローンに気付いた。
ブロトはロイを監禁部屋から連れ出し、時限爆弾付きのベストを装着させた。彼はオマルの元へ行き、ヴァンガードが人質交換に応じたが実際は救出する気だろうと報告した。オマルは彼に、いつでも撃てるよう準備しろと命じた。ミヤは現地女性に化け、アバティーに同伴して砦に入った。彼女は使用人として、砦に留まった。ホイシュンたちは砦に侵入し、爆弾を仕掛けた。次の日、トンとチョンは車で砦に赴いた。ホイシュンのチームはロイの元へ向かうが、敵の狙撃手たちに動きを見られていた。
チョンはオマルにマシムの財産リストを渡し、「大部分は黄金に換えて安全な場所に隠してある。案内しよう」と語る。トンがファリダとロイの解放を要求すると、オマルは「金を手に入れたらな」と不敵に笑う。ブロトはロイの時限装置をオンにして、トンに教える。オマルは手下に、ファリダを始末しろと命じる。トンは配置させておいた狙撃手に指示し、ファリダを殺そうとする手下を射殺させた。狙撃手はオマルをロックオンし、トンは手下に武器を捨てさせろと命じた。
オマルは指示に従い、周囲の手下たちに銃を捨てさせた。ホイシュンたちは敵の一味を銃撃戦で倒し、ロイの時限装置を解除しようとする。しかし線を切っても爆破することが判明たため、電池を凍結させた。ロイは地雷を踏まされていたが、ホイシュンは一緒に飛び退いて助けた。オマルは隙を見て逃げ出し、トンたちは敵と戦う。彼らはファリダを救出し、脱出を図る。敵はロケット弾を放ち、ホイシュンが瓦礫の下敷きになるがロイが救助した。
チョンは娘を無事に逃がすため、敵に投降した。トンは黄金がドバイにあると知っており、チームを率いて現地へ向かう。彼はドバイ警察に協力を要請し、北極狼の2名が入国した情報を知らされた。北極狼のマーダーは、武器商人であるユセフの部下と接触していた。ロイとホイシュンはミヤを使い、マーダーにハニートラップを仕掛けようとする。するとユセフの部下が引っ掛かり、ロイたちはスマホの情報を入手できた。オマルやブロトたちもドバイに入り、ヴァンガードは一味が中古車販売店で取引を行うことを知った…。

監督はスタンリー・トン、脚本はスタンリー・トン、製作はスタンリー・トン&バービー・タン、製作総指揮はスタンリー・トン&チャオ・ホンフェン&エドワード・チェン&ヨン・チャン&ジワンワット・アーリヤヴラロンプ&デン・ジュンミン、共同r製作総指揮はシュー・タオ&ワン・チュンリン&ヤン・シー&チャン・シャオピン&チョウ・マオフェイ&チャン・ワンフー&チャン・ヨン&チャオ・ユエフイ&ウー・ユンヒ&シュー・ユー&ユー・チャオ&フー・フェン、撮影はリー・チーワー、美実はジェームズ・チョン、編集はヤウ・チーワイ、衣装はミリアム・チャン&コニー・リョン、武術指導はスタンリー・トン&ハン・クワンホワ&ジャッキー・スタントチーム、音楽はネイサン・ワン。
出演はジャッキー・チェン、ヤン・ヤン、アレン、ムチミヤ、シュ・ルオハン、ジュー・ジャンティン、ジャクソン・ルー、エヤド・ホーラーニ、シュー・シェンティン、ヤン・チャンピン、ショウ・ビン、ワン・ヤンロン、ロイ・ウォン他。


『THE MYTH/神話』『カンフー・ヨガ』のスタンリー・トンが監督&脚本を務めた作品。
邦題は『プロジェクトV』だが、1983年の映画『プロジェクトA』とは何の関係も無い(英語タイトルは「Vanguard」)。
トンをジャッキー・チェン、ロイをヤン・ヤン、ホイシュンをアレン、ミヤをムチミヤ、ファリダをシュ・ルオハン、コンドルをジュー・ジャンティン、チョンをジャクソン・ルー、オマルをエヤド・ホーラーニが演じている。

ロイは身分証を落としてブロトに拾われるが、それで重大なピンチに陥るとか、後で敵に利用されるとか、そんな展開は何も無い。
単に、「ブロトがヴァンガードの存在を知る」という手順として使うだけだ。
でも、そんなのは「北極狼が調べてヴァンガードだと突き止める」という展開でも用意すればいいだけだ。
わざわざ「敵の近くに身分証を落とす」というミスを犯すシーンを用意するのなら、もっと大きな問題に繋げるべきだよ。

ジャッキー・チェンも撮影当時は65歳なので、かつてのように体が動くわけではない。
元気一杯に動き回り、危険なスタントアクションを次から次へとこなすのは難しい。
そこで今回、ジャッキーは「チームのリーダー」というポジションを務めることで、アクションシーンを若手に分配する方法を取った。
チャック・ノリスやスティーヴン・セガールが年を重ねる中で「前線に立って敵と戦う」という立場から「若手をまとめて後方支援するリーダー」に転進したが、それと同じような形を取っているわけだ。

オープニングのシーンで、ジャッキーの本作品におけるスタンスがハッキリしている。
これまでのジャッキー映画なら、もちろん主演俳優として彼が敵と戦うアクションシーンを用意するだろう。しかし本作品の彼は本部から指令を出すだけで、肉体労働は若手の2人に任せている。
ただ、続くアフリカのパートでは、自ら赴いて敵と戦うんだよね。それは中途半端だわ。
アフリカという遠方なんだし、そこも若手に委ねるべきでしょ。リーダーがいないと解決しない仕事ってわけでもないんだし。

「ライオンがいるので怖がる」とか、「敵を殴って手を痛める」など、いかにもジャッキー・チェン作品らしいコミカルな演出も少なくない。
ただ、この作品には全く合っていない。そういう描写が完全に浮いている。
明るさや楽しさを感じさせるシーンはあってもいいけど、今回はコミカル方面のテイストは無くした方が良かったんじゃないかな。
あと、ジャッキーだけじゃなくて他の面々がギャグを担当する箇所もあるけど、喜劇芝居の温度が異なるので、ますます作品としてのまとまりが悪くなっちゃってるなあ。

どうやらホイシュンは妻を亡くしているらしく、幼い息子のガーワーは義妹が面倒を見てくれることも多い設定だ。ホイシュンの誕生日には義妹がガーワーを連れてヴァンガード本部へ来たり、トンたちがケーキを用意してお祝いしたりするシーンもある。
でも、ホイシュンのキャラ設定も誕生日のシーンも、まるで意味が無い。ホイシュンが妻を亡くしていようが、幼い息子がいようが、物語には何の影響も無い。キャラの奥行きや、ドラマの厚みにも貢献していない。
ロイとファリダの間ではロマンスを作ろうとしているが、これも表面の形だけ整えているという程度で、ほぼ機能していない。
何しろ監督&脚本がスタンリー・トンなので、アクションシーン以外は見事なぐらい適当なのだ。

ヴァンガードは高層ビルを保有するぐらいの巨大企業という設定なので、粗筋で触れたメンバー以外にも大勢の隊員がいる。ジャデバラへ向かうシーンでは、名前も出て来ない多くの面々がトンに同行している。
現実的に考えれば、世界的なテロリスト集団に戦いを挑むわけだから、ある程度の人員を投入するのは当然っちゃあ当然だろう。
だけど、そんなトコのリアリティーなんて、誰も求めちゃいないと思うのよね。
どうせ荒唐無稽な話なんだから、少数精鋭にして、役名のあるメンバーに絞り込んでも良かったんじゃないかな。

ミヤは使用人に化けて砦に侵入するが、その行動には何の意味も無い。
彼女の手引きでヴァンガードのチームが侵入するわけでもないし、先に砦へ入って情報を探るわけでもないし。
ホイシュンたちも人質交渉の前夜に砦へ侵入しているが、これまた何の意味も無い。砦に爆弾を仕掛けているけど、それが翌日に大事なトコで活きてくるわけでもないし。
ちょっと遡ると、実はドローンを飛ばしたことも、そんなに大きな意味は無い。

人質交渉の当日、ホイシュンたちはロイの救出に動くが、それは敵に気付かれている。だったら敵は狙撃するのかと思ったら、ずっと待機しているだけ。無駄にモタモタしているから、ホイシュンたちに一掃される。
オマルは財産リストを受け取った直後にファリダを殺そうとするが、そのタイミングで始末を命じるのはアホ丸出しだ。そんなことをしたらチョンが「もう生きていても意味が無い」と協力を拒む恐れもあるわけで。
ブロトが時限装置をオンにして、トンに教える行動も意味不明。トンが約束を破ってチームを送り込んだことを指摘し、その上で始末すりゃいいだろ。
ヴァンガードも敵の一味も、支離滅裂な行動の連続だ。

砦での戦いが勃発する中、1人だけボードに乗って空に浮かびながら射撃する奴がいる。こいつはヴァンガードのコンドルなのだが、それまで全く存在感が無かったので、「誰だよ」と言いたくなる。
ちなみに粗筋では「コンドル」と書いているけど、劇中では名前も一切出て来ていないような扱いだからね。なので、急に現れて変に目立つ奴になっている。
そのキャラの出し入れだけでも不細工なのに、その上に空を飛びながら戦うので、別の意味でも浮いている。
1人だけ異なる世界観で戦っているような感じなのよ。

かなり長い尺を裂いて砦の戦いを描いているのに、その結末は「チョンが投降してトンたちを逃がす」という形。なので、ちっとも爽快感が味わえないアクションシーンになっている。
そんな結末にするのなら、もう少し早く切り上げておけよ。
っていうかさ、チョンって嘘をついて大金を横領しようと目論んでいるような卑劣な部分があるのに、基本的には「娘を救うために必死になる被害者」として描かれているのよね。だったら、大金横領を目論んだ設定は邪魔でしょ。
しっかりとシナリオを練っておけば、彼を善人にしたままでも「オマルがチョンを脅して大金を手に入れようとする」という展開は成立させられたはずだぞ。

トンとドバイ警察がオマルやユセフたちの会話を盗聴している時、なぜかファリダを同席させている。なのでオマルがチョンを解放する気が無いと知ると、ファリダは外へ飛び出す。
そんな場所に同席している時点で大間違いだが、なぜかトンはロイに「彼女を警察へ」と指示するだけ。
いやいや、ファリダが父を助けに行こうとするのは明白なのに、ヴァンガードのボスとして対応が甘すぎるだろ。
あと、ロイがファリダの懇願を受け、車で一味を追うのもアホすぎるだろ。なんで危険な場所にファリダを連れて行くんだよ。

最終決戦では、ユセフの一味が空飛ぶ謎の巨大兵器を登場させる。コンドルのフライングボードだけが別の世界観と思ったら、この兵器も違和感たっぷりだ。
そんな目立つ巨大兵器を作る意味なんて、何も無いだろうに。費用対効果が悪すぎるぞ。
しかも、大した損害を与えることも無いまま、たった一発の砲撃を受けて撃沈されているし。なんちゅう見掛け倒しのメカなんだよ。
その見た目やデカさからすると、そいつを倒すためだけの最終決戦でもいいぐらいなのに。

(観賞日:2022年10月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会