『ブラックサイト』:2008、アメリカ

オレゴン州ポートランドの連邦ビル。そこがFBIサイバー犯罪課の特別捜査官であるジェニファー・マーシュの仕事場だ。ジェニファーは年下の相棒であるグリフィン・ダウドと共に、インターネット上の犯罪を取り締まっている。ある夜、彼女は警察からの依頼を受け、あるサイトを調査する。それは「killwithme.com」というサイトで、アクセスするとライブ映像が流されていた。室内に猫がいる様子が写っているだけで特に不審な点が無かったため、ジェニファーはしばらく様子を見ることにした。
夜勤シフトで仕事をしているジェニファーは、翌朝になって自宅へ戻った。警官だった夫が殉職して以来、彼女は母親のステラ、8歳になる娘のアニーと3人で暮らしている。アニーをスクールバスまで送った後、帰宅したジェニファーは自宅のパソコンでkillwithme.comをチェックしてみた。すると、室内の猫が動かなくなっていた。身動きが取れずに衰弱死したのだ。夜になって出勤した彼女は、その猫がヒルマンという飼い主の元から数日前に拉致され、虐待死したことを知った。
警察への通報は市内の公衆電話からであり、ジェニファーとグリフィンは注目を集めるために犯人が自ら連絡したのだと推測した。2人はサイトの閉鎖を試みたが、何度やっても復活した。ロシアのサーバーが使われていることを聞いた上司のブルックスは、「ただの猫だろ。世界情勢を考えても、我々は管轄内の仕事に専念すべきだ」と告げた。しかし一週間後の朝、今度は同じ地下室で中年男性が縛られている様子が写し出された。男性は上半身裸にされ、胸には「killwithme.com」の血文字が刻まれていた。
サイトには「見れば見るほど死ぬ」というメッセージが表示され、アクセス数に応じて出血を早める抗凝固薬の投与量が増えて行く仕掛けになっていた。被害者はハーバート・ミラーというチャーター便のパイロットで、金曜の夜に「アイスホッケーが手に入ったので試合を見てから帰る」と妻に電話で告げたまま、行方不明となっていた。
多くのマスコミが押し掛けているミラーの家に、エリック・ボックス刑事が赴いた。ボックスはミラー夫人と面会し、「マスコミと話せば事態が悪化するだけです。我慢して下さい。パソコンも見ないで下さい」と言う。ジェニファーがミラーサイトのログを見ると、国内IPからのアクセスに限定されている。グリフィンが調べると、サイトに関する最初のコメントは「猫がネズミ捕りの罠に。衝撃のライブ映像は必見」という内容で、アップ直前に拡散されていた。投稿者はキルバーンという大学生だが、パソコンは彼の物ではなかった。犯人が彼に成り済まして投稿したことは確実だった。
ジェニファーはブルックスから、本部に来たボックスを紹介された。ブルックスは情報交換して捜査するよう指示し、ジェニファーに後を任せて立ち去った。ボックスは、ミラーの車に彼以外の指紋が無かったこと、地下室が1920年代から1930年代に建築されたこと、ミラーの評判が良いことを話す。ジェニファーは、現時点ではサイトの追跡が不可能であることを告げた。2人が話している間にミラーは死亡し、サイトには「ご協力感謝。さらに続く」というメッセージが表示された。
レストン下院議員の車から、ミラーの遺体が発見された。レストンはネット司法委員で規制反対派であり、ジェニファーはボックスに「犯人からすれば味方よ」と告げた。警察の捜査により、エンジニアのアーサー・ジェームズ・エルマーが不審者として浮上した。彼は盗撮カメラを仕掛け、半年前に会社をクビになっている。しかし調べた結果、エルマーには事件発生時の確実なアリバイがあった。
アニーの誕生日が近付き、馬のゲームがプレゼントとして届いた。ダウンロードして遊んでいる彼女を見て、ジェニファーは軽い調子で「面白そうね」と告げた。アニーの誕生日になり、ジェニファーはローラースケート場でパーティーを開いた。ジェニファーはグリフィンに、キルバーンが既に死んでいること、死の1時間後に例のサイトが出現したことを話す。同じ頃、犯人のオーウェン・ライリーは鉄道模型を餌にしてTVリポーターのデヴィッド・ウィリアムズを自宅へ誘い出し、スタンガンで気絶させて地下室に閉じ込めた。
ジェニファーやボックスたちは新たな映像がアップされたという連絡を受け、ローラースケート場を抜け出した。記者会見を開こうとするブルックスに、ジェニファーは「閲覧者を増やすだけです。国家安全保障局のコンピュータを使えれば」と訴えるが却下された。記者会見を開いたブルックスは、サイトを見ないよう呼び掛ける。しかし、それが逆効果で、閲覧者は爆発的に増加した。結局、前回の約半分となる6時間で、ウィリアムズは死亡した。
ウィリアムズは死の直前、必死になって住所を告げた。ジェニファーたちは急行するが、そこにウィリアムズの姿は無かった。オーウェンは彼を気絶させた後、別の場所に運んだのだ。オーウェンがウィリアムズを呼び出したのは、地元スーパーを経営する韓国人のパクという男だった。独身のパクは韓国へ帰省中で、留守を狙ってオーウェンが彼の自宅を拝借したのだった。パクノ自宅前で話すジェニファーやボックスたちの様子を、オーウェンは野次馬に混じって眺めていた。
朝、目を覚ましたアニーは、killwithme.comに自宅が写っていることに気付いてジェニファーに教える。カメラを探そうとしたアニーが外へ出ている間に、ジェニファーがリビングへ下りて来た。映像を見た彼女は拳銃を構え、家を飛び出した。アニーを家に戻らせた彼女は、道路に停まっている車に近付いた。車内には誰もおらず、遠隔操作のカメラが取り付けられていた。トランクを開けると、ウィリアムズの死体が入っていた。ジェニファーは、馬のゲームに遠隔操作のウイルスが仕込まれていたことを知った。
ジェニファーはステラとアニーを安全な場所に避難させ、自分も仮の宿へ移ることにした。グリフィンはネットで知り合ったメラニーという女性から電話を受けるが、実はオーウェンがボイスチェンジャーを使って掛けていた。オーウェンはグリフィンを監禁し、次の犠牲者として映像をサイトに流した。ジェニファーは同僚のティム・ウィルクスに映像を拡大してもらい、硫酸が注入される装置が仕掛けられていることを知った。
グリフィンは死が迫る中、瞬きを使ってモールス信号を送った。ジェニファーは同僚のレイに頼んで読み取ってもらい、「我々の自殺」というメッセージであることが判明した。今回もサイト閲覧者は爆発的に増加し、グリフィンは命を落とした。ジェニファーはグリフィンの残したメッセージをヒントに、キルバーンが収集してショック映像サイトにアップしていた動画をチェックする。そして彼女は、その中に「ラッシュアワー自殺」という題された動画を見つける。それは16ヶ月前に大学教授がラッシュアワーのプロードウェイ橋から飛び降り自殺した動画だ。死んだ大学教授は、オーウェンの父親だった…。

監督はグレゴリー・ホブリット、原案はロバート・フィヴォレント&マーク・R・ブリンカー、脚本はロバート・フィヴォレント&マーク・R・ブリンカー&アリソン・バーネット、製作はスティーヴン・パール&アンディー・コーエン&トム・ローゼンバーグ&ゲイリー・ルチェッシ&ホーク・コッチ、製作総指揮はリチャード・ライト&エリック・リード&ジェームズ・マクウェイド&ハーリー・タネンボーム、製作協力はサラ・J・プラット、撮影はアナスタス・ミコス、美術はポール・イーズ、編集はデヴィッド・ローゼンブルーム&グレゴリー・プロトキン、衣装はエリザベッタ・ベラルド、音楽はクリストファー・ヤング。
主演はダイアン・レイン、共演はビリー・バーク、コリン・ハンクス、ジョセフ・クロス、メアリー・ベス・ハート、ピーター・ルイス、タイロン・ジョルダーノ、パーラ・ヘイニー=ジャーディン、ティム・デザーン、クリス・カズンズ、ジェシー・タイラー・ファーガソン、トリーナ・アダムス、ブライン・バロン、ジョン・ブリーン、ダン・キャラハン、エリン・カルフェル、ライアン・ディール、マリリン・ドイッチュ、グレイ・ユーバンク、ピート・フェリーマン、デヴィッド・フレイタス、ウェスト・A・ヘルフリッチ他。


『オーロラの彼方へ』『ジャスティス』のグレゴリー・ホブリットが監督を務めた作品。
ジェニファーをダイアン・レイン、ボックスをビリー・バーク、グリフィンをコリン・ハンクス、オーウェンをジョセフ・クロス、ステラをメアリー・ベス・ハート、ブルックスをピーター・ルイス、ウィルクスをタイロン・ジョルダーノ、アニーをパーラ・ヘイニー=ジャーディン、ミラーをティム・デザーン、ウィリアムズをクリス・カズンズ、エルマーをジェシー・タイラー・ファーガソンが演じている。

ジェニファーが警官だった夫を亡くしているという設定に、それほど深い意味は無い。「子育てのために夜勤シフトにしている」という状況を作りたいがための設定だ。
一人娘がいるという設定の時点で「ひょっとすると、この娘が犯人に狙われるのではないか」と予想する人が少なくないかもしれないが、そういうベタな展開が待っている。
しかし、なぜか犯人はアニーを脅かすだけで済ませる。そこに明確な理由は用意されていないので、犯人の行動が中途半端に感じる。
しかも「本気で少女を傷付けると思った?」というメッセージがサイトに表示されるので、それ以降にアニーを殺そうとすることが無いことも分かってしまう。
そうなると、もはや遠隔操作のシーン以降は、「アニーの存在価値って何なのか」という状況に陥ってしまう。

犯人が最初に殺すのは、人間ではなく猫だ。しかし製作サイドが動物愛護協会からの非難を恐れたのか、猫が無残に殺される様子は画面に写し出されない。
その一方で、人間が惨殺される様子はハッキリと写し出される。
「例えフィクションでも人間を惨殺する描写はやめろ。もっと人間を大切に扱え」と非難するような組織は、たぶん存在しない。
だから本作品は、安心して残酷描写を持ち込んでいる。サイコ・サスペンスだと思いきや、かなりホラー風味が強い。
ひょっとすると、『Saw』シリーズの影響があるのかもしれない。

この映画には、大きな問題点が4つある。
1つ目は「主人公がインターネット犯罪の専門家である必要性が無い」ということ、2つ目は「主人公を含めたFBIの連中の能力が著しく低い」ということ、そして3つ目「犯人のスペックが異常に高すぎる」ということ、最後に「そんな犯人が、物語を解決に導くために杜撰な行動を取らさせている」ということだ。
何か欠点があっても、それが小さければ、そして他に優れている部分が多くて充分にリカバリーできていれば、その欠点が全体の評価に繋がらないケースもある。
しかし本作品の場合、欠点が大きすぎる&多すぎるし、それを補うだけの長所も見当たらない。

FBIが登場するアクション映画やサスペンス映画だと、FBIが役立たずだったり、上司が愚かだったりという描写になっているケースは結構ある。
ただ、だからって単純に「良くあるパターン」を真似してどうすんのよ。そもそも、この映画は「FBIが無能化している」とか、「組織の上層部はボンクラばっかり」とか、そういう組織腐敗の問題を描こうとしているわけじゃないはずでしょうに。
この映画の場合、そういうのはむしろ邪魔でしょ。描くべき事柄のピントがボケボケになっちゃうでしょ。「一枚岩のFBIが全力で捜査して、常に上を行く狡猾な犯人を必死で捜査する」という構図にしておくべきでしょ。
この映画の場合、「FBIが一枚岩で結束し、有能な連中ばかりだったら、もっと早く解決できたんじゃないか」と思ってしまう。それじゃあダメでしょ。
しかも他の連中がボンクラなだけじゃなく、ヒロインのジェニファーまでボンクラなんだから、どうにもならんぞ。

「男が地下室で縛られており、どんどん出血して死が近づいて行く」というライブ映像が開始されたら、ものすごく緊迫感が高まるはずだろう。
ところが実際には、なぜか今一つスリリングな雰囲気が盛り上がらない。
その理由としては、「一刻も早く地下室の場所を突き止めないと、男が死ぬ」という状況のはずなのに、そういう切迫した様子や焦りの色が、ジェニファーやグリフィン、ボックスたちには圧倒的に不足していることが挙げられる。
赤の他人だからなのか、やたらと落ち着いている。

上司から「事件の責任者」とボックスに紹介されたジェニファーは、「私は娘のために夜勤を」と言っている。
つまり、責任を持って事件を解決しようという気が欠けているってことだ。「時間が終われば他の人に任せてしまおう」ってことだ。
もちろん、家族との時間を大切にしようって気持ちは分かるのよ。
ただ、目の前で人が死にそうになっているのに、それを助けることよりも家族との時間を優先したいという考え方には、どうにも賛同しかねるぞ。

ボックスがエルマーの家へ行くことを告げて同行を持ち掛けた時、ジェニファーが「私はネットで調べるわ」と言ったのには唖然とした。
幾らサイバー犯罪の専門家だからって、容疑者と会ったり自宅を調べたりすることよりも、ネットで調べる事を優先するのかよ。どんだけオタク気質な奴なんだよ。
エルマーの家に行き、パソコンがあれば調べようってのが筋なんじゃないのか。
それとアンタは責任者、つまりリーダーなんだから、ネットでの調査なんか部下に頼めばいいんじゃないのか。

アニーが「もう誕生日プレゼントが届いた。馬のゲームよ。ダウンロードした」と言った時、ジェニファーは「面白そうね」と告げただけで、まるで気にしていない。サイバー犯罪のスペシャリストなのに、ソフトのダウンロードに対して全くの無頓着だ。
そもそも、自宅のバソコンがトロイの木馬に感染される状態になっていること自体、FBIサイバー犯罪課の人間として、あまりにもお粗末だろう。
「IPアドレスが絶えず変更されているから無限にコピーされる」「ドメイン登録とネームサーバーはロシアだから管轄外」という事情でkillwithme.comを閉鎖できないことに関しては、まあ仕方が無いとしよう。
しかし、それ以降も、ジェニファーとサイバー犯罪課がその専門知識を使って犯人や監禁場所に迫っていく様子は一向に見られない。
ジェニファーがオーウェンに辿り着くのは、グリフィンが瞬きを使ったモールス信号でヒントを残してくれたおかげだ。

コンピュータを使ったジェニファーとオーウェンとの知能戦が繰り広げられるとか、終盤に入ってからジェニファーがコンピュータを利用した罠を仕掛けて攻勢に出るとか、そういうことは全く無い。
そしてジェニファーはオーウェンに捕まるという失態をやらかす。
そこから彼女がいかにもサイバー犯罪課らしい方法で事態を打破するのかと思いきや、「拘束された体を大きく振って罠から脱出し、オーウェンと格闘して銃殺する」という、アクション映画としての解決方法を取ってしまう。
そこでは、その解決方法に萎えるだけでなく、今までは頭のキレる狡猾な犯人だったはずのオーウェンが、急にボンクラになってしまうというところにも萎えてしまう。

オーウェンの犯行目的は復讐である。
父親の自殺を、ミラーが操縦する取材ヘリが偶然にも撮影した。死体の眼鏡が橋の下の食堂に落下し、それを盗んだ従業員のヒルマンがネットで売却した。
自殺映像の放送を謝罪しなかった唯一のテレビ局がチャンネル12で、ウィリアムズが現場の取材に派遣された。
チャンネル12は自殺映像を再放送し、それをキルバーンがネットにアップした。
それが原因で事件は全米規模で広まり、噂のネタになった。
そこでオーウェンは、父親の復讐に乗り出したわけだ。

しかしミラーとウィリアムズはともかく、ヒルマンに関しては「なぜ本人じゃなくて猫を殺しただけで済ませているのか」と言いたくなる。彼が猫を可愛がっていたという設定はあるけど、だからって「その猫を殺したから満足」ってのは腑に落ちない。
そこは、単純に「最初から人を殺すのではなく、まずは猫の虐待死を見せることで観客を惹き付けよう」というシナリオとしての都合しか感じない。そういう裏事情が透けて見えちゃったらマズいでしょ。
あと、アニーを脅かしたり、グリフィンを殺したりするのは全く筋が通らない。「FBIが連中を野放しにしている」というのは、かなり無理のあるこじつけにしか思えない。
もはや復讐が目的ではなく、単なる愉快犯に変貌してしまっているとしか思えない。

本来なら、犯人が退治されて一件落着となるはずなのだが、この映画の場合、それでは済まない。なぜなら、犠牲者を死に至らしめたのは犯人だけではないからだ。
そう、サイトを閲覧した連中も、間接的な殺人犯と言えるのだ。
しかし彼らは誰にも正体を知られない匿名のままだし、何の責めも罰も受けない。そういう唾棄すべきクソ野郎どもが平気な顔でのさばっている状況を許したままで映画が終わっているため、モヤモヤしたモノが残ってしまう。
社会派の映画やメッセージ性の強い映画の場合、あえて悪党をのさばらせたまま終わるケースもあるけど、少なくとも本作品に関しては、そういうモヤモヤが残るのは得策と思えないなあ。
せめてジェニファーにネット閲覧者を厳しく糾弾させるとか、何か溜飲が下がるような着地を用意してほしかったなあ。

(観賞日:2014年5月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会