『ビジネス・ウォーズ』:2015、アメリカ

ダン・トランクマンはダイナミック・プログレッシヴ・システムズという会社の営業部で働いていたが、営業部長のチャック・ポートノイから5パーセントの減給を通告されて「私は結果を出した」と抗議する。チャックが経営改善の必要性を説明してもダンは納得せず、大勢の社員がいる前で文句を言い続けて彼女を馬鹿にする。チャックが「だったら独立すれば?」と告げると、ダンは捨て台詞を吐いて会社を去ることにした。ダンは一緒に辞める仲間を募るが、誰も賛同しなかった。
ダンが自分の荷物を運んで駐車場へ行くと、同じ日に解雇された年配のティモシー・マクウィンタースと新人面接で落とされたマイク・パンケーキが現れた。そこでダンは「一緒に奴らの鼻を明かそう」と持ち掛け、2人は同意した。1年後、ようやくダンは取引に漕ぎ付け、ポートランドへ出張することになった。彼は妻のスーザン、息子のポール、娘のベスと話し、車に乗り込んで家を出た。ダンは空港でティモシー&マイクと合流し、飛行機でポートランドへ向かった。
自宅に連絡を入れたダンは、ポールがアイシャドーを万引きで逮捕されたことを聞かされる。「友達と仮装か?」とダンが言うと、ポールは「僕はデブだから友達なんかいない。目にメイクを入れてゴス系の連中と仲良くなろうとしたけど、あんなに浮いてる連中とも仲良くなれなかった」と寂しそうに語った。スーザンはポールが学校で孤立していることを話し、私立へ行かせる話を早く進めるべきだと言う。高額な学費を聞いて、ダンは固まった。
ホテルに到着したダンは、隣の部屋にチャックが泊まっていることを知った。彼女もダンと同じく、ビル・ウィルムズリーと会うためにポートランドを訪れていた。既に取引が合意に達していると思っていたダンはビルに電話を掛け、詳細を教えてほしいと頼む。ティモシーはストリッパーを呼ぶが、間違えてダンの部屋に行ってしまう。それを知ったダンは、今は大切な時なので仕事に集中するようティモシーとマイクに告げた。
ダンがジョギングをしてホテルに戻ると、ビルが来ていた。彼はチャックと会っており、上司のジム・スピンチも一緒だった。ジムはダンに、「我が社が君の会社の株を購入することが前提らしいが、取り引きが無いと相手の株は買わない」と告げる。彼はダンとチャックに、白紙の状態でプレゼンから競うよう求めた。チャックは既にジムと知り合いで、圧倒的に有利な状態だった。ダンはプレゼンを行い、ジムに「全く手を握らなかったわけじゃない。もう1年も待ったんだ」と訴えた。
ジムがベルリンに行く予定を教えたので、ダンは後を追うことにした。ティモシーはダンに、「妻以外の女性とセックスの経験が無い。妻と離婚したいと思うが、まとまった金を残したい」と語った。マイクは大学出身という経歴が嘘だと明かし、スペシャルスクールを出て大勢の人々と同居していることを語った。ドイツに着いた3人はレンタカーに乗るが、マイクがドイツ語のカーナビを用意したので何を指示しているのか全く分からなかった。
ダンはジムがいるベルリンではなく、ハンブルグを目指す。彼はヘレン・ハールマンに請求額を下げてもらい、利ざやを下げて見積りでチャックに勝つ算段だった。ハンブルグに到着したダンは、ヘレンがいる混浴スパへ出向く。ヘレンが服を脱ぐよう要求したので、ダンは承諾した。見積もりを下げることをヘレンは受け入れ、ダンたちはベルリンに向かう。しかし道の真ん中にいるトナカイを避けようとして慌ててハンドルを切ったため、車は横転した。
3人は電車に乗り、打ち合わせを行った。ダンたちは駅で降り、待合室へ赴いた。そこへスーザンから電話が入り、ベスの学校でイジメ事件があったことを伝える。ダンはベスに「イジメをする奴なんて最低だ。その親も最低に決まってる」と告げ、早々に電話を切る。だが、届いた動画を見た彼は、ベスが男子を暴行したことを知った。そこへ担当の女性社員が現れ、今日は会議が出来ないので金曜日にしてほしいと告げた。
複数のイベントで大半のホテルは満杯となっており、マイクは何とか空きを見つけた。ダンは芸術的なホテルで、ティモシーとマイクはユースホステルだった。マイクが「飛行機で出会った女性が街を案内をしてくれると言ってる」と明かしたので、ダンは行くことを認めた。ティモシーはダンに、「仲介者が望んだのはチャックがベルリンへ来ることで、我々には来なくてもいいと告げた。我々は噛ませ犬だ。さっきので終わったんだ」と語る。さらに彼は「これで破産だ」と言い、会社にツケのあった2社が倒産していること、今回の取引で埋め合わせられると思っていたことを語った。
ダンはティモシーの「将来に喜びが欲しい」という訴えを聞き、「君の努力は無駄にしない。絶対に契約は取ってやる」と力強く告げた。彼はホテルにチェックインし、部屋がガラス張りで外から大勢に見られていることに気付いた。ダンはフロント係にカーテンを求めるが、「展示ルームなのでありません。貴方は芸術ですから」と冷たく断られた。街に出たダンは、チャックがカフェでジムやビルと会って握手している様子を目撃した。
翌朝、ダンはチャックが契約を結ぶ前にビルと会えば勝機はあると考えるが、電話を掛けても応答は無かった。マイクはダンに、インスタにビルの名前を入れて検索しようと提案した。ティモシーはユースホステルに泊まっている青年のケルフから、頼んでおいたエクスタシーを受け取った。夜になってビルがゲイの祭典を楽しんでいると判明し、ダンたちはゲイバーを捜索する。ダンはトイレで男と楽しんでいたビルを発見し、見積もりを見てもらう。するとビルは、「マルテン・デーヴィクが食い付く。気に入る数字だ」と言う。マイクが「誰?」と訊くと、彼は「雇い主だ。ゲルガー社の経営者で、G8で来てる」と教えた。この数字ならチャックを叩きのめせる」と言われ、ダンたちは大喜びで乾杯する…。

監督はケン・スコット、脚本はスティーヴ・コンラッド、製作はアーノン・ミルチャン&トッド・ブラック&ジェイソン・ブルメンタル&スティーヴ・ティッシュ&アンソニー・カタガス、製作総指揮はスティーヴン・コンラッド&デヴィッド・ブルームフィールド、共同製作はチャーリー・ウォーバッケン&クリストフ・フィッサー&ヘニング・モルフェンター、撮影はオリヴァー・ステイプルトン、美術はルカ・トランキーノ、編集はマイケル・トロニック&ジョン・ポール&ピーター・テシュナー、衣装はデヴィッド・ロビンソン、音楽はアレックス・ワーマン、音楽監修はデイヴ・ジョーダン&ジョジョ・ヴィリャヌエヴァ。
出演はヴィンス・ヴォーン、トム・ウィルキンソン、ジェームズ・マースデン、ニック・フロスト、デイヴ・フランコ、シエナ・ミラー、ジューン・ダイアン・ラファエル、ブリットン・シアー、エラ・アンダーソン、ケン・スコット、カーシャ・マリノウスカ、カルメン・ロペス、メリッサ・マクミーキン、マイケル・クラッベ、ウーヴェ・オクセンネヒト、パトリック・ピンヘイロ、ジル・フンケ、マーク・ズウィンツ、ヴォルカー・ワッカーマン、ジョナサン・ガイルズ、フロウィン・ウォルター他。


『人生、サイコー!』の監督を務めたケン・スコットと主演のヴィンス・ヴォーンが、再びコンビを組んだ作品。
脚本は『幸せのちから』『LIFE!/ライフ』のスティーヴ・コンラッド。
ダンをヴィンス・ヴォーン、ティモシーをトム・ウィルキンソン、ジムをジェームズ・マースデン、ビルをニック・フロスト、マイクをデイヴ・フランコ、チャックをシエナ・ミラー、スーザンをジューン・ダイアン・ラファエル、ポールをブリットン・シアー、ベスをエラ・アンダーソンが演じている。

経済誌の「フォーブス」が発表した「2015年に最も稼げなかった映画」のランキングで4位に入った作品である。
実はヴィンス・ヴォーンの出演作を見てみると、その多くがポンコツ映画だったりする。
ラジー賞の候補になった作品だけに限っても、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』、リメイク版『サイコ』、『ドメスティック・フィアー』、『俺たちニュースキャスター』、『ドッジボール』、『スタスキー&ハッチ』の6作品がある。
ヴィンス・ヴォーンが主演や助演でノミネートされているわけではないので、その全てが彼のせいというわけではない。ただ、それ以外にもポンコツ映画の出演作はあるし、だから「ラジー賞から相手にされない程度に活躍しているポンコツ映画の常連俳優」ってことになるかな。

まず冒頭のシーンで、ダンは不愉快な男としての存在をアピールする。チャックがオフィスで話そうと持ち掛けても彼は拒否し、大勢の社員がいる前で彼女を馬鹿にする。
そりゃあ給料が下がったら抗議したくなるのは分かるが、経営改善が必要な状況なら仕方のない部分もあるだろう。
チャックも厳しい言葉を吐くが、それは先にダンが馬鹿にしたからだ。理不尽に給料を下げられたわけではないので、独立を決めても同情心は湧かない。
それだけでなく、笑えるキャラとしても成立していない。

アさらに厄介なのは、「この会社で彼は何の仕事をしていたのか」ってのがサッパリ分からないことだ。
営業部員ってことだけは分かるが、どんな商品を売り込んでいたのかは全く説明されていない。
独立した後、現在のダンが大きな建物を建設した後に出る金属屑のスワーフを売ろうとしていることが説明される。ただ、それが具体的に、どういう商売になるのかがサッパリ分からない。
それって知らない人からすると、ただのゴミに過ぎないわけで。

ダンが会社を起業すると決めた後、シーンが切り替わると1年後になっている。
彼は「これまでは厳しかったが」と言うが、どれぐらい厳しかったのかは全く分からない。まだオフィスも無い状態だが、どういう仕事をしてきたのかも分からない。
ダンは営業を掛けていたと思われるが、他の2人が担当している仕事が何なのかも全く分からない。
マイクに関しては何も知らない新人なのだが、そこから1年で何をダンが教えたのかも全く分からない。

ダンは1年後まで取り引きが全く決まらなかったのだから、報酬が無い状態だったのか。しばらくは貯金があるかもしれないが、収入が減ったことについて家族が何と言っているのかも分からない。
そもそも独立前に「たまには子供にも会いたい」とダンは言っていたのに、1年後に飛ぶまで家族が登場しないのは構成としてマズいでしょ。独立を決めた時点で、すぐに登場させた方がいいんじゃないのか。
急に独立を言い出されて、妻が素直に賛成するとも思えないけど、そこのリアクションは見せないのよね。しばらく経って「実は妻に内緒」ってのが明かされるけど、そのタイミングが遅いし、明かし方も弱いし。
あと、かなり経ってから「実は今回の取引より前にも一応は他の取引があった」ってことが語られるが、これもタイミングが遅すぎるし。

話が進む中で、ダンの家族の存在が全く無意味になっていると感じてしまう。何しろダンはビジネスのことで頭が一杯になっており、家族について考える余裕なんて、ほとんど無いのだ。
一方で、「息子は肥満を気にしている」とか「娘は学校に行きたがらない」といった問題を抱えていることが示されている。
そういう設定を持ち込んだのなら、それに関連してダンを行動させる必要があるはずだ。
だが、ダンは申し訳程度に「子供たちのことを気にする」という様子を見せるだけで、本気で取り組まない。終盤は「子供たちのことを真剣に考えて問題を解決しようとする」という展開を入れているが、ものすごく強引だし、本筋の邪魔にしかなっていない。

どうせマトモに使う気が無いのなら、最初からダンの家族など登場させなければいい。彼の年齢を考えると結婚はしていた方がいいかもしれないが、少なくとも子供は邪魔なだけ。
っていうかバツイチという設定にしてしまえば、妻を登場させる手間も省けるしね。
例えば「勝手に会社を辞めたので妻に愛想を尽かされて捨てられた」とか、そういうことで簡単に妻を脇へ追いやってもいいだろうし。
そんでビジネスの仕事を進める中で、ロマンスも絡めれば一石二鳥になるわけだし。

ダンだけでなくティモシーとマイクにも、それなりの役割を与えようとしている。
ダンは彼らと一緒に起業するのだから、そこに存在意義を持たせるのは当然と言えよう。ただ、前述したように、「ダンと家族の関係」という部分だけでも全く手に負えていないのだ。
だから、ティモシーとマイクを描くためのパートも、やはり取って付けたような印象しか受けない状態と化している。
ダンの家族にしろティモシーやマイクにしろ、表面的な設定は用意されている。だが、それを扱い切れず、ペラッペラになっているのである。

ダンはジムの会社と取引に漕ぎ付けているが、ポートランドで初めて会っている。
ダンは「もう契約合意に達した」と思っているのだが、社長に会っていないのに、そんな風に確信していたのか。どういう根拠で合意だと確信したのか、まるで分からんぞ。
そんで彼はプレゼンからやり直すよう言われるので、そこからは「ダンとチャックの争い」ってのが描かれるのかと思ったら、ダンのプレゼンしか描かない。
プレゼンに向けて奮闘する描写は無いし、プレゼンの内容もボンヤリしている。

ベルリンに渡ってからも、やはり仕事の内容はボンヤリしたままだ。
ダンはヘレンという女性の元へ行くが、仕事の上でどういう関係にあるのかが良く分からない。何しろ、そこで初めて出て来る名前だしね。
ダンは見積もりが云々とか、利ざやが云々と言っているのだが、取り引きの関係性はボンヤリしている。
っていうかさ、最初はジムの会社との取引なのかと思ったら、途中で「仲介者」という説明が出てくるんだよね。そんで後半に入るとマルテンという男が雇い主という設定が明らかになるし、ジムがボスじゃなくて上に別の人物がいることも判明するし。
その辺りも、どういう相関図なのかが全く分からないのよ。

そりゃあダンが進めている仕事の内容ってのは、物語に大きな影響を及ぼすわけではないのよ。
この映画が描きたいのは「契約成立のために奔走するビジネスマンの珍道中」という部分であって、契約や仕事の内容はアルフレッド・ヒッチコックが言うところのマクガフィンみたいなモンだからね。
ただ、それにしても、あまりにも不鮮明すぎるのよ。
そのせいで話に乗っていけないんだから、それはダメでしょ。珍道中を描きたいにしても、そこへ持って行く経緯や環境整備が雑すぎるのよ。

あとさ、わざわざドイツに出張させている意味も、ほとんど無いんだよね。
「言葉が通じない」という状況が、そんなに積極的に使われているわけでもない。カーナビの言葉は理解できていないけど、それでトラブルに巻き込まれるわけじゃないし。ドイツのステレオタイプな印象が、ネタとして活用される様子も乏しい。
なのでアメリカ国内でも、ほとんど変わらない内容に出来るんじゃないかと。
ドイツ資本が入っているからドイツが舞台なのかと思ったら、そういうわけでもなさそうだし。

(観賞日:2019年2月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会