『パロディ放送局UHF』:1989、アメリカ

ジョージ・ニューマンは空想癖のせいで、今までのバイト先を次々に解雇されている。今はハンバーガーショップで働いているが、また空想に浸って友人のボブ・ステックラーに注意される。ジョージは店長の悪口を言ってしまい、ボブと一緒に解雇された。彼はカラテ道場を経営する友人のクニに挨拶し、ボブと暮らすアパートへ戻った。恋人のテリ・キャンベルを訪ねたジョージは「もう少し人生を真面目に考えたら?」と促されるが、まるで聞いていなかったので呆れられた。
ジョージの叔父のハーヴィー・ビルチクはギャンブル好きで、会議と称してポーカーに興じた。帰宅した彼は、妻のエスターが腹を立てても全く悪びれなかった。ハーヴィーは町外れの潰れ掛けているUHF放送局、「チャンネル62」の権利書をポーカーで巻き上げていた。彼は売り払うつもりだったが、エスターは「テレビ局を持つなんて素敵」と言う。彼女はハーヴィーの反対を無視し、ジョージにチャンネル62の経営を任せることにした。
ジョージはテリを車に乗せ、チャンネル62へ赴いた。彼は何か変だと感じて尻込みするテリを連れて、建物に入った。するとエンジニアのファイロが住んでおり、ジョージは実験を手伝わされた。翌朝、ジョージはボブとチャンネル62へ行き、パメラ・フィンクルスタインに挨拶する。パメラはレポーター志望で入社しており、2年間も受付係の仕事が続いていることにウンザリしていた。大手メジャーテレビ局「チャンネル8」の社長を務めるRJ・フレッチャー宛ての郵便物が間違えて配達されたことを知ったジョージは、彼に会うため自分が届けることにした。パメラは「最悪な男だって評判よ」と反対するが、ジョージは全く気にしなかった。
フレッチャーは息子のリチャードたちを呼んで会議を開き、報告書が無くなったことを知る。彼は掃除係のスタンリー・スパダウスキーの仕業だと確信し、すぐに呼び付けた。スタンリーは関与を否定するが、フレッチャーはクビを通告した。スタンリーが部屋を去った直後、フレッチャーは椅子の上に置いてある報告書を発見した。ジョージが郵便物を届けると、フレッチャーは「盗難だぞ」と睨む。ジョージは説明しようとするが、「不法侵入で警察を呼ぶぞ」と脅されたので慌てて立ち去った。
ジョージは大事なモップを奪われたスタンリーに声を掛け、事情を聞いて雇うことにした。ジョージはパメラをTVリポーターに起用し、カメラマンのヌードルス・マッキントッシュと共に市役所から生中継させる。パメラは予算会議を終えて出て来た市長に取材しようとするが、ヌードルスが転倒してカメラが壊れてしまった。チャンネル8のリポーターとして現場に来ていたリチャードは、パメラを侮辱する言葉を浴びせた。パメラはフレッチャーに電話して抗議するが、また侮辱されて激怒した。
ジョージは自ら司会者を務める番組『タウン・トーク』を始めるが、ゲストがチェーンソーで指を切断してしまった。彼は子供向け番組『アンクル・ナッチーのクラブハウス』でも司会を務めるが、道化師にクッキーと間違ってドッグフードを食べさせてしまった。デスクワークの最中、ジョージは転寝して空想の世界に入り込んだ。彼はスタンリーに起こされ、仕事に戻った。テリの誕生日に彼女の両親とカフェで会う約束をしていたジョージだが、すっかり忘れていた。
ジョージはボブから、チャンネル62が多額の赤字を抱えて週末には倒産することを知らされる。ようやく約束を思い出したジョージだが、怒ったテリからの電話で別れを告げられた。傷心の彼は『アンクル・ナッチーのクラブハウス』を途中で放り出し、スタンリーに代役を任せて酒を飲みに行く。ジョージがボブと一緒にバーへ行くと、テレビの前に客が集まった。『アンクル・ナッチーのクラブハウス』がテレビでは放送されており、スタンリーの言葉に子供たちが盛り上がっていた。バーの客も釘付けで、スタンリーの熱いメッセージに拍手を送った。チャンネル62に戻ったジョージは、スタンリーにレギュラー出演を要請した。
『スタンリーのクラブハウス』が人気番組になったおかげで、3ヶ月のスポンサー契約が入った。ジョージは新番組の企画を考え、体重の分だけ魚が当たる『ウィール・オブ・フィッシュ』を開始する。司会はクニが担当し、出場者はルーレットで魚の種類を決めた。他にはファイロが司会を務める科学番組や、ラウル・ヘルナンデスが司会を務める動物番組もスタートさせた。ジョージはテリの留守電に泣き付くメッセージを入れ、部屋に大量の風船を浮かべて機嫌を取った。
チャンネル62は視聴率でトップに立ち、次々に新番組を立ち上げた。一方、チャンネル8はスポンサーが手を引き始め、フレッチャーは息子たちに「早急に手を打たねばならん」と告げた。同じ頃、ハーヴィーは競馬で7万5千ドルの負債を抱え、マフィアのルイから2日以内に支払うよう要求された。フレッチャーはハーヴィーに電話を掛け、チャンネル62の売却を持ち掛けた。フレッチャーはチャンネル62へ赴き、測量を始めた。
フレッチャーはジョージたちに、チャンネル62を買い取ったことを伝える。ボブが「1つの街で2つの局を持つのは法律違反だ」と指摘すると、彼は「では駐車場にしよう」と高笑いを浮かべた。まだハーヴィーは契約書に署名しておらず、ジョージは電話を掛けて「金なら何とかする」と売却を思い留まるよう説得した。ジョージはフレッチャーに邪魔されないよう、ファイロに見張りを頼む。彼は視聴者に株券を購入してもらうテレソンを放送し、局を救ってほしいと呼び掛けた。フレッチャーはギャングを差し向けて司会のスタンリーを誘拐し、番組を妨害する…。

監督はジェイ・レヴィー、脚本はアル・ヤンコヴィック&ジェイ・レヴィー、製作はジーン・カークウッド&ジョン・ハイド、製作総指揮はグレイ・フレデリクソン、共同製作はケヴィン・ブレスリン&デレン・ゲッツ、製作協力はベッキー・クロス&ジョー・アギラー、撮影はデヴィッド・ルイス、美術はウォード・ブレストン、編集はデニス・オコナー、衣装はトム・マッキンレー、音楽はジョン・ドゥ・プレズ。
主演は“ウィアード・アル”・ヤンコヴィック、共演はヴィクトリア・ジャクソン、ケヴィン・マッカーシー、マイケル・リチャーズ、デヴィッド・ボウ、スタンリー・ブロック、アンソニー・ギアリー、トリニダード・シルヴァ、ゲディー・ワタナベ、ビリー・バーティー、ジョン・パラゴン、フラン・ドレシャー、スー・アン・ラングドン、デヴィッド・プローヴァル、グラント・ジェームズ、エモ・フィリップス、ルー・B・ワシントン、ヴァンス・コルヴィグJr.、ニック・ハグラー、ロバート・K・ワイズ、エルドン・G・ハラム、シェリー・エングトロム、サラ・アレン、ボブ・ハンガーフォード、ジョン・ケイデンヘッド、フランシス・M・カールソン、アイヴァン・グリーン、アダム・マラス、トラヴィス・ナイト、ジョセフ・ウィット他。


パロディー音楽で有名になった“ウィアード・アル”・ヤンコヴィックが、初めて主演を務めた作品。
アル・ヤンコヴィックのMVを演出してきたジェイ・レヴィーが、映画初監督を務めている。
脚本はアル・ヤンコヴィックとジェイ・レヴィーが共同で担当。
ジョージをヤンコヴィック、テリをヴィクトリア・ジャクソン、フレッチャーをケヴィン・マッカーシー、スタンリーをマイケル・リチャーズ、ボブをデヴィッド・ボウ、ハーヴェイをスタンリー・ブロック、ファイロをアンソニー・ギアリー、ラウルをトリニダード・シルヴァ、クニをゲディー・ワタナベ、ヌードルスをビリー・バーティー、リチャードをジョン・パラゴン、パメラをフラン・ドレシャー、エスターをスー・アン・ラングドンが演じている。

公開当時、既に著名だった出演者について少し補足しておこう。
ヴィクトリア・ジャクソンは当時、『サタデー・ナイト・ライヴ』のレギュラー出演者だったコメディー女優。ケヴィン・マッカーシーは『セールスマンの死』でゴールデン・グローブ賞の新人賞を受賞し、『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』では主演を務めた俳優。ビリー・バーティーは小人症の俳優で、『マスターズ 超空の覇者』や『ウィロー』など数多くの映画に出演している。
後に有名になった2人の出演者についても触れておこう。
マイケル・リチャーズは1989年から放送されたTVドラマ『となりのサインフェルド』で、コズモ・クレイマーを演じた。フラン・ドレシャーは1993年から放送されたTVドラマ『The Nanny』で、エミー賞とゴールデン・グローブ賞にそれぞれ2度ノミネートされた。

主演の“ウィアード・アル”・ヤンコヴィックについて、簡単に解説しておこう。
彼は大学生の頃からヒット曲の替え歌を発表し、プロとしてデビューした。
1984年にはマイケル・ジャクソンの『Beat It』をパロディーにした『Eat It』が大ヒットし、1988年にはマイケル・ジャクソンの『BAD』のパロディーである『Fat』もヒットした。
他にもマドンナの『Like a Virgin』のパロディー『Like a Surgeon』、ジェームズ・ブラウンの『Living in America』のパロディー『Living with a Hernia』などを発表している。

冒頭、ジャングルで洞窟を発見したジョージに背後から刺客が忍び寄り、拳銃を構える。ジョージが振り向いて鞭で攻撃すると、刺客の右腕が落ちる。洞窟に入ったガイドが怯えて逃げ出すと、走って来た電車にひかれて死ぬ。
ジョージがジャングルを進むと、立ち入り禁止の標識が大量に並んでいる。その先へ進むとトロフィーがあり、ジョージが手に取ると罠が作動する。巨大な鉄球に追われたジョージは逃走し、町で踏み潰されてペシャンコになる。
この6分ほど続くシーンは、ジョージがバーガーショップで働いている最中に空想している内容だ。
たぶん分かる人も多いだろうが、ここは『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』のパロディーになっている。

ジョージがデスクワークをしている最中、2度目の空想シーンが入る。
ここではポリゴンのジョージが椅子に座っており、テレビで流れているバンドのステージに入り込む。ジョージはバンドのギター&ボーカルを担当し、MVの状態になる。
ここはダイアー・ストレイツのMV『Money for Nothing』のパロディーになっている。空想に入る前のドラマやデスクワークとは、何の関係も無い。
空想のパロディーは映画だけにしておいてもいいと思うんだけど、どうしてもやりたかったんだろう。

パロディーだけでなく、もちろん別の形でも笑いを取ろうとしている。
悪口に怒った店長がジョージとボブを追い出す時、かなり遠くまで放り投げる。クニの道場は2階にあって、生徒が窓を突き破って落下する。
ジョージが時間を気にすると壁を突き破って腕が飛び出し、そいつが付けている腕時計で時間を確認する。
エスターがハンサムな顔だと言ってジョージの頬を引っ張ると、ゴムのように長く伸びる。
『タウン・トーク』のゲストのジョー・アーリーはチェーンソーを使い、右手の親指を切断してしまう。

ラウルは動物番組で「プードルに空を飛ばせる」と言い、窓から愛犬を放り投げるが墜落して死ぬ。
個性的な帽子を被っているチャンネル8の幹部はリチャードに「その変な物を取れ」と命じられ、付け髭を外す。
TV番組のパロディーもあり、子供番組やクイズ番組、科学番組や動物番組などがネタにされる。
TVコマーシャルのパロディーもあり、中古車販売店、調理器具の専門店、葬儀社、コーンフレークなどがネタにされる。

テリーに振られたジョージがスタンリーに番組を任せてバーへ行くと、テレビの前に大勢の客が集まる。目当ては『アンクル・ナッチーのクラブハウス』で、スタンリーの熱い言葉に喝采を送る。
でも、スタンリーが番組に出たのは、その日が初めてだ。なので、バーの客が噂で彼のことを知っているはずもないし、だからテレビの前に彼目当てで集まっているのは無理のある展開だ。
さらに言うと、スタンリーの司会ぶりは、一気に子供たちの心を掴んだり、大人の視聴者を熱くさせたりするようなモノではない。
そこには何の説得力も無いし、喜劇としての勢いや力も皆無だ。

空想シーン以外では、一瞬だけ予告CMが流れる『コナン・ザ・ライブライアン(図書館員)』もパロディーだ。
もちろん、その元ネタはアーノルド・シュワルツェネッガーが主演した『コナン・ザ・バーバリアン』。図書館員のコナンが本を借りに来た客に質問されると持ち上げて威嚇し、返却を忘れていた客を剣で真っ二つにしたりする。
ここは、もうちょっと時間を割いてパロディーを描いても良かったんじゃないかと思うけどね。
まあジョージが全く関与しないパロディーではあるんだけどさ。

テレソンの途中で来週に放送される番組『ガンジー2』の予告が入る。ガンジーが行く先々で暴力を振るい、美女をはべらせてステーキを頬張り、マシンガンを乱射する。
ここを1分程度で終わらせちゃうのは、ものすごく勿体無い。
さっきの『コナン・ザ・ライブライアン』もそうなんたけど、なぜか「ここを厚くすりゃいいのに」と感じるトコを短く切り上げているのよね。
まあアメリカで放送されている番組やCMを知らないから、そのネタの面白さが伝わりにくいという事情はあるんだけどさ。

ここまでの批評を読んで、やや残酷なネタが多いのに気付くかもしれない。人や動物が殺されるとか、大怪我を負うとか、そういうネタが結構ある。喜劇として成立しているケースもあれば、そこに至らないケースもある。
具体的には、『コナン・ザ・ライブライアン』で客が真っ二つになるのは笑いとして成立しているが、アーリーが指を切断するのは喜劇になっていない。
そこの差は、たぶん「振り切っているか否か」ってことだろう。本を返さなかっただけで真っ二つにされるのは非日常的だが、チェーンソーで誤って指を切断するのは実際に起きるかもしれない出来事だ。
例えば「指を切断したのに全く気付かずニコニコしている」とか、もしくは「気付いても作業を続けて有り得ない大惨事を引き起こす」ってトコまで振り切れば、笑いになったかもしれない。

ジョージが捕まったスタンリーの救出に向かうと、『ランボー』のパロディーになる。
近距離で敵に矢を放つと爆発し、遊覧ヘリに20ドルを支払ってスタンリーと共に脱出を図る。敵が放った銃弾を口でキャッチし、マシンガンのように発射して敵を爆発させる。追って来たフレッチャーのヘリコプターを砲撃して爆発させ、さらに砲撃を繰り返してエッフェル塔やコロッセオを破壊する。
もちろん、これは妄想であり、実際にスタンリーを救出しているわけではない。あと、ここのパロディーは、そんなに面白くない。
映画のラストは『風と共に去りぬ』だが、これも普通に1シーンを真似ているだけで、笑いの要素は皆無に等しい。
『コナン・ザ・バーバリアン』と『ガンジー2』の時点では「この作品で面白いのは映画のパロディーの部分だな」と思ったが、後の2つで「それも違う」ってことになる。

(観賞日:2021年11月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会