『パニック・イン・スタジアム』:1976、アメリカ

ロサンゼルスの高層ホテルの一室から、ライフルを構えている人物がいた。男は自転車を走らせている夫婦に照準を合わせ、夫を狙撃して殺害した。男はライフルを解体してコートに仕込み、部屋を後にした。彼はチェックアウトは、車に乗り込んだ。その日は日曜日で、9万人を収容するLAコロシアムでは地元チームとボルティモアのチームが対戦するNFLのチャンピオン・シップが開催される。犯人の行き先は、そのコロシアムだった。
ボルティモアのQBを務めるチャーリー・タイラーは膝を痛めているが、強行出場が決まっている。彼は大学時代の友人である神父のボブを訪ね、試合を見に来てほしいと告げた。サンドマンはノミ屋のマックスに電話を掛け、LAに3万ドルを賭けた。スティーヴは愛人のジャネットと一緒にコロシアムへ向かうが、その関係は決して良好とは言えない。失業中のマイケル・ラムジーと妻のペギーは、2人の息子を連れてコロシアムへ向かう。
サンドマンは犯罪組織のボスであるのグリーンから呼び出され、借金の2万8千ドルを返済するよう迫られる。「水曜には返しますよ」と笑顔で告げるサンドマンに、グリーンは「ギャンブルに使う前に返せ」と要求する。「水曜までには返しますよ」と告げてサンドマンが去ろうとすると、グリーンは手下たちに命じ、彼を窓から逆さ吊りにする。サンドマンを部屋に戻したグリーンは、「夕方までに金を返済しないと殺す」と脅しを掛ける。
テレビ番組のディレクターは中継車に入り、飛行船の映像などをチェックする。犯人は係員にチケットを渡し、コロシアムに入る。彼は鍵の掛かった扉を破壊し、梯子を使ってスコアボード裏の中央塔へ忍び込む。大勢の観客がゲートへ向かう中で、スリの男が仕事をしている。コロシアムのオーナーを務めるサム・マッキーヴァーはロス市警のピーター・ホリー警部に電話を掛け、警備の増援を要請する。双方の知事やアラブの皇太子が来ており、大統領も来場することを、サムはホリーに説明した。
テレビ中継が開始され、実況アナウンサーと解説者が試合の展望について語る。ルーシーが恋人のジェフリーと一緒に来ると、隣の席にはアルという男が座っている。ジェフリーはフットボールが大好きだが、ルーシーとアルは、それほど興味が無い。マーヴ・グリフィンによる国歌斉唱が行われ、観客も立ち上がって一緒に歌う。試合に向けて観客の興奮が高まる中、犯人はライフルに弾丸を装填した。
いよいよ試合が始まり、TVディレクターは部下たちに細かく指示を出す。試合の展開に応じて、それぞれの観客が反応を見せる。遅れてコロシアムにやって来た神父は、サンドマンの隣に座った。ボルティモアがリードしているため、サンドマンは苛立ちを示した。ホリーはキャロウェイ警部補から、今朝の銃撃事件に関する報告を受ける。犯人はホテルの12階から高性能ライフルで1発の銃弾を発射し、植物学の准教授を射殺している。現時点では、犯人が白人であることしか判明していない。
ルーシーはアルに関心を示し、積極的に話し掛けた。双眼鏡を覗いていたマイクは、スコアボード裏に不審な男がいるのを発見した。チャーリーは負傷し、控え選手のストロームと交代した。ストロームの活躍もあり、ボルティモアはさらにリードを広げて14対0となった。LAもフィールドゴールを決めて3点を獲得するが、そこで前半が終了した。ハーフタイムに入り、ルーシーがアルと楽しそうに話しているので、ジェフリーは不機嫌になって「ここを出よう」と言い出した。
飛行船の映像に視線をやった中継スタッフのテッドは、スコアボード裏の犯人を発見した。テッドは「カメラをパンしろ。私が指示するまで、あそこを写すな」と声を荒らげた。彼はサムを呼び寄せ、その映像を確認させた。犯人がライフルを持っているのを目にしたサムは、ホリーに電話を入れた。「ライフルを持った男がいる。大統領が来るんだ」と言われたホリーは、「選手入場口で会おう。大統領の入場は止める。VIPリストをくれ」と告げた。連絡を受けた大統領は、観戦を中止した。
コロシアムに到着したホリーは、中継車で犯人の姿を確認した。管理主任のポールはサムから「屋上に入った者がいる」と言われ、「ドアは鍵を掛けたし、番犬も2匹いる。有り得ない」と反発する。責任を問われて腹を立てたポールは、勝手に屋上へ向かう。しかし梯子を登った彼は犯人にライフルで殴られ、転落死した。ホリーは本部に連絡し、SWATチームの出動を要請した。SWATのクリス・バトン隊長はコロシアムへ急行し、チームのブルッカーやデッカーたちに配置の指示を出す…。

監督はラリー・ピアース、原作はジョージ・ラ・フォンテイン、脚本はエドワード・ヒューム、製作はエドワード・S・フェルドマン、撮影はジェラルド・ハーシュフェルド、編集はイヴ・ニューマン&ウォルター・ハンネマン、美術はハーメン・A・ブルメンサル、 音楽はチャールズ・フォックス、
出演はチャールトン・ヘストン、ジョン・カサヴェテス、マーティン・バルサム、ボー・ブリッジス、マリリン・ハセット、デヴィッド・ジャンセン、ジャック・クラグマン、ウォルター・ピジョン、ジーナ・ローランズ、ブロック・ピータース、デヴィッド・グロー、ミッチェル・ライアン、ジョー・カップ、ウィリアム・ブライアント、パメラ・ベルウッド、ジョン・コークス、アラン・ミラー、アンソニー・A・D・デイヴィス、トム・バウアー、ヴィンセント・バジェッタ、アンディー・シダリス、ウォーレン・ミラー他。


ジョージ・ラ・フォンテインの同名小説を基に、『ある戦慄』『さよならコロンバス』のラリー・ピアースが監督を務めた作品。
ホリーをチャールトン・ヘストン、バトンをジョン・カサヴェテス、サムをマーティン・バルサム、マイクをボー・ブリッジス、ルーシーをマリリン・ハセット、スティーヴをデヴィッド・ジャンセン、サンドマンをジャック・クラグマン、スリをウォルター・ピジョン、ジャネットをジーナ・ローランズが演じている。
他に、ポールをブロック・ピータース、アルをデヴィッド・グロー、神父をミッチェル・ライアン、タイラーをジョー・カップ、キャロウェイをウィリアム・ブライアント、ペギーをパメラ・ベルウッド、ジェフリーをジョン・コークス、グリーンをアラン・ミラー、ブルッカーをアンソニー・A・D・デイヴィス、デッカーをトム・バウアー、テッドをヴィンセント・バジェッタ、TVディレクターをアンディー・シダリス、犯人をウォーレン・ミラーが演じている。

冒頭の狙撃シーンでも、車を走らせるシーンでも、いわゆるPOV(主観映像)で進行されており、犯人の姿は全く写らない。コロシアムに移動した後、犯人の姿は腕や足などパーツが写し出されることはあるものの、全身が画面にハッキリと写し出されたり、顔付きが分かるようなアップが入ったりすることは無い。
テッドたちが犯人の存在に気付いた時、中継カメラの映像の中に、初めて犯人の全身がちゃんと登場する。しかし、相変わらず遠い絵であり、犯人の顔は良く分からない。
ようするに、この映画は「犯人がどんな奴か、何者か」ということに全く重きを置いていないのだ。
だから最終的に事件が解決しても、犯人は名前が分かるだけで、動機も全く明かされないままだ。
そんなことはどうでも良くて、「無差別殺人者の登場によって巻き起こるサスペンス&パニック」ことが重要ってわけだ。

映画が始まってから50分ほどは、主にコロシアムに来た人々を紹介するために費やされる。
パニック映画では、パニックが発生する前に、その場にいる人々を紹介しておくのが基本だ。
ただし、それは発生する現象が災害の場合だ。地震や台風、火事などが発生した場合、その地域にいる全ての人々が何らかの被害を受けることになる。だから、それまでに描いたおいた人間ドラマは、上手く活用することが出来る。
しかし今回は「殺人犯が狙撃して来る」という状況なので、標的にならない人々は、全く被害を受けない。

コロシアムで逃げ惑う観客が何のダメージも受けないわけではなくて、撃たれなかったとしても、精神的なダメージは受けるだろう。
だが、事が起きた時には現場から逃げ出すだけなので、そこまでに描いた人間ドラマの必要性は非常に薄いと言わざるを得ない。
そして、それは撃たれる被害者にしても同様なんだよね。
結局、「撃たれるかどうか」という二択でしかないし、被害を受けるにしても一瞬だ。

地震や火事なら、それが襲って来る時だけでなく、その後も「その場から脱出するための行動」や「仲間を救出するための行動」、あるいは「第二波を回避するための行動」ってのを用意して、話を展開していくことが出来る。
でも狙撃手が狙っているという状況の場合、いざパニックが起きると、そこから話を展開していくことが困難になる。
実際、パニック状態になるのは、残り15分を過ぎてからだ。
そして、パニック状態の人々が逃げ惑う中では、そこまでに描かれた人間ドラマなど、ほとんど意味も持たない。

コロシアムの人々を紹介している過程で、犯人が車を走らせている様子も挿入される。しかし、彼がコロシアムに向かっていることは明白だし、それを描いたからと言って、緊迫感に繋がるわけではない。
犯人がコロシアムに到着した後は、スコープを覗い選手やコーチに照準を合わせている様子も挿入される。しかし、スコープで観客を見ているだけで、撃つ気配は無い。
だから、すぐに「何か変化が生じるまで、犯人が選手や観客を狙う展開に入ることは無いな」と分かってしまう。そのため、犯人がスコープを覗いているカットを入れても、それが緊張感を煽ることには繋がっていない。
何もしない内に前半戦が終了するんだから、だったらライフルを構えていた意味は何だったのかと言いたくなるよ。

サムやホリーが犯人の存在を知ると、すぐに大統領の観戦中止が決定する。彼はコロシアムまで到着することも無く、途中でルートを変更している。
もしも犯人の狙いが大統領だったとすれば、その時点で計画は失敗ってことになるが、それだと話が終わってしまう。
だから、そういう展開にしていることで、犯人の狙いが大統領に無いことは分かる。
それによって、「犯人の狙いは大統領なのでは」というところでサスペンスを盛り上げることも出来なくなる。

犯人は「殺す相手は誰でもいい」という奴なのだが、だったら、なぜ観客を眺めているだけで一向に撃とうとはしないのか、サッパリ分からない。
無差別殺人を目的としているけど、なかなか撃つ気が無いって、どういうことなんだよ。
一応、バトンが「試合後の混乱に乗じて逃げるつもりだ」と推測を述べているので、「だから試合終了の直前まで撃たずに待機している」と解釈すべきなのかもしれんが、腑に落ちる答えではない。

犯人が狙撃する気配は無く、それほど緊迫感が盛り上がるわけでもないので、ほぼ人物紹介だけで終わってしまう前半部分って、「それは何のための時間なのか」ってことになってしまう。
っていうか、標的にならない観客に焦点を当てる必要って、全く要らないんじゃないかと思うんだよなあ。
いっそのこと、パニックが発生するまでの人間ドラマなんて、ザックリと削ぎ落としてしまってもいいんじゃないか。そして、「観客が知らない間に、犯人と警察の息詰まる攻防が繰り広げられる」という構成にしても良かったんじゃないかと。
そうすれば、もっと上映時間を短縮することも出来るはずだし。
内容と照らし合わせると、115分ってのは、ちょっと長いよ。前半部分は、あと20分は詰められると思うなあ。

1時間を経過した辺りで、コロシアムで最初の殺人が行われる。
被害者はポールなのだが、梯子を登ったところで、犯人にライフルの銃底で殴られて転落死するという形。射殺じゃないのよね。なんか、しょぼいぞ。
で、そこから犯人が無差別殺人を開始するのかというと、そうではない。その後も、彼は何もせずに待機しているだけだ。
前述のように、無差別殺人が開始されてパニック状態が発生するのは、映画も残り15分を過ぎてから。

バトンは早く権限を譲渡してもらい、犯人を狙撃して始末しようと考えるのだが、ホリーは「私は平和主義者だ。慎重に行動する」と言い、試合の残り2分になるまで突入を待たせる。
でも、いつ突入しようと同じことのように思えるのだが、なぜ残り2分なんだろう。
どのタイミングで犯人が観客や選手を撃ち始めるかは分からないんだから、なるべく早く事件を解決すべきじゃないかと思うんだが。

SWATが配置に就いてすぐにバトンが権限を貰っていれば、ひょっとすると狙撃のチャンスが何度かあったかもしれないのに、そんな風にホリーが平和主義を気取ってモタモタしているせいで、犯人は試合時間の残り2分を過ぎてから観客の無差別射撃を開始してしまう。
ただ、ホリーだけじゃなくて、SWATチームの方にも問題はあるんだよな。バトンは自信満々だったけど、部下たちは犯人によって次々に始末されている。
で、最後はホリーがSWATの元へ行き、犯人を射殺して美味しいトコロをかっさらう。
あと、仕方がないことではあるんだが、9万人の観客がいるはずなのに、パニックで逃げ惑う人々のモブシーンは、明らかに9万人より遥かに少ないよな。

(観賞日:2013年11月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会