『ピンチ・シッター』:2011、アメリカ

ノアは好意を寄せているマリサの家を訪れ、クンニで奉仕する。絶頂に達したマリサに「最高」と褒められたノアは、調子に乗って喋る。しかしマリサは全く興味が無いので、適当に相槌を打つ。「今度は僕をイカせてよ」とノアが頼むと、やりたくないマリサは「ちょうど胃の調子が悪くて」と適当な嘘をつく。バレバレの芝居なのに、ノアは信じ込んで「いいよ、気にしないで」と告げる。ノアは太陽フレアの影響で発生する磁気嵐に興味を抱いており、「滅多に見られないんだよ」とマリサを誘う。しかしマリサは「ホントに調子が悪くて」と断った。ノアはマリサを恋人だと思っているが、マリサはノアを性奉仕の道具にしか考えていない。
帰宅したノアは、母のサンディーから「ちゃんと仕事は探してるの?母さんだけじゃ貴方を養えないわよ」と言われる。ノアは大学を中退し、仕事もせずにブラブラしているのだ。サンディーは夫と離婚して以来、ノアを女手一つで育てて来た。ノアはテレビを見ながら「お金なら父さんに貰えば?宝石商で金持ちなんだよ」と言うが、サンディーは「人から施しなんか受けたら終わりよ」と口にした。
その日、サンディーは親友のペデューラ夫人に誘われ、出会いを求めてチャリティー・パーティーへ出掛けることになっていた。しかし直前になって、夫人からベビーシッターが急病で来られなくなったという電話が掛かって来た。サンディーから「いい小遣い稼ぎになるんじゃない?」と持ち掛けられたノアは、一度は「僕は大人の男だよ。ベビーシッターなんて御免だ」と断るが、結局は承諾した。
ノアはペデューラ家を訪れ、3人の子供たちと面会する。長男のスレイターは精神的に不安定で、どんなプレッシャーにも耐えられないという問題を抱えている。突如としてパニックに陥ったり、キレてしまったりするのだ。その妹であるブライスはセレブに憧れており、下品な化粧をしてみたり、大人びた言葉を口にしたりする。香水を口に浴びせられたノアは、「俺の言う通りにしないとブチ殺す」と言い放ち、早々に彼女と対決姿勢になった。エルサルバドルから養子に来たロドリゴは、逃亡癖があるのでGPSを取り付けられている。彼は破壊衝動が強く、室内で花火をやっている。
主人のペデューラ医師はノアが飲酒運転で警察の厄介になったことを知っており、「ウチの車には乗るなよ」と釘を刺す。夫婦が出掛けた後、ロドリゴは室内の物を次々に破壊して「掃除しろ」と要求するが、ノアは無視してテレビを見る。そこへマリサから電話が入り、「パーティーに来てるの。貴方も来ない?」と言われる。「母親の用事があって」とノアが言うと、彼女は「でも貴方に会いたいわ。体がうずいてるの。私を貫いて」と言われて「何とかするよ」と言う。するとマリサは、「じゃあ来る途中でコカインを買って来て。カールっていう男に連絡すれば売ってくれるから」と告げた。
ノアはペデューラ家のミニバンを勝手に拝借し、子供たちを乗せて夜の街へ繰り出した。ブライスが放屁した時にウンコまで漏らしたので、ノアは慌てて車を停め、着替えを買いに行く。店員に怪しまれたノアは「俺はベビーシッターだ」と説明するが、ブライスは「でも本物じゃない。それに言う通りにしないとブチ殺すって言われた」と店員に告げる。そこにノアと同じ高校の卒業生であるティナが現れ、「ウチのパーティーで泥酔して、お婆ちゃんの骨壺にゲロしたでしょ。それで私が問い詰めたら逃げやがった」と非難した。ノアは店員とティナを突き飛ばし、ブライスを連れて逃げ出した。
ノアは車を発進させるが、ロドリゴがいないことに気付いた。GPSで居場所を確認した彼は、レストランに入った。ノアはトイレへ行き個室から出て来たロドリゴを発見する。「爆弾仕掛けた」というロドリゴの言葉を本気にしなかったノアだが、数秒後に便器が爆発した。ノアは慌ててロドリゴを店から連れ出し、車に戻った。ノアはカールが経営するスポーツジムを訪れ、彼と会った。そこへ腹を撃たれたフリオという男が駆け込んできて、カールは人工呼吸するようノアに求める。慌ててノアが人工呼吸しようとすると、フリオが笑い出す。撃たれたというのは嘘で、それはノアの身許を確認するための悪戯だった。
ノアがカールからコカインを受け取っていると、ロドリゴが「おしっこ」と言って入って来た。ノアは車に戻るよう命じるが、カールはトイレの場所をロドリゴに教えてやった。車に戻ったノアはパーティー会場へ行こうとするが、ロドリゴが持っている卵型ケースを見て激しく動揺する。それはカールの作ったドラッグ・ケースだったからだ。ノアは返すよう要求するが、ロドリゴは拒否した。強引に奪おうとしたノアは、ケースから飛び出たドラッグを顔に浴びた。
ノアの携帯にカールから電話が入り、「盗んだドラッグか1万ドルか、さっさと返さないと命が無いぞ」と言い、1時間後にチャイナタウンの魚市場へ来るよう要求した。ノアが子供たちに文句をぶつけていると、スレイターは「そんなに嫌ならママたちの元へ連れて行けば?」と告げた。チャリティー・パーティーの会場に赴いたノアは、明らかに場違いな雰囲気に飲まれ、男性と楽しそうに話しているサンディーの姿を目にした。彼は子供たちに「気が変わった。自分で何とかする」と告げた。
解決策を思案するノアは、メールを打つスレイターに苛立ちをぶつける。するとスレイターは、双子の同級生からグランド・スペクトル・ホールで開催されるウェンディーのパーティーに誘われていることを話す。ウェンディーが大金持ちの娘だと知ったノアは、すぐにホールへ向かう。パーティー会場に入ったノアは、気付かれないように注意しながら、プレゼントの山の中にある現金の手紙を盗んだ。そこにホールのスタッフをしている大学時代の同級生ロクサーヌが来たので、慌ててノアは誤魔化した。
ロドリゴがホールで小便しているのに気付いたノアは、急いで止めに行く。ノアが子供たちをホールから連れ出していると、スレイターは同級生のクレイトンと遭遇した。親友だと思っていたクレイトンが自分を裏切ってベンジーと一緒にいるので、スレイターはショックを受けた。クレイトンは冷たい態度で「もう絶交だ」とスレイターを突き放し、その場を去った。ノアは駐車係から、車が見つからないと言われる。ノアが外に出ると、何者かがミニバンを盗んで逃走するのが見えた。
ノアは盗んだ封筒を開けて金を集めるが、3千ドルしか無かった。仕方なく魚市場へ赴いたノアは、3千ドルをカールに渡した。そして「残りは小切手で」と告げてウェンディー名義の小切手を取り出し、「そこにサインをすれば現金になります」と述べた。カールはマリサからの電話を受け、パーティーへ行くことにした。電話を切った彼はノアに、「お前も7千ドルを用意してパーティーに来い。来なければ、どうなるか分かるだろうな」と告げた。
ノアが仕方なく父のジムを訪ね、7千ドルの工面を頼んでみた。しかし「7千ドルを渡す理由が無い」と冷たく拒絶された。「父さんは養育費も払わずに僕たちを捨てた。これで差し引きゼロでしょ?」とノアが言うと、ジムは「相変わらず屁理屈ばかりだな。そんなんじゃ、いつまで経っても成長できないぞ」と告げる。ノアは「俺を心配してるフリは要らない。トラブルに巻き込まれてるんだ。今日だけは親らしいことをしてくれないかな」と言うが、「トラブルはお前の責任だ」と突き放された。
ノアはジムに気付かれないよう、宝石店の鍵を拝借した。ジムの車を盗んで宝石店へ赴いたノアは、鍵を使って侵入した。しかしコードを入れたのに、警報が止まらない。「どんなコードにも俺の誕生日を使っていたのに」と焦るノアに、スレイターは「他の人の誕生日かも」と告げる。試しにノアは、ジムの新しい家庭にいる息子の誕生日を入れてみた。すると警報は鳴り止んだ。宝石を盗んだノアが立ち去ろうとすると、ロドリゴがトイレから出て来た。ノアが子供たちを連れて店を飛び出すと、直後に大爆発が起きた。
ノアはミニバンが走り去るのを目撃し、子供たちを車に乗せて追い掛ける。すると運転していたのはティナで、仲間たちとクラブへ入っていく。ノアはクラブに入り、ミニバンを返すようティナに要求する。ティナが荒っぽい態度で「帰りな」と言うと、ノアは「骨壺にゲロを吐いたのは事実だけど、あれは事故だ。心の底から謝るよ。顔を一発殴ってくれ」と告げる。ティナはパンチを浴びせ、ミニバンの鍵を返した。ティナの恋人であるジャコルビーはノアを気に入り、「何かあったら電話してくれ」と告げた…。

監督はデヴィッド・ゴードン・グリーン、脚本はブライアン・ゲイトウッド&アレッサンドロ・タナカ、製作はマイケル・デ・ルカ、製作総指揮はジョナ・ヒル&ドナルド・J・リーJr.&リサ・マスカット&ジョシュ・ブラットマン、撮影はティム・オアー、編集はクレイグ・アルパート、美術はリチャード・A・ライト、衣装はリア・カッツネルソン、音楽はデヴィッド・ウィンゴ&ジェフ・マキルウェイン、音楽監修はマーク・ワイク。
出演はジョナ・ヒル、サム・ロックウェル、マックス・レコーズ、アリ・グレイナー、JB・スムーヴ、ランドリー・ベンダー、ケヴィン・ヘルナンデス、カイリー・バンバリー、エリン・ダニエルズ、D・W・モフェット、ジェシカ・ヘクト、ブルース・アルトマン、クリフ・“メソッド・マン”・スミス、ショーン・パトリック・ドイル、アレックス・ウルフ、ジャック・クリズマニッチ、グレイス・アロンズ、ジェーン・アロンズ、ルー・カバナー、アリシア・ジョイ・パウエル、アーニー・アナストス、ダリ・アレクサンダー・ウィリアムズ、サミラ・ワイリー、サミュエル・ソイファー、ケヴィン・タウンリー他。


主演のジョナ・ヒルが製作総指揮も務めたコメディー映画。
監督は『スノー・エンジェル』『スモーキング・ハイ』のデヴィッド・ゴードン・グリーン。
ノアをジョナ・ヒル、カールをサム・ロックウェル、スレイターをマックス・レコーズ、マリサをアリ・グレイナー、フリオをJB・スムーヴ、ブライスをランドリー・ベンダー、ロドリゴをケヴィン・ヘルナンデス、ロクサーヌをカイリー・バンバリー、ペデューラ夫人をエリン・ダニエルズ、ペデューラ氏をD・W・モフェット、サンディーをジェシカ・ヘクト、ジムをブルース・アルトマン、ジャコルビーをクリフ・“メソッド・マン”・スミスが演じている。

ノアにまるで共感できず、これっぽっちも魅力を感じないってのがツラい。
「大学を辞めて家でブラブラしているニート」という設定であっても、その段階では「愛すべき男」になれる可能性は充分すぎるほど残っている。
「マリサに性奉仕の道具として利用されているのに、それに気付かず彼女だと思い込んでいる単細胞男」という時点では、「愛すべきバカ」としての資格を有している。
しかし、母親から仕事を探すよう求められても軽く受け流し、帰宅した途端にテレビを見始めた時点で、ちょっとヤバそうな匂いが漂って来る。

近くに置いてある電話が鳴ったのにノアは取ろうとせず、テレビを見続ける。2階へ行った母親が「出てくれる?」と頼んでも、ノアは「電話だよ」と繰り返して彼女を呼び、電話を取らせる。
この段階で、「愛すべきバカ」としての可能性が完全に消える。
「もっと人に思いやりを持たなきゃ」とサンディーに諭されても「持ってるよ。だから電話が鳴ってるって教えた」と詫びれずに正当性を主張するので、ここで完全に「不愉快な奴」のレッテルが貼られる。
サンディーがガミガミとうるさいとか、陰険な態度で嫌味ばかり言うとか、ノアを邪魔者扱いするとか、そういうことであれば、まだ対比としてノアに同情を寄せるとか、ノアの不快な部分が誤魔化されるとか、そういうことはあったかもしれない。
しかしサンディーは息子思いの優しい母親なので、そういうことも無い。そのため、ノアの不愉快な部分は、こちらへ向けてストレートに伝わってくる。

その後、ベビーシッターのバイトを持ち掛けられて即座に断ったものの、「忘れて、この年で出会いを求めるのが間違ってたわ」という母親の言葉を聞いて、「仕方なく」という態度ではあるものの、その仕事を引き受けるので、少しだけノアの好感度が回復する。
しかし、引き受けたからには子供たちの面倒を見ようとするのかと思いきや、ただテレビを見ているだけで、全く面倒を見ようとはしない。
「最初は面倒を見ようとしたけど、全く言うことを聞かずに暴れるので仕事を放棄する」とか、そういうことではないのだ。
このため、せっかく少しだけ回復した好感度も、あっという間に下がる。

マリサからコカインを買ってパーティーに来るよう頼まれたノアは、ホイホイと承諾する。
本来なら「マリサに都合良く利用されている哀れな男」として同情を誘っても良さそうなものだが、全く同情心は沸かない。
そして彼はベビーシッターとしての仕事を放棄し、マリサの元へ向かう。
「ホントは嫌だが遠足に連れてってやる」と告げて子供たちは同乗させるが、もちろん「子供たちを家に置き去りにしていないだけマシ」なんてことは全く無い。そもそも、勝手にペデューラ家の車を拝借し、平気な顔をしている時点でアウトだ。

ノアが強い不快感を抱かせる原因の1つは、自宅に電話が掛かって来た時に母親に取らせる行動や、ペデュー家の車を拝借する行動などに見られるように、自分が悪いことをしているという意識が無くて、他人に迷惑を掛けていることに対して申し訳ないという態度を全く示さないってことだ。
特に酷いのが、ウェンディーのパーティー会場から現金3千ドルを盗む行為。
パーティー参加者にも、その現金を持って来たゲストにも、何の落ち度も無いし、悪い連中でもない。
だから、ノアが「無関係な赤の他人から金を盗んだ」という、ただの卑劣な窃盗でしかない。
そして、その行為に関して、ノアは全く罪悪感を示さない。

ノアが宝石を盗む行為に関しては、その前に「ジムが父親らしいことを何もしておらず、ノアを冷たく拒絶する」という行為があるので、「それと引き換えに宝石を盗み出す」という差し引きの関係性が成り立つ。
向こうが酷い奴なので、そんな奴から宝石を盗んでも、ノアの犯罪行為に情状酌量の余地が生じる。
余地どころか、むしろ「ジムへの仕返しとしてスカッとする行為」と言ってもいいし、ノアが罪悪感を抱かなくても一向に構わない。
しかしウェンディーのパーティー会場から現金を盗む行為は、それとは全く意味が異なるのだ。

せめて、最終的にノアが金を返せばともかく、そういうことも無い。そもそも、ノアは金を盗んだことを後から反省したり悔んだりすることもない。
そのため、ノアが自分の行為を正当化しているだけでなく、映画としても窃盗行為を正当化している形になっている。
そして、そんな卑劣な泥棒であるノアが罪を償ったり反省したりしていないのに、なぜか彼は最終的に「マリサをカールから救って勇敢に立ち向かい、厄介な子供たちを良い子に変化させた素晴らしい男」になっている。
そりゃ無いわ。

ペデューラ家の子供たちは総じて問題児という設定であり、だから一応は「ノアが子供たちの奔放すぎる行動に振り回されたりオロオロしたりする」というベタな展開もあることはある。
しかも、こいつらは「大人が子供の面倒を見る」というプロットのコメディーでは良く見られるレベルの問題児ではなく、かなり尖った設定だ。だから、下手をすると「不愉快なガキども」になってしまう可能性もある。
だが、この映画の場合、そういう心配は全く無い。
なぜなら、子供たち以上にノアが問題児であり、不愉快な存在だからだ。
でも、「ノアが不愉快な問題児だからガキどもが不愉快な問題児に見えることは無い」ってのは、決して褒められることではない。

チャリティー・パーティーの会場を訪れたノアが「気が変わった。自分で何とかする」と言い出すのは、たぶん母親が男性と楽しそうに話している姿を見たのが原因だ。
最初は嫌がっていたベビーシッターを引き受けたのもそうだけど、ようするに母親を思いやる気持ちが全く無いわけではないってことなんだろう。
ただ、そこで好感度を少しだけプラスしても、他の部分でのマイナスが多すぎて、リカバリーには遠く及ばない。
焼け石に水になっている。

ノアがスレイターと2人きりで話すシーン辺りから、彼の不愉快な態度や身勝手な行動はすっかり薄くなっている。そして、むしろ優しさや勇ましさをアピールするような行動が目立つようになる。
たぶん「最初は不愉快な奴に見えたけど、根はいい奴であり、子供たちと触れ合う中で次第に良心や善意が顔を出すようになっていき、人間的にも成長する」という形で描きたかったんだろう。
ただ、そこの変化をスムーズに表現できていない。
そして繰り返しになるが、ノアは自分の犯罪行為を反省していないし、償ってもいない。

もう1つ、この映画には大きな欠陥があって、それはノアの子供たちが触れ合うドラマがものすごく薄っぺらいってことだ。
本来ならば、ノアが子供たちと触れ合うことで精神的に成長するとか、ノアの影響を受けて子供たちが変化するとか、ノアの助力で子供たちの抱えている問題が解決に至るとか、最初は険悪だったのが次第に仲良くなるとか、そういうドラマが厚みを持って描かれるべきなのだ。
それはベタだとか、ベタじゃないとか、そういうことではなくて、「主人公が子供たちのベビーシッターを引き受けた」というコメディーを構築するのであれば、必須条件と言っていい。
ところが実際には、そこへの意識が薄弱で、子供たちが全く関与しないところでノアがカールやフリオと絡んだり、ロクサーヌと絡んだりする。
もちろん、周囲のキャラクターを積極的に活用するってのは悪いことじゃない。しかし、まず何よりも重視すべきはノアと子供たちの関係なのだ。それなのに、そこが疎かになっている。

例えば、ブライスは宝石店で「パパが助手のデブラとキスしてるの見た。いつもパパが病院に遅くまでいるのはデブラとキスするためなの。ママも知ってるけど知らなフリしてる」と悲しそうに打ち明けるが、そこまでに彼女が悩みを抱えているような様子は微塵も無かった。
だから、その告白は、ものすごく唐突で取って付けたような印象を受ける。
そんな彼女に対してノアは「人は時々、傷付け合ってしまうものなんだ。昔、親友を急に殴ってしまったことがある」と言うのだが、それだけでブライスの心の悩みは晴れてしまうのだ。
なんて簡単なのか。

スレイターがロドリゴに精神安定剤を捨てられた時、「僕には薬が必要なんだ」と喚く彼にノアが「お前はゲイだ。病気じゃないから薬は要らない」と言い出すのも、あまりにも唐突で違和感が強い。
「それは勝手な決め付けなんじゃないのか」と思ってしまう。
そこまでに「スレイターは同性愛者である」と断定できるような情報は、ほとんど提示されていない。
ところが、スレイターが「自分でもそうじゃないかと思っていた」と言い出し、ノアは「優れた観察眼を持ち、的確な助言を送る素晴らしいベビーシッター」ということになってしまう。
それは強引すぎるわ。

クラブへ入ったノアがティナに「俺は今、ベビーシッターをやってるけど彼女にドラッグを調達しなきゃならないんだ。でもホントは彼女なんかじゃないって分かってる。相手にもしてない。君は僕を嫌ってる。今じゃギャングみたいに振る舞ってるけど、数年前は同じ高校に通う同じクソガキだった。だから、あの頃みたいに決着を付けよう」と告げて、顔を殴るよう促す。
で、「相変わらずヘタレだと思ったけど」とティナが言うと、「生まれ変わったんだ」と告げる。
ちょっと描写がボヤけてはいるものの、そこは「ノアが生まれ変わった」ということを示すシーンだ。
だけど、変化のきっかけが良く分からない。
その前にスレイターと2人きりになり、父親に愛されなかったことや自分がネガティヴな人間であることを話しているが、それがきっかけなのか。だとすれば、きっかけとしては弱い。

スレイターとブライスに関しては、かなり弱いけど、それでも「ノアと話すことで抱えている問題が解決される」という描写は用意されているだけロドリゴよりはマシだ。
ロドリゴに関しては、何も用意されていない。彼が変化するのは、たぶんマリサのパーティー会場でスレイターと2人きりで話したのがきっかけだろう。
ただ、そもそもノアの影響で変化したわけじゃないってのも問題だし、スレイターとの会話でロドリゴが変化する理由もサッパリ分からんぞ。
それと結局、磁気嵐の件は何だったのかと。いかにも伏線っぽく何度も触れていたのに、投げっ放しなのかよ。

(観賞日:2014年5月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会