『パージ:大統領令』:2016、アメリカ

仮面を被った男が一軒の家に侵入し、家族4人を縛り上げて口を塞いでいた。彼はソファーに座らせた家族の前で、音楽を流して楽しんだ。男は家族の母親に「せめてもの情けだ」とゲームを提案し、1人だけパージから生き残る人間を選ぶよう要求した。18年後、パージの2日前。新しい建国の父(NFFA)がパージで富を得ているという報道を受け、ワシントンでは抗議運動が発生していた。パージに反対するダンテ・ビショップは、「20年に渡り、NFFAは貧困層を減らす殺人を容認してきた」と批判する声明を出した。
抗議運動の影響は次期大統領選挙にも及び、NFFAのオーエンズ牧師は苦戦を強いられていた。対抗馬となる無所属のチャーリー・ローン上院議員は、18年前に目の前で家族を殺されていた。彼女が政界入りした目的は、パージを廃止することにあった。NFFA指導者のケイレブ・ワレンズは会議を開き、部下に「目的のためなら手段を選ぶな」と怒りをぶつけた。彼はメンバーに対し、「我々の築いた物を奪おうとする連中は、今年のパージを使って排除する」と宣言した。
デリを営むジョー・ディクソンは選挙戦を報じるテレビのニュースを見て、ローンについて「勝てるわけがない」と口にする。常連客のレイニー・ラッカーも「この女も口先だけよ」と同調するが、従業員のマルコスは「彼女は勝てる。変化を起こす」と反論する。マルコスは選挙戦の勝利について、「鍵はフロリダだ」と言う。ジョーは常連客のアイリッシュに、「期待を抱くと失望する。そうだろ?」と同意を求める。しかしアイリッシュは、選挙に何の興味も示さなかった。
パージまで1日。NFFAの広報官は「富裕層が得をするパージなど目指していない」とコメントし、今後は誰にも免除を与えないと発表した。上院議員もパージの対象となるため、ローンの警備を担当するレオ・バーンズは隠れ家を手配しようとする。しかしローンは、「自宅で過ごす。金持ちみたいに要塞で隠れていたら、大事な票を失う」と拒否した。今やパージは人気の旅行ツアーとなっており、世界中から多くの客がアメリカにやって来た。
女子高生のキミーと友人がデリを訪れ、チョコバーを万引きしようとする。気付いたジョーが「商品を戻せば通報しない」と言うと、2人は反抗的な態度を取った。そこへレイニーが来て「返しな」と告げると、キミーの友人は相手の正体に気付いた。元ギャングのレイニーは、キミーたちにとって憧れの存在だった。しかし更生したレイニーに幻滅したキミーは商品を返却し、「落ちぶれたね」と言い放って店を出て行った。
レオは警備主任のクーパーや同僚のエリックたちに、ローン邸の厳重な警備を指示した。ジョーは保険会社から、パージ保険料を数千ドルも値上げするという電話を受けた。ジョーは突然の通告に抗議するが、担当者は冷たく電話を切る。彼は店にいたレイニーやマルコスたちに、「明日までに払わないと補償されない。自分で何とかするしかない」と告げた。パージの夜、ジョーは店の屋上へ行き、ライフルを手にして待機した。レイニーはトリアージ・バンを運転し、同僚のドーンと合流した。レオはローンに、セーフ・ルームから出ないよう釘を刺した。彼は外で警備するボビーたちに指示を出し、窓を封鎖した。
パージが始まると、ローンはレオを酒に誘って「これは命令よ」と言う。レオは彼女から自分の警備に付いた理由を問われ、「数年前に息子を殺された。復讐を考えたが、こんな夜は消したい」と述べた。マルコスはデリの屋上に現れ、ジョーに手伝いを申し出た。ジョーが「家に隠れてろ」と諭していると、キミーと仲間3人が電飾の車でやって来た。ジョーとマルコスが威嚇発砲で立ち去るよう要求すると、キミーは「両親は殺してきた。チョコバー寄越せ」と怒鳴る。彼女は仲間に促され、車で去った。
裏切り者だったエリックとクーパーが行動を開始し、傭兵のアールと部隊をローン邸に招き入れた。レオは外の警備チームが殺されていることに気付き、ローンに敵が来ることを伝える。レオは秘密の抜け穴を使い、ローンを連れて邸宅から脱出した。レオは外にいた傭兵たちを始末するが、邸宅からの発砲で胸に怪我を負った。彼はパソコンに仕掛けておいた爆弾を起動させ、その場から逃走した。レオはローンに、「彼らは傭兵です。裏切り者に金を渡せるのは牧師だ」と告げた。アールは部下たちに、ローンの生け捕りを命じた。
警戒しながら町へ出たレオとローンは、ツアー客の連中にスタンガンで気絶させられた。2人はツアー客に包囲されて殺されそうになるが、その様子を目撃したジョーとマルコスが駆け付けた。ジョーとマルコスは一味を全滅させ、レオとローンをデリに避難させた。キミーは仲間を増員して舞い戻り、デリの防犯カメラに向かって「お前らを殺して店を焼き尽くす」と言い放った。ジョーはレイニーに連絡を取り、助けを求めるメッセージを留守電に入れた。
キミーたちはチェーンソーでシャッターを切断し、店に突入しようと目論む。そこへレイニーがトリアージ・バンで駆け付け、キミーたちを一掃した。彼女はジョーたちに、車に乗るよう指示する。ジョーは店に残ろうとするが、マルコスが一緒に来るよう説得した。全員が車に乗り込むと、レイニーは「トリアージ・センターなら安全よ」と告げた。車内では怪我をしたロンドという男が手錠を掛けられており、レイニーは「敵対するギャングに撃たれた。手錠は彼を守るためよ」とレオたちに説明した。
レイニーはローンから「パージの夜に街を流して、人助け?」と問われ、「暗黙のルールがあるの。トリアージは襲われない」と教える。しかしヘリコプターで捜索していたアールは、バンを発見して攻撃する。ロンドは死亡し、レオは自分が追跡弾を撃ち込まれたと気付く。レオは弾丸を摘出するが、バンは黒人ギャングの一団に包囲される。しかしギャングのリーダーはレオたちに、「何もしない。怪我の仲間を助けろ」と要請する。レオは承諾する代わりに、交換条件を出した。
アールは地上班に連絡し、レオたちのバンを攻撃するよう命じる。しかしレオたちは追跡弾を残して逃走し、地上班は待ち受けていた黒人ギャングの一団に始末された。バンがトリアージ・センターに着くと、そこを設立したダンテが出迎えた。彼は仲間のエンジェルを一行に紹介し、そこがセーフ・ゾーンと呼ばれていることを教えた。センターはボランティアのスタッフによって運営され、多くの怪我人だけでなくパージの標的となるホームレスの面々も保護していた。
ダンテは部下たちに武器を持たせ、センターを警護させていた。ローンがパージを逆手に取った噂について確認すると、ダンテは否定した。ジョーが店に戻りたがるので、レイニーは「車で送る。でも危険だと判断したら引き返す」と告げた。マルコスも同行を申し入れ、3人はセンターを後にした。レオはセンター内を調べ、奥の部屋に気付いた。そこへ駆け付けたローンは、ダンテたちがパージを利用して教会にいるオーエンズを抹殺しようと計画していることを知った…。

脚本&監督はジェームズ・デモナコ、製作はジェイソン・ブラム&マイケル・ベイ&アンドリュー・フォーム&ブラッドリー・フラー&セマスチャン・K・ルメルシエ、製作総指揮はリュック・エチエンヌ&ジャネット・ヴォルトゥーノ&クーパー・サミュエルソン、共同製作はフィリップ・ダウ、撮影はジャック・ジューフレ、美術はシャロン・ロモフスキー、編集はトッド・E・ミラー、衣装はエリザベス・ヴァストーラ、音楽はネイサン・ホワイトヘッド、音楽監修はジュリー・セッシング。
出演者はフランク・グリロ、エリザベス・ミッチェル、ミケルティー・ウィリアムソン、エドウィン・ホッジ、カイル・セコー、ベティー・ガブリエル、ジョセフ・ジュリアン・ソリア、レイモンド・J・バリー、クリストファー・ジェームズ・ベイカー、アダム・カンター、リザ・コロン=ザヤス、イーサン・フィリップス、テリー・セルピコ、バリー・ノーラン、ジャレッド・ケンプ、ブリタニー・ミラビル、ナイーム・デュレン、ナヒーム・ガルシア、スティーヴン・バークハイマー、トム・ケンプ、ポートランド・ヘルミッチ、ロマン・ブラット、デヴィッド・アーロン・ベイカー、ジョージ・リー・マイルス他。


シリーズ3作目。脚本&監督は1作目から全てジェームズ・デモナコが手掛けている。
ダンテ役のエドウィン・ホッジは3作連続の出演で、レオ役のフランク・グリロは前作からの続投。
ローンをエリザベス・ミッチェル、ジョーをミケルティー・ウィリアムソン、オーエンズをカイル・セコー、レイニーをベティー・ガブリエル、マルコスをジョセフ・ジュリアン・ソリア、ケイレブをレイモンド・J・バリー、ハーモンをクリストファー・ジェームズ・ベイカーが演じている。

これまでのシリーズ2作の批評において、世界観やパージのルール設定に多くの無理を感じることには触れて来た。
もちろんシリーズ作品だから、そういう問題は引き継がれている。
穴の多さに気付いたら修正することは可能だが、まるで気付いていないか、穴だとは思っていないか、気付いても無視しているか、いずれかだろう。
ともかく、そこに今さらツッコミを入れても仕方が無いので、「デタラメ放題の作品です」ってことは前提の上で観賞する必要がある。

このシリーズは毎回、「パージがありまして」という話の繰り返しになる。そこのパターンを変えることは出来ないので、マンネリズムを回避するための作業が必要になる。
範囲を広げるなど、方法は幾つか考えられる。
そんな中で本作品が持ち込んだのは、大統領選を絡めるというアイデアだった。
そしてNFFAがローンを始末するために「誰にも免除は与えない」という新ルールを制定することにより、パージに変化を持たせようとしている。

でも、ローンが邪魔だから何とかしたいと思ったのなら、わざわざパージで「誰にも免除は与えない」とか言う必要なんて無いんだよね。
新ルールを発表せずにローンを始末して、貧困層の誰に罪を被せてしまえばいいだけだ。
もっと言っちゃうと、パージの日にこだわる必要も無い。
何しろNFFAは、20年も貧困層を苦しめてきたぐらい強大な権力があるわけで。
どうやら色んな組織に手を回せる力があるみたいだし、その気になればローンを選挙戦から追い落とすことなんて難しくないんじゃないかと。

報道が出るまでNFFAに対する抗議運動が発生していないとか、今までパージ廃止論が全く盛り上がっていないとか、そういうのは不可解だけど、今さら言っても仕方が無い。
ただ、そういったディティールの部分がデタラメなのに、妙に真面目腐って「政治批判」とか「社会問題の提起」という方向でメッセージを発信しようとするんだよね。
それがシリーズの特徴ではあるんだけど、成功しているとは思えない。どうせ基本設定がデタラメなんだから、もっと荒唐無稽へ振り切った方がいいと思うのよ。
でも実際は小ぢんまり&綺麗にまとめようとしているので、余計にディティールの粗さが目立つ結果となっている。
こんな無理がありまくる基本設定の上で真面目に社会問題を提起されても、説得力が無いよ。徹底的に弾けまくって、「その奥に実は政治や社会への風刺が見える」という形にしておいた方がいいんじゃないかと。

これまでのパージでは、「富裕層の連中が貧困層を殺す」という図式になっていた。
しかし今回は、貧困層のキミーが同じ貧困層であるジョーたちを襲ったり、富裕層のNFFAが同じく富裕層のローンを殺そうとしたりする。
貧困層と富裕層が立場を越えて混在する形となっており、社会批判に繋げるための「金持ちvs貧乏」という図式が破綻している。
シンプルな二元論を放棄して代わりに何を得たかというと、それは「無意味な分かりにくさ」だ。
少なくとも、実になるような物は得ていない。まるでジェームズ・デモナコが自分で自分の首を絞めているような状態となっている。

厄介なことに、今回は「大統領候補者を守るためのサバイバル・アクション」という図式が出来上がっている。
これが面白いのかというと、「パージ」という設定の根幹をボカしているだけ。そこを軸に据えることによって、全体としてはパージを楽しもうとする連中と被害者が背景と化しているのだ。
また、ローンを狙う連中が単なる傭兵で、キャラとしての面白味に欠けているのも痛い。
「基本の図式がボケてしまう」という問題をひとまず置いておくとすれば、劇中で最もクセが強いのはチョコバー・ガールズなのよね。
だけど、そんなイカれた連中はローンが傭兵軍団に狙われる話には全く関与せず、あっさりと退場させられちゃうんだよね。

ダンテたちがオーエンズを殺す計画を企てていることを知って、レオとローンは真っ向から反対する。
何しろ2人とも個人的な復讐を放棄した過去を持つぐらいだから、反対するのは当然の反応だろう。それに「オーエンズを殺したら殉教者になってNFFAの支持率が高まる」という意見も、筋は通っているし、理解は出来るのよ。
ただ、そんなクソ真面目な連中を中心に据えることが、作品としてのパワーを著しく削っているように感じる。
「不殺」をポリシーにしているわけじゃなくて、オーエンズ以外の面々は平気で殺すし。

社会派なメッセージを声高に訴えようとしている映画だから仕方が無いのかもしれないけど、そんな真っ当な倫理観とか崇高な精神なんて邪魔なだけなんだよね。
むしろ「パージを利用してNFFAの幹部どもを皆殺しにするぞ」と荒っぽい考えで行動するぐらいの方が、この映画のデタラメっぷりには合っているんじゃないかと思うほどだ。
吹っ切れたクレイジー・パワーを全否定し、地に足の付いたシリアスな作風を心掛けても、つまらなくなるだけなんだよね。

(観賞日:2020年2月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会