『パージ:アナーキー』:2014、アメリカ&フランス

2023年、アメリカ。3月21日、午後4時34分。パージ開始まで、あと2時間26分。ダイナーでは最後の客が帰り、従業員の面々も次々に去る。ウェイトレスのエヴァは、今の給料では父の薬代が払えないので頭を悩ませている。レオはパージに備え、自宅で銃の準備をしている。夫婦関係が悪化したシェーンとリズは、車で家へ向かっている。ドナルド・タルボット率いるNFFAが8年前に政権を奪取し、犯罪の抑止という目的でパージを開始した。しかしカルメロという男が先導する反NFFA集団はネット動画を使い、「パージの目的は貧困層を減らして支出を抑制することだ」と主張して抗議運動を展開している。
エヴァがアパートへ戻ると、隣人のディエゴが口説いて来た。エヴァは軽く受け流し、部屋に戻る。彼女は父のリコ、娘のカリと暮らしている。エヴァが薬を渡すと、リコは「時間と金の無駄だ。要らん」と言う。2人が口論を始めたので、カリが仲裁した。リコは「夕食は要らない部屋で寝て過ごす」と言い、声を掛けないよう頼んだ。エヴァは娘に、昇給を店長に頼んだが駄目だったと明かした。シェーンとリズはスーパーに立ち寄り、買い物を済ませたリズは義姉に別居を話そうと考えていたが、シェーンは「言いたくない」と難色を示した。
パージを待つバイカーのバーニーがシェーンに体をぶつけ、挑発して来た。バーニーと仲間たちは大型トラックや複数のバイクを用意し、夫婦の様子を見ていた。シェーンとリズは、急いで車に乗り込んだ。レオは検察のミスで無実になった犯人への復讐心を燃やし、パージの時間を待っていた。そこへ元妻のジャニスが現れ、思い留まるよう説いた。しかしレオは考えを変えず、「新しい家族の元へ帰れ」と告げた。リコはエヴァとカリに見つからないよう、アパートを抜け出す。外には運転手が待ち受けており、リコは車に乗り込んだ。
リズは車を走らせながら、「別居すると決めたはずよ」と抗議する。シェーンが「合意してないぞ」と言うと、彼女は苛立って「だから、お姉さんに別居を話す必要があるの」と述べた。突如として車が故障し、2人は焦った。レオは車に乗り、街へ出た。シェーンとリズが車を調べると、管が切断されてオイルが漏れていた。そこへバーニーの一味が現れ、シェーンとリズは彼らの仕業だと確信した。2人が車を捨てて夜の街を走る中、パージがスタートした。
シェーンとリズは、バーニーの一味に見つかって逃走する。エヴァとカリは、リコが置手紙を残して去ったことを知った。リコの手紙には、自ら富豪の標的になったこと、10万ドルが口座に振り込まれることが記されていた。富豪の中には、貧しい人や病気の人を高額で購入し、安全な自宅に呼んでパージで殺害する面々もいるのだ。アパートの外を見たエヴァは、軍隊のような武装集団が来たのを目撃する。その直後にディエゴがエヴァを殺そうと乗り込んで来るが、武装集団に抹殺された。
武装集団はクローゼットに隠れたエヴァとカリを発見し、1人が「彼の捜し物だ。外へ連れ出せ」と口にした。2人がアパートの外へ連れ出される様子を、通り掛かったレオが目撃した。レオは放っておけず、車を降りて助けに向かう。その間にシェーンとリズが車を見つけ、身を隠した。レオは武装集団を一掃し、エヴァとカリを車へ連れ帰る。シェーンとリズが隠れていたので、彼は銃を向けて「出て行け」と怒鳴る。しかし武装集団の仲間やバーニーの一味が迫って来たため、仕方なくレオは車を発進させた。
車が弾丸を受けて動かなくなったため、レオはエヴァたちに拳銃を渡して別行動を取ろうとする。エヴァはレオがいた方が安全だと考え、「昔の同僚の所まで行けたら、彼女の車を使わせてあげる」と持ち掛けた。エヴァが元同僚のターニャに電話を入れて承諾を得ると、レオは全員で行動することを受け入れた。彼はバンク通りを進もうとするが、シェーンが「遠回りだ。こっちが近い」と別のルートを選んだ。しかしワイヤーの罠に足を引っ掛けられ、周囲にいた連中が撃って来た。レオやエヴァが反撃している間に、シェーンは罠から脱出した。一行は敵から逃亡し、ビジネス街へ向かった。
ビジネス街を進んだレオたちは、トラックの武装集団が死んでいるのを発見した。制服を見たエヴァとカリは、自分たちを襲ったのと同じグループだと気付いた。一行がトラックを調べると、交通カメラにアクセスできるシステムが設置されていた。都市計画の対象地域が標的になっていると判明し、カルメロを信奉するカリは「これがNFFAの正体よ」と言う。トラックはエンジンが故障し、動かない状態だった。現場には反NFFA組織のマークが残されており、カルメロたちが武装集団を殺したことは確実だった。
別のトラックが来たので、レオたちは逃走して地下鉄の線路を進む。そこへバーニーの一味が来たのでレオたちは必死で逃げるが、反撃を試みたシェーンが怪我を負う。一行はターニャのアパートに辿り着き、レオがシェーンを手当てした。ターニャは妹のロレインと義弟のロディー、両親と共に暮らしていた。能天気に酒を飲んで喋るターニャだが、レオは密かに薬を飲んで深刻な表情を浮かべる彼女を目撃した。不審を抱いた彼は早々に去ろうとするが、エヴァは「車は無い」と嘘をついていたことを告白した…。

脚本&監督はジェームズ・デモナコ、製作はジェイソン・ブラム&マイケル・ベイ&アンドリュー・フォーム&ブラッドリー・フラー&セバスチャン・K・ルメルシエ、製作総指揮はジャネット・ヴォルトゥルノ=ブリル&リュック・エチエンヌ、製作協力はフィリップ・ダウ、撮影はジャック・ジューフレ、美術はブラッド・リッカー、編集はトッド・E・ミラー&ヴィンス・フィリッポーネ、衣装はハラ・バーメット、音楽はネイサン・ホワイトヘッド。
出演はフランク・グリロ、カーメン・イジョゴ、ザック・ギルフォード、マイケル・K・ウィリアムズ、キーリー・サンチェズ、ゾーイ・ソウル、エドウィン・ホッジ、ジャスティナ・マチャド、ジョン・ビーズリー、ジャック・コンレイ、ノエル・G、カストロ・グエラ、キース・スタンフィールド、ロバータ・バルデラマ、ニコ・ニコテラ、ベル・ヘルナンデス、リリー・ナイト、ジャスパー・コール、ブランドン・キーナー、エイミー・プライス=フランシス、ヴィック・サビジャン、マット・ラスキー、ワイリー・B・オスカー他。


2013年の映画『パージ』の続編。
脚本&監督は前作に引き続き、ジェームズ・デモナコが担当。
キャストは放浪者役のエドウィン・ホッジを覗き、総入れ替えとなっている。
レオをフランク・グリロ、エヴァをカーメン・イジョゴ、シェーンをザック・ギルフォード、カルメロをマイケル・K・ウィリアムズ、リズをキーリー・サンチェズ、カリをゾーイ・ソウル、ターニャをジャスティナ・マチャド、リコをジョン・ビーズリー、ディエゴをノエル・G、バーニーをカストロ・グエラが演じている。

冒頭、「アメリカ、2023年。失業率5%以下、暴力は、ほぼ存在せず。貧困ライン以下の国民は毎年減少。その理由はパージにある」という説明が入る。
しかし前作に引き続き、そういう世界観の設定には大いに無理がある。
もしも国民が富裕層だけになったら、そいつらのために働く労働者がいなくなるってことだぞ。安い賃金でキツい仕事をやってくれる貧困層がいるからこそ、金持ちは楽に暮らせるわけで。例えば金持ちのトコの使用人だって、貧困層のはずだし。
なので、共産主義とか、「オイルマネーで儲かりまくっていて、労働者は全て外国からの出稼ぎ」ってことでもない限り、「金持ちだらけの国」ってのは有り得ないんじゃないかと。
これがファンタジーとしての世界観でやっているのは、もちろん理解しているよ。だけど、ファンタジーではあっても、その辺りのディティールはリアルな手触りが求められるトコじゃないかと。安いヤング・アダルト小説みたいに、雑な設定ではマズいんじゃないかと。

パージの当日でも、その時間が来るまでは、大勢の人々が普通に生活している。それも有り得ないだろ。
ワシなら、その当日は朝から外出せずに過ごすと思うぞ。殺されるリスクを考えたら、万が一の可能性も考慮して家に閉じ篭もるんじゃないかと。
残り2時間を切っても、普通に買い物にへ出掛けたり出来る神経がサッパリ分からない。ってことはスーパーでギリギリまで働いている面々も大勢いるわけで、どうなってんのかと。
シェーンとリズが車の故障で立ち往生しているけど、どんなトラブルに見舞われるか分からないわけで。あまりにも呑気な連中が多すぎて萎えるわ。
大きな嘘をつくために、リアルなディティールを丁寧に積み重ねないと。

シェーンがスーパーの駐車場でバーニーに体をぶつけられて挑発を受けるが、これはダメだろ。まだパージが開始されて殺人がOKとなる前に、暴力的な行動を取らせちゃダメだろ。
冒頭で「暴力は、ほぼ存在せず」と説明しているけど、「パージがある分、普段は犯罪行為が厳格に排除されている」という状況設定にしておかないとさ。
パージの前から、殺すための罠を仕掛けているってのもアウトだろ。
そういうのを許容してしまったら、パージを設定している意味が死ぬだろ。形骸化しちゃうだろ。

バーニーたちはシェーンとリズの車を細工して故障させ、停まったところへ現れる。
ってことは、ずっと後を追っていたのかよ。それなら、どうせ故障して停まるんだから、ずっと見える形で尾行していてもいいだろ。
っていうか、なぜ一味がシェーンとリズだけを執拗に標的とするのか、その理由がサッパリ分からんぞ。シェーンとリズは都市計画の地域に住んでいるわけじゃないし、バーニーたちはトラックの武装集団とは別グループだし。
あと、そんなに執拗にシェーンとリズを狙っていたはずなのに、パージ開始の時は2人を追い掛けていないってのは、どういうことなのか。

いざパージが始まると、街に出て人を殺そうとしている奴らは、金持ちばかりには全く見えない。実際、貧困層の連中も多く含まれているだろう。
あと、人を殺すために外へ出るってことは、金持ちが殺されるリスクもあるわけだ。
なので「貧困層を減らすためにパージを実施する」ってのは、完全に計画として破綻している。
だからこそ「NFFAが軍隊を送り込んで貧困層を殺している」という秘密が明かされる展開もあるんだろうけど、そもそも最初の段階で、ちょっと考えれば「パージじゃ貧困層は減らない」と分かるだろ。

っていうか、軍隊を送り込んで貧困層を抹殺するぐらいなら、もはやパージなんて無くていいんじゃないか。
どうせパージ自体が理不尽極まりない法律なんだから、犯罪抑止という名目で「軽犯罪でも容赦なく死刑執行」という法律を制定して、貧困層を適当な罪で検挙していけばいいんじゃないかと。
バカバカしさ満開のパージより、そっちの方が遥か確実性が高いでしょ。
「それを言っちゃあ、おしめえよ」ってことは分かっているけど、そう言いたくなるぐらい内容がチンチロリンのカックンなのよね。

武装集団はクローゼットに隠れたエヴァとカリを発見した時、1人が「彼の探し物だ。外へ連れ出せ」と口にしている。
どうやら「彼」というのは武装集団のリーダーであるビッグ・ダディーで、そこへ連行するってのが目的だったようだ。
しかし、「なぜ連行するのか」という理由は全く分からない。
彼らがNFFAの差し向けた軍隊であること、都市計画の対象地域を標的にしていることは、途中で判明している。だけど、それなら邪魔な住人は抹殺すればいいはずであって、連行する意味は無いでしょ。

レオはエヴァが嘘をついていると知り、すぐに立ち去ろうとする。その時、ロレインが突如としてターニャを射殺し、ロディーたちも始末しようとする。彼女はターニャとロディーの浮気を知っており、怒りを溜め込んでいたのだ。
ただ、これってパージと上手く結び付いていないよね。
ロレインはパージを待って行動を起こしているけど、「浮気に腹を立てて殺そうとする」ってのは、パージが無くても普通に生じることであって。パージという仕掛けを、上手く活用しているとは言い難い。
「イカれた女が暴走した」というだけだ。

終盤、エヴァ&カリだけでなく一緒にいたレオやリズたちも含め、全員が老婦人と金持ちグループの元へ連行される。そして金持ちの連中は、人間狩りのゲームを見物して楽しもうとする。
ただ、ビッグ・ダディーは政府から「貧乏人を減らせ」という命令を受けて行動しており、それと「金持ちのゲームのために連行する」ってのは、全く別物なのよね。
そこの関連性がどうなっているのか、全く分からない。
「ゲームの生贄」という目的の方に限定しても、「なぜエヴァたちを執拗に狙ったのか」という理由は不明だし。

人間狩りの標的にされたレオたちは反撃し、そこへカルメロの率いるレジスタンスが加勢に駆け付ける。レオはエヴァ&カリを連れて逃亡するため、ゲーム主催者である老婦人の車を奪う。
この時、レオは老婦人に銃を突き付けたのに、「俺の顔を覚えておけ」と凄むだけで解放してしまう。
いやいや、どう考えたって始末すべきだろ。そこで老婦人を見逃す理由なんて、何も無いぞ。
それまでにレオは大勢を殺しているので、今さら「人殺しにビビった」という言い訳も成立しないし。

エヴァはレオが息子の復讐を目指していることや理由を知ると、「息子さんは喜ばない」「息子さんが可哀想」と言って止めようとする。
これが心底から疎ましくて、「復讐ぐらい果たさせてやれよ」と言いたくなる。そんなヌルいヒューマニズムに、不快感さえ覚える。
で、そんな説得に心を動かされてしまったのか、なんとレオも犯人であるウォーレンの家へ乗り込むものの、復讐せずに去ってしまうのだ。
でも、さんざん人を殺しておいて、今さら「レオは復讐心を捨てて殺さずに去る」ってのを見せられても、やりたいことは分かるけど、モヤっとするだけだわ。

(観賞日:2018年6月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会