『パージ』:2013、アメリカ

2022年のアメリカ。ジェームズ・サンディンはセールスマンとして警備システムを販売し、売り上げでトップの成績を出した。近隣住民のカリたちも、彼から警備システムを購入している。長女のゾーイは恋人のヘンリーを部屋に連れ込んでいたが、ジェームズの帰宅を知り、気付かれないよう立ち去らせる。妻のメアリーは隣人のグレース・フェリンから、手作りクッキーを渡される。近所に住むハルヴァーソン夫妻が車で通り掛かり、2人に挨拶して去る。
サンディン邸はジェームズの稼ぎによって、警備システムを増強している。次男のチャーリーはティミーと名付けたカメラ付きのラジコンカーを操作し、メアリーを脅かした。家族4人で夕食を取っていたジェームズは夜7時が近付いたことに気付き、戸締まりへ向かう。防犯カメラで周辺の様子を確認すると、フェリン家では恒例のパーティーが開かれている。ジェームズは暗証番号を押してシャッターを閉め、警備システムを作動させる。
夜7時が到来し、テレビでは「パージ」を解説する放送が始まる。合衆国政府によるパージ法の制定により、これから12時間は殺人を含む全ての犯罪が認められる。パージの間、警察、消防、救急のサービスは受けられない。サイレンが鳴り響くと、パージがスタートする。ジェームズは「ここは安全だ」と家族に告げ、子供たちは自室へ戻った。ジェームズはパージに賛成しているが、犯罪に手を出す気は無い。ゾーイの寝室にはヘンリーが忍び込んでおり、「君を驚かせたくて」と軽く笑う。ゾーイは「パパが怒るわ」と言いながらも、嬉しそうな表情でキスをした。ヘンリーはジェームズに交際を認めてもらうために来たことを話し、ゾーイが「怒らせるだけで逆効果よ」と反対しても考えを変えなかった。
チャーリーはティミーを操作して監視室へ移動させ、敷地に入り込む人影がカメラに映り込んだことに気付く。監視室へ走った彼は、その黒人男性が「殺される」と助けを求めて叫んでいる声を耳にした。チャーリーはシャッターを開き、早く来るよう呼び掛けた。音を聞き付けたジェームズは、急いでシャッターを閉めようとする。しかし黒人男は体を滑り込ませて邸内に入り、玄関へ向かったジェームズやメアリーたちに目撃された。
ジェームズが黒人男に警戒しながら拳銃を構えると、2階からヘンリーが現れた。彼が拳銃を向けたので、ジェームズは慌てて振り返る。銃撃戦が勃発してヘンリーは銃弾を浴び、ゾーイに連れられて寝室へ引っ込んだ。その騒ぎの間に、黒人男は姿を消した。ジェームズはメアリーとチャーリーを夫婦の寝室へ避難させ、ゾーイを捜しに行く。彼がゾーイの寝室に入ると、ヘンリーの死体が転がっていた。そこにゾーイがいなかったため、ジェームズは別の場所を捜す。
メアリーはゾーイの声を聞き、チャーリーを残して部屋を出る。ゾーイは「ヘンリーは死んだわ」とメアリーに言い、すぐに走り去ってしまう。マスクでパージャーの集団がサンディン家を訪れ、防犯カメラに向かって話しかける。ジェームズが応対すると、リーダーの男は「パージに賛同しているのは、飾っている青い花で分かる。パージの対象者が貴方の家へ逃げ込んだと、お隣さんが証言した。その男はホームレスで、我々の仲間を殺している。引き渡してほしい」と語る。
パージャーのリーダーは時間内に引き渡さなければサンディン家の面々も殺すと通告し、邸宅の電源を切った。警備システムは作動中だが、ジェームズには絶対にパージャーが侵入できないという確信が無かった。彼は要求に応じた方が賢明だと考え、黒人男の捜索に向かう。チャーリーは暗視カメラを搭載したティミーを操作し、身を隠している黒人男を発見した。彼はジェームズに気付かれないよう、黒人男を秘密の隠れ場所に誘導した。
リーダーは玄関からジェームズを呼び、男を引き渡すよう改めて要求する。ジェームズが「息子が勝手に入れたんだ。パージは否定していない」と釈明すると、パージャーの一人が「奴を引き渡せ」と喚く。リーダーは彼を冷徹に射殺し、ジェームズに早く黒人男を引き渡すよう求めた。ゾーイはティミーに気付き、カメラに向かって「私は銃を持っているから平気よ。秘密の隠れ場所に向かうわ」と告げた。ジェームズは黒人男を発見するが、相手はゾーイに銃を突き付けて人質にしていた。ジェームズが出て行くよう要求すると、黒人男は拒否した。背後から忍び寄ったメアリーが黒人男の頭部を殴り付け、ジェームズが腹を撃った。
ゾーイが倒れて失神している横で、ジェームズは黒人男を椅子に縛り付けた。チャーリーが姿を消したので、メアリーは慌てて捜しに行く。意識を取り戻したゾーイに、ジェームズは「ヘンリーのことは悪かった。だが、今夜を乗り越えないと」と告げる。ゾーイは「自分のやったことを見て」と冷たく言い放ち、その場を去る。黒人男から自分を外へ出すよう促されたジェームズは、考えを変える。パージャーが突入しようとする動きを目にしたメアリーは、ジェームズに「ドアを破られるかも」と訴える。ジェームズは黒人男を引き渡さずに匿い、銃を持ってパージャーと戦うことを決意した…。

脚本&監督はジェームズ・デモナコ、製作はジェイソン・ブラム&セバスチャン・K・ルメルシエ&マイケル・ベイ&アンドリュー・フォーム&ブラッドリー・フラー、共同製作はジャネット・ヴォルトゥーノ=ブリル、撮影はジャック・ジューフレ、美術はメラニー・ペイジス=ジョーンズ、編集はピーター・グヴォザス、衣装はリサ・ノーシア、音楽はネイサン・ホワイトヘッド。
出演はイーサン・ホーク、レナ・ヘディー、アデレイド・ケイン、マックス・バークホルダー、エドウィン・ホッジ、トニー・オーラー、リース・ウェイクフィールド、アリヤ・バレイキス、クリス・マルケイ、トム・イー、ティシャ・フレンチ、ピーター・グヴォザス、ジョン・ウェセルカウチ、アリシア・ヴェラ・バイリー他。


『ニューヨーク、狼たちの野望』のジェームズ・デモナコが脚本&監督を務めたプラチナム・デューンズの映画。
ジェームズをイーサン・ホーク、メアリーをレナ・ヘディー、ゾーイをアデレイド・ケイン、チャーリーをマックス・バークホルダー、匿われる男をエドウィン・ホッジ、ヘンリーをトニー・オーラー、リーダーをリース・ウェイクフィールド、グレースをアリヤ・バレイキス、ハルヴァーソンをクリス・マルケイが演じている。

「一年に一晩だけ殺人を含む全ての犯罪が合法になるパージ法の制定により、2022年のアメリカでは失業率1%で犯罪率は過去最低」という初期設定が提示された段階で、「すんげえバカな映画なのね」という印象を受ける。何からツッコミを入れていいのか困ってしまうぐらい、苦笑したくなる設定である。
そんな無理のある設定を観客に納得させるための、細かいディティールは用意されていない。世界観に引き込むための、クレイジーなパワーも感じられない。
「2022年は近未来すぎやしないか」とか、「パージ法と失業率の関連性に無理があリ過ぎる」とか、まあ色々と気になることはあるんだが、そういうのを全て「温かい目」で見ることが大切だ。例えば山田悠介大先生の小説の映画化作品でも観賞する時のような気持ちになれば、それは余裕で受け入れられるはずだ。
そこまで観客サイドが妥協しなきゃいけない時点で、ダメな映画と断定しちゃってるようなモンだけど、細かいことは気にしないように。

「一年に一晩だけ殺人を含む全ての犯罪が合法になる法律」というアイデアだけで強引に一点突破を図ろうとしているような入り方をしているので、「ようするに悪趣味な殺戮ショーを描きたいってことなのね」と思っていた。前述したように色々と問題は感じるけど、これを単純明快なスラッシャー映画として作ろうとしているのなら、殺人ショーの飾り付け次第では面白くなる可能性もゼロではないと思っていた。
だが、そんな可能性は、あっさりと打ち砕かれてしまった。
初期設定のバカバカしさを受け入れ、かなり寛容な気持ちで鑑賞したにも関わらずダメな状態になってしまった要因は、「登場人物が揃いも揃ってボンクラすぎる」ってことだ。
これが「連続殺人鬼に殺される被害者」であれば、ある程度のバカっぷりは甘受しよう。しかし、そうではなく「パージの状況下で緊張感を持って行動すべき人々」なので、それがボンクラ揃いってことになると、映画の質を著しく低下させることに繋がってしまうのだ。

まず最初にボンクラっぷりを露呈するのがヘンリーで、わざわざパージの日にサンディン家へ忍び込んでいる。ゾーイも負けず劣らずのボンクラで、そんな彼を怒るどころかニヤニヤしてセックスを始めようとする。パージの日ぐらい、我慢できないのかと。
で、ヘンリーは侵入しているだけでもバカなのに、「ジェームズに交際を認めさせる」という目的で銃を構える。
そもそも交際を認めさせるために銃で脅そうとしている時点でイカれているし、しかもパージの日にやるんだから底無しのアホだ。そんな奴、ジェームズに撃たれても文句は言えんよ。
あと、「交際を認めさせるためにジェームズと会う」というヘンリーに賛成しちゃったゾーイもアホだし。なんでパージの日を選ぶのかと。他の日にすればいいだろうに。

次にボンクラっぷりを露呈するのがチャーリーで、助けを求める黒人を見つけるとシャッターを開けて中に入れてしまう。そんな彼の行為を「優しさ」や「思いやり」として称賛することは、この映画では無理だ。
もしも黒人男が芝居をしてサンディン家の面々を殺そうとしていたら、家族まで危険にさらす恐れがあるんだし、むしろ身勝手な奴にしか思えない。
あと、他の面々の行動を見る限り、パージ法は既にアメリカ社会で充分すぎるほど浸透しているはずだ。
そんな中で、しかも両親がパージ法に賛成する家庭環境で育って来たチャーリーが、エセ人道主義者のような行動を取るのは、そのバックグラウンドがゼロなので違和感しか覚えないぞ。

それが物語を転がしてサスペンスを展開させるための段取りなのは、もちろん良く分かる。
だが、そういう役割をチャーリーに担当させるなら、もうちょっと繊細なキャラの肉付けが必要だろう。
そこを怠っているせいで、サンディン家の人々が危険な目に遭うのは本来なら「パージ法のせい」という形にならなきゃいけないはずなのに、「チャーリーがバカなことをやらかしたせい」にしか思えなくなっている。
っていうか実際、チャーリーのせいだし。

っていうか、その黒人男の行動にも違和感があるのよね。
そんな時間に、なぜ外へ出ているのか。パージの時間なんだから、そりゃあ外出していたら狙われるのは当然でしょ。
あと、サンディン家に助けを求めるのも不自然だ。その日に助けを求めても無駄なことぐらい、もう誰もが知っている状況じゃないのか。
しかも、サンディン家はパージ法に賛同している証拠として、玄関に青い花を飾っている。助けを求めるにしても、パージ法に反対している家を目指すべきでしょ。

サンディン家は警備システムを増強しているはずだが、パージャーは外から簡単に電源を切ってしまう。モニターだけは別電源で無事だが、邸内は真っ暗になってしまう。
警備システムに金を掛けるのなら、そういうことも想定しておけよ。「それは警備と無関係」ってことかもしれんけど、外から簡単に停電を起こされ、別電源で復旧することも出来ないってのは、すんげえ杜撰に見えるぞ。
っていうか、電源を切られて「必ず侵入するぞ」と脅されただけで「万全とは言えない。想定外の事態だ」とジェームズは焦るが、その程度の警備システムなのかよ。だったら、大金を投入して増強している意味が全く無いじゃねえか。
そんで実際、簡単に壁を破壊され、あっさりと侵入されてしまうのよね。

チャーリーはジェームズが「黒人男を見つけて引き渡す」と言った後、黒人男が見つからないよう誘導する。彼は「なぜ殺されるのか」と疑問を提示しているが、その時にジェームズが「我々か、彼かの二択だ」と説明している。
つまり黒人男を引き渡さないと、サンディン家の面々が殺される可能性が高いのだ。それをジェームズが明言したにも関わらず、 チャーリーは何の迷いも無く黒人男を救おうとするのだ。
それはシャッターを開けた時と同じで、ちっとも人道主義的な行動には思えない。家族を危険にさらす愚かしい行為でしかない。
せめて「彼を助けたら家族が殺されるかも」ってことで、苦悩や葛藤を見せろよ。そうすれば、その行動も少しぐらいは理解できただろうに。
こいつの感情がほとんど見えないだけに、ただの腹立たしいクソガキにしか見えんよ。

ジェームズは「黒人男を引き渡すのが賢明だ」と考えて必死で捜索していたのに、いざ捕まえると、今度は急に「やっぱり引き渡さない」と翻意してしまう。
どういう心境の変化なのか、サッパリ分からない。
きっかけになる出来事は、ゾーイから「自分のやったことを見て」と非難されたことぐらいしか思い浮かばない。
だけど、それだけで「やっぱり引き渡さない」と急激に変心するのは、説得力のカケラもありゃしないよ。
家族が殺されるかもしれないのに、そんなに簡単に「黒人男を匿って戦おう」となるのは無理があるわ。

「誰かを助けたら家族が犠牲になる。その時、どういう行動を取るべきか」ってのは、かなり重くて深い問い掛けだ。しかし、そういう問題提起を持ち込みながら、ちゃんと向き合おうとはしていない。
だったら、最初から持ち込まなきゃいいのだ。
それだけでなく、この映画には所得格差や人種差別など多くの社会問題を含有している。そこに切り込もうという意識が、少しはあったのかもしれない。
しかし、まるで上手く消化することが出来ていないので、結果的には「ただ中途半端で邪魔なだけ」という厄介な荷物になっている。
そんな要素をバッサリと排除して、「悪趣味にまみれた殺人ショー」として割り切ってしまった方が、遥かにマシな仕上がりになっただろう。

(観賞日:2017年1月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会