『PROMISE プロミス』:2005、中国&香港&日本&韓国
少女・傾城は戦乱の世で親を亡くし、死者の握っていた饅頭を奪い取るが、湖に落としてしまう。すると水中から女神の満神が現われ、 饅頭を渡した。満神は傾城に、「この世で最高の食べ物も美しい服も、最も強い男の寵愛も手に入れることが出来るが、ただし永遠に本当 の愛を得られないが、それでも望むか」と尋ねる。傾城は「望む」と答え、満神との約束を交わした。
20年後、伝説の華鎧を持つ光明大将軍は、嫉妬深い無歓公爵との功名争いを繰り返していた。そんな中、光明は囮の奴隷たちを引き連れて 馬蹄谷へとやって来た。彼は、わずか3千の手勢で、2万の軍勢を誇る地の果ての蛮族との戦いに挑む。蛮族は、野牛の大群を放して 襲ってきた。奴隸の1人・昆崙は、主人を背負って野牛から逃亡する。崖を登ろうとした奴隷たちは、光明の配下に矢で打ち落とされた。 驚異的な脚力を発揮した昆崙は、野牛を逆走させる。それに乗じて光明は攻め入り、蛮族を打ち滅ぼした。
光明は昆崙に興味を抱き、主人を失った彼を「私の奴隷にならないか」と誘った。昆崙を奴隷とした光明の元に、無歓公爵が王の城を 取り囲んでいるとの知らせが入った。光明は昆崙を伴って城へ向かうが、森で道に迷ってしまう。二手に別れて抜け道を探していた光明の 前に、満神が現われる。満神は、「あなたが王を救えれば永遠の勝利を約束する」と賭けを持ち掛けた。しかし彼女は「華鎧を着けた者が 王を殺すのは宿命」と語り、光明が賭けに負けたら悲しみの涙を貰うと言う。
自信を見せる光明に、満神は「誰かを愛したら最後」「馬蹄谷での戦いが人生で最後の勝利」と告げ、抜け道を教えて消えた。その直後、 光明は、黒羽衣を着た無歓の刺客・鬼狼に襲われて怪我を負う。そこへ昆崙が戻り、鬼狼と戦う。鬼狼が退散した後、光明は昆崙に「華鎧 を着けて王を救え」と命じた。昆崙は兜と仮面で顔を隠し、華鎧を着けて城へ急ぐ。
城では、大軍を引き連れた無歓が、王妃となった傾城の引き渡しを要求していた。傾城は衣を一枚脱ぎ、兵士たちに「衣の中が見たければ王 に狙いを」と告げる。裏切りに怒った王は、傾城を殺そうとする。そこへ馬に乗った昆崙が現われ、王を殺して傾城を連れ去った。滝を 見下ろす崖まで着たところで、傾城は昆崙に刃を向ける。昆崙は顔を隠したまま、「死んじゃいけない。しっかり生き抜くんだ」と告げる。 そこへ無歓が現われ、「ここから飛び降りれば王妃を自由にしてもいい」と告げる。昆崙は、滝壺へと飛び込んだ。
無歓は傾城を連行し、巨大な鳥篭の中に監禁する。光明は部下である也力の裏切りに遭い、森の中で吊るされる。光明は現われた満神に 対し、「華鎧を取り戻し、傾城も手に入れる」と宣言する。満神にっょて縄を解かれた光明は昆崙の元へ行き、命令に背いて王を殺した ことを非難する。しかし光明は昆崙を殺さず、「傾城を探して来い」と命じてから華鎧を取り戻す。
城に潜入した昆崙は傾城を連れ出すが、すぐに無歓と兵士達が追って来る。そこへ華鎧を着けた光明が馬で現われると、傾城は王を殺して 滝壺で「生き抜くんだ」と言ってくれた相手だと思い込み、昆崙を振り払って駆け寄った。光明と傾城を逃亡させるため、昆崙は重い扉を 必死にこじ開けた。光明と傾城は城から脱出するが、昆崙は捕まってしまった。
無歓は王殺しが昆崙の仕業だと見抜き、真実を隠蔽するために部下を殺害する。監禁場所からの脱出を企てた昆崙は鬼狼に見つかり、戦い になる。しかし鬼狼は同じ北の部族である昆崙を殺せず、共に脱出した。昆崙は、光明と傾城の元へ戻った。傾城は「絶対に永遠の愛は 得られない」と口にして、光明の元を去ろうとする。昆崙は怒った光明から傾城の殺害を命じられるが、出来なかった。
「日が沈むまでに必ず戻ってくる」と言い放ち、光明は傾城を行かせた。だが、彼女は日が沈んでも戻らない。昆崙の進言を受け、光明は 彼の背中に乗って傾城を追い掛けた。光明と再会した傾城は彼を抱き締め、真実の愛を信じようとする。「王を殺してくれた時から愛して いる」と言われた光明は複雑な心情を抱きながらも、傾城を強く抱いた。
「もう一度、母と妹に会いたい」と願った昆崙は、過去の幻影を見る。5年前、彼の村は無歓一味に襲われ、人々は惨殺された。そんな 中、1人の男が火達磨にされ、必死に走って消化した。無歓は男に黒羽衣を渡し、「脱げば煙となって消え去る」と告げた。死を恐れた 男は黒羽衣を身に着け、無歓の刺客となった。それが、鬼狼だった。
光明の元に也力が現われて裏切りを詫び、無歓を捕まえたので城へ来て欲しいと申し入れた。傾城の反対を押し切り、光明は城へ戻った。 だが、それは罠だった。傾城は鳥篭へ入れられ、光明は華鎧を奪われて城から放り出された。すっかり意気消沈した光明は、昆崙から傾城 を救い出すよう言われても意欲を示さない。昆崙は光明を一喝し、傾城を救うため城へ向かう…。監督&脚本はチェン・カイコー、製作はチェン・ホン&ハン・サンピン&キム・ドンジュ&エルンスト・エッチー・ストロー、 製作総指揮はヤン・ブーティン、撮影はピーター・パウ、美術はティン・イップ、衣装は正子宮也&ティン・イップ、VFXスーパーバイザーはフランキー・チャン、 武術指導はディオン・ラム&トン・ワイ、音楽はクラウス・バデルト。
出演は真田広之、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、ニコラス・ツェー、リウ・イエ、チェン・ホン、ユー・シァオウェイ、チェン・チアン他。
ハリウッド進出に失敗したチェン・カイコー監督が、たぶんチャン・イーモウ監督への対抗心で作った映画。
光明を真田広之、昆崙をチャン・ドンゴン、傾城をセシリア・チャン、無歓をニコラス・ツェー、鬼狼をリウ・イエ、満神をチェン・ホン、也力をユー・ シァオウェイ、王をチェン・チアンが演じている。
また、衣装の大半を正子公也がデザインしている。中途半端なバカ映画である。 ここにあるのは「意図的ではなく結果的にそうなったバカっぷり」なのだが、突き抜けたバカっぷりではない。
何しろチェン・カイコーは、バカイズムに関しては天性の才能を持ち合わせていないので、無意識では突き抜けたバカ映画を作ることが出来ない。
そして悲恋のドラマや壮大なロマンを(たぶん)狙っているので、中途半端なバカっぷりになってしまったわけだな。
かっこいいファンタジーとしての大仰さではなく、笑いに繋がるものとしての大仰さが詰まっている。大まかに言うと、「エゴイスティックでタチの悪い満神に人々が翻弄される話」である。
年端も行かない少女に、しかも空腹でマトモな判断が難しい状況にあるにも関わらず、一生に関わる選択を要求する満神。
全く必要性が無いのに、明らかに自分が楽しむという目的で光明に賭けを持ち掛ける満神。
満神が人々の人生を弄び、楽しんでいるという映画である。最初から最後まで、ツッコミ所が詰まっている。
移動速度が遅くなるのに、なぜか四つん這いで奴隷を歩かせる光明。
しかし野牛が来ると、大半の奴隷は二足で走り出す。
だったら、最初からそうさせればいい。
それでも昆崙だけは、なぜか四つん這いのまま必死で走る。
でも、途中からは二足になる。
CGによる牛の大群、昆崙の四つん這いランニングの早回し、勝利を祝う光明の胴上げなど、意図せぬ笑い(ただし失笑)のポイントも多い。城が包囲されていると聞いた光明は、大勢の配下がいたはずなのに、なぜか昆崙だけを連れて向かう。
最初に「かなり強い」イメージで登場した光明は、無歓と対等の力を持つぐらいの設定かと思ったら、鬼狼に全く歯が立たない。
王を殺したとして光明は捕まるが、也力が光明を裏切る理由は不明。
また、後になって元老院という存在が登場するのだが、光明が罪を問われる一方で、城を包囲して王を殺そうとしていた無歓は何の咎めも無い。
たぶん腐敗した組織なんだろう。昆崙は華鎧を着け、兜の仮面を下ろして城へ向かう。
それまでの光明は仮面を下ろさず顔をさらして戦っていたのに、急に仮面を着けたら不自然に思われるような気もするが、誰も変に思わない。
傾城は、ストリップをエサにして兵士に王の殺害を指示する。
それまでの王との関係などがサッパリ分からないから、なぜ急に裏切るのかも良く分からない。
城に到着した昆崙は、一瞬で主君の命令を忘れ、王を殺して王妃を助ける。
なんせ顔も見えないし、なぜ急にそんな行動を取ったのかは良く分からない。
っていうか、昆崙が簡単に王を殺させるのなら、無歓だって簡単に殺せただろう。滝壺の近くまで逃げた昆崙は、これまた簡単に主君の「絶対に喋るな」という命令を破り、「死んじゃダメだぜベイビー」と口説くような文句を言う(言い回しは違うけど)。
愛なんて信じずに生きてきたはずの傾城は、たったそれだけで簡単に惚れる。
どうやら光明は忠誠心のある部下に恵まれなかったらしく、大将軍だったのに付いてくるのは昆崙しかいない。
裏切った也力は殺したり無歓の元へ連行したりせず、森に吊るしたまま立ち去る。
満神から華鎧と王妃に関する予言を聞かされた光明は、急に「じゃあオレ様が女をモノにしてやるぜ」と妙な野心を燃やす。
基本的に、登場人物の目的はデタラメである。無歓は巨大な鳥篭に傾城を入れて、鳥をイメージした羽の服を着せるコスプレ趣味を見せる。
崑崙は傾城の腰に紐を括り付け、天井から吊り上げる。そして崑崙は猛スピードで走り、傾城を凧のように飛ばす。
空を飛ぶ傾城、満面の笑顔。
愛する男に助け出されたからではない。
何しろ、崑崙は顔をさらしているのだ。
ってことは、傾城は見知らぬ男に紐で吊り上げられ、凧のように飛ばされて、劇中で一番の笑顔を見せるのだ。
どういう演出センスだ、それって。光明も城へ来るが、だったら最初から「崑崙が傾城を連れ出して光明が馬に乗せる」という手順にすりゃいいわけで、凧にして飛ばす時間は無駄。
無歓は真実隠蔽のために手下を殺すが、そもそも手下の前でベラベラと喋らなきゃいい。
無歓が崑崙を入れるのは、サーカスのオートバイショーで使用される巨大な鉄球。
鬼狼は急に同族意識に目覚めたらしく、崑崙と一緒に脱出する。
無歓は光明の居場所を知っていて圧倒できる武力も兵の数もあるのに、なぜか罠を仕掛けて誘い出す手間を掛ける。
城に潜入した崑崙は、いつの間にか鬼狼に「華鎧を持ち出せ」と命令できるぐらい上の立場になっている。
無歓から「華鎧を崑崙に渡すなら黒羽衣を脱げ」と言われた鬼狼はその通りにするが、明らかに無駄死である。傾城は見た目は美しいが、性格的には単なるジコチューでイヤな女。
光明は最初は勇ましかったが、どんどん単なるヘタレになっていく。
そんな2人はマジ恋愛になっていくのだが、ここで崑崙を含めた三角関係が展開していくのかと思いきや、崑崙はそんなことより「母と妹 に会いたい」と考えて幻覚なのか何なのか良く分からない世界に突入してしまう。
傾城が光明を疑うことも無いし、崑崙に惹かれることも無いので、彼女が勘違いしているという仕掛けが生きない。終盤になって、崑崙は急に傾城への愛を思わせるようなセリフを吐くが、それまではずっと光明への忠誠心の方が圧倒的に心の多くを占めている。
傾城にしても、終盤になってようやく自分の間違いに気付くが、それまでは光明への愛が揺らぐことは全く無い。
で、なんか最後は無歓が光明へのホモセクシャルな思いがアピールされてるし、これって傾城を巡る物語と見せ掛けて、実は同性愛の映画だったのか。
最後は「少年の頃に無歓が傾城に饅頭を奪われていた」という、「だから何なの」ってなオチでフィニッシュ。(観賞日:2007年7月22日)
2006年度 文春きいちご賞:第5位