『バトル・クルーズ』:2021、アメリカ

オーストラリアのメルボルン。幼いベラ・デントンは海で父のアーサーと遊んでいた時、溺れそうになった。5年後、ロサンゼルス。ベラは不良仲間の3人と共に、車両窃盗と無免許運転、万引きと逮捕への抵抗で警察署へ連行された。刑事から親について訊かれた彼女は「母は死んだ」と即答するが、「お父さんは?」という質問には答えなかった。「連絡できる相手は誰かいないのか」と刑事が問い掛けると、ベラは「誰もいない」と返した。
12年後。ベラはエド・ミーザーという男からの電話を受け、「お父さんが亡くなった。贈り物を預かった」と告げられる。彼女が「PTSDを起こして見捨てておいて、今さら何を」と言うと、ミーザーは「贈り物は船だ。君への遺産だ」と説明した。彼はアーサーの親友で仕事のパートナーだと話し、ミシシッピ州ガルフポートまで受け取りに来てほしいと述べた。「行くお金が無い」とベラが言うと、「知ってる。こっちで手配する」と彼は告げた。
ベラが長距離バスでガルフポートに到着すると、ハイヤーが迎えに来ていた。彼女がマリーナに行くとミーザーが待っており、「ベラ号」と名付けられた船を見せた。ミーザーはベラの質問を受け、アーサーとは軍隊で一緒だったこと、民間に戻った時に転身を助けてもらったこと、主にコンサルティングの仕事で成功していることを語った。彼はベラのパスポートを預かって押収船警備室のガブリエルに渡し、本人確認をしてもらった。
ミーザーはベラに、「話の行き違いで、一時的に政府に船を押収された。だが、これで君が正式な所有者だ」と話す。ベラは幼少期の体験で水が怖くなったことを明かし、「やっぱり船は要らない」と言い出した。ミーザーは「売りたいなら手助けしよう」と告げて、ベラ号の船長を務めるローソンを紹介した。ベラはミーザーに、船の名前を「マイリトルポニー号」に変えると語った。ローソンは船内を案内し、ベラはマスターキャビンの大きなベッドに横たわった。
ベラは船で泊まろうとするが、ローソンが「書類にサインするまで鍵は渡せない」と説明した。ベラはホテルのバーでマイケルという男と知り合い、船に誘った。ベラとマイケルはベッドでセックスし、そのまま眠り込んだ。ガブリエルは監視カメラの映像が消えたのに気付き、警戒しながらマリーナの様子を見に行く。サンシャインとジムという男たちはガブリエルを殺害し、遺体をマイリトルポニー号に運び込んだ。2人は持ち込んだ銃を取り出し、ローソンが船を出港させた。
ベラとマイケルは目を覚まし、船が動いていることに気付いた。2人はガブリエルの遺体を発見し、脱出することにした。しかしベラは泳ぐことが出来ず、マイケルが「助けを呼んで来る」と海に飛び込む。見張りを担当していたサンシャインはマイケルを目撃し、ローソンに船を停めるよう指示した。ジムも甲板に来て狙撃し、マイケルを始末した。ローソンが「なんてことを。殺しは無いはずだ」と口にすると、サンシャインは「サロンには入るな。船を出せ」と命じる。ローソンはサロンに入り、ガブリエルの遺体を発見した。
サンシャインとジムはマイケルに連れがいた可能性を考え、手分けして船内を捜索する。ベラはスマホで通報しようとするが、電池切れになっていた。そこで彼女は無線を使うため、機関室へ向かう。サンシャインとジムは金庫を見つけ、鍵を開ける作業に取り掛かる。「本当に8千万があるのか」とサンシャインが疑問を呈すると、ジムは「副官が言ってた」と答える。「信用できるか」という問い掛けに、彼は「いや。だから銃を持って来た」と返した。
ベラが機関室に入ると、無線のコードが切断されていた。彼女は緊急用マニュアルを見てコードを繋ぎ、沿岸警備隊に助けを求める。ベラは船の識別番号を問われても答えられなかったが、隊員の指示に従ってボタンを押した。サンシャインが機関室に来たので、ベラは慌てて逃げ出した。サンシャインは隊員の「今から救助に向かう」という言葉を聞いた後、ベラを追い掛ける。ローソンは逃げるベラを目撃するが、サンシャインから「誰か通ったか」と問われると「いや、誰も」と嘘をついた。
サンシャインはジムに潜入者がいたことを伝えて、「逃げよう」と告げる。ローソンは「逃げても捕まる」と言い、ジムは「金庫が開いてない。計画を実行しよう」と述べた。彼はローソンにブリッジへ戻るよう命じ、妻子の名前を出して脅した。彼はサンシャインに、潜入者を見つけ出すよう指示した。サンシャインとジムはガブリエルの遺体を移動させ、身を隠していたベラはローソンを見つけて助けを求めた。ローソンは彼女に、中デッキの最後尾に救命ボートがあることを教えた。
ベラは救命ボートを見つけに行こうとするが、サンシャインが出て来たので隠れた。沿岸警備隊の船が近付くと、サンシャインとジムはローソンの前で「皆殺しにする」と言い出した。警備隊はマイリトルポニー号に乗船し、女性から救助要請があったことを話す。「女性は乗っていない」とサンシャインたちが嘘をつくと、警備隊は捜索を始めた。ローソンはサンシャインたちが隊員を殺さないように、必死で立ち回った。ベラは閉めたハッチが開かなくなり、警備隊に助けを求めることが出来なかった。
警備隊はマイリトルポニー号に不審な点が見られなかったため、引き上げることにした。彼らが去った直後、ベラはハッチを開けることが出来た。サンシャインとジムは数字を解き終わり、アーサーの音声を使って金庫の鍵を開けた。しかし中にはペンダントが入っていただけで、サンシャインは「騙しやがった」と激怒する。ジムは機関室に爆弾を仕掛けるよう指示し、「潜入者は見つけ出して殺す」と告げた。ベラはローソンの元へ戻り、「船から脱出させて」と頼む。ローソンは救命ボートを用意し、「必要な物を取って来る」とブリッジに戻る。ベラはサンシャインに見つかり、殺されそうになる。そこへローソンが駆け付け、サンシャインを射殺した…。

監督&編集はデクラン・ホワイトブルーム、脚本はイアン・ヘイデン、製作はジブ・ポルヘムス&フォード・コーベット&アダム・ビーズリー&マイケル・ジェファーソン&ローウェル・シャピロ&マイク・ディル&ライアン・ウィンタースターン&ネイサン・クリンガー&アンソニー・スタンドベリー、製作総指揮はウィリアム・V・ブロムリー&シャナン・ベッカー&ジョナサン・サバン&ネス・サバン&ジョナサン・デクター&ニコラス・シャルティエ&アダム・W・ローゼン&マイケル・ロバン&ケアリー・アンダーソン&ジェームズ・ディ・ジャコモ&ヘンリー・ペンジー&ヴァーノン・デイヴィス&クリストファー・ハンド&ラファエル・アレクサンダー=エドワーズ&ザック・リーヴス&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーヌ・ペリエ&スコット・パウエル&シンディー・ブルー&イアン・ヘイデン&ポール・W・ヘイゼン&ダニエル・O・サンチェス・ムニョス&ライラー・アルザーマ&アレハンドロ・ウリベ=ホルグイン、共同製作総指揮はアラナ・クロウ&クリストファー・ウィン&テリー・ジェサップ&ルイス・ダ・シルヴァJr.、製作協力はウェンディー・スチュワート、撮影はジャイルス・M・I・ダニング、美術はジュリー・トーシェ、衣装はステイシー・カスボロー=マーティン、音楽はBC・スミス&トム・ショールフィールド。
出演はルビー・ローズ、フランク・グリロ、パトリック・シュワルツェネッガー、ルイス・“トリックス”・ダ・シルヴァJr.、スコッティー・ボーネン、ダニー・ボーネン、エデン・ハーパー、ラファエル・アレクサンダー・エドワーズ、アンナ・グレース・ローマン、メジャー・ドッジ、スコット・ムーア、ミシェル・コロン、ジェームズ・ディ・ジャコモ、ライアン・ピザッティー他。


『MEG ザ・モンスター』のルビー・ローズ、『パージ:アナーキー』のフランク・グリロ、『ミッドナイト・サン 〜タイヨウのうた〜』のパトリック・シュワルツェネッガーが共演した作品。
テイラー・スウィフトやジェス・グリンなどのミュージック・ビデオを手掛けて来たデクラン・ホワイトブルームが、映画初監督を務めている。
脚本のイアン・ヘイデンは、これがデビュー作。
ベラをルビー・ローズ、ミーザーをフランク・グリロ、マイケルをパトリック・シュワルツェネッガー、ローソンをルイス・“トリックス”・ダ・シルヴァJr.、サンシャインをスコッティー・ボーネン、ジムをダニー・ボーネンが演じている。

最初にベラが父と海で遊ぶシーンがあって、次が5年後のロサンゼルス。そこから12年後に飛んで、ミーザーからの電話を受ける。つまり、わざわざ書くまでも無いだろうが、幼少期のシーンから17年後のアメリカがメインになっているわけだ。
ところがベラは、父との関係についてミーザーに「20年も話していない」と口にする。
計算が合わないだろうに。少なくとも17年前には、父と一緒に遊んでいただろうに。
あと、父と一緒にいた時に溺れそうになっているけど、「その時に父と2人だった」という設定の意味が無いんだよね。父が溺れそうなベラを助けなかったわけじゃないんだし。

ベラはミーザーから電話を受けた時、父について「PTSDを起こして見捨てておいて」と非難している。
しかし、どういう状況で、どういう理由でPTSDになったのかは教えてくれない。
後から回想シーンを挿入して、その出来事を説明するわけでもない。
あとさ、幼少期のシーンに関してはともかく、5年後のシーンを挟む必要性があるのか。ベラが「不良で犯罪を繰り返している」ってのは、12年後のシーンだけでも表現できることだし。

8千万があるのか」とサンシャインが疑問を呈すると、ジムは「副官が言ってた」と答える。「信用できるか」という問い掛けに、彼は「いや。だから銃を持って来た」と返した。
でも「8千万がある」という情報が信用できないのなら、そもそも計画に乗るなよ。
それに銃を持って来たのは、そのためでもねえだろ。何かあった時のために、銃は必要だろ。
それと、その時点で副官が来ていないのも変なのよね。その場で指揮せず、全て終わってから来る意味が感じられないのよ。むしろ、現場で監視した方がいいだろ。

サンシャインとジムが指示を出した黒幕の存在を匂わせた時点で、その正体がミーザーであることはバレバレだ。他に容疑者がいないしね。
まさか、新しいキャラを急にラスボスとして登場させることは無いだろうしね。幾らボンクラなシナリオでも、そこまでの無茶はしないだろうと。
っていうか、むしろボンクラなシナリオだからこそトリッキーな発想には至らず、シンプルに凡庸なアイデアでまとめているんじゃないかな。
そしてミーザーが黒幕ってことがバレバレになれば、彼がベラを騙して呼び寄せた理由が「押収された船のナビを開錠してもらう」ということにあるのも分かるよね。

サンシャインとジムがガブリエルの遺体を船内に運んだ直後、覆面で顔を隠した男が現れて船に乗り込む。ブリッジに着くと覆面を外し、正体がローソンだと観客に明かす。
でも、ローソンだけ別行動を取っているのは変だろ。なんでサンシャインたちと一緒じゃないのかと。
ブリッジに着くまで覆面を被っている意味も全く無いし。
これはシナリオとしても同じで、「覆面男の正体はローソン」と明かしても効果なんて何も無いよ。不自然さを感じるだけだよ。

ローソンをサンシャイン&ジムと一緒に行動させず、後から船にやって来るという行動を取らせているのは、シナリオとしての意味はある。
そうすることで、「ローソンがガブリエルの殺害を知らない」という状況を作りたかったのだ。そしてベラが見ている前でローソンにマイケル殺害を非難させて、「ベラがローソンは助けてくれると感じる」という状態を作りたかったのだ。
だけどローソンがガブリエルの殺害を目撃していようと、何の支障も無いんだよね。そこで殺人を非難させて、マイケル殺害の時にも改めて抗議させればいいだけなので。
その程度なら、二度手間としてのリスクは少ないでしょ。

隠れているベラがジムに見つかりそうになった時、ローソンが無線で「ずくに来てくれ。話がある」と告げる。
それでベラが見つからずに済むという展開があるが、これもローソンの別行動と同様に下手な御都合主義だ。
しかも、わざわざローソンがジムを呼んだ理由は何かと思ったら、「何の罪も無い警備員を殺すなんて」と抗議するだけなんだよね。
ついさっきマイケルの殺害を見た時にも、同じことで非難したばかりだろうに。わざわざ呼び寄せてまで、言うことじゃないだろ。

ジムは金庫を開ける際、まずドリルで穴を開け始める。これが何のための作業なのか、良く分からない。「外れた」と言っているのでネジか何かを外したんだろうけど、別に無くても良くねえかと。
そこにあるのは、「ベラが物音を立てたけど気付かない」という状況を作るために大きな音を立てるという御都合主義だ。でも、別にドリル音なんか無くても、「ベラに気付かない」ってだけでいいだろ。
ドリルを使う前にサンシャインがパソコンを操作しながら「まず数字を解く。4つの機械的な鍵だ。簡単に破れるが時間が掛かる。数字が解けても生体認証がある」と説明しているけど、その作業だけで充分だろ。
ベラが機関室に入るとコードが切断されているが、マニュアルを見ると簡単に繋いで沿岸警備隊に連絡している。だったら、コードが切断されているという状況設定なんて何の意味も無いだろ。
とにかく、無駄で無意味なことだらけなんだよね。

サンシャインはベラの潜入と沿岸警備隊が来ることを知り、逃げる準備を始める。それに対してローソンが「逃げても捕まる」と言うが、だったらどうすりゃいいと思っているのか。
で、ジムが残って計画を実行する」と言うとサンシャインは全く反論しないのだが、だったら最初からそれでいいだろうに。
ローソンがビビって「逃げよう」と提案し、それに対してサンシャインとジムが「計画を実行する」と主張して脅しを掛ける形で良かっただろうに。
その方が、関係性としては分かりやすいでしょうに。

ジムはサンシャインに「潜入者を見つけ出せ」と指示するが、その直後にはガブリエルの遺体を移動させる作業を手伝わせている。沿岸警備隊が去った後、サンシャインは「仕事に取り掛かろう。潜入者は後回しだ」と言う。
もうさ、潜入者を早く見つけたいのか、後回しにしたいのか、どっちなんだよ。
その場によって対応がコロコロと変わってるじゃねえか。
それは「状況の変化に合わせて柔軟に対応している」ってことじゃなくて、ただ行き当たりばったりでデタラメなだけだぞ。

ベラは終盤に入るまで、ずっと逃げたり隠れたりしている。『トリプルX:再起動』や『ジョン・ウィック:チャプター2』、そして主演を務めた『ドアマン』や『ヴァンキッシュ』でも勇ましく戦う女性だったルビー・ローズだが、今回は戦闘能力が乏しいヒロインだ。
ほんの少しだけサンシャインに立ち向かうが、まるで歯が立たずピンチに追い込まれている。脱出のために作業にしろ、サンシャインとの戦いにしろ、ベラはローソンにおんぶにだっこで助けてもらっている。
これまでのルビー・ローズの役柄からすると意外性は感じるが、それは断じて歓迎できる意外性ではない。
ベラが守ってあげたい弱者ならともかく、幾つも犯罪を重ねて来た不良娘だからね。

ずっとマイリトルポニー号で話を展開させるのかと思いきや、ベラとローソンは救命ボートを使い、あっさりと脱出できてしまう。
すぐに連れ戻されるとか、ボートが沈みそうになったので船に戻ることを余儀なくされるとか、そんなことも無い。
これにより、「限定された狭い空間でのサスペンス」という趣向は、簡単に捨て去られている。
どうせミーザーが来てローソンが殺し、ベラを船に連れ戻すんだから、ずっと舞台を船内に限定しておけば良かったのに。

救命ボートで脱出した直後、ローソンはジムの発砲で怪我を負う。だが、そこから次の展開に畳み掛けることは無い。
ボートは燃料切れで動かなくなり、ローソンは「夜明けを待とう。それまで休憩だ」とベラに言う。ジムはミーザーの到着を待っているだけで、何も動かない。
そのまま翌朝のシーンに切り替わるのだが、そこは話を停滞させるようなタイミングじゃないだろ。物語も佳境に入っているんだから、さらにテンポを上げてもいいようなトコだろ。
それに、夜明けまで待ったところで、何か状況が変化するわけでもないだろ。実際、ただ喋っているだけなんだし。

ネタバレを書くと、アーサーは軍事会社を設立し、所属していた連中が現地で指揮官を殺害して8千万ドルを奪った。その金をアーサーが奪還して隠し、ミーザーたちは彼を始末して横取りしようと目論んだのだ。
しかしアーサーはローソンを始めとして助けが必要な人のために8千万ドルを使っており、だから金庫には金が入っていなかった。その事実をベラから知らされたミーザーとサンシャインは、仲間割れを起こす。
そしてミーザーがサンシャインを始末し、ベラが倒すべき敵は1人だけになる。最後はベラが爆弾を仕掛けて海に飛び込み、船に残ったミーザーは爆死する。
一応は「ベラが水へのトラウマを克服する」というトコでドラマを作ろうとしているんだけど、トラウマの設定が充分に活用されているとは到底言い難い。

(観賞日:2024年7月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会