『ブレイン・ゲーム』:2015、アメリカ
連続殺人事件の捜査に当たるFBI捜査官のジョー・メリウェザーと部下のキャサリン・コウルズは、手掛かりの無い状況に頭を悩ませた。ジョーが「彼に会う」と口にすると、キャサリンは「得体のしれない人を」と反対する。ジョーは「良く知ってる。かつて組んだ友人だ」と告げ、彼女を車に乗せてジョン・クランシーの元へ向かう。医師のジョンは超能力者としてFBIに協力していたが、2年前に娘のエマを白血病で亡くしてからは隠居生活を送っていた。
ジョーはキャサリンをクルマで待機させ、ジョンの家の玄関をノックした。ジョンは帰るよう要求するが、ジョーは強引な手口でドアを開けさせる。ジョーは「エリザベスから連絡は?」と質問し、ジョンが「無い」と答えると「きっと来る」と告げる。彼が捜査への協力を求めると、ジョンは即座に拒否した。キャサリンはジョーにボスから電話が入ったことを知らせ、捜査記録をジョンに差し出す。彼女は握手を求めるが、ジョンは全く動かなかった。キャサリンが肩に触れると、ジョンは彼女が血を流す姿を予知した。
ジョーとキャサリンが去った後、ジョンは捜査記録に目を通した。彼はジョーたちの元へ行き、「約束はしない。1日で帰るかも」と言う。ジョーはジョンに、キャサリンが精神病理学の博士号を持っていることを教えた。彼は支局へ戻り、「ジョンが予知し、キャサリンが分析する」と語る。ジョンはキャサリンから「私は超能力は信じない。まやかしだと思ってる」と言われると、「私は分析医を金の亡者と思っている」と述べた。
被害者は全員が首の後ろを刺されており、苦痛も無いまま即死している。遺留品は無く、目撃者もいない。ジョンはジョーとキャサリンに、最初の被害者であるエセル・ジャクソンの家を調べたいと告げる。エセルは69歳の老女で、殺害現場の机にはタイプライターで打たれた「私は誰?答えは一言だ。言ってもいいかな?」というメモが残されていた。ジョンはクローゼットを調べるが、これといった反応も無いままエセルの家を後にした。
ジョーはジョンを誘い、馴染みの店で夕食を取る。ジョーに肩を触られたジョンは、彼が病院で昏睡状態に陥る姿を予知した。ジョーは「家を出る時に何かを感じただろ。教えてくれ」と頼むが、ジョンは「今は無理だ」と答えなかった。警察には匿名の電話が入り、その男は3件目の殺人について詳しく喋って住所も教えた。ジョーはジョンに匿名電話のことを教え、警察を張り込ませていることを告げる。彼らが現場の家へ行くと「416」というメッセージが残されており、ジョンは「今の時刻だ」とジョーたちに教えた。
ジョンたちが家に入ると、浴槽で住人のヴィクトリアが首の後ろを刺されて死んでいた。遺体の近くには、「心から愛してる」というメモが置いてあった。ジョンは遺体に触れ、帰宅したヴィクトリアがメモを見て喜んだこと、入浴中に背後から刺されたことを読み取った。彼は湯船に触れないようジョーに警告し「そう感じる」と告げる。夫のデイヴィッドが容疑者として連行され、ジョーとキャサリンが取り調べる。彼はヴィクトリアが自殺したと思い込んでおり、殺されたと聞いて驚いた。彼は「手紙を残して家を出た」と説明するが、メモについては全く知らなかった。
ジョンはデイヴィッドの所持品である万年筆に触れ、真実を読み取った。ヴィクトリアは以前から情緒不安定で、デイヴィッドは自殺を心配していた。彼は「別の人を選ぶ」と手紙を残したが、愛した相手は男性であり、自身はHIVに感染していた。ジョーはジョンを自宅へ連れて行き、妻のローラや息子のケヴィンと会わせる。ローラはジョンに、「エリザベスとは良く会ってる。仲直りして」と話す。ジョンはジョーに、被害者は全て不治の病に侵されていると告げる。ジョーが「エセルの癌は寛解してる」と言うと、彼は「断言は出来ない。癌の8割は再発する。3人目のワードはALSだ」と述べた。
ジョーが「少年のロバート・エリスは健康だ」と反論すると、ジョンは「両親と話す」と言う。ジョーは息子の件で校長と話す約束があるため、キャサリンと行くよう指示した。ジョンとキャサリンはエリス家へ行き、ロバートの両親に会う。キャサリンがロバートの検死解剖要請すると、母親は断固として拒否する。しかしジョンが白血病の娘を救えなかった体験を語ると、彼女は了承した。ジョンが解剖に立ち合っていると、「小脳を調べろ」という匿名のファックスが届く。ジョンが検視医に小脳を調べさせると、脳腫瘍が見つかった。
ジョンは動揺し、「私は降りる」と言って解剖室を出て行く。ジョーが後を追うと、彼は「これは罠だ。犯人は我々を意のままに操っている」と語る。ホテルに戻ったジョンが荷物をまとめていると、キャサリンがやって来た。ジョンは「犯人は全て分かってる。同じ能力を持ち、私より遥かに優秀な男だ」と説明し、「一連の犠牲者はどのみち死ぬ運命だった。犯人は相手のことを思って奪ってる」と語った。キャサリンは「被害者が娘さんでも同じことが言えるの?」と反発するが、すぐに謝罪した。
「本音は何なの?心に抱えてるのは、話せないほど暗い闇?」とキャサリンが問い掛けると、ジョンは彼女の触れられたくない過去を詳細に喋る。彼は冷たい口調で、キャサリンに「家へ帰れ」と告げた。新たな殺人が発生し、キャサリンは現場へ赴いた。遺体の女性はドレスの下半分が無くなっており、上半分は壁に血で貼り付けてあった。これまでと違って性的な動機が見られ、極端に暴力的な犯行であることから、キャサリンは一連の連続殺人とは別人の仕業だと推定した。
ジョンがバスに乗って家へ戻ろうとすると、ジョーが来て「手掛かりが出たが、罠の可能性もある。見てもらいたい」と言う。彼は解剖室に届いたファックスがネット経由で発信元は分からないこと、湯を分析するとHIVが検出されたことを話した。ヴィクトリアの殺害現場にあった花を見つけるため、ジョーは警官隊に公園を調べさせていた。ジョーがジョンを連れていくと、警官がハサミで花を切断した跡を発見した。切断面に触れたジョンは、近くの通りに置いてあるゴミ箱に何かがあると悟った。ジョーたちがゴミ箱を開けると、ドレスの下半分が見つかった。
ジョーは警察犬を呼んでドレスの匂いを嗅がせ、あるアパートに辿り着く。キャサリンたちが警察犬の吠えた部屋に入ると冷蔵庫が置いてあり、中は空っぽだった。向かいの部屋のドアが開き、住人のライナス・ハープが現れた。ジョーたちが銃を構えて尋問すると、アトリエとして部屋を使っていると説明する。向かいの部屋について問われた彼は、空き部屋だと答える。廊下に出て来るよう言われたライナスは隙を見てジョーを撃ち、窓から逃走した。キャサリンはジョンを助手席に乗せ、車で追跡する。
ジョーはライナスの動きを読み、タクシーを奪って逃走していることをキャサリンに教えた。ライナスは衝突事故を起こし、キャサリンも車を横転させる。ライナスはジョンを拳銃で狙うが、キャサリンが射殺した。ジョンはライナスを見据え、「君は違う」と漏らす。病院へ赴いた彼は、入院したジョーから「君は正しかった。奴は俺たちを誘導し、あの変質者を誘導した。そして新たな重病者をモノにした」と言われる。彼が「気づいてただろ。俺はステージ4の癌で助からない」と話すと、ジョンは見抜いていたことを認めた。
ジョンはキャサリンに「公園で何か言い掛けた」と指摘され、少し迷ってから「昔話をしよう」と口にした。彼は「エマの6歳の誕生日、彼女の背後に出る影を見た。それが何か感じ取ったが、誰にも言わなかった。20年後の同じ日、娘から電話があった。検査の結果は白血病だった。2年の辛い治療が続き、エマは死んだ」とキャサリンに語った。ジョーの葬儀に参列したジョンはケヴィンを抱き寄せ、成長した彼がスタンフォード大学に進学することを読み取った。
ジョンがバーで飲んでいると、チャールズ・アンブローズという男が向かいの席に座った。彼はジョンに、「俺は彼らを苦難から救ってやった。病に苦しむ姿が見えたんだ。解放してほしいのが彼らの願いだった。俺はそれに応えてやったんだ」と語る。チャールズはジョンの行動を察し、「俺は銃を持ってる」と脅す。ジョンはカウンターにいる警官たちに知らせようと考えるが、チャールズが客や店員を殺すことを予知して思い留まった。チャールズはジョンを罠に掛けて警官に拘束させ、店から逃亡した…。監督はアフォンソ・ポヤルト、脚本はショーン・ベイリー&テッド・グリフィン、製作はボー・フリン&トーマス・アウグスバーガー&トリップ・ヴィンソン&マシアス・エムケ&クローディア・ブリュームフーバー、製作総指揮はショーン・ベイリー&ジェイコブ・ペチェニック&ガード・シェパーズ&アンソニー・ホプキンス、共同製作はウェンディー・ジェイコブソン&アダム・ヨーリン、撮影はブレンダン・ガルヴィン、美術はブラッド・リッカー、編集はルーカス・ゴンザーガ、衣装はデニス・ウィンゲイト、音楽はBT。
出演はアンソニー・ホプキンス、ジェフリー・ディーン・モーガン、アビー・コーニッシュ、コリン・ファレル、マット・ジェラルド、ホセ・パブロ・カンティロ、マーリー・シェルトン、ケニー・ジョンソン、ザンダー・バークレイ、シャロン・ローレンス、ジョシュ・クローズ、ジャニーン・ターナー、ルイザ・モラエス、ジョーダン・ウッズ=ロビンソン、カーター・イーヴェン・ゴッドウィン、オータムン・ディアル、タラ・アロヤヴェ、レイ・ヘルナンデス、ブルース・テイラー、フランク・ブレナン、アダム・ドレシャー、ジェイク・ローソン、キース・イーウェル他。
地元のブラジルで製作した長編デビュー作『トゥー・ラビッツ』で注目を集めたアフォンソ・ポヤルトが、ハリウッドに招聘されて監督を務めた作品。
脚本はプロデューサーのショーン・ベイリーと『キス&キル』『ペントハウス』のテッド・グリフィン。
元々は『セブン』の続編として脚本が用意されていたが、企画が潰れたために別の映画として製作された。
ジョンをアンソニー・ホプキンス、ジョーをジェフリー・ディーン・モーガン、キャサリンをアビー・コーニッシュ、チャールズをコリン・ファレル、スローマンをマット・ジェラルド、ソーヤーをホセ・パブロ・カンティロ、ローラをマーリー・シェルトン、デヴィッドをケニー・ジョンソン、エリスをザンダー・バークレイ、エリス夫人をシャロン・ローレンスが演じている。キャサリンはジョーがジョンに捜査協力を求める考えを明かした時、真っ向から反対している。ところがジョンの家を訪れた時、ジョーに言われたわけでもないのに捜査記録を差し出している。
それは矛盾した行動でしょ。
その後、握手を求めるのも不自然だし、ジョンに無視されると肩に触るのは、もっと不自然だ。「ジョンがキャサリンの未来を予知する」という状況を作りたかったのは分かるけど、それを見せるための手口が強引すぎるぞ。
ジョンの予知シーンの1発目っては、この映画の評価を決める上でものすごく大切なポイントでしょ。
そこを自然な形で描けていない時点で、この映画自体がポンコツと断言できちゃうぐらいだぞ。ジョンをアンソニー・ホプキンスが演じているのは、ミスキャストじゃないか。年を取り過ぎているように感じるぞ。
犯人が後継者として彼を指名するのに、ジョンの方が遥かに年上なのよね。しかも言い方は悪いけど、そんなに今後の人生が長いようには思えない年齢だし。
ジョンと犯人の配役を逆にした方が良かったんじゃないのか。
「それだとハンニバル・レクターと重なる部分がある」ってのを懸念したのかもしれないけど、だったらアンソニー・ホプキンスを起用しなきゃいいだけの話だし。ジョンを演じるのが高齢者のアンソニー・ホプキンスなので、安楽椅子探偵とまでは言わないまでも「頭脳労働」の担当にしておいて、彼の手足となって肉体労働を担う相棒を用意するのかと思った。
そして、その肉体労働担当がキャサリンなのかと思っていた。
しかし実際のところ、ジョンはアクションシーンにも積極的に参加するのだ。
だけど、誰がどう考えたって、アンソニー・ホプキンスはアクションに不向きな俳優であって。ジョンは相手の体に触れると、過去も未来も読み取ることが出来る。対象者が見た物しか分からないわけじゃなくて、その人物をカメラで捉えたような映像で過去を見通すことが出来ている。
サイコメトラーとしては、ほぼ無敵と言ってもいいような能力だ。
あまりにも能力が高すぎると、緊迫感が無くなって面白味が薄まる恐れはある。ただし、それは話の作り方や能力の見せ方次第でどうにでもなる。徹底的に「主人公は凄い」という方向で押し切っても、1作だけなら面白い映画として充分に成立するだろうし。
だが、この映画では、ジョンの能力の見せ方や話の作り方に成功しているとは言えない。ヴィクトリアが殺された時、ジョンは湯船に触れないようジョーに警告する。
その時点では「そう感じる」と言うだけだが、後で「HIVに感染する恐れがあった」ってことが明らかになる。それだけでなく、ジョーはデイヴィッドの万年筆に触れ、彼が男性と浮気していることやHIVに感染していることを読み取る。
だけど、それが明らかになったところで、犯人に繋がるわけではない。そんなトコでジョンの能力を使っても、無駄な道草にしかならない。
すぐに犯人を突き止めたら話が終わっちゃうので、そういうトコに目を向けて回り道をさせているんだろう。
でも、それでワクワクハラハラさせてくれりゃ問題は無いが、回り道ってのがモロに見えちゃうのよね。ジョンはキャサリンに「本音は何なの?」と問われた時、「17歳でブルースと初体験。車の中で、酔っ払っていた彼に吐かれた。5年後にギャヴィンと出会い、結婚を意識した。しかし1年後に妊娠すると男は冷めた。君は女児を出産したが、養子に出して会っていない」などと詳細に話す。
それはキャサリンにとって、触れられたくない過去だ。
そんな内容をジョンが平気でベラベラと喋るのは、ただキャサリンを傷付けることだけが目的にしか思えない。娘のことを言われた仕返しにしか思えない。
そうじゃないにしても、結果としては同じだ。
でもキャサリンと違い、その場ですぐに気付いて謝罪するようなことはない。翌日になって一応は詫びるが、そんなに反省している様子は感じられない。
なので、「そのシーンは何のつもりで用意したシーンなのか」と首をかしげてしまう。ジョーがライナスに撃たれるのは「犯人の狙い通り」ってことになっているけど、そのシーンを見る限りは「ジョーや同行したFBIの面々が不用意なだけ」にしか思えない。
あと、ジョーに危険が迫っていることを予知できていたのに、そこで撃たれるのを防げていないジョンがボンクラにも感じるし。
都合が悪くなると、ジョンの能力は落ちるのよね。
ハッキリしたルールは明かしていないので、その場に応じてジョンの能力レベルを変えることが出来ちゃうのよ。映画の原題である『Solace』は「慰め」の意味であり、『ブレイン・ゲーム』ってのは日本の配給会社が付けた勝手な邦題だ。
でも、この作品が進むべき方向を考えると、それは内容を的確に言い表している。高度な頭脳戦で緊迫感を持たせたり、観客をワクワクさせたり、謎が解明される爽快感を与えたりすべきなのだ。
だからライナスを追うカーチェイスを用意し、アクションに頼ろうとするのは邪魔。
そんなシーンに頼らなきゃ観客を引き付けられないのは、肝心な部分の弱さを露呈しているだけだ。ジョンより高い能力の持ち主を犯人に設定することで緊迫感を生み出そうとしているんだろうけど、チャールズが映画開始から1時間10分ほど経たないと登場しないってのは失敗だろう。
ジョンと対面するタイミングはその辺りでもいいとして、もっと早い時点で観客には彼をお披露目しておいた方がいい。
そして「能力者同士の対決」という構図を示してしまった方が得策だ。
とは言え、それでも「アンソニー・ホプキンスはアクションに不向きなのに、ずっと前線に出ている」という問題は残るんだけどさ。(観賞日:2020年6月1日)