『フリー・スラッピー』:1998、アメリカ

ダートモア学園では夏休みの特別プログラムが開講され、校長のブリンウェイが生徒たちにオペラの合唱を教えていた。ソニー、ドミノ、ウィッツ、ルーシー、ローフが次々に挙手してトイレへ行きたがったので、伴奏を担当している教師のハリウットは許可した。その5人はブリンウェイが「スティンカーズ」と呼んでいる悪ガキたちで、トイレへ行くというのは真っ赤な嘘だった。ブリンウェイは嘘を見抜いており、生徒のスペンサーとマックスに監視を指示した。
スティンカーズは用務員の小屋から送風機を盗み出し、スペンサーとマックスはブリンウェイに報告した。ソニーたちは送風機を手作りの飛行機に取り付け、嫌がるウィッツを操縦席に乗せた。すると送風機を取り付けた翼の部分だけが外れ、外へ出て来たブリンウェイに突っ込んだ。慌てて避けたブリンウェイだが、自分の車に翼が向かうので慌てて追い掛ける。用務員のロイは彼を芝刈り機に乗せ、翼を追跡する。翼が車に激突する寸前で墜落したので、ブリンウェイは安堵した。その直後、芝刈り機のせいで車のドアに大きな傷が付いた。だが、ロイは全く悪びれなかった。
ブリンウェイはソニーたちを呼び出して叱責し、退学を通告した。ハリエットは「今日は理事会があるのよ」と言い、ソニーとルーシーとウィッツは奨学金を貰っていることを指摘する。彼女が「理事は彼らの退学を喜ばないわ。マスコミに知られたら大騒ぎになる。貴方はクビよ」と話すと、ブリンウェイは仕方なく「もう一度だけチャンスを与えよう」とソニーたちに告げた。そこへロイが来て、ソニーたちが飛行機のために盗み出していた校長室の椅子を元の場所に戻した。何も知らずに座ったブリンウェイは非常ボタンのせいで窓の外へ弾き飛ばされ、鞭打ちになった。
放課後、スペンサーとマックスはウィッツを取り囲み、リュックの中身を放り出した。そこへソニーたちが現れ、スペンサーたちに仕返しをした。ブリンウェイはスペンサーの父のデイン・シニアに理事になってもらおうとするが、呼び掛けても無視された。翌日、子供たちはロイの運転するスクールバスに乗り、遠足で水族館へ向かった。スペンサーとマックスがドミノの顔面にジャムを塗ったトーストを投げ付けて嘲笑すると、すぐにスティンカーズは仕返しを考えた。ウィッツが吐き気を催したので、ソニーはスペンサーたちの元へ行かせて靴に嘔吐させた。
水族館に着いたソニーたちはシャチを見たがるが、受付係の女性は「いないの」と答える。一番の目玉を問われた彼女は、「スラッピーかしら」と答える。アシカのスラッピーを見に行ったソニーたちは、自由にしてやろうと考える。スティンカーズが作戦を練っていると、ブリンウェイが現れた。5人は慌てて逃げ出し、檻に入れられたスラッピーを発見した。実は動物ブローカーのブロッコリが盗み出そうとしていたのだが、もちろんソニーたちは何も知らない。ソニーたちが檻を開けると、スラッピーは裏口のドアから外に出た。
外にはブロッコリと職員のタグがいて、スラッピーを別の檻に入れた。ブロッコリはタグに金を渡し、車の用意に向かった。その間に出て来たソニーたちは、餌を使ってスラッピーを連れ出した。スラッピーを捜索していたブロッコリは、ソニーたちがスクールバスに乗せる姿を目撃した。しかし警官が来たので、その場で奪還することは断念した。ソニーたちはスラッピーを被り物で変装させ、ブリンウェイたちにバレずに運んだ。早く水に入れる必要があると考えた彼らは、ブリンウェイ家の浴槽を使うことにした。
ソニーたちはブリンウェイの留守中に家へ侵入し、浴槽に大量の塩を入れた。餌が無くなったため、5人は大量の生魚と自分たちのためのフライドポテトを宅配で注文した。ソニーはブリンウェイの息子として商品を受け取り、「パパにツケといて」と配達員に告げた。彼らはスラッピーを浴槽に入れ、魚を与えた。5人はスラッピーを残して、学園に戻った。ロイはスラッピーが学園の敷地に作った大きな穴を発見し、ハタリスの仕業だと思い込んだ。彼はブリンウェイに報告し、「爆弾を使いたい。今夜、始末します」と告げた。
帰宅したブリンウェイは入浴するが、冷たくて生臭い塩水に困惑する。フェンスの外から覗き込んだソニーたちは、ソファーで寝そべっているスラッピーを発見した。彼らはブリンウェイを騙して外へ誘い出し、その隙にスラッピーをウィッツの家まで運んだ。ソニーたちはスラッピーをウィッツの寝室に隠し、それぞれの家へ戻った。母が寝室に来たので、ウィッツは慌てて誤魔化した。ロイは爆弾を用意し、暗視スコープを装着してハタリス退治に向かった。ブロッコリは餌の魚を持って学園の敷地に侵入し、スラッピーを捕まえに行く。しかしロイがハタリスと間違えて爆弾を投げ込んだため、退散を余儀なくされた。
翌朝、ソニーたちはスラッピーを連れて浜辺へ行き、解放することにした。スラッピーが海に入ろうとしないのでソニーたちは様々な作戦を実行するが、全て失敗に終わった。巨大なシャチを見たスラッピーは、怖がって避難した。そこでソニーたちは、スラッピーを水族館へ戻すことにした。その日は学園祭が開かれることになっていたため、5人はスラッピーを小屋の近くに隠した。しかしスラッピーはロイに見つかり、その場から逃亡した。
スラッピーは祭りの会場を走り回り、ロイはチェーンソーを持って追い掛けた。ブリンウェイはロイを怒鳴り付けてチェーンソーを奪い取るが、誤ってスペンサーの使っている遊具を損傷させてしまった。空気の抜けた遊具は暴走し、スペンサーの父親はブリンウェイに激怒した。ブロッコリは水族館の職員を詐称し、スラッピーを車で連れ去った。ブリンウェイはソニーたちを厳しく叱責し、全員に退学処分を通告した。そこへ本物の水族館職員が現れ、ソニーたちはブロッコリに騙されたことを知った。しかし職員たちは「警察は暇じゃないし、私たちにはお金も人手も無い」と言い、スラッピーの捜索を諦めて去った。ソニーたちはブロッコリの隠れ家を見つけ出し、スラッピーを取り戻そうとする…。

監督はバーネット・ケルマン、脚本はボブ・ウォルターストーフ&マイク・スコット、製作はシド・シャインバーグ&ビル・シャインバーグ&ジョン・シャインバーグ、製作総指揮はマーサ・チャン、共同製作はミシェル・ワイズラー、共同製作総指揮はボブ・ウォルターストーフ、撮影はポール・メイボーム、美術はイヴォ・クリスタンテ、編集はジェフ・ウィシェングラッド、衣装はジェイミー・バロウズ、音楽はクレイグ・サファン。
主演はBD・ウォン、共演はブロンソン・ピンチョット、ジェニファー・クーリッジ、サム・マクマレイ、ジョセフ・アシュトン、ゲイリー・リロイ・グレイ、カール・マイケル・リンドナー、スカーレット・ポーマーズ、トラヴィス・テッドフォード、デヴィッド・デュークス、テリー・アーダング、ボーディー・パイン・エルフマン、テリー・ガーバー、スペンサー・クレイン、リック・ローレス、リチャード・テイラー・オルソン、フレッド・アスパラガス、ジェイミー・ドネリー、アルトゥーロ・ギル、バーバラ・ハワード、ティム・ハッチンソン、トーマス・H・ミドルドン、ジル・レメス、ジョナサン・スラヴィン、マリーナ・ヴァイン他。


『ジュラシック・パーク』や『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のBD・ウォンが主演を務めた作品。
監督は『ストレート・トーク/こちらハートのラジオ局』のバーネット・ケルマン。
脚本は『ちびっこギャング』の原案を務めたボブ・ウォルターストーフ&マイク・スコットによる共同。
ブリンウェイをBD・ウォン、ロイをブロンソン・ピンチョット、ハリエットをジェニファー・クーリッジ、ブロッコリをサム・マクマレイ、ソニーをジョセフ・アシュトン、ドミノをゲイリー・リロイ・グレイ、ウィッツをカール・マイケル・リンドナー、ルーシーをスカーレット・ポーマーズ、ローフをトラヴィス・テッドフォードが演じている。

この映画を製作したThe Bubble Factoryは、シドニー・シャインバーグが息子のビル&ジョンと1995年に設立した会社である。
かなりの映画マニアなら、ひょっとするとシドニー・シャインバーグという名前でピンと来るかもしれない。
スティーヴン・スピルバーグの才能に着目し、契約を結んだのが彼だ。
当時はユニバーサルのテレビ部門で責任者を務めていたシャインバーグは、親会社だったMCAの社長に就任し、その後に独立してThe Bubble Factoryを設立している。

そんなThe Bubble Factoryは1996年の『フリッパー』から映画製作をスタートし、その後も『シンプル・ウィッシュ』『大富豪、大貧民』などの映画を次々に手掛けてきた。
しかし決して順風満帆だったわけではなく、実は第1作の『フリッパー』から既に興行的にはコケている。
その後も送り出す映画がことごとく興行的に失敗していたが、それでもコンスタントに製作を続けていた。そして本作品でも、またコケている。
そもそも今までより遥かに低予算の作品で限定公開だったが、それにしても興行的には惨敗だった。単に興行的にダメだったというだけでなく、評価の方も散々だった。

始まった直後、ブリンウェイはソニーたちを悪ガキと扱き下ろしている。だが、それも納得だ。
嘘をついて授業を抜け出すだけなら、まだ何の問題も無い。いや、決して褒められたことではないが、その程度の嘘なんて、小学生ならザラにあることだ。
送風機を使って飛行機を飛ばそうとするのも、ウィッツを乗せているので危険ではあるが、自分たちだけの問題なので、まだ余裕で許容範囲だ。
ただ、その翼が暴走し、ブリンウェイのスーツを引き裂いた時にニヤニヤしている辺りで、ちとマズいことになる。
飛行機に使っていた椅子に座ったブリンウェイが弾き飛ばされて落下して鞭打ちになると、ますますマズいことになる。

ソニーたちはブリンウェイを嫌っているが、だからと言って意図的に攻撃したわけではない。たまたま飛行機が暴走し、たまたま椅子のボタンを外し忘れただけだ。
ただ、そこまで酷い目に遭うほど、ブリンウェイは子供たちに酷いことをしているわけではない。
むしろ逆で、ソニーたちが悪ガキだから叱責しているだけだ。
ハリエットは彼を「頭が固い」と批判するが、ソニーたちの行動は「頭が固くなければ何の問題も無い」というレベルではない。

ソニーたちが水族館で勝手な行動を取っていたソニーたちを追い掛けるのは、間違ったことをしているわけではない。
むしろソニーたちがブリンウェイ家へ侵入して勝手に浴槽を使い、ブリンウェイのツケで魚やポテトを注文する方が、よっぽど問題のある行動だろう。
しかし、これはローティーン向けの映画なので、ソニーたちの行動は全て寛容に受け入れる必要がある。
ブリンウェイはそんなに理不尽な人間じゃなくて当然の怒りを示しているだけなのだが、ローティーン向け映画だと「イタズラする子供を叱責する」という程度でもヒール的な扱いになるのだ。

ブリンウェイはソニーたちだけでなく、ロイのせいでも散々な目に遭う。
しかし、これも「嫌な先生が痛い目を見ている。ざまあみろ」という子供目線で見る必要がある。
ソニーたちの行動は、全て肯定することを求められる。ソニーたちを「応援したくなる善玉」として描くために、スペンサーとマックスを「いじめっ子」的なキャラとして描いている。
ただし、ソニーたちは決して一方的にやられてばかりではなく、その場で仕返しを実行しているので、「加害者と被害者」という関係性は成立していない。

水族館に着いたソニーたちは、スラッピーを自由にしてやろうと決める。でも、別にスラッピーが劣悪な環境下で飼育されているわけではない。
ところが「ここは刑務所に見える」「アシカの家は海だ」と言い出し、勝手に『フリー・ウィリー』と重ねるのだ。
つまり水族館を悪者扱いしているわけだが、だったら水族館で飼育されている生き物は全て解放してやる必要があるはずだ。ところが彼らは、スラッピーだけを逃がす。
ようするに「水族館は悪」とか「生物は本来の場所にいるべき」という主張は、浅薄そのものなのだ。

ソニーたちは心底から「動物を保護しなきゃ」という使命感に突き動かされたわけではなく、実際は「可愛いから持ち出したい」という愚かしい考えしか無い。
そこに環境活動家のような意見を薄っぺらく被せることで、自分たちの間違った行動を正当化しているだけなのだ。
もちろん「だって幼い子供だから」という言い訳はあるだろうが、「だからアシカを盗んでも許される」ってのは、さすがに厳しいモノがある。
そこを正当化するために動物ブローカーのブロッコリを配置しているのだが、ソニーたちは決して彼から守るためにスラッピーを盗み出したわけではない。自分たちの軽い思い付きで、周囲への影響や迷惑など何も考えずに連れ出しているだけだ。

ソニーたちはスラッピーを海に戻そうとするが、すぐに諦めて「やっぱり水族館へ戻そう」と言い出す。「スラッピーがシャチを怖がったから」という理由はあるが、そんなに簡単に断念しちゃう程度の行動なのだ。シャチのいない場所で海へ逃がしてやろうとは思わないのだ。
それどころか、「スラッピーの居場所は水族館だ」とまで言い出すんだから、「なんだそりゃ」である。そりゃあ海へ逃がそうとする行為も安直で浅薄だが、簡単に撤回するのも同様だわ。
どっちも「幼い子供だから」ってことで簡単に済ませているけど、それじゃあダメだろ。ホントはスラッピーを盗み出した行為って、厳しく叱責されるべき犯罪だぞ。
最後にブロッコリからスラッピーを奪還させて全てチャラにしようとしているけど、こいつらは全く反省してないし、贖罪のための行動でもないからね。

(観賞日:2021年7月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会