『バイオハザードIV アフターライフ』:2010、アメリカ&ドイツ&フランス

東京の渋谷。雨の降る中、T−ウイルスに感染した少女が、スクランブル交差点で通り掛かった男性に襲い掛かった。それが全ての始まり だった。あっという間に感染は広がり、東京は荒廃した。4年後、アンブレラ社は渋谷の地下に本部を設置し、アルバート・ウェスカー 議長の指揮下で実験を繰り返していた。ある日、ウェスカーが地上に配置した武装警備隊に状況を尋ねていると、モニターの中で隊員が 何者かに殺された。侵入者の報告を受けたウェスカーは、すぐにメイン・エントランスへ警備隊を送り込んだ。
警備隊は武器を構えてエレベーターの到着を待ち受けるが、そこには誰も乗っておらず、背後からアリスが現れた。彼女は圧倒的な戦闘力 と超能力を使い、部隊を全滅させる。その直後、駆け付けた応援部隊の一人がアリスを始末するが、それはクローンの一人に過ぎなかった 。ウェスカーはメイン・エントランスに神経ガスを充満させるよう命じるが、他のクローンたちが別の区域から侵入していた。
ウェスカーは部下を見捨ててヘリに乗り込み、本部から脱出した。彼は仕掛けておいた特殊爆弾を爆破し、東京は壊滅した。爆破によって クローンは全滅したが、本物のアリスはヘリに乗り込んでいた。彼女は背後からウェスカーに近付き、銃を突き付けた。だが、ウェスカー は用意しておいたT−ウイルス中和剤を注射し、アリスの特殊能力を奪った。彼は余裕の態度でアリスを甚振るが、ヘリが富士山へ墜落 してしまう。爆発の中から、アリスは傷付きながらも抜け出した。
半年後、アラスカにあるアルカディアという街を目指してプロペラ機を操縦していた。一握りの生存者に向けて、ラジオを通じて「ここへ 来れば食料とシェルターと安全を提供する」とアルカディアへ誘う呼び掛けがあった。1年半前に行動を共にしたクレアやKマートたちが 行っているはずだと考え、アリスはアルカディアへ向かったのだ。プロペラ機を着陸させると、何台ものヘリやプロペラ機があった。海辺 に移動したアリスは、クレアたちが乗っていたヘリを発見する。しかしアルカディアは見当たらず、周囲は原っぱだけだった。
人影に気付いたアリスは、その後を追い掛けた。いきなり襲撃を受けたアリスは、その相手を蹴り飛ばして失神させる。良く見ると、相手 はクレアだった。彼女の胸には、蜘蛛の形をしたデバイスが装着されていた。アリスはデバイスを取り外し、クレアの意識回復を待った。 クレアはデバイスで注入された薬物のせいで記憶障害になっており、アリスのことも仲間たちのことも全く覚えていなかった。
翌日、アリスはクレアをプロペラ機に乗せ、ロサンゼルスへ向かった。すると無数のアンデッドに囲まれた刑務所の屋上に、助けを求める 数名の生存者が見えた。アリスはアンデッドを避けるため、ギリギリの高度でプロペラ機を着陸させようとする。プロペラ機は故障したが 、何とか着陸することが出来た。刑務所ではルーサー、ベネット、エンジェル、クリスタル、キムの5名が暮らしていた。彼らはアリスが アルカディアから救出に来てくれたのだと思い込んでいた。
アリスは自分が救出に来たのではないことを説明し、「アルカディアについて何を知ってる?」とルーサーたちに問い掛けた。ルーサーと エンジェルは、「ラジオを聴いただけだ。ずっと同じことを喋ってる」と言う。2人は「あれがアルカディア」と言い、アリスに双眼鏡を 渡した。双眼鏡を覗いたアリスは、沿岸に停泊している船を確認する。彼女は「生存者を拾いながら、沿岸を航海してるのね」と口にした 。しかし「食料とシェルターと安全を提供する」という呼び掛けは、2日前を最後に途絶えているらしい。話を聞いたクレアは、海岸に ヘリで到着した際、タグボートで複数の人間が来たことを思い出した。
ルーサーはアリスたちに刑務所の中を案内する。重警備棟に足を踏み入れたアリスは、クリス・レッドフィールドという男が監禁されて いることを知る。クリスは彼女に「君からみんなを説得してくれないか。俺は罪人じゃない。俺の所属部隊が、ここを活動拠点に使って いた。暴徒化した囚人たちに襲われ、気が付くと誰もおらず、ここに監禁されてた。俺は君を助けてやれる。脱出方法を知っている」と 語る。しかし「ここから出してくれたら脱出方法を教える」という彼の言葉を、刑務所の面々は誰も信じていなかった。
次の日、アリスはシャワーを浴びようとするが、隠れて覗こうとしているウェンデルを発見した。シャワー室から出て行くようアリスが 要求していると、そこに3人のマジニが侵入してきた。アリスは発砲して撃退するが、マジニはウェンデルを捕まえ、床に開けたトンネル から姿を消した。マジニは下水道のパイプを使って侵入したのだ。アリスたちは刑務所から脱出するため、クリスを解放した。クリスは クレアを見て驚いた。自分の妹だったからだ。しかしクレアは記憶が戻っておらず、彼のことも分からなかった。
クリスはアリスたちに、「倉庫には刑務所が用意した暴動鎮圧用の装甲車がある。それで市街地を突破できる」と告げた。刑務所のゲート は封鎖されていたが、そこには無数のアンデッドが群がり、処刑マジニが斧で門を破壊しようとしていた。ベネット、エンジェル、キムの 3人は倉庫の扉を開ける担当になり、クレアとルーサーが門の防御を請け負った。アリス、クリス、クリスタルは、地下の武器を取りに 行く。パイプが停止して水が上がって来ていたため、3人は潜水して最下層まで行くことになった。
アリスたちは最下層に到着するが、背後から近づいたマジニによってクリスタルが連れ去られた。アリスとクリスは武器庫に辿り着き、 多くの武器を手に入れた。ベネットたちはドアを開けて倉庫に入るが、装甲車は分解されていた。エンジェルが「これを走れる状態にする には、1週間は必要だ」と吐き捨てると、ベネットは彼を射殺した。ベネットは屋上へ行き、プロペラ機を使って1人で脱出した。
アリスたちは刑務所に侵入してきたアンデッドを蹴散らし、シャワー室に移動した。マジニが開けたトンネルを使い、下水道から排水路、 そして海へ脱出しようと考えたのだ。まずはクリスとルーサーがトンネルに入った。続くキムがためらっていると、処刑マジニが現れて彼 を惨殺した。アリスとクレアは処刑マジニと戦うが、相手の強さに苦戦する。しかし最後はアリスがショットガンで仕留めた。アリスたち はトンネルを抜けて排水路を移動し、ボートでアルカディア号へ向かった…。

脚本&監督はポール・W・S・アンダーソン、製作はベルント・アイヒンガー&サミュエル・ハディダ&ドン・カーモディー&ロバート・ クルツァー&ジェレミー・ボルト&ポール・W・S・アンダーソン、製作協力は小林裕幸、製作総指揮はヴィクター・ハディダ& マーティン・モスコウィック、撮影はグレン・マクファーソン、編集はニーヴン・ハウィー、美術はアーヴ・グレイウォル、衣装は デニース・クローネンバーグ、視覚効果監修はデニス・ベラルディー、音楽はトムアンドアンディー。
出演はミラ・ジョヴォヴィッチ、アリ・ラーター、ウェントワース・ミラー、ボリス・コジョー、キム・コーツ、ショーン・ロバーツ、 セルヒオ・ペリス=メンチェータ、スペンサー・ロック、 シエンナ・ギロリー、ケイシー・バーンフィールド、ノーマン・ヤン、フルヴィオ・セセラ、レイ・オルボワーレ、クリストファー・カノ 、タツヤ・ゴケ、ノブヤ・シマモト、ピーター・コサカ、デニス・アキヤマ、ケンタ・トメオキ、シン・カワイ、中島美嘉ら。


カプコンのゲームをモチーフにしたシリーズ第4作。
シリーズ全作で脚本と製作を担当してきたポール・W・S・アンダーソンが、1作目以来となる監督も務めている。
1作目からの続投キャストはアリス役のミラ・ジョヴォヴィッチのみ。前作からの続投は、クレア役のアリ・ラーターと、Kマート役の スペンサー・ロック。ウェスカーは前作にも登場していたが、演者がジェイソン・オマラからショーン・ロバーツに交代している。
クリスをウェントワース・ミラー、ルーサーをボリス・コジョー、ベネットをキム・コーツ、エンジェルをセルヒオ・ペリス= メンチェータが演じている。中島美嘉が日本で最初にアンデッド化する少女役で冒頭に登場。
また、エンドロールでは、2作目に登場していたジル役のシエンナ・ギロリーが1カットだけ顔を見せている。

今回はシリーズ初の3D映画であり、『アバター』で使われたフュージョンカメラシステムで撮影されている。
『アバター』以降、2Dで撮影してから変換したインチキ3D映画は幾つか作られたが、フル3Dは本作品が2本目ということになる。
そもそもポール・W・S・アンダーソンは、物語を充実させることよりもアクションシーンの映像に対する意識の強い人だが、今回は 「面白い3D映像を撮りたい」という思いが強かったのか、ますます映像への意識が強まっている。しかも、彼はB級スピリットの持ち主 なので、昔ながらの立体映像、つまり「飛び出す映像」ってのを強く意識して絵作りをしているように感じられる。
ただし、3Dを意識して用意されたであろうシーンよりも、『マトリックス』を模倣した映像表現の方が印象には残るけどね。
何の捻りも無く、堂々と『マトリックス』を模倣しちゃう辺り、さすがはポール・W・S・アンダーソンだね。

これまでの3作で、アリスはTウイルスを注射されて超人的な身体能力を手に入れ、さらに離れた場所にいる敵を攻撃できる超能力まで 会得した。
そして前作のラストでは、自分のクローン軍団まで手に入れた。
『週刊少年ジャンプ』的な強さのインフレ現象が行き過ぎてしまい、もはやアリスは向かうところ敵無しの状態となった。
ゾンビなんて、彼女にとっては全く怖くない存在に成り下がった。

アリスが無敵超人のままだと物語を作るのが難しいと考えたのか、ポール・W・S・アンダーソンは今回、序盤でクローン軍団を全滅させ ている(実は1人だけ生き延びているんだけど、それは今回の作品では分からない)。
さらには中和剤によって、アリスの身体能力&超能力も奪い取った。
そりゃあ、インフレを解消したいってのは分かるけど、そのやり方は、あまりにも荒っぽい。
自分でインフレ現象を起こしておいて、困ったら「爆弾と注射でぜーんぶ無くしてしまえ」って、それは無いだろう。

アクションシーンの作り方もイマイチに思える。
序盤、「アリスが殺されたと思ったら、それはクローンでした」という見せ方で観客を引き付けたいんだろうけど、1人が死んだら3人が 現れ、次のシーンでは2人が指令室に特攻するってのは、中途半端だ。せっかくアリスが大量のクローン軍団を味方にしているのに、その 設定を活かし切れていない。
そこは「一人だと思ったら、軍団だった」という見せ方をした方が、インパクトを与えられるはず。
だから、1人のクローンが殺されたら、すぐに大量の軍団を見せた方がいい。

アリスがウェスカーに注射を打たれるシーンは、下手な御都合主義が目立つ形になっている。
彼女は操縦席に座っているウェスカーに歩み寄り、銃を突き付けて「遺言はある?」と問い掛け、待ち受けていた彼に注射を打たれる。
だけど、そんなに不用意に近付かなくても撃てたでしょ。
っていうか、アリスには超能力があるんだから、離れた場所からヘリを攻撃することは出来なかったのか。

アリスはT−ウイルス中和剤を打たれ、超人的な身体能力を失う。注射を打たれた途端に倒れ込んで弱っている様子を示し、ウェスカーに 蹴り飛ばされる。
だけど、大爆発を起こしたヘリからは、傷付いた様子ではあるけど、普通に歩いて脱出しているんだよな。
あれだけの大爆発に巻き込まれて死ななかったのなら、充分に超人的な身体能力だと思うぞ。
そこは「まだ中和剤の効力が出る前だから、超人的な強さが残っていた」と、都合よく解釈しなきゃいけないのかねえ。

あと、せっかく「超人的な身体能力を失って人間に戻った」ということにしたのに、それ以降の戦いでも、アリスはそれほど苦戦せず、 普通に楽勝を重ねているんだよな。
まあ、アリスってT−ウイルスを打たれる前から戦闘能力は高かったけどさ。
だけど、注射で人間に戻ったという仕掛けが、まるで効果を発揮しないシナリオになっているんだよな。
ピンチに陥るシーンが無いわけではないけど、もっと「アリスは人間に戻ったことで今までより弱体化し、それに伴って敵に対する恐怖を 感じる」という形にした方がいいんじゃないの。

舞台が刑務所に移った後、アリスと刑務所の面々は「沿岸に停泊しているアルカディア号へ行き、他の生存者と会ったり安全な場所を提供 してもらったりする」ということを目的にする。
で、その目的を果たすため、アンデッドやマジニと戦って脱出を図る。
だけど、こっちからすると、アルカディアが安全な場所ではなく、悪意と策略に満ちた場所ってのはバレバレなんだよね。
それを分かった上で、アリスたちのアルカディアを目指す決死の脱出劇を見なきゃならないのは、ちょっとキツいものがある。

オリジナル版ではラストシーンが有名だが、そこは微妙に違った内容になっている。
メイは黄色いハンカチじゃなく、何十枚ものタオルやバンダナを吊るして待っている(ひょっとするとハンカチも混ざっているのかも しれないが、見た感じだと、サイズがハンカチより大きい生地ばかりだ)。
しかも、そこまでの手順に変更を加えたことで、そのラストシーンは違和感を抱かせるものになっている。

刑務所に残っていた面々は、クレアの兄であるクリスと悪党のベネットを覗くと、基本的には「やられ役」として登場したに過ぎない。
だから、そのキャラクターが殺されても、まるでアリスたちが気持ちを引きずることは無く、さっさと次の展開へ移行する。
クリスタルが目の前でマジニに連れ去られても、アリスは全く感情を動かされない。で、武器庫で武器を見つけてニンマリする。仲間意識 はゼロ。
ルーサーが連れ去られた時は顔を強張らせるけど、引きずることは無い。
あと、エンジェルは元傭兵という設定だけど、銃を全く撃たないまま死んでしまうなど、キャラ設定の意味も薄い。

既にシリーズからホラー風味は消え去っており、アクション映画としての色を前面に押し出すようになっている。
今回はそれに加えて、アンデッドがほぼ背景と化している。
アリスたちが戦う相手としては、マジニや処刑マジニという新しい連中が登場する。
ゲーム版でのマジニの設定は「プラーガという寄生生物に寄生された人間」であり、アンデッドじゃないのよね。
この映画版ではプラーガに関する設定に言及してないいけど、口が食虫植物みたいに変形して人を捕まえるんだから、完全に別物でしょ、 それって。
それにしても、もはやアンブレラ社が何を目的に実験を繰り返しているのか、サッパリ分からなくなっているよなあ。

(観賞日:2012年9月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会