『PUSH 光と闇の能力者』:2009、アメリカ&カナダ

ニック・ガント少年は切羽詰まった表情を浮かべた父によって、ある部屋に連れ込まれた。父はニックに「大事な話だ。ある日、少女がお前に花を渡す。お前はそれを受け取り、少女や仲間たちを助けるんだ」と語り、強く抱き締めた。武装した連中の襲来を察知した彼は、「ディヴィジョンが来た。逃げるんだ。何も考えるな。ウォッャーに追跡される」と告げ、部屋から退避させた。武装した連中のリーダーであるヘンリー・カーヴァーが現れ、部屋に留まっていたニックの父は殺された。
世界中に特別な人間は存在しているが、彼らは一般人に紛れて生活している。1945年、ナチスは超能力者を兵士として使おうと考え、実験を繰り返したが、その大半が死亡した。終戦後も実験は続行され、世界中の政府が手を組んでディヴィジョンという組織を作り出した。ディヴィジョンは超能力者を捕まえて家族から引き離し、実験を行って能力別に分類した。予知能力を持つウォッチャー、念動力を持つムーヴァー、脳に偽の記憶を埋め込むプッシャーといった具合である。他にも、スニファー、シフター、シャドウ、ブリーダーなど多くの種類がある。どの能力者もディヴィジョンではモルモットとして扱われ、能力増幅薬によって死に至る。
ウォッチャーのキャシー・ホームズは、ディヴィジョンに母を奪われた。そんな彼女の運命は、ある出来事によって変化した。実験で死んだはずの少女が生きており、ディビジョンの施設から逃亡したのだ。カーヴァーは部下のヴィクター・ブダリンに、彼女を見つけ出すよう命じた。一方、成長したニックは、香港で暮らしていた。彼は父と同じムーヴァーであったが、その能力を賭博でサイコロを動かすことぐらいにしか使っていなかった。しかも、能力を充分に使いこなせているわけではなかった。
ニックがアパートに戻ると、ディヴィジョンのエージェント、マックとホールデンがやって来た。ニックは世界中を転々として香港に身を潜めたのだが、ディヴィジョンはわずかな痕跡から彼を見つけ出したのだ。彼らが立ち去った後、キャシーがやって来た。「協力するために来たのよ」と言う彼女を、ニックは追い払おうとする。キャシーは「600万ドルの儲け話よ」と告げ、ニックの興味をそそった。
キャシーはニックと共に近くの市場へ行き、「貴方が能力を使いこなせないのは、ちゃんと訓練していないからよ」と告げる。それから彼女は、「私はウォッチャーよ。予知した未来を絵に描く」と告げる。「600万ドルはどこにある?」とニックが訊くと、「香港よ。女の人が持っているわ」とキャシーは答えた。「それでディビジョンのスニファーが来たのか」とニックは言うと、「お前とは仲間にならん」と告げて立ち去ろうとする。キャシーは彼を追い掛け、「手に入れたい物があるの。貴方は私を助けるわ」と述べた。
キャシーの脳内に未来の映像が飛び込み、彼女は「この市場にブリーダーがいる。急いで戻るのよ」と走り出す。だが、市場から逃亡を図った2人の前に、ディビジョンのポップ・ファーザーとポップ・ガール、その仲間のブリーダーたちが立ちはだかった。ニックは能力でポップ・ファーザーたちを弾き飛ばし、キャシーと共に逃走する。ブリーダーの攻撃を受けて捕まったニックは、能力を使ってキャシーだけを逃がした。街を歩き回ったキャシーは、ニックがいる場所を突き止めた。ニックはテレサ・ストウというスティッチャーの元にいた。テレサはニックの中に触れ、彼の傷を治癒した。
意識を取り戻したニックに、キャシーは蓮の花を差し出した。彼女は「未来が変わったわ。理由は分からないけど。とにかく、捕まっているママを自由にするためにはケースが必要」と告げる。さらにキャシーは、自分とニックが死ぬ予知の絵も描いていた。一方、香港で意識を取り戻したキラは、マックとホールデンに捕まった。キラは能力を使い、マックの脳内に「弟がホールデンに殺された」という記憶を植え付けた。マックはホールデンを銃殺した後、キラに襲い掛かる。揉み合っている最中、キラの腕輪が外れてビーズが散らばった。キラはマックを殴り倒し、拳銃と車を奪って逃走した。
ニックはキャシーが描いた絵を頼りに、まずはナイトクラブへ向かう。その絵にはビーズが描かれていたが、何を示しているのかは全く分からなかった。ヴィクターを伴って香港入りしたカーヴァーは、弟が殺されたと思い込んでいるマックに「任務を解く。飛行機で香港から去れ」と命じた。マックが「プッシュはされていません」と言い張ると、カーヴァーは「銃をくわえて引き金を引け。心配しなくても、弾丸は入っていない」と告げる。カーヴァーはヴィクターにビーズを渡し、香港にいる全ての能力者に撒くよう命じた。その背後で引き金を引いたマックは、銃弾を浴びて死んだ。
クラブに足を踏み入れたニックとキャシーは、ホステス相手にトランプのマジックを披露しているフック・ウォーターズと遭遇した。ニックはフックの友人であり、彼を見た瞬間、キャシーの描いた絵の意味を悟った。シフターの能力者であるフックは、ただの紙を紙幣に変えてホステスに代金を支払った。フックはディヴィジョンに10年いたことを明かし、シカゴの町へ出たがスニファーが追って来たこと、ディヴィジョンが事故に見せ掛けて妻を殺害したことを語る。
ニックが「ビーズを見つけ出したい」と言うと、フックはそれと同じ形の球を作り出した。彼は「エミリー・ウーを訪ねるとい。優れたスニファーだ」と告げ、その住所を教えた。ニックとキャシーはエリーの元へ行ってフックが作ってくれた球を見せ、「ビーズを落とした女が、ディヴィジョンを潰すためのスーツケースを持っている」と説明した。エミリーはデイヴィジョンが街中にビーズを撒いていることを告げ、自分が渡された物を見せる。彼女は能力を使い、「その女性はクァン・トン埠頭にいる」と述べた。
ニックとキャシーが埠頭へ行くと、そこにいたキラはいきなり発砲してきた。ニックはキラを知っており、慌てて「何があったんだ?」と問い掛ける。「連絡が無いから嫌われたと思ってた」と彼が言うと、キラは「ディヴィジョンに捕まってた。貴方は来なかった」と告げて睨み付けた。キャシーが仲裁に入り、街へ移動した。ケースについてニックが訊くと、キラは「分からない。目が覚めたら自分宛てのメモが残されていて、貴方を見つけてケースを探し出せと指示された」と述べた。
キラが「2日間以外の記憶が無い」と語ると、ニックは「ディヴィジョンの追跡を逃れるために、記憶を消したんだ」と告げる。キャシーはニックに、彼と自分と母親が死んでいる予知の絵を見せた。彼女は「ママが死んでる絵は初めて。彼女が未来を悪い方向に変えた。排除すべきよ。彼女はケースを持っていない」と口にする。ニックは「ケースは見つけ出す。俺を信じろ」とキャシーを説得した。
ニックはキャシーとキラを連れて、シャドウの能力者である知人のピンキーを訪ねた。シャドウの能力を使えば、スニファーの追跡を阻止することが出来るからだ。彼らはピンキーを雇い、ホテルに移動する。ピンキーにキラのことを問われたニックは、「昔の彼女だ」と言う。ケースのことを覚えていないキラに、キャシーは苛立ちを隠せなかった。外出した彼女の前に、ポップ・ガールが現れた。彼女が「父は私がケースを見つけると言ってる」と口にすると、キャシーは「ママは私だと言ったわ」と反論する。「女をシャドウしたでしょ。無意味だわ。ニックに伝えて。ウチのファミリーが叩き潰す未来が見えるってね」とポップ・ガールは告げ、その場を去った。
悪酔いしてホテルに戻ったキャシーは、「この女、私たちを殺す気よ」と喚き散らす。キャシーがポップ・ガールのことを口にすると、ピンキーは「ウォッチャーがいるなんて聞いてないぞ。俺の能力はスニファー限定だ。お前らがウォッチされた意味が無い」と狼狽する。ニックは「二手に別れよう。ピンキーとキラは一緒に隠れろ」と告げる。翌朝、キャシーはポップ・ガールたちが来るのを予知し、一行は事前に逃げ出した。ニックとキャシーは、タクシーで去るキラとピンキーを見送った。
「ケースを見つけ出さないとママが殺される。私のせいだわ」と焦るキャシーに、ニックは「お前の未来を俺が変えてやる」と告げる。彼はカーヴァーに立ち向かうことを決意し、エミリーに電話を掛けて「プッシャーのカーヴァーを捜してる。居場所を調べてくれ」と頼む。ニックはカーヴァーがヴィクターと食事をしているレストランへ乗り込み、能力を使って拳銃を突き付けた。カーヴァーは冷静に対応し、「みんな死ぬ。お前もだ。死なないのは私だけだ」と言い放った。
カーヴァーに「注射を打たないとキラは死ぬぞ。注射のありかを知っているのは私だけだ」と言われ、ニックは動揺を示す。その隙を突いてヴィクターが拳銃を奪い、能力を使ってニックを攻撃する。カーヴァーが外に出ると、キラの姿があった。彼女と話したカーヴァーは店に戻り、ヴィクターを制止して一緒に立ち去った。ニックはキャシーと共に、キラとピンキーのいるホテルへ赴いた。ニックが部屋に入ると、キラは具合が悪そうだった。
ニックの「ケースの中身は?」という質問に、キラは「能力を向上させる薬よ。彼らが私を追うのは、薬に適合した唯一の人間だから」と語る。適合しなかった他の能力者は、薬の副作用で命を落としていた。キャシーは予知の絵を描き、意識を失ったキラの靴から鍵を発見した。ニックはエミリーの元へ行き、鍵を渡して「どこの鍵か調べてくれ」と依頼する。キャシーはフックから「中国人の能力者は何人ぐらいだ」と問われ、「向こうの方が力は上。何をしても無駄よ」と述べた。
キャシーが「スーツケースの中身は薬よ。キラがどこかに隠した」と話すと、フックは「絵に描けないのか」と質問する。キャシーが「ポップ・ガールに知られずに何かをするのは不可能なの。彼女には人が行動する意思が見通せる」と説明すると、ニックは「だったら、何も決めずに考えを変え続ければ読み取られない」と言う。エミリーは「薬のありかはシャドウされてるわ」と言い、その方向だけを示す。キャシーが予知の絵を描き、薬が隠されているビルは判明した。
ポップ・ガールはテレサを呼び出し、協力を要請した。ニックは仲間たちに、「カーヴァーや中国人のウォッチャーたちに追跡されている。行動は相手に筒抜けだ。そこで君たちに、指示が書かれたカードを渡す。決められた時間までは開封するな。最後のカードは自分宛てだ。メモを書いた記憶は消去する」と語る。彼はピンキーに「キラが記憶抹消のために使った男を見つけ出せ」と指示し、キャシーにケースと注射器の正確なサイズと形を描写させる。ニックは仲間たちにメモを配り、別々に行動を開始する…。

監督はポール・マクギガン、脚本はデヴィッド・ボーラ、製作はブルース・デイヴィー&ウィリアム・ヴィンス&グレン・ウィリアムソン、共同製作はケリー・ロック、製作総指揮はグレッチェン・ソマーフェルド&デヴィッド・ボーラ&デイヴ・ヴァロー&エイミー・ギリアム&マイケル・オホーヴェン&スタン・ヴロドコウスキー、撮影はピーター・ソーヴァ、編集はニコラ・トランバシエヴィッツ、美術はフランソワ・セギュアン、衣装はニーナ・プロクター ラウラ・ゴールドスミス、音楽はニール・ダヴィッジ、音楽監修はライザ・リチャードソン。
出演はクリス・エヴァンス、ダコタ・ファニング、カミーラ・ベル、クリフ・カーティス、ジャイモン・フンスー、ミン=ナ、ジョエル・グレッチ、ネイト・ムーニー、リー・シャオ・ルー、マギー・シフ、コリー・ストール、スコット・マイケル・キャンベル、ニール・ジャクソン、ポール・カー、ハルヒコ・ヤマノウチ、チー・クワン・ファン、ジャッキー・ヒュン、コリン・フォード、ロバート・ツォノス、ブランドン・リア、ジェイソン・ウォン、シウ・イン・ミン、レイン・ラウ他。


『ホワイト・ライズ』『ラッキーナンバー7』のポール・マクギガン(マグイガン)が監督を務めた作品。
脚本を書いたデヴィッド・ボーラは、『親指バットサム』『親指ゴッドファーザー』『親指フランケン』で監督を務めていた人。
これまでTVドラマの脚本を執筆したことはあるが、劇場用映画は本作品が初めて。
ニックをクリス・エヴァンス、キャシーをダコタ・ファニング、キラをカミーラ・ベル、フックをクリフ・カーティス、カーヴァーをジャイモン・フンスー、エミリーをミン=ナ、ニックの父をジョエル・グレッチ、ピンキーをネイト・ムーニー、ポップ・ガールをリー・シャオ・ルー、テレサをマギー・シフ、マックをコリー・ストール、ホールデンをスコット・マイケル・キャンベルが演じている。

アヴァン・タイトルの後、キャシーのナレーションによって
「1945年、ナチスは超能力者を兵士として使おうと考え、実験を繰り返したが、その大半が死亡した。終戦後も実験は続行され、世界中の政府が手を組んでディビジョンという組織を作り出した。ディビジョンは超能力者を捕まえて家族から引き離し、実験を行って能力別に分類した。予知能力を持つウォッチャー、念動力を持つムーヴァー、脳に偽の記憶を埋め込むプッシャーといった具合である。他にも、スニファー、シフター、シャドウ、ブリーダーなど多くの種類がある。どの能力者もディビジョンではモルモットとして扱われ、能力増幅薬によって死に至る」
といったことが説明される。
つまり、冒頭で
「ディビジョンとは何なのか」
「ニックの父が息子に触れずに動かしていたが、あれは超能力なのか」
「ニックの父が口にした言葉の意味は何なのか」
など、色々な謎を含んだシーンを用意しておきながら、大半の部分に関しては、オープニング・クレジットでナレーションによって説明してしまうのだ。

そんなわけだから、まるで1作目が存在しており、「前作のおさらい」として説明しているかのように感じられる。
でも実際には、これが1作目なんだから、普通は「何も知らないニックが色んな人と遭遇したり様々な出来事を体験したりする中で、ディビジョンや能力者について知識を得ていく」という流れにして、それによって観客も知識を得て設定や内容を理解していくという形にするべきじゃないのか。
そういう作業をやらず、序盤のナレーションで説明しちゃうって、なんちゅう大雑把な処理だよ。

で、ニックはディビジョンの連中が来ても全く動じないし、キャシーが来ると「お前はウォッチャーだな」と言い当てている。
つまり、彼は成長した姿で登場した時点で、キャシーがナレーションで説明したような事柄を全て分かっているということなのだ。
それも含めて、やっぱり雑な処理だなあ。
そして、「まるで旧シリーズが存在していて、それに続く新シリーズとして作られた作品みたいだな」という印象を受ける。
それぐらい、非現実的な世界観や設定に関する説明が粗すぎる。

そもそも、これって1本の長編映画で処理できるような内容量じゃないと思うんだよね。
TVシリーズ向きの素材だろう。
それでも映画で作るのであれば、最初からシリーズ化や3部作を想定し(もちろん1作目がヒットしなきゃオシマイだけど)、この1作目では登場する能力者の種類を5つぐらいにして、初期設定や世界観、人物関係などを観客に紹介し、「これから戦いが本格化していく辺りまでを描く」という風に割り切るぐらいの気持ちが必要だったんじゃないかと。

たくさんの種類の能力者が存在するのであれば、そういう連中を登場させる時に、その能力を披露するシーンを用意して、それがどういう 能力で、何と呼ばれる能力者なのかってのを観客に紹介するような形にしておいた方が、何かと都合がいいんじゃないかと思うんだよな。
この映画の場合、いきなりキャシーがウォッチャーとムーヴァー、プッシャーについてはセリフで簡単に説明してしまうので、その能力を発揮するシーンを用意し、映像表現で引き付けるという作業が出来ないんだよな。
その後でスニファーやウォッチャー、ムーヴァーたちが能力を使うシーンは出て来るけど、スニファーに関しては、能力を使われた時点では、どういう能力なのかという説明が無いので分かりにくいし、彼らが「スニファー」であることも分からない。
ブリーダーに関しては、ポップ・ガールとポップ・ファーザーがその能力者なのかと思ったら、叫んで振動を発する仲間の男たちがブリーダーなのね。それも説明が無いから良く分からん。
序盤でナレーションによる説明をやっている一方で、それ以降のシーンにおける説明は下手。

ニックの部屋にディビジョンのエージェントたちがやって来るが、拘束するのかと思ったら、そのまま立ち去ってしまう。
何のために来たのかサッパリ分からない。
で、その後にポップ・ガールたちがニックたちを襲うが、だったらエージェントたちがニックを捕まえておけば良かったんじゃないかと思っちゃう。
話が進む中で、どうやらポップ・ガールたちはディビジョンとは別のグループのようだということが分かって来るけど、それもハッキリしているわけじゃないし、その辺りの説明は上手くない。
あと、ニックはキャシーを逃がしてポップ・ガールたちに捕まったのかと思ったら、キャシーはテレサの元にいるニックを見つけ出す。
ニックがキャシーを逃がした後、どういう経緯でそこに移されたのか。サッパリ分からん。

とにかく、「何も知らない主人公」というポジションなのかと思っていたニックが全てお見通しなので、次々に色んな能力者が登場したり、様々な出来事が起きたりしても、そんなに慌てずに対処できている。
だから、ニックが「君は誰だ」「それはどういう意味だ」「こんなことになるのは何故なんだ」と疑問を抱いて、それに対して誰かが説明したり、ニックが情報を手に入れて解き明かしたりという作業が無い。
なので、そういう作業を通して、観客に内容を噛み砕いて説明するということも出来ない。
そのため、観客は色んなことがうっすらとしか分からない状態で、慌ただしい展開に付き合うことを余儀なくされる。
それは「ミステリアスな面白さ」ではなく、単純に説明が不充分で分かりにくいだけだ。

超能力を使ったケレン味溢れる派手なバトルが繰り広げられるのかと思いきや、ウォッチャーの能力が圧倒的に強すぎる設定もあって、「相手の行動の読み合い」が対決のメインとなっている。
そもそも、能力の中で直接攻撃が出来るのはブリードだけなんだよな。
物を動かして攻撃できるムーヴ、肉体を癒やすだけでなく壊すことも出来るスティッチを含めても、能力としてはプッシュやウォッチに歯が立たないので、映像的に派手な超能力ウォーズをやれる設定じゃないんだよな。
そもそも、ブリーダーもムーヴァーもスティッチャーも、劇中では対して目立たない存在だし。

互いに相手を攻撃したり防御したりという超能力ウォーズではなく、物語の佳境に入って心の読み合いが行われるという地味な構成の時点でいかがなものかと思うんだが、その上、心理の読み合いをやるのはキャシーとポップ・ガールなんだよな。
おいおい、ニックたちとディヴィジョンの戦いがメインじゃねえのかよ。
なんで無関係の中国人グループとの戦いがメインになっているんだよ。
っていうか、その中国人たちの目的は何なのか。薬を手に入れても、適合者はキラ以外に存在しないんだから、価値は無いでしょうに。

その心理読み合い合戦が終わった後、ようやく派手な戦いが繰り広げられるけど、それをやるのは中国人グループとヴィクター。
で、そこにニックも参加するんだけど、最初は拳銃を発砲しまくるだけ。能力は全く使っていない。
その後、ヴィクターと殴り合いをするシーンになり、それは「互いにムーヴの能力を使って殴り合っている」ということみたいだけど、実際にパンチを放っているので、ムーヴの能力者という設定の意味が乏しいぞ。
それは念動力じゃなくて、「すげえパンチを放つことが出来る奴」みたいになっちゃってる。

しかも最終的にヴィクターを倒すのは、ニックじゃなくてポップ・ファーザーなのよね。
その後、カーヴァーを倒すのもニックじゃないし。
結局、ニックの超能力って、ほとんど役立たずのままで映画は終わってしまうんだよな。
メモを見て行動するという計画を立てたことで大きな成果は得ているが、それは普通の人間でも出来ることだから、ニックがムーヴァーである必要性は皆無に等しいのよね。
色んな能力がある中で、最も不要なのが主人公の能力であるムーヴなんだけど、それでいいのか。

(観賞日:2013年6月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会