『プルーフ・オブ・ライフ』:2000、アメリカ

K&R(誘拐身代金)企業ルーサン・リスクの危機管理チームで人質交渉人を務めるテリー・ソーンは、チェチェンでの仕事を終えて ロンドン本社に戻り、上司に報告を行った。テリーはチェチェンにおいて、ピエール・レノワという人物の誘拐事件を担当した。犯人は チェチェン民族解放軍で、身代金として500万ドルを要求していた。
テリーは相手との交渉をロシア軍司令部に制限され、監視された。最終的に身代金を75万ドルまて減額させたテリーだが、それを届ける ことはロシア軍から禁止された。ロシア軍に人質を助ける意思が無いと確信したテリーは、彼らを騙して取引場所に向かい、レノワを救出 した。予定より早くロシア軍が来て戦闘が始まったため、ヘリで緊急脱出した。
南米のテカラでは、クアド石油でダムの建設技師をしているピーター・ボウマンと妻アリスが暮らしていた。2人はエジプト、タイ、 アフリカと移り住み、ここテカラへやって来た。ピーターは重役達と話すため会食に招くが、姿を見せたのは友人ジェリーと妻アイヴィー だけだった。ピーターはジェリーから、本社がオクトナル石油に買収される計画が進行していることを聞かされた。ダム建設に精力を注ぐ ピーターは、アメリカへ帰りたがるアリスと言い争いになった。
翌日、ピーターは出社する車の中から上司テッドに電話を掛けるが、途中で通じなくなった。いつもの道路が封鎖されていたため、彼は 別のルートを使ったが、道路封鎖によって多くの車が立往生していた。逃げ出そうとした連中は、武装した面々に射殺された。道路を封鎖 していたのは、テカラ解放同盟(ELT)のゲリラだった。ピーターは、そこにいた大勢の人々と共に拉致された。
アリスはアイヴィーから事実を知らされ、ピーターの姉ジャニスがダラスから駆け付けた。ルーサン・リスクがクアド石油のK&R顧問を 担当していたことから、テリーはテカラへ派遣された。テリーはアリスとジャニスに会い、ELTについて説明する。そして「地元の警察 や軍は信用できない。大使館もアテに出来ない。長期戦を覚悟してほしい」と告げた。
ピーターは山奥に連行され、過酷なキャンプ生活を強いられる。彼は部隊長ファーコらの監視を受けながら、ゲリラのアレックスやリンダ らと生活する。テリーはバーへ行き、他のK&R企業で働く友人ワイアットとディーノに会う。ディーノは元ルーサン・リスクの 人質交渉人で、今はELTに誘拐されたカリトリというイタリア人の人質交渉を担当していた。
アリスとジャニスはテッドからテカラ支社に呼び出され、クアド石油の本社が保険契約を解約していたことを聞かされる。保険が効かない ため、ルーサン・リスクは人質交渉から外れることとなった。テッドはクアド石油の警備責任者アルトゥーロ・フェルナンデスを呼び、 新たな人質交渉人として紹介した。テリーはアリスから非難され、そして懇願されるが、テカラを去った。
ELTのメンバーから連絡があり、身代金として500万ドルを要求してきた。さらに彼は、ピーターの生存証明が欲しければ手付金として 15億ペソを払えと告げた。一方、ロンドンへ戻ったテリーは、上司からバンコク行きを指示された。アリスとジャニスはフェルナンデス の指示を受け、15億ペソを集めた。それを数えているところへ、テリーが現われた。
テリーはアリスに、個人として力になると告げた。状況を見た彼は、フェルナンデスが人質交渉人に不適格だと即座に見抜いた。ピーター はアリスに、フェルナンデスの彼の部下2人を引き取らせるよう求めた。フェルナンデスと部下2名は銃を構え、退去を拒絶した。そこへ ディーノが現われて銃を突き付け、フェルナンデス達を追い払った。
テリーはアリスと共に街の大聖堂へ行き、ELTが隠した無線周波数と連絡時間のメモを見つける。水曜と日曜が無線による交信の日と なった。テリーは、マルコを名乗る相手との交信を開始した。一方、ピーターは酒と麻薬に浸るファーコの命令に対し、強硬な態度を 取った。ファーコが銃を構えても、ピーターは「私を撃てるものか」と大胆だった。ファーコは誤って仲間のアレックスを撃ってしまい、 豚の世話係に降格した。
ピーターは山奥から移動させられるが、その途中で足に大怪我を負った。戦闘の拠点である村に移されたピーターは、19ヶ月前から人質に なっているというドイツ人宣教師ケスラーと出会った。テリーはアリスとジャニスを連れて大使館を訪れ、領事と会う。だが、ELTに よる大使館爆破予告があったため、すぐに脱出した。テリーたちの車には封筒が残されていた。そこには、新聞を持たされたピーターの 痛々しい写真が入っていた。その新聞の日付が、ピーターの生存証明になっているのだ。
テリーはジャニスに対し、ダラスへ戻って60万ドルを集めるよう求めた。その辺りの金額で身代金交渉をまとめるつもりなのだ。マルコは 300万ドルを要求してきたが、テリーは粘り強く交渉を続け、65万ドルで話を付けた。一方、ピーターはケスラーの介護を受け、足の傷も 癒えていた。ケスラーは元外人部隊の兵士だったが、ELTには気狂いだと思われていた。ピーターはゲリラの隙を見て、周辺の地図を ケスラーの聖書に書き写した。ピーターが脱走を計画していると知ると、ケスラーは自分も行くと告げた。
マルコからの答えが届くはずの日曜、テリーが幾ら話しても無線での応答が来なくなった。ピーターはケスラーと共に逃亡を図るが、 すぐにELTが追ってきた。ピーターは足に大怪我を負って捕まり、ケスラーは肩を撃たれて崖から川に転落した。だが、ケスラーは川下 に流れ着き、村人に救われて無事だった。その情報は、テリーにも届いた。
テリーはアリスを連れて、ケスラーに会った。ケスラーから銃声がしたと聞かされたアリスは、ピーターが死んだと確信した。テリーは ディーノから、彼が交渉を断念して人質の奪還を計画していることを聞かされた。テリーはアリスの女中マリアから、マルコを知っている ことを聞き出した。マリアの母がマルコの家で働いていたため、声に聞き覚えがあったのだ。
マルコの正体は、テカラ軍部とも繋がりがあるフレッドという男だった。テリーは政府主催のパレード会場へ赴き、フレッドと接触した。 テリーは会話の録音テープでフレッドを脅迫し、まだピーターが生きていることを確認した。しかしフレッドは、もはや交渉の余地は無い と通告した。テリーはディーノと共に、人質の奪還計画を実行することにした。ディーノは教え子のトマスやカルロスたちを呼び寄せた。 テリーは惹かれ合うようになっていたアリスと熱いキスを交わし、ゲリラの村へと出撃する…。

監督はテイラー・ハックフォード、脚本はトニー・ギルロイ、製作はテイラー・ハックフォード&チャールズ・マルヴェヒル、製作総指揮 はスティーヴン・ルーサー&トニー・ギルロイ、撮影はスワヴォミール・イジャック、編集はジョン・スミス&シェルドン・カーン、美術 はブルーノ・ルベオ、衣装はルース・マイヤーズ、音楽はダニー・エルフマン。
出演はメグ・ライアン、ラッセル・クロウ、デヴィッド・モース、パメラ・リード、デヴィッド・カルーソー、アンソニー・ヒールド、 スタンリー・アンダーソン、ゴットフリード・ジョン、アラン・アームストロング、マイケル・キッチン、マーゴ・マーティンデイル、 マリオ・エルネスト・サンチェス、ピエトロ・シビル、ヴィッキー・ヘルナンデス、ノーマ・マルティネス、ディエゴ・トルヒーヨ他。


1994年9月、農業ジャーナリストのトーマス・ハーグローヴはコロンビアで麻薬ゲリラ組織のFARCに拉致され、約1年間の人質生活を 余儀なくされた。
彼の妻と弟はプロの人質交渉人を雇い、2度の身代金支払いによってトーマス・ハーグローヴは解放された。
彼が人質生活の間に密かに書いていた日記は、『Long March to Freedom』として出版された。
その体験記事は、ウィリアム・プロクノーによってVanity Fair誌に『Adventures in the Ransom Trade』というタイトルで掲載された。
映画製作会社キャッスルロックは、ハーグローヴの誘拐事件の映画化権利を買い取った。
こうして製作され、ワーナーブラザースが配給した映画が、『プルーフ・オブ・ライフ』である。
ただし、あくまでも事件に関しては「着想のヒントになった」という扱いだ。
トーマス・ハーグローヴの『Long March to Freedom』やウィリアム・プロクノーの『Adventures in the Ransom Trade』はオープニング では表記されず、エンドロールの最初に「Inspired by」として表示される。

アリスをメグ・ライアン、テリーをラッセル・クロウ、ピーターをデヴィッド・モース、ジャニスをパメラ・リード、ディーノを デヴィッド・カルーソー、テッドをアンソニー・ヒールド、ジェリーをスタンリー・アンダーソン、ケスラーをゴットフリード・ジョン、 ワイアットをアラン・アームストロングが演じている。
監督のテイラー・ハックフォードと脚本のトニー・ギルロイは、『ディアボロス/悪魔の扉』のコンビ。

冒頭、テリーのチェチェンでの活動が、本社で彼が報告する回想として描写される。
最初にテリーの仕事がどういうものかをアピールする目的か、それともアクションを見せてキャッチーに行きたかったのかは分からないが、それはOK。
ただ、無粋なことに半分ほどはナレーションで説明してしまうのだ。
それなら、そのナレーションとダイジェスト映像の部分を削除して、「人質解放現場にロシア軍が 現われて激しい戦闘が始まる中から脱出する」という部分だけを見せればよかったのに。

テカラ(もちろん架空の国)にシーンが移り、ピーターはジェリーと会社について深刻な話をしているのに、その隣でアリスは呑気に おどけ、さらには誘ってきた男とノリノリでダンスを始める。
のっけから、かなり神経を逆撫でするキャラに見える。
どうやらアフリカでの出来事を引きずっているらしいが、ただ夫への思いやりが無いようにしか見えない。
「冷え切っていた夫婦関係が誘拐事件によって修復される」というドラマなら、最初に妻のイヤな態度を見せておくのも、まあ分からないではない。
しかし、アリスは人質交渉人に浮気心を起こしてしまうんだから、どうしようもないぞ。

というか、この映画のメグ・ライアン、芝居が下手に見える。
アイヴィーからピーターが誘拐されたと聞いた時の表情も、呆然としているように見せたいんだろうけど、ただアホみたいに ボーっとしているようにしか見えない。
テリーと冷静に話しているのも、気丈に振舞っているように見せたいんだろうけど、ただ夫への愛が薄いようにしか見えない。
完全にミスキャストだったな。

ただ、シナリオもおかしいんだけどね。
誘拐事件発生の直後から、テリーに対して「夫を亡くした妻として、私はどうかしら」と尋ねているし。
もう早い段階で、ピーターを勝手に殺しちゃってんのよね。
ケスラーから銃声がしたと聞かされた時も、まだ生きていると信じるテリーに対して「ピーターは死んだのよ」と強硬に主張するし。
そんなに死んでほしいのかと。

一度はロンドンへ戻ったテリーが、なぜ個人としてアリスに力を貸そうと思ったのかがサッパリ分からない。
その段階で、既にアリスへの愛情が芽生えていたということなのか。
そんな匂いは全く漂ってこなかったけど、他に理由も見当たらないしなあ。
しかしアリスの元に戻った後、テリーはビジネスに徹している。
アリスの方もクールだし、この2人の恋愛の匂いはゼロに等しい。
テリーがディーノと奪還計画を話し合う場面で「アリスに惚れているんだろ」と言われているが、そこまでの恋愛描写は皆無に等しいので 、そのセリフが唐突にしか思えない。
奪還計画に向かう直前にテリーとアリスが熱いキスを交わすのも、あまりにも唐突なものに感じる。
何の前触れも無く、急に2人がくっ付いてしまったという印象になっているのだ。

どうやら撮影中にメグ・ライアンとラッセル・クロウが不倫関係に陥るというスキャンダルが起きた影響で、熱烈な恋愛シーンがかなり カットされてしまったらしい。
本来ならば、終盤の奪還劇に至るまでのグダグダした時間帯において、充実したロマンス描写があったはずだということだろう。
アリスがほとんど何もしていない飾りになっているのも、そこがカットされたせいだろう。
ただ、カットしたから恋愛劇がダメになったということよりも、そもそも本作品で人質交渉人と人質の妻との恋愛劇を大きく扱おうとした ことが失敗だったのではないかと思えるのだ。
もしロマンス描写が充実していたとしても、アリスが尻軽女だという印象は変わらないはずだから。
タイトル(プルーフ・オブ・ライフは「生存証明」の意味)を強く印象付けたかったのか、何度もゲリラのキャンプや村にシーン が切り替わり、過酷な暮らしを強いられるピーターの様子が描かれるんだが、これによって「夫がヒドく苦しんでいる時に、他の男への 浮気心を起こしている」ということで、アリスが尻軽女だという印象が増すようになっているのだ。

とどのつまり、トーマス・ハーグローヴの日記を「インスパイア」に留めたのがダメだったのではないかと。
人質を主役に据えた方が良かったのではないかと。
あるいは脚色するにしても、人質交渉人と人質の妻との恋愛関係を盛り込むのではなく、人質交渉人と人質の 友情関係か血縁関係にした方が良かったのではないかと。
そして、人質交渉人と人質の絆を話の軸に据えて進めていけば良かったんじゃないかと。
交渉では問題が解決せず、終盤になって奪還アクションになることを考えると、ますますそんな風に思うのだ。
っていうか、約4ヶ月に渡る交渉を終盤まで描いておいて、最後になってゴリ押しアクションってのは、構成としてどうなのかとも思うけどね。
奪還劇に持って行くのであれば、もう上映時間の半分ぐらいで交渉からそっちへシフトしていった方がいいんじゃないかと。

まず「メグ・ライアン主演のアクション・サスペンス」という企画だから、こんなヘンなことになっちゃったのかな。
でも、彼女はアクション・サスペンスにほとんど関与してないんだよな。
「いや、ロマンスの部分では貢献していて、そこを削ったから存在感が薄くなった」ということかもしれないが、そうなると 「そもそもロマンスが要らない」ということで無限サイクルに突入してしまうのであった。
確実にいえるのは、K&Rをメインに据えた本作品において、妻は脇役に徹するべきだし、ロマンスなど邪魔ってことよ。

アリスはテリーがピーター奪還に向かう時には熱いキスをしておいて、2人が戻ったらピーターに泣いて抱き付くんだから、なんちゅう 変わり身の早さだ。
かと思ったら、直後にテリーの元へ歩み寄って「私の気持ちは分かっているでしょ」とか言う。
お前はテリーに心変わりしているのに、ピーターに抱き付いたのかと。
で、テリーが去ったら、またすぐにピーターと硬く手を握り合う。
尻軽にも程があるぞ。
好感度ゼロの女だ。
とりあえず、デニス・クエイドに幸あれ。

 

*ポンコツ映画愛護協会