『プロメテウス』:2012、アメリカ&イギリス

考古学者のエリザベス・ショウとチャーリー・ホロウェイを始めとする調査団は、スコットランドの洞窟に描かれた古代の星図を発見した。2091年、そのショウとホロウェイを含む科学者の一団は、ウェイランド・コーポレーションの宇宙船“プロメテウス”で星図が示す惑星へ向かった。2年を越える航海を経て、プロメテウスは惑星に近付いた。調査責任者のメレディス・ヴィッカーズはアンドロイドのデヴィッドに対し、チームを冷凍睡眠から起こすよう指示した。
プロメテウスにはショウとホロウェイ以外に、船長のヤネック、航海士のチャンスとラヴェル、地質学者のファイフィールド、生物学者のミルバーン、他にも十数名の科学者たちが乗船している。ビッカーズはショウたちを集め、ウェイランド・コーポレーションの会長であるピーター・ウェイランドの映像を見せる。その映像は2年前に撮影されており、高齢である彼は、それをショウたちが見ている時には既に死んでいるだろうと話した。ウェイランドは人類の起源を解き明かす目的で調査チームの面々を雇ったことについて語り、後の説明をショウとホロウェイに委ねた。
ホロウェイは調査チームに対し、世界各地の古代文明に共通の星図が描かれていることを語る。ショウは異星人の“エンジニア”たちが人類を作り出したという自説について語るが、科学者たちは全く相手にしなかった。ヴィッカーズは自分の部屋にショウとホロウェイを呼び、エンジニアと遭遇しても決して接触せず、自分に報告するよう要求した。プロメテウスは大気のある惑星に着陸し、ショウたちは特殊な車両で調査に出た。
調査チームが人工物のような巨大な岩山に足を踏み入れると、回廊のように通路が続いていた。大気の成分が地球と同一であることが判明し、一行はヘルメットを脱いだ。デヴィッドが壁の模様に触れたことで、ホログラム映像が起動した。エンジニアたちが逃げていく様子を目にしたショウたちは、急いで後を追った。するとエンジニアの一人が死体となって転がっていた。大きな扉に挟まれて死んだのだ。ファイフィールドは「俺は抜ける。船に戻る」と言い出し、ミルバーンと共にショウたちの元から離脱した。
ショウが年代測定器を使うと、死体は約2千年前のものであることが分かった。デヴィッドが仕掛けを解読して扉を開けると、人間に似た巨大な頭の像が祀られている部屋があった。部屋には壷のような容器が幾つも置かれており、デヴィッドが触れようとするとショウが制止した。デヴィッドは容器の上部から黒い液体が垂れ落ちるのを目にした。巨大な磁気嵐が近付いて来たため、調査チームはプロメテウスへ引き返すことにした。ショウたちが死体の頭部を回収している間に、デヴィッドは容器をバッグに入れた。
プロメテウスへ戻ったショウたちは、ファイフィールドとミルバーンが戻っていないことを聞かされる。その2人は回廊の中で迷子になっていた。ヤネックは彼らと通信し、「嵐が過ぎるまでは迎えに行けない。朝になったら迎えに行く」と指示した。持ち帰った頭部を調べたショウたちは、それが外骨格ではなく、ヘルメットであることを知る。ヘルメット部分を外すと、中には人間に良く似た頭部があった。採取したサンプルをショウたちが調べると、人間のDNAと一致した。
デヴィッドは密かに持ち帰った容器を開け、入っていたアンプルから黒い液体を採取した。彼は酒に液体を混入させ、ホロウェイを騙してそれを飲ませた。その後、ホロウェイはショウの部屋へ行き、彼女と肉体関係を持った。ファイフィールドとミルバーンは、蛇のような未知の生物に襲われた。翌朝、目を覚ましたホロウェイは、眼球の中で寄生虫らしき物が動いているのに気付いた。既に嵐は過ぎ去っており、ショウたちはファイフィールドとミルバーンの捜索に向かう。他の面々と別のルートに入ったデヴィッドは、ヴィッカーズからの通信で「映像を部屋に繋いで」と指示された。だが、ある部屋に入った彼は、映像を遮断した。
容器の部屋に辿り着いたショウたちは、ミルバーンの死体を発見した。ホロウェイが体の異変を訴えたため、一行はプロメテウスへ戻ることにした。デヴィッドは部屋の仕掛けを動かしてホログラム映像を起動させ、そこにあるシステムの操作方法を理解した。そして彼は、エンジニアの1人が冷凍睡眠の状態にあることを知る。ヴィッカーズはウイルス感染したホロウェイの乗船を認めず、火炎放射器を構える。ホロウェイは覚悟を決め、火炎放射を浴びて死んだ。
気絶したショウが目を覚ますと、デヴィッドが傍らにいた。ショウの体内スキャンを行ったデヴィッドは、彼女が妊娠していることを告げる。ショウは全自動手術装置を使い、摘出手術を行った。彼女の腹部から取り出されたのは、イカのような姿のエイリアンだった。ショウは全自動手術装置にエイリアンを閉じ込め、その場から逃亡した。一方、ファイフィールドからの通信があったため、ヤネックは船のハッチを開ける。だが、ファイフィールドは感染によって凶暴化しており、乗組員たちを殺害していく…。

監督はリドリー・スコット、脚本はジョン・スペイツ&デイモン・リンデロフ、製作はデヴィッド・ガイラー&ウォルター・ヒル&リドリー・スコット、製作総指揮はマイケル・コスティガン&マーク・ハッファム&マイケル・エレンバーグ&デイモン・リンデロフ、撮影はダリウス・ウォルスキー、編集はピエトロ・スカリア、美術はアーサー・マックス、衣装はジャンティー・イェーツ、視覚効果監修はリチャード・スタマーズ、音楽はマルク・ストライテンフェルト。
出演はノオミ・ラパス、マイケル・ファスベンダー、シャーリーズ・セロン、ガイ・ピアース、イドリス・エルバ、ローガン・マーシャル=グリーン、ショーン・ハリス、レイフ・スポール、イーモン・エリオット、ベネディクト・ウォン、ケイト・ディッキー、ブランウェル・ドナヒー、ウラジミール・フルディク、CC・スミフ、シェーン・ステイン、イアン・ワイト、ジョン・レバー、ダニエル・ジェームズ他。


『ワールド・オブ・ライズ』『ロビン・フッド』のリドリー・スコットが監督を務めた作品。
ショウをノオミ・ラパス、デヴィッドをマイケル・ファスベンダー、ヴィッカーズをシャーリーズ・セロン、ウェイランドをガイ・ピアース、ヤネックをイドリス・エルバ、ホロウェイをローガン・マーシャル=グリーン、ファイフィールドをショーン・ハリス、ミルバーンをレイフ・スポール、チャンスをイーモン・エリオット、ラヴェルをベネディクト・ウォンが演じている。
ショウの父親役はパトリック・ウィルソン。

日本語吹き替え版では、剛力彩芽がヒロインの声を務めた。
その声優としての仕事ぶりに関しては、色んなところで批評が出ていると思うが、まあ誰が聞いても酷いね。
剛力彩芽は好感度の高い女優さんだけど、そんなに芝居が上手いわけではない。だから当然と言えば当然だが、吹き替えの仕事はシャレにならないぐらい酷い。声がキャラクターに全く馴染んでいない。
配給会社としては、人気者だから訴求力に期待して起用したんだろうけど、ホントに観客動員に繋がったのかな。
こういうこと(吹き替えの下手な有名タレントを、洋画やアニメ映画の主要キャストで声優として起用すること)を繰り返していたら、いつか映画ファンにそっぽを向かれるぞ。

当初は『エイリアン』シリーズの第5作として企画が立ち上がった。
監督を務める予定だったジェームス・キャメロンが降板した後、リドリー・スコットがプロデューサーを務めることになり、『エイリアン』の前日譚を描くという方向性が決まった。
リドリーは娘婿であるCMディレクター出身のカール・エリック・リンシュに監督させようと考えていたが、製作する20世紀フォックスは納得せず、リドリーが撮ることを希望した。
結局、リドリーが折れて、自分が監督を務めることにした。

出来上がった映画について、リドリー・スコットは『エイリアン』の前日譚ではあるものの、シリーズとの関連性は薄く、オリジナルの ストーリーだとコメントしている。『エイリアン5』や『エイリアン・ビギンズ』といったタイトルではなく、『プロメテウス』というタイトルにしたのも、『エイリアン』シリーズを観客に意識してほしくないという考えがあったからだろう。
ってことは、それはリドリーだけの考えでなく、20世紀フォックスとしても「これは『エイリアン』シリーズじゃない」という位置付けで売りたがっていたのだと解釈していいんだろう。
でも実際に見てみると、どう考えたって『エイリアン5』なんだよね。っていうか、もっと言っちゃうと、『エイリアン』の焼き直しじゃないかとさえ思える。
宇宙船が調査のために未知の惑星へ赴き、その道中で乗組員は人工冬眠し、乗組員の中にはアンドロイドがいて、そいつは乗組員の命よりも与えられた任務を優先して、乗組員は地球外生命体に襲われて、ヒロインだけが生き残って、「私は誰それ、何々号の最後の乗員」と通信する。
えっと、これって『エイリアン』のセルフリメイクじゃないよね。

これは人類の起源を解き明かそうとする本格SFミステリーではなく、宇宙船の乗組員が地球外生命体に襲われるホラー映画である。
色々と張り巡らされた伏線は、その大半が回収されないままで終わっている。
様々な謎が次々に提示されるが、その大半は謎のままで終わっている。
ひょっとすると「続編で伏線を回収し、謎を解き明かす」ということなのかもしれない。
ただし、ここまで大量の伏線や謎を放置したままで終わっているのは、手抜き作業、もしくは怠慢と言わざるを得ない。

人類の起源についての謎は全く解き明かされないまま終わっているように思えたのだが、調べてみると、実は解き明かされていたらしい。
冒頭シーン、どこか分からない場所で上空に円盤が浮かんでおり、異星人らしき奴が黒い液体を飲み干し、急に苦悶して滝壺に落下し、体がバラバラに分解される。
これが「太古の地球を訪れた宇宙人が黒い液体を飲んでDNAを変化させてばら撒き、それが人類の起源になった」ということらしい。
いやいや、そんなのは映画を見ているだけじゃ全く分からんよ。
そもそも、人類の起源の謎を映画の冒頭で明かしちゃうって、その構成自体もどうなのよ。
「最初に描かれているが、その時点では分からず、後になって、実はあれが人類の起源だったことが明らかになる」という仕掛けなら、それは上手い構成だと思うよ。でも、最後まで何の説明も無いんだから。

「ショウが黒い液体をホロウェイに飲ませるのは何故なのか」
「ウェイランドは巨人に頼めば自分を死から救ってくれると思っているが、その根拠は何なのか」
「ショウは腹部からエイリアンを摘出したばかりなのに激しく動き回っても平気だが、ホントに普通の人間なのか」
「ショウは巨人が宇宙船を発進させただけなのに地球を滅ぼしに行くと断定しているが、その根拠は何なのか」
「わざわざガイ・ピアースに特殊メイクで死に掛けの老人を演じさせている意味は何なのか」
など、分からないことは色々とある。
で、そういった事柄の全ては、投げっ放しジャーマン状態だ。

物語を進めるために、登場人物に無理な行動を取らせすぎている。
そのせいで、優秀な科学者であるはずの乗組員が、揃いも揃ってバカな連中に見えてしまう。
大気が地球と同じ成分で形成されているというだけで、ホロウェイは簡単にヘルメットを脱いでしまう。
エンジニアの死体を見つけただけで、ファイフィールドとミルバーンは宇宙船に戻ると言い出し、回廊の中で迷子になる。
せめて朝までじっとしていればいいものを、ウロウロと動き回る。
未知の生物と遭遇したミルバーンは、不用意に手を差し出す。

あまりにも愚かな行動ばかりとるので、ホントに科学者なのか、ひょっとすると「研究助手」とか「科学者見習い」といいう肩書なんじゃないのかと疑ってしまう。
いや、仮に研究助手だったとしても、ここまでバカな行動を取る奴は珍しいだろう。
でも、登場人物がバカばっかりなのは、これがホラー映画であることを思えば、実は間違っていないのかもしれない。
ホラーの中でも、『13日の金曜日』系のスラッシャー映画では、「バカな行動を起こした若者たちが殺人鬼に殺されていく」というのがパターンだからね。
まあプロメテウスの乗組員はティーンズじゃなくて大人ばかりだけどさ。

前述したように、どうせ実質的にはモンスター・ホラー映画なんだから、余計な飾り付けをやらなくてもいいのに。
で、その結果として、手に負えなくなっているんじゃないかと。
そりゃあ、頑張って脳味噌を回転させれば、謎に対する答えはそれなりに思い付くこともある。
ただ、ほぼヒントが無い状態で「答えは自分で見つけてね」ってことだとしたら、それは観客に下駄を預けすぎだし。
どっかの漫画原作者やアニメ監督じゃあるまいし、やっぱり畳めない風呂敷は広げちゃダメだと思うよ。

これは高尚で芸術的な映画を装った、底抜けのバカ映画である。
もしもリドリー・スコットが意図的に「高尚に見せ掛けたバカ映画」を作ったのだとしたら、なかなか面白いセンスの持ち主だとは思う。
だが、そういう仕掛けであることを分かる人がそれほど多いとも思えないし、その試みは失敗している。
っていうか、たぶん意図的じゃなくて、『ハンニバル』と同じく「やっちまった」作品だろうなあ。

(観賞日:2013年5月7日)


2012年度 HIHOはくさいアワード:2位

 

*ポンコツ映画愛護協会