『プロムナイト』:1980、カナダ

1974年。少年のニック・マクブライドと友人のウェンディー・リチャーズ、ケリー・リンチ、ジュード・カニンガムは、廃校でかくれんぼをしていた。ウェンディーが鬼の役になり、他の3人は隠れた。ウェンディーが殺人鬼が捕まえてやるから」と言いながら捜索していると、キム・ハモンドが妹のロビンと弟のアレックスを連れてやって来た。キムはニックを見つけて声を掛けるが、身振りで静かにするよう要求される。キムはロビンにアレックスと帰宅するよう指示し、本を取りに戻った。
すぐにアレックスは立ち去るが、ロビンは廃校に足を踏み入れた。ニックは悲鳴を発したロビンに「お前のせいだ」と腹を立て、「殺人鬼が来たぞ」と追い掛ける。すると他の3人も加わり、ロビンを追い詰めた。逃げ場を失ったロビンは2階の窓から転落し、命を落とした。ニックが慌てて「すぐに知らせよう」と言うと、ウェンディーは「警察に捕まってもいいの?誰にも言ってはダメよ」と告げる。彼女は3人に決して口外しないよう誓いを立てさせ、廃校から逃亡した。その直後、何者かがロビンの遺体に歩み寄った。警察は変質者の仕業だと断定し、容疑者を割り出した。
6年後。ハモンド家の4人はロビンの墓参りに訪れ、家に戻った。ハモンドと夫人は、今もロビンを亡くした悲しみを引きずっていた。キムとアレックスが通うアレクサンダー・ハミルトン高校では、その日がプロムだった。アレックスはキムからプロムの相手にジュードを勧められるが、「冗談だろ」と乗り気ではない。「抜けてるけど、いい子よ」とキムが言うと、彼は「僕はテープ係だ。踊る暇は無いよ」と告げた。ハモンドが2人を車で学校へ送ると、用務員のサイクスが草を刈っていた。アレックスはサイクスを変人だと評し、キムは父に「怖いわ。おかしな目で見るし、女子のロッカー室を覗くの」と語った。校長を務めるハモンドは、「身元は確かだ。ちゃんと調査してある」と2人に告げる。
ジュードが自宅にいると、知らない男から電話が掛かって来た。男は「今夜は出掛けるんだろう。プロムで会おう」と不気味に言うが、ジュードは悪戯だと思って切った。ジュードが家を出ると、同級生のシーモアが「車に乗らないか」と誘った。ジュードは彼の車に乗り、高校まで送ってもらうことにした。ケリーはジュードと同じ男から「久しぶりだね。今夜は僕の番だ」という電話を受け、すぐに切った。恋人のドルーが来たので、彼女は一緒に出掛けた。
ニックが警部の父と出掛けようとすると、犯人が掛けた電話が鳴った。しかしニックは喧嘩したウェンディーからの電話だと決め付けて、出ようとしなかった。彼は父に、今はキムと付き合っていることを告げた。犯人は腹を立てて電話を切り、リストにあるニックの名前を消して残すはウェンディーだけになった。警察署に着いたマクブライド警部は、6年前を振り返った。ロビン殺害の容疑者のマーチは車で逃走を図り、追跡を受けて事故を起こした。車が炎上してマーチは全身に大火傷を負い、精神科病院に入院していた。しかし昨晩、彼は看護師を人質に取って病院から逃亡していた。
マクブライドは6年前にマーチの担当だったフェアチャイルド医師を呼び、そのことを伝える。廃校で看護師の遺体が発見されたという連絡が入り、マクブライドはフェアチャイルドと共に現場へ向かった。犯人はウェンディーに電話を掛け、「まだゲームをやるかい?」告げる。しかしウェンディーは同級生のルー・ファーマーが悪戯電話を掛けて来たと思い込み、軽く笑って切った。マクブライドが廃校に入ると血の付着したナイフが残されており、看護師の車が無くなっていた。マクブライドが「やはり舞い戻ったか。問題は理由だ」と言うと、フェアチャイルドは「考えられるのは復讐だ」と口にする。「誰に?」とマクブライドが訊くと、彼は「アンタか警察か町だろう」と答えた。フェアチャイルドはマクブライドに、マーチの逃走を秘密にして捜査するよう助言した。
ウェンディーはダンスの練習をしているキムに、「プロムのキングはニックでクイーンは貴方だけど、今夜が終われば全て元通りよ」と敵対心を示す。「自信が無いみたいね」とキムが余裕を見せると、彼女は「プロムでニックを取り戻す」と宣言した。キムが食堂に行くと、覆面を被ったルーが強引にキスをした。目撃したアレックスは激怒して殴り掛かるが、ルーと仲間たちの反撃を受けた。ルーは教師に取り押さえられ、アレックスと共に校長室へ連行された。何度も問題を起こしているルーは無期停学処分を言い渡され、アレックスに恨みを抱いた。ウェンディーはルーと手を組み、フロムを潰す計画を企てた。
更衣室で着替えたウェンディーは、ロッカーに自分の写真が貼ってあるのを見つけた。キムとケリーが着替えていると、何者かに洗面所の鏡が割られた。キムとニックは体育館でプロムのリハーサルを行い、アレックスも参加した。その様子を、ウェンディーとルーが不敵な笑みで観察していた。キムは仕事中のサイクスを怪しみ、大きな物音に怯えて逃げ出した。ジュードとケリーは、ロッカーに自分の写真が貼ってあるのを発見した。マクブライドは部下たちに、高校周辺を厳重に警戒するよう命じた。
夜、プロムのパーティーが始まり、生徒たちはフロアで楽しく踊る。キムはニックと会場に入り、ジュードは2人にシーモアを紹介した。マクブライドはマーチの動きを警戒し、部下を連れて高校に来ていた。ウェンディーがルーと悪友たちを伴って会場に入ると、キムは見せ付けるようにニックと踊った。ケリーはダンス・フロアを離れ、薄暗い更衣室でドルーと抱き合っていた。しかしセックスを求められて嫌がるとドルーは腹を立て、「他に相手はいる」と去った。その直後、犯人が来てケリーを殺害した。ジュードは車でシーモアとセックスし、マリファナを吸う。そこへ犯人が現れてジュードを刺殺し、シーモアは車で逃亡を図って崖から転落した…。

監督はポール・リンチ、脚本はウィリアム・グレイ、製作はピーター・シンプソン、製作協力はロバート・グーザJr.、撮影はロバート・ニュー、編集監修はブライアン・ラヴォック、音楽はカール・ジットラー&ポール・ザザ。
出演はレスリー・ニールセン、ジェイミー・リー・カーティス、ケイシー・スティーヴンス、アントワーヌ・バウアー、ジョイ・トンプソン、シェルドン・リボウスキー、エディー・ベントン(アン=マリー・マーティン)、マイケル・タフ、ロバート・シルヴァーマン、ピタ・オリヴァー、デヴィッド・ムーチー、メアリーベス・ルーベンス、ジョージ・トゥリアトス、メラニー・モース・マックアリー、デヴィッド・ボルト、ジェフ・ウィンコット、デヴィッド・ガードナー他。


『ハロウィン』のジェイミー・リー・カーティスがヒロインを務めたホラー映画。後にシリーズ4作目まで作られた。
監督のポール・リンチはグラフィック・デザイナー出身で、これが映画3作目。
脚本は『チェンジリング』のウィリアム・グレイ。
ハモンドをレスリー・ニールセン、キムをジェイミー・リー・カーティス、ニックをケイシー・スティーヴンス、ハモンド夫人をアントワーヌ・バウアー、ジュードをジョイ・トンプソン、シーモアをシェルドン・リボウスキー、ウェンディーをエディー・ベントンが演じている。
ちなみにエディー・ベントンは、後に「アン=マリー・マーティン」の芸名でTVドラマ『俺がハマーだ!』などに出演したり、マイケル・クライトンの4番目の奥さんになったりしている。

まず冒頭シーンから、早くも「演出を間違えているなあ」と感じる。ニックたちが鬼ごっこをしているだけのシーンなのに、不安を煽るようなBGMを流しているからだ。
まだ何も怖いことなんて起きていないでしょ。そして、「これから怖いことが起きる」というわけでもないのよ。
いや厳密に言うと、ロビンが来てからは事故が起きる展開になるので、そこは不安を煽っても正解なのよ。でも、まだロビンが来ておらず、ただ仲間が鬼ごっこで遊んでいる時点で不安を煽るBGMを流しちゃうと、「その遊びの中で何か恐ろしいことが起きる」ってことを匂わせているように思うわけで。実際は違うんだから、まだタイミングとしては早いでしょ。
っていうか、ロビンが来てからも、やっぱり「そのBGMは違うなあ」と感じるのよ。だってロビンが死ぬのは「予期せぬ事故」であって(まあ実質的には殺人だけど)、「あらかじめ死が約束されていた出来事」ではないからね。

そしてロビンが死んだ後のシーンも、やはり見せ方に問題がある。
遺体に誰かが近付いた後、シーンが切り替わると夜になり、ロビンが転落した窓からハモンドが外を眺めている。「恐らく変質者の仕業だ。抵抗して殺された。容疑者を割り出した」という刑事らしき男の声がエコー付きで流れ、パトカーでハモンド夫人が現場に来る。その傍らを遺体がストレッチャーで運ばれ、救急車に乗せられる。
でも状況として、色々とおかしいでしょ。
ハモンドが1人で墜落現場にいるのも、夜遅くになってから夫人が子供たちと一緒にやって来るのも、そのタイミングで遺体が搬送されるのも、違和感しか無いわ。

っていうかさ、そのシーン、要らないでしょ。そこでハモンドと夫人を登場させなくても、6年後に初登場で充分だ。
刑事の語りが入る謎のモノローグも、可及的速やかに入れておかなきゃいけないことなんて何も無い。
「変質者の仕業と断定され、容疑者が捕まっている」という事実に関しても、6年後に回しても全く問題は無い。
むしろ、ニックたちが秘密の誓いを立てて事故現場を去ったら、すぐに6年後へ飛んだ方が導入部としてはテンポがいい。

1974年の段階でハモンドを登場させ、しかも「墜落現場に1人でいる」という奇妙な状況を用意しているのは、ひょっとすると「6年後にニックたちを襲う犯人が彼かも」と観客に思わせるための仕掛けなのかもしれない。
仮にそうだとすれば、狙いとしては理解できる。ただ、そうだと仮定しても、やっぱり「別に無くてもいいけど」とは思うぞ。
6年後のシーンだけで、「ハモンドが犯人」というミスリードを仕掛けても、それで充分だ。6年後になると、すぐにサイクスを「怪しい奴」として登場させているので、そういう意味でも「6年後でいい」と思うし。
明らかにサイクスでミスリードを狙っているんだから、そっちを優先した方がいいでしょ。

ジュードが犯人からの電話を受けた直後にスリックを登場させるのも、実はミスリードなのかもしれない。
でもサイクスにしろスリックにしろ、そこに容疑者の匂いなんて全く感じないのよね。
だってさ、冒頭で6年前の出来事を描いているし、犯人が電話を掛ける時に幼少期のジュードたちの姿が挿入される。ってことは、犯人は6年前の出来事を知っていて、復讐のために動いているのが明らかだ。
そして声が男なので、おのずと絞られるよね。もっと言っちゃうと、もう実質的に犯人は特定できちゃうよね。

この作品は最初に明確な動機が示されており、犯人が人間であることもハッキリしている。悪霊や悪魔など、いわゆるオカルト的な要素が絡む可能性は、早い段階で完全に消えている。動機が明確なので、「謎の殺人鬼が理不尽な無差別殺人を繰り返す」というわけでもない。
なので、ジャンル的にはホラー映画だが、探偵役を主人公に据えればミステリーとして成立する話になっている。
ただし前述したように、フーダニットとしての面白さは全く無い。なので、まあホラーで正解っちゃあ正解だ。
ただ、どうせ犯人が簡単に読めちゃうので、いっそのこと最初から明示した上で話を進めるのも有りだったかなあとは思うけどね。最後に犯人の正体が分かっても、「でしょうね」としか思えないからね。

犯人はプロムの朝、ニックたちに電話を掛ける。しかしニックは出ないし、女性陣も6年前のことなんて全く思い出さない。
まあヒントが乏しいから当然っちゃあ当然なんだけど、それじゃ意味が無いでしょ。そこは4人が6年前の出来事を思い出してくれないと、犯人が電話を掛ける意味が無いでしょ。
だから、そこは絶対に相手が思い出すような情報を、犯人が語るべきなのよ。
わざわざ脅しのために殺人前に電話を掛けているんだから、そこが脅しとして成立しなかったらダメでしょ。単に観客を怖がらせるだけで終わっちゃダメなのよ。
しかも、観客を脅す効果も微々たるモノだし。

マーチが逃亡したという情報が示されると、そこからは「彼が犯人」というミスリードが軸になる。それと同時に、サイクスたちの線は完全に消えている。
だったら、「いかにも怪しそうな男」としてサイクスを登場させたのは何だったのか。
そんな余計なキャラなんて配置せず、マーチに絞り込めば良かったでしょうに。
マーチは6年前の出来事と関係しているので、サイクスなんかよりはミスリードの力を持っていると言えるだろうし。

ただし、あくまでも「サイクスに比べれば」というだけであって、「マーチが犯人かも」というトコで引っ張るのも無理があるんだよね。
フェアチャイルドに「考えられるのは復讐だ」「アンタか警察か町だろう」と言わせているけど、その通りなのよ。
仮にマーチが犯人だとすると、ニックたち4人だけを標的にするわけがないのよ。そこに恨みを持つような理由が無いからね。ニックたちが「マーチが犯人」と偽証したわけでもないんだし。
なのでミスリードどころか、完全に本筋とは分離しちゃってるのよね。だからマクブライドがマーチを捜索して「戻った動機は何なのか」と真剣に考えているのが、バカみたいに思えてしまう。
終盤になって「逮捕された」という知らせが入るが、「何だったのか」と言いたくなるわ。

犯人はウェンディーたちのロッカーに写真を貼り付けるけど、どういう狙いなのかサッパリ分からない。
実際、ウェンディーたちも全く怖がらず、ただ「何なのか良く分からない」という反応を見せるだけだ。不安を煽るようなBGMは使っているけど、登場人物が全く恐怖を感じていないので、完全に不発だ。
むしろキムの方が、サイクスに怯えたり、大きな物音を怖がったりしているんだよね。
だけど彼女は犯人の標的じゃないので、「そこじゃないだろ」と言いたくなるわ。

そうやって犯人は誰も怖がらないような無意味でチンケな行動を繰り返すだけで、なかなか人を殺してくれない。
なんと最初の殺人シーンは、映画開始から1時間以上が過ぎないと訪れないのだ。
殺人シーンが無くても、他の描写で観客を怖がらせることが出来ているのなら、それはそれで構わない。でも全く出来ていないんだから、「せめて殺人シーンを早めに出せ」と言いたくなる。
あと、さんざん引っ張って、ようやく訪れる最初の殺人シーンも、ケレン味も残酷描写も物足りない淡白な内容だし。

この映画には致命的な問題があって、それは「ニックたちが殺されても、ふさわしい罰を受けただけにしか思えない」ってことだ。
4人はロビンを死に追いやっておいて何の反省もせず、のうのうと人生を楽しんでいる。なので、「復讐として殺されるのは当然の報い」としか思えないのだ。
っていうかさ、ロビンを死なせておいて、その姉であるキムと普通に仲良く出来ているって、どんだけ神経が図太いんだよ。
ニックなんて彼女と付き合おうとしているけど、クズじゃねえか。

完全ネタバレだけど、そんなニックが最終的に助かっちゃうんだよね。いやいや、こいつも殺せよ。
ニックだけ「最初は事故を知らせようとした」とか「キムに打ち明けるつもりだった」ってことで特別扱いになっているけど、こいつもウェンディーたちと同罪だぞ。
なのに、キムは彼を助けて、これまた完全ネタバレになるけど、犯人であるアレックスを殺しちゃうのよね。
殺すまで正体を知らなかったという事情はあるけど、話の作りとして「キムがニックを助けてアレックスを殺す」という結末にしてあること自体がどうなのかと。そういう形でのバッドエンドなんて要らんよ。
そこで生じるモヤモヤ感は、ホラーで歓迎できる余韻とは全くの別物だわ。

(観賞日:2021年9月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会