『プリンス・オブ・エジプト』:1998、アメリカ

古代エジプトでは、ヘブライの民が王の奴隷として酷使されていた。ヘブライの民が増え続けることを恐れた王は、「生まれてきた男の子は全てナイル河に投げ捨てよ」と命令を下す。だが、1人の母親は赤ん坊を助けるため、籠に入れてナイル河に流す。
王宮に流れ着いた赤ん坊は女王に拾い上げられ、モーセと名付けられる。王の息子ラメセスの弟として育てられたモーセは成長し、摂政となったラメセスから首席建築士に任命される。だが、モーセは自分が奴隷の息子だということを知ってしまう。
ヘブライ人の老人を助けようとしたモーセは、監視役のエジプト人を誤って殺してしまう。モーセはラメセスを振り切り、砂漠へと姿を消す。砂漠の遊牧民ミディアン族の集落に辿り着いたモーセは、やがて司祭長エトロの娘ツィッポラと結婚する。
ある日、モーセは神の声を聞き、ヘブライの民を救い出すよう指示される。ツィッポラと共にエジプトへ戻ったモーセは、王となったラメセスにヘブライ人の解放を要求する。ラメシスが拒否すると、エジプトの地に次々と災いが降り掛かるようになる…。

監督はブレンダ・チャップマン&スティーヴ・ヒックナー&サイモン・ウェルズ、脚本はフィリップ・ラゼブニク、製作はペニー・フィンケルマン・コックス&サンドラ・レイビンス、製作協力はロン・ローシャ、製作総指揮はジェフリー・カッツェンバーグ、編集はニック・フレッチャー、美術はダレク・ゴゴル、音楽ハンス・ジマー、主題歌はホイットニー・ヒューストン&マライア・キャリー。
声の出演はヴァル・キルマー、レイフ・ファインズ、ミシェル・ファイファー、サンドラ・ブロック、ジェフ・ゴールドブラム、ダニー・グローヴァー、パトリック・スチュワート、ヘレン・ミレン、スティーヴ・マーティン、マーティン・ショート、アーミック・バイラム、サリー・ドウォースキー、オフラ・ハザ、ブライアン・ストークス・ミッチェル、イーデン・リーゲル、リンダ・ディー・シェイン他。


ドリームワークスが製作したアニメーション・ミュージカル映画。
旧約聖書の出エジプト記のモーセの物語を描いている。
というより、むしろ1956年のチャールトン・ヘストン主演作『十戒』のアニメ版と考えた方がいいかもしれない。

キャラクターデザインには、首をかしげてしまう。
日本人と美的感覚が違うとはいえ、いくらアメリカ人でも魅力を感じるとは思えないようなツィッポラやミリアムのキャラクターデザイン。若い内からオッサン臭くてラメセスより年上かとさえ思えてしまうモーセのキャラクターデザイン。
あれはアメリカ人にとってはOKなんだろうか。

コンパクトにまとめるために相当の無理をしたのか、王族として育ったモーセが奴隷の息子だと知った後の心の葛藤や、ヘブライ人として目覚めて行く道程などは、見事にスカスカだ。
しょうがないので、歌を歌って誤魔化そうとする。

ヘブライの神の凄いトコロは、「オレ様は絶対に正しい」と信じているところだ。
ヘブライ人を助けるためなら、相手側の一般大衆に大きな犠牲が出ようとも、それは構わないのだ。
自分達の正義のためには、犠牲が出るのは仕方が無いのだ。
それは、栄華のためにヘブライ人を酷使するラメセスと、大して変わらない考え方だ。

そして「ヘブライ人は私の民だ」などと思い上がったことを言うモーセは、さんざんエジプトに攻撃を加えてから、ラメセスに「話し合おう」などと告げる。
そんなことを暴力を振るってから言うのだから、完全に脅迫である。
ほとんどヤクザである。

そのくせ、たまに悩んだりして、「悪いのはオレじゃなくて神様」みたいな感じにしようとする。
都合が良すぎるって。
モーセが神の力を使わなければ、エジプト人の犠牲は出なくて済んだわけだから、逃げ口上は通用しない。
モーセも同罪だ。

前半、ラメセスはモーセに厳しく接するわけではなく、2人は仲の良い兄弟として描かれている。王様となってからでさえ、「モーセを罰するべき」という家臣の忠告を無視して、モーセを優しく迎え入れる。
彼はどこまでも「いい兄貴」なのだ。
ラメセスが悪い奴として描かれていないことが、本来は「正義のモーセが悪のラメセスに追い掛けられる」という形にならねばならない展開に、大きな無理を生じさせている。
それは、「モーセが悪い奴に見える」という部分に拍車を掛けている。

この作品のターゲット層がサッパリ分からず、「モーセの物語をアニメーションで描く意味がどこにあるのか」と考えてしまった。
そして、製作総指揮にジェフリー・カッツェンバークの名前があるのを見つけて、その答えに辿り着くことが出来た。
カッツェンバークは、かつてディズニーにいた人物だ。
だから、きっと彼は「ディズニーが作れないようなアニメ映画を作ってやる」と考えたに違いない。
だから、こんな小難しい宗教物語をアニメ化したのだろう。
たぶん、「まずディズニーへの対抗意識ありき」なんだろう。
そうでなければ、こんなアニメ映画を作ろうという感覚になれないはずだ。


第21回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の歌曲】部門
「When You Believe」 (マライア・キャリー&ホイットニー・ヒューストン)

 

*ポンコツ映画愛護協会