『プリースト』:2011、アメリカ
人類とヴァンパイアは最初から敵同士であり、昔から激しい戦いを繰り返してきた。長年に渡る戦いによって世界は荒廃し、人間は絶滅の危機に瀕した。生き残った者たちは教会の庇護の下で壁に囲まれたシティーへ逃れ、人類は究極の兵器「プリースト」を誕生させた。それはヴァンパイアと戦うため、教会で鍛錬を積んだ戦士のことだ。プリーストが一気に形勢を逆転させ、生き残ったヴァンパイアは居留区に収容された。教会は自分たちの生み出したプリースト軍を恐れ、解散を命じた。やがて時は過ぎ、プリーストの存在とヴァンパイアの脅威は人々の記憶から遠ざかっていった。
オーウェン・ペイスは枯れ果てた荒廃地区を調査し、まだ土壌汚染は残っているが上手くいけば植物が育つと考える。彼は妻のシャノン、娘のルーシーと3人で暮らしている。シャノンはオーウェンに協力的だが、18歳のルーシーは辺境での生活を嫌って町へ頻繁に出掛けていた。オーウェンは町へ行くことを反対するが、ルーシーは激しく反発した。3人が夕食の前に祈りを捧げようとすると、家が小刻みに揺れた。オーウェンは危険を察知し、ルーシーを地下室へ避難させるようシャノンに指示した。シャノンは何があっても声を出さないようルーシーに言い、地下室に隠れさせる。ルーシーは獣のような咆哮やオーウェンの発砲音、シャノンの悲鳴を耳にした。音が止むと地下室の扉が開かれ、ルーシーは絶叫した。
カテドラル・シティーのセクター12。告解シークエンスに赴いた1人のプリーストは、ボックスのモニターを通じてチェンバレン枢機卿に「罪を犯しました。戦争の夢を見ました」と話す。彼はヴァンパイアから仲間を救えなかったことを語り、「疑念や迷いが消えません」と吐露する。チェンバレンは彼に、「対抗するには自己犠牲と勤勉な労働が何よりだ」と説いた。彼が家に戻ろうとすると、ヒックスという保安官が待っていた。彼はプリーストに、ヴァンパイアの襲撃でルーシーが拉致されたこと、オーウェンが重傷を負ったこと、シャノンが殺されたことを話す。オーウェンはプリーストの兄だった。
戦争の英雄であるプリーストに、ヒックスは「俺はルーシーを取り返しに行く」と告げる。協力を要請されたプリーストが沈黙したので、ヒックスは立ち去った。プリーストは高位聖職者であるオレラスやチェンバレンの元へ行き、権限の復活を要請する。家族を襲ったのはヴァンパイアだと彼が説明すると、オレラスは「有り得ない。居留区から脱走したという連絡は入っていない」と否定する。チェンバレンはプリーストを擁護するが、オレラスは「シティーを去れば教会に背いたとみなし、破門にする」と鋭く告げた。
プリーストはチェンバレンと2人になり、命令に背くことを告げる。チェンバレンは待機させておいた兵隊を呼び寄せ、プリーストを包囲した。プリーストはチェンバレンの説得に応じず、兵隊を倒して立ち去った。彼は武器を手に取り、バイクに乗ってシティーを後にした。荒廃地区に到着したプリーストはヒックスと合流し、彼の住むの町へ赴いた。すると1人のセールスマンが人々の恐怖心を煽り、聖水を売り付けようとしていた。ヒックスは拳銃を威嚇発砲し、セールスマンに出て行くよう命じた。
ヒックスは人々に、「こんな薬はガラクタだ。何の役にも立たない。ヴァンパイアは去った。二度と戻らない」と語った。彼はプリーストを連れて医師の家へ行き、手当てを受けたオーウェンに会わせた。オーウェンに「シャノンが戦争が終わればお前が戻ると信じていた」と言われたプリーストは、「戻りたかったが、正しい道とは思えなかった」と語る。プリーストが感謝の言葉を口にすると、オーウェンは「シャノンがお前を忘れてくれるよう、ずっと願っていた」と話す。彼はルーシーを無事に連れ帰るようプリーストに頼み、「必ず皆殺しにしろ」と告げた。
チェンバレンはプリーステスを含む3人の部下を呼び寄せ、生死を問わずプリーストを連れ戻すよう命じた。翌朝、オーウェンとシャノンの埋葬を終えたプリーストは、ヒックスと共に町を出た。プリーストは発見したヴァンパイアの足跡を分析し、北の居留区へ向かった。居留区に入ったプリーストは、ファミリアのヴァンパイアを見て「感染は違法だろう」と言う。するとヒックスは、「強制されたんじゃない。辺境に暮らす人間が望んで感染した。ヴァンパイアの下僕になりたがる奴らがいるんだ」と教えた。プリーストとヒックスは、看守のいない地下留置場に入った。
プリーストが留置場の囚人を尋問していると、ヒックスは3人の囚人に攻撃される。プリーストは2人を始末し、1人を生かして尋問する。すると男は「もう手遅れだ。彼らの時間が始まる」と言い、日暮れが迫る空を指差した。地下からヴァンパイアの群れが飛び出すが、プリーストは聖書の言葉を唱えてから始末した。プリーストは改めて囚人を尋問し、ルーシーが西へ連行されたことを聞き出した。西にはヴァンパイアの巨大な巣があったが、戦後に廃棄されたはずだった。
セールスマンはヴァンパイアを率いるブラック・ハットの元へ行き、プリーストと保安官がルーシーを捜索していることを教えた。彼が見返りを求めると、ブラックは冷徹に殺害した。プリーストは巣に到着し、「私以外の何かが見えたら撃て」とヒックスに指示して巣穴へ飛び込んだ。巣穴を調べていたプリーストは、プリーステスと遭遇した。彼女は教会から連れ戻す命令が出ていること、追跡隊の他の3人はジェリコへ向かったことを話した。
ヒックスの発砲音が聞こえたので、プリーストはプリーステスと共に急いで戻る。巣の見張り役である巨大ヴァンパイアが襲って来るが、プリーストたちが退治した。プリーステスはプリーストに、連れ戻すつもりは無いと告げた。ヴァンパイアが軍団を作っている証拠を発見したプリーストはコウモリの群れを追い、ジェリコに向かったことを知る。ブラックの率いるヴァンパイア軍団は、列車でジェリコに到着した。軍団は町を襲撃し、駆け付けた追跡隊の3人はブラックに始末された。
翌朝になってプリーストたちが駆け付けると全員が餌食となっており、追跡隊の3人は吊るされていた。既にヴァンパイア軍団は去っており、プリーストは太陽が届いていないシティーへ向かったことを確信する。ヴァンパイアは仲間を集めて昼間に列車で移動し、夜になると町を襲っていたのだ。プリーステスは「私が線路を爆破する。そっちはルーシーを捜して」と言い、プリーストはシティーに到着する前に列車を止めようとする…。監督はスコット・スチュワート、原作はヒョン民友(ヒョン・ミヌ)、脚本はコリー・グッドマン、製作はマイケル・デ・ルカ&ジョシュア・ドーネン&ミッチェル・ペック、製作総指揮はグレン・S・ゲイナー&スティーヴン・H・ギャロウェイ&ステュー・レヴィー&ジョシュ・ブラットマン、共同製作はニコラス・スターン、撮影はドン・バージェス、美術はリチャード・ブリッジランド・フィッツジェラルド、編集はリサ・ゼノ・チャージン、衣装はハー・ヌウィン、視覚効果監修はジョナサン・ロスバート、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はポール・ベタニー、カール・アーバン、クリストファー・プラマー、スティーヴン・モイヤー、カム・ジガンデイ、マギー・Q、リリー・コリンズ、ブラッド・ドゥーリフ、アラン・デイル、メッチェン・エイミック、ジェイコブ・ホプキンス、デイヴ・フロレク、ジョエル・ポリンスキー、ジョシュ・ウィンゲイト、ジョン・ブレイヴァー、ケイシー・ピエレッティー、テオ・キプリ、ジョン・グリフィン、デヴィッド・バックハウス、ロジャー・ストーンバーナー、デヴィッド・ビアンチ、タノアイ・リード、アーノルド・チョン、ヘイリー・キンギJr.、オースティン・プレスター他。
ミンウー・ヒョンによる韓国のコミックを基にした作品。
監督は『レギオン』のスコット・スチュワート。
脚本のコリー・グッドマンは、これがデビュー作。
プリーストをポール・ベタニー、ブラックをカール・アーバン、オレラスをクリストファー・プラマー、オーウェンをスティーヴン・モイヤー、ヒックスをカム・ジガンデイ、プリーステスをマギー・Q、ルーシーをリリー・コリンズ、セールスマンをブラッド・ドゥーリフ、チェンバレンをアラン・デイル、シャノンをメッチェン・エイミックが演じている。どうでもいいけど、主人公に名前が無くて「プリースト」と呼ばざるを得ないのは、地味に疎ましいんだよね。何しろ、彼を追う連中もブリーステスの仲間3人はプリーストなわけで。プリーストってのは職業の呼称であって、個人名ではない。
そりゃ主人公に個人名を用意していない映画なんて幾らでもあるので、それが絶対にダメだとは言わないよ。ただ、この映画の場合、個人名を用意しても良かったんじゃないかと。
主人公に個人名を付けていないことのメリットが、何も見えて来ないんだよね。兄貴にはオーウェンという名前があるのに、プリーストに呼び名が無いのは違和感があるし。
これが例えば「プリーストになったら個人名を捨てる」という設定があって、個人名を捨てる理由なんかも用意されていればともかく、そんなディティールは皆無なんだからさ。まるでTVシリーズのパイロット・フィルムか何かのように、歌で言うなら「さわり」の部分だけで構成されている。
サクサクとテンポ良く進むのは悪いことじゃないが、あまりにも情報量が少なすぎるし、ストーリーの内容も薄っぺらい。
上映時間が87分(本編だけなら約80分)と短いので、それに伴って盛り込める内容量も少なくなってしまうという事情はあるだろう。
だけど、87分ってのは製作サイドが決めた尺であって、そういう縛りが最初から定まっていたわけではないので、何の言い訳にもならない。冒頭、洞窟に足を踏み入れたプリースト軍団が罠だと気付き、逃げ出そうとするが、1人が捕まって引きずり込まれるシーンが描かれる。この時、敵のシルエットは映るものの、ハッキリとした姿は描かれない。
オーウェンが戦うシーンでも、「ルーシーが地下室で音を聞いている」という見せ方なので、敵の姿は分からない。そしてルーシーの絶叫でシーンが終わるので、ここでも敵は登場しない。
そうやって敵の姿を隠したまま引っ張っているのだが、その意味が全く無い。
どうせ敵がヴァンパイアであることは、分かり切っている。なので、その姿を隠しても、何の効果も期待できないはずで。
実際、ようやく姿が登場しても、「まあヴァンパイアだよね」と思うだけだ。いわゆるクラシカルなデザインのヴァンパイアではなく別のクリーチャーのような見た目なので、そのインパクトを狙って正体を隠したまま引っ張ったんだろう。その意図は、分からんでもないのよ。
ただ、それがヴァンパイアであることが最初から分かっている時点で、たぶん狙っているであろう効果は得られないと思うぞ。
あとさ、もはや見た目だけじゃなくて設定も含めて、完全にヴァンパイアとは別の怪物になっちゃってるのよね。
なので、ヴァンパイアと呼ばずに別の何かにしちゃった方が良かったんじゃないかと思ったりもして。冒頭のシーンって、実はかなり重要な出来事を描いているんだよね。
それは「プリーストがヴァンパイアから仲間を救えず、ずっと罪悪感に苦しんでいる」という状況に繋がる出来事だ。しかも、そこで救えなかった仲間が、ラスボスのブラック・ハットにとして登場するのだ。
ただ、それにしては、そこまでの重要性が感じられない。
まず、その冒頭シーンの描写が短く、状況も不鮮明。プリーストが罪の意識に苦しんでいるという描写も、かなり薄味だ。
彼がブラックについて回想するシーンも無いので、「昔はこんな奴だったのに、すっかり凶悪に変貌してしまった」というギャップも伝わらないし。「ヒューマン・ヴァンパイア」なる存在に変貌してからのブラックも、キャラ描写が薄いから何の魅力も感じられないし。ヒックスはプリーストの元へ行き、拉致されたルーシーの奪還に向かう考えを話す。なぜ奪還したいのかというと、ルーシーに惚れているからだ。
でも、そのシーンまでにヒックスは登場していないし、だから当然のことながらルーシーとの関係性なんて何も描かれていない。
そこでヒックスがルーシーに言及するだけでも、彼が惚れていることが伝わらないわけではない。
ただ、先にヒックスを登場させて彼女と一緒にいるシーンを描いておいた方が得策なのは絶対だ。そして、そういうシーンを描いておかないことのメリットは無い。
その程度のシーンなら、1分もあれば充分なわけで、なぜ先に描いておかないのかと。オレラスはルーシー捜索の許可を冷淡に却下し、生死を問わずにプリーストを連れ戻すよう命令を下す。そんな厳しい態度を取る理由として、彼は「教会の秩序を守るため」と言っている。
でも、その言葉には、何の説得力も無い。
これは教会に関する描写が少ないってことも大きいが、それでも「その理由は建前で、実は裏がある」という設定なら問題は無い。でも、例えばヴァンパイアと密かに結託しているとか、チェンバレン自身がヴァンパイアだったとか、そんな真相は隠されていないんだよね。ホントに言葉通りの理由でしかないのだ。
そうなると、説得力が無いだけでなく、とても陳腐だと感じてしまう。しかも、オレラスにしろ、チェンバレンにしろ、後半に入ると全く話に絡まないんだよね。
オレラスなんて、何しろ『ドラキュリア』でヴァン・ヘルシングを演じたクリストファー・プラマーなので「これは意図的な配役なのか」と深読みまでしちゃったけど、誰がやってもいいようなキャラだ。
使えそうな要素は、ことごとく捨てている。
例えば「実はシャノンがプリーストの妻でルーシーは娘」という設定があるが、これもドラマの面白味には全く貢献していない。
なので、その事実を隠したまま話を進めて「実は」と明かす手順が訪れても、「だから何?」と冷めた気持ちになるだけだ。ジェリコのシーンでは追跡隊の3人がブラックに軽く殺され、ヒックスが「追跡隊が3人も殺されるなんて、どれだけ強いんだ」と言う。
だが、そもそも追跡隊の戦闘能力が全く分からないので、そんなことを言われてもピンと来ない。
そこは先に追跡隊が雑魚キャラを軽く倒すシーンを入れておかないと、「それよりもブラックが圧倒的に強い」という力関係が分からない。
これはプリーストとヴァンパイアにしても同じことが言えて、「ヴァンパイアが人間を軽く始末する」というシーンが無いまま「プリーストがヴァンパイアを軽く始末する」というシーンを描いているので、ここの力関係も分かりにくいのだ。プリースト(主人公のことではなく、職業としてのプリースト)は解散を命じられて行き場を失い、なかなか他の仕事も見つからないという苦境に立たされているらしい。
ただ、それはプリーストやプリーステスの台詞でチラッと触れるだけ。
「かつて英雄扱いされた者が今は厄介者扱いされていることの辛さ」とか、「孤独を余儀なくされる苦しみ」とか、そういうのは全く伝わらない。
そこの設定を上手く使えばキャラの魅力やドラマの面白さに繋がるのに、雑で薄っぺらい扱いに留まっている。アクションシーンがセールスポイントになるのかと期待したが、何の面白味も無い。
プリーストが兵隊を一掃する最初のアクションシーンからして、何をやっているのか分かりにくいし、プリーストの戦闘能力も伝わらない。
それ以降のアクションシーンでも、引き付ける力は弱い。格闘スタイルに個性があるわけではないし、映像的にケレン味たっぷりというわけでもない(たまにスローモーションを使う程度)。
特殊な武器を使うわけでもない。終盤にプリーストがプリーステスから武器を渡されるけど、ただのナイフだし。
全てにおいて凡庸だし、淡白に終わっちゃうし。(観賞日:2019年7月1日)