『ポーラー・エクスプレス』:2004、アメリカ
随分と前のクリスマス・イヴのこと。ヒーロー・ボーイはベッドに横たわり、静かに息を潜めていた。サンタクロースが乗って来るソリの鈴の音を聞き逃すかもしれないと思ったからだ。窓の外から鈴の音が聞こえて来たので、忍び足で部屋を出た彼は階段から1階のリビングを覗き見た。だが、そこにサンタが来た形跡は無かった。まだ起きていた妹のサラを両親が寝かそうとするのが見えて、慌ててヒーロー・ボーイは寝室に戻った。彼はサラに「サンタはいないかもしれない」と言っていたが、本当はサンタが存在していることを信じていた。しかし鍵穴から覗くと、パパのズボンの後ろポケットにサンタ帽が入っていた。
両親が部屋に来る足音が聞こえたので、ヒーロー・ボーイは急いでベッドに潜り込み、寝ているフリをした。両親は「前はサンタを待って遅くまで起きていたのにね」「そろそろ子供時代が終わるんだな。魔法の終わりだ」と会話を交わして部屋を去った。ヒーロー・ボーイは眠りに就こうとするが、突如として部屋が激しく揺れ始めた。そして窓の外に轟音が迫って来た。ヒーロー・ボーイが家の外に出ると、そこに蒸気機関車「ポーラー・エクスプレス」が停車した。
ヒーロー・ボーイが「ご乗車下さい。出発します」と呼び掛ける車掌に歩み寄ると、「君も来るかい?」と誘われる。車掌は彼に、この列車が北極点へ行くことを告げる。そしてヒーロー・ボーイがデパートのサンタと写真を撮影せず、サンタに手紙も書いていないことを指摘し、「どうやら迷いが出て来ているようだから、列車に乗ることをお勧めしよう」と述べた。すこし考えたヒーロー・ボーイだが、結局は走り出した列車に乗り込んだ。
車両には大勢の子供たちが乗っており、知ったかぶり少年は自分の知識をひけらかした。ヒーロー・ボーイは近くにいたヒーロー・ガールに、「本当に北極圏に行くの?」と問い掛けた。ヒーロー・ガールは「そうよ。ワクワクしない?」と言うが、ヒーロー・ボーイは返事をしなかった。車掌が切符の拝見に来て、ポケットを確認するよう促した。するとヒーロー・ボーイのポケットには切符が入っていた。
途中で列車は停まり、車掌が少年を勧誘した。その少年は迷った挙句、列車に飛び乗ろうとする。しかし列車がスピードを上げたため、少年は転倒してしまう。ヒーロー・ボーイは緊急停止レバーを引っ張り、少年を列車に乗せた。しかし少年はヒーロー・ボーイたちの車両には入らず、隣の車両に腰を下ろした。車掌はウェイターたちを呼び寄せ、ココアを子供たちに配らせた。ヒーロー・ガールが後ろの車両の孤独な少年にココアを運ぼうとすると、車掌が同行した。
ヒーロー・ボーイはハサミの入っていない切符を見つけてヒーロー・ガールに届けようとするが、風に飛ばされてしまった。しかし、その切符は外を飛び回り、列車の中に舞い戻って来た。それに気付かないヒーロー・ボーイは、車掌に事情を説明する。彼はヒーロー・ガールに謝罪し、自分の切符を使ってもらおうとする。しかし車掌は認めず、ヒーロー・ガールを後ろの車両に連れていく。知ったかぶり少年が「列車から放り出すんだ」と言うので、ヒーロー・ボーイは列車を停めて彼女を助けようとする。その時、彼は切符を見つけ、車掌とヒーロー・ガールを追い掛けた。
列車の屋根を歩いて行く人影を目にしたヒーロー・ボーイは、猛吹雪の中で後を追い掛けようとする。しかし彼は2人を見失い、屋根で暮らしているホーボーと遭遇した。ホーボーの忠告を受けたヒーロー・ボーイは、切符を靴に収納した。ホーボーは焚き火をしてコーヒーを作っていた。彼が「北極圏の王様だ」と言うので、ヒーロー・ボーイは「じゃあサンタは?」と尋ねる。「いると思ってるのか」と質問され、彼は「いるって信じたい」と答えた。
「でも」とヒーロー・ボーイが口にすると、ホーボーは「でも変な場所に連れて行かれると困るよな」と言う。彼は「さあ、女の子を捜そうか」と歩き出し、あっという間に吹雪の中へ消えた。ヒーロー・ボーイは全て夢だと考えて手をつねったり雪に頭を埋めたりするが、目は覚めない。そこへホーボーがスキーを履いて戻って来て、トンネルに入る前に機関車まで辿り着かないと危ないと告げる。彼はヒーロー・ボーイをスキーに乗せ、屋根を滑って機関車へとジャンプした。
ヒーロー・ボーイが機関車に飛び込むと、そこにはヒーロー・ガールがいた。機関士のスモーキーとスチーマーが照明の点検に出ており、留守番を頼まれたのだという。ヒーロー・ボーイは汽笛を鳴らして興奮したが、機関士たちが列車を停めるよう叫ぶ。ヒーロー・ボーイがブレーキを掛けて、列車はカリブーの大群に突っ込む直前で停止した。大群が移動するまで身動きが取れず、機関士コンビは「降参だ」と漏らす。しかし車掌はカリブーの大群を線路から移動させ、汽車を出発させた。
機関士コンビは列車のスピードを上げるが、ピンが外れてしまう。汽車は猛スピードで谷に突っ込み、氷の上を滑ってバランスを崩す。ようやくピンが見つかって、機関士コンビは汽車を停めた。氷に亀裂が生じたため、車掌は急いで脱出するよう命じた。機関士コンビは車掌の指示を受けながら汽車を操縦し、何とか線路に戻った。ヒーロー・ガールはヒーロー・ボーイの見つけた切符を受け取り、車掌がハサミを入れた。
車掌がヒーロー・ボーイとヒーロー・ガールを連れて客室へ向かうと、その途中には持ち主が飽きて捨ててしまった多くのオモチャや人形を保管してある車両があった。車掌によれば、ボスが不要になったオモチャを回収して修理しようと思い付いたのだという。ヒーロー・ボーイはスクルージの操り人形に「お前はサンタを信じていない。ワシにはお見通しだ」と恫喝され、慌てて客室に戻った。ヒーロー・ボーイとヒーロー・ガールが後ろの車両へ行ってみると、孤独な少年は外を眺めながら歌っていた。ヒーロー・ガールは彼に続いて2番を歌い、そしてデュエットした。
汽車は北極圏に到達し、街の中へと入って行く。子供たちが「エルフはどこ?」と捜し回ると、車掌は「街の中心部に集まっている。そこでサンタがクリスマスの最初の贈り物を渡す。君たちの中から一人が選ばれる」と述べた。汽車が街の中央広場に到着し、車掌は子供たちを降ろして2列に並ばせた。孤独な少年が降りようとしないので、ヒーロー・ボーイとヒーロー・ガールは迎えに行く。孤独な少年は「クリスマスなんて僕には関係ないよ」と陰気に言うが、2人は説得して考えを変えさせようとする。しかし車両が切り離されてしまい、猛スピードで走り出した。
汽車がストップすると、トンネルのヒーロー・ガールは「鈴の音が聞こえて来る」と言う。彼女の先導で3人はトンネルを抜け、町の細い路地を移動する。ヒーロー・ボーイには何も聞こえなかったが、ヒーロー・ガールは「この向こうから聞こえてくる。間違いない」と言い、孤独な少年は「僕にも聞こえる」と賛同した。3人が地下へ行くと、巨大な施設があった。そこはエルフたちが子供たちを良い子か悪い子か審査し、プレゼントの配送を決定する管理部門だった。
仕事を終えたエルフの一団は、カプセルに乗って施設を去った。ヒーロー・ボーイたちも別のカプセルに乗り込み、後を追う。到着した建物では、クリスマスのプレゼントが機械で運ばれていた。その中には、孤独な少年宛てのプレゼントもあった。しかし「クリスマスまで開けないように」と注意書きがあったので、少年は我慢した。3人はプレゼントの山と共に袋に詰められ、飛行船で空に吊り上げられる。飛行船は中央広場へ向かうが、高度が低くて巨大ツリーと激突しそうになってしまう…。監督はロバート・ゼメキス、原作はクリス・ヴァン・オールズバーグ、脚本はロバート・ゼメキス&ウィリアム・ブロイルズJr.、製作はスティーヴ・スターキー&ロバート・ゼメキス&ゲイリー・ゴーツマン&ウィリアム・ティートラー、共同製作はスティーヴン・ボイド、製作協力はデビー・デニース&ピーター・トビアセン&ジョシュ・マクラグレン、製作総指揮はトム・ハンクス&ジャック・ラプケ&クリス・ヴァン・オールズバーグ、撮影はドン・バージェス&ロバート・プレスリー、編集はジェレマイア・オドリスコル&R・オーランド・デュエニャス、美術はリック・カーター&ダグ・チャン、衣装はジョアンナ・ジョンストン、シニア視覚効果監修はケン・ラルストン&ジェローム・チェン、振付はジョン・カラファ、音楽はアラン・シルヴェストリ、オリジナル歌曲はグレン・バラード&アラン・シルヴェストリ。
主演はトム・ハンクス、共演はマイケル・ジェッター、ノーナ・ゲイ、ピーター・スコラーリ、エディー・ディーゼン、レスリー・ゼメキス、スティーヴン・タイラー、ジュリアン・レネ、クリス・コッポラ、チャールズ・フライシャー、フィル・フォンダカロ、デビー・リー・キャリントン、マーク・ポヴィネッリ、エド・ゲイル、ダンテ・パツラ、ブレンダン・キング、アンディー・ペリック他。
クリス・ヴァン・オールズバーグの絵本『急行「北極号」』を基にした作品。
トム・ハンクスがヒーロー・ボーイ&父親&車掌&ホーボー&スクルージ&サンタクロースの6役を演じている。
スモーキーとスチーマーの2役を担当したマイケル・ジェッターは、映画としては本作品が遺作となった。
他に、ヒーロー・ガールをノーナ・ゲイ、ロンリー・ボーイをピーター・スコラーリ、知ったかぶり少年をエディー・ディーゼン、サラ&母親をレスリー・ゼメキス、エルフ副隊長&エルフの歌手をスティーヴン・タイラーが演じている。
監督は『ホワット・ライズ・ビニース』『キャスト・アウェイ』のロバート・ゼメキス。これはロバート・ゼメキス監督が「パフォーマンス・キャプチャー」という技術を使って製作した最初の映画である。
パフォーマンス・キャプチャーとは、特殊なスーツを着用した俳優の表情や動きをコンピュータに記録し、それをCGによって精密に映像化する技術だ。
例えば車掌を演じているのはトム・ハンクスだが、実際は「トム・ハンクスのようでトム・ハンクスではないベンベン」の状態だ。トム・ハンクスの表情や動きを取り込んでからCG加工しているので、本人そのものではないわけだ。
ちなみに、ジョシュ・ハッチャーソンがヒーロー・ボーイのためのパフォーマーとして本作品に参加している。本作品にしろ、『ベオウルフ/呪われし勇者』にしろ、『Disney's クリスマス・キャロル』にしろ、同じ欠陥を抱えている。
その欠陥とは、ズバリ言って「パフォーマンス・キャプチャー」だ。
映画における最大のセールス・ポイントのはずの技術が、実は映画に致命的なダメージを与える欠陥と化している。
その理由は簡単で、パフォーマンス・キャプチャーによってリアル志向で描写されたCG製キャラの面々が揃いも揃って不気味だからだ。リアルな人間に近付けようとしていることによって、むしろ本物の人間との違いが浮き彫りになるという皮肉な現象が起きている。
これが誇張されたカートゥーンのようなCGであれば、最初から「CGキャラ」として受け止めるので、CGキャラとしてのリアルな動きや表情があれば問題は無い。
しかしリアル志向で加工したために、「実際の人間のような質感が感じられない」とか、「実際の人間に比べると表情がぎこちない」とか、「実際の人間のような生命感に乏しい」とか、実際の人間と比較しての感想になってしまうのだ。どれだけCGで実写に近付けても、それはあくまでも「本物に似せた偽物」でしかない。
「本物の人間」と「本物に似せたCG製の人間」の間には、小さいように見えて実はものすごく大きな違いがある。
しかも、その違いは「プロじゃなきゃ分からない」とか、「何となく見ているだけなら気が付かない」とか、そういう類のモノではない。
誰が見ても、明らかに違いが分かる。
男と女の間には深くて暗い川があるが、こっちも川で隔てられているのだ(そんなネタ、誰が分かるんだよ)。ロバート・ゼメキスの「新しい技術を駆使して映画を作りたい」という気持ちは、分からんでもない。
ただ、結果としては、コンピュータ・ゲームのデモ映像を見せられているような感覚に陥ってしまう。
これがゲームであれば、CG製の人間キャラに生命感が乏しくても、動きがスムーズじゃなくても、それは大して気にならない。
それは「だってゲームだもの」という意識があるからだ。
それと同じように「だってCGだもの」という意識で、この映画のキャラクターを甘受することは難しい。
映画では、それは通用しないし、通用させるべきでもないだろう。「この物語や原作絵本の魅力を表現するために、パフォーマンス・キャプチャーは必要不可欠な技術なのか」と問われたら、答えはノーである。
そして「この物語や原作絵本の魅力を表現するために、パフォーマンス・キャプチャーは効果的な技術なのか」と問われたら、その答えもやはりノーだ。
例えば『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のゴラムみたいに、モーション・キャプチャーを使って人間の動きを記録し、モンスターの姿に加工するというのは、効果的に作用することもあるだろう。
しかしリアルな人間をCGで描くために利用するのであれば、パフォーマンス・キャプチャーが効果的に機能する映画は存在しないんじゃないかとさえ私は思っている。パフォーマンス・キャプチャーの技術を使ったことによって、「1人の役者が大勢の役を演じることが出来る」という利点は生まれている。
ある程度なら、それは特殊メイクでも可能だ。例えばエディー・マーフィーは、『ナッティ・プロフェッサー』シリーズで特殊メイクを使い、複数の役を演じていた。
ただし、パフォーマンス・キャプチャーを使えば、大人の役者が子供を演じることも可能になる。
身長は特殊メイクで変化させることが出来ないが、パフォーマンス・キャプチャーなら可能だからだ。ただし、そこで問題になるのは、「1人の役者が大勢の役を演じることが出来るというのは、本当に利点と言えるのだろうか」ってことだ。
この映画では前述したように、トム・ハンクスが車掌や父親だけでなく、子供であるヒーロー・ボーイまで演じている。
しかし、それは果たして本作品において、プラスに機能しているだろうか。
仮にトム・ハンクスが演じた役柄を別の役者で分担したとして、それは作品の評価を下げることに繋がるだろうか。
答えはノーだと言い切ってもいいだろう。もちろん、「トム・ハンクスが一人で複数の役を演じる」というのは、宣伝する際の売り文句としては使えるだろう。
しかし映画としての面白さや魅力に繋がっているわけではない。
『ナッティ・プロフェッサー』シリーズのエディー・マーフィーのように、一人七変化の芸を見せて楽しんでもらうタイプの映画ではないし。
そして、そこに意味が見出せないのであれば、俳優たちをそのまま使った実写映画として作った方がいいんじゃないかと思う。
もしくは誇張したキャラのアニメーションにするか、どっちかに寄せた方がいい。そういう問題以外の部分で考えても、単純に物語が面白くない。
次から次へとトラブルやピンチか訪れて、一応はアドベンチャー映画になっているんだけど、ザックリ言っちゃうと「ずっと汽車が走っている」というだけで、チェンジ・オブ・ペースも感じない。
北極圏に到着して子供たちが汽車を降りたところで、ようやく物語に大きな抑揚やメリハリ、テンポの変化が生じたと感じる。ところが、すぐにヒーロー・ボーイは列車へ戻り、また走り出してしまうんだよな。
短い話なら、ずっと列車が走っているだけの構成でもいいかもしれないけど、長編でそれはキツいなあ。
あと、「ヒーロー・ボーイがサンタを信じるようになる」という物語としても、ものすごく薄っぺらい。
「信じる心が大切」というテーマやメッセージはシンプルで分かりやすいけど、それが伝わる力はものすごく弱い。(観賞日:2014年3月17日)
第27回スティンカーズ最悪映画賞(2004年)
ノミネート:【最悪のクリスマス映画】部門
ノミネート:【最悪の歌曲・歌唱】部門「Hot Chocolate」(トム・ハンクス)