『ポイズンローズ』:2019、アメリカ

1978年、ロサンゼルス。映画館の2階に住む私立探偵のカーソン・フィリップスは、男たちが乗り込んで来るのに気付いた。彼は愛猫のレイモンドを連れて、裏口から奪取する。ニックが待ち伏せていたので、カーソンは殴り付けて車で逃亡した。事務所に着いた彼は、助手にレイモンドを預けた。事務所にはベッツィーという女性が来ており、カーソンに依頼内容を説明した。ベッツィーの叔母であるバーバラ・ヴァンプールは、ガルベストン郊外の療養所に入院している。彼女は数年前に精神を病み、まだ回復していない。最近はベッツィーが電話を掛けても取り次いでもらえず、手紙だけになっていた。
カーソンが「この街の仕事しか引き受けない」と断ると、ベッツィーは「でも向こうの人は信用できない」と告げる。故郷のガルベストンへ戻ることに難色を示すカーソンだが、ベッツィーが高額の小切手を切ったので仕事を引き受けた。カーソンが療養所に着くと、瞑想会のアナウンスがあった。彼がバーバラとの面会を求めると、受付係の看護婦は狼狽した。そこへ院長のマイルス・ミッチェルが現れ、看護婦から事情を聞く。彼はカーソンに声を掛け、4年生の時に1年でベンチを温めていたことを話した。
カーソンはマイルスからバーバラとの関係を問われ、「家族と知り合いで、帰省のついでに立ち寄った」と告げる。マイルスは「セラピーの最中で、今は会えない。滞在先に連絡する」と告げ、何かと理由を付けてバーバラとの面会を阻止しようとする。カーソンが「夕方に出直すよ」と話すと、彼は「その頃には疲れているし、セラピーを振り返る時間も必要だ」と説明する。カーソンはマイルスを怪しむが、ローンスター・モーテルに泊まっていることを教えて立ち去った。
その夜、カーソンはカジノバーへ行き、仲間とポーカーをしている大物ブローカーで旧友のドクと再会する。さらに彼はドクだけでなく、元祖ヒッピーのスライド・オルセン、保安官になったビング・ウォルシュという2人の旧友とも会う。ドクはカーソンに、一緒にポーカーをしていたロレンゾ・ロドリゲスを紹介した。ロレンゾは「企業家」と称しているが、療養所で勤務していたことがあると聞いてカーソンは興味を抱いた。カーソンはドクから、カジノバーのオーナーで歌手のローズを紹介された。ローズの恋人で有名アメフト選手のハッピー・チャンドラーは、カーソンを侮辱した。ハッピーは「八百長で出世のチャンスを棒に振るのは、どんな気分だ?」と挑発するように言うが、カーソンは相手にしなかった。
カーソンはポーカーに参加するが、最後はドクと1対1になって負けた。ドクは12年前に妻のマリーを癌で亡くしており、カーソンが言及すると「住民の半数は癌になった」と悔しさを滲ませた。「ジェインとは?」と訊かれたカーソンは、「会ってないよ」と答える。ドクは「夫と死別し、ベッキーという娘がいる」と教え、ベッキーがハッピーの妻だと告げた。ハッピーが喧嘩を始めたので、ドクは威嚇発砲で叱責した。カーソンはハッピーをなだめ、「ここで俺を殴ればプロ入りは無くなる」とと諭して店から立ち去らせた。車で張り込んでいたベッキーはハッピーを見て拳銃を握るが、彼を追う決心が付かずに涙した。
カーソンがモーテルに戻るとニックが待ち受けており、グレゴリーが部屋にいることを伝える。カーソンはニックを襲って拳銃を奪い取り、部屋に入った。グレゴリーが「娘を連れ戻せ」と要求すると、彼は「アンタのトコヘ送り届けた」と言う。グレゴリーが「だが、すぐに荷物をまとめて出て行った。娘を見送るお前の姿が空港で目撃されてる」と話すと、カーソンは「居場所を知ってても、アンタのような男に引き渡すと思うか?」と返す。グレゴリーは「娘に何か言われたな。父親に虐待されたとか?お前は同情を誘う女の言葉を鵜呑みにするマヌケだ」と冷たく述べ、部屋を後にした。
翌日、カーソンは療養所へ行き、マイルスと会う。マイルスが「昨日は多忙で電話を忘れました」と釈明すると、カーソンはバーバラとの面会を要求した。マイルズは「知らない人との面会は許可できません」と告げ、カーソンに引き取るよう促した。カーソンは院長室に侵入してバーバラのファイルを発見するが、診療記録は無く支払いの明細書だけだった。院長室を調べた彼は、大半の患者が死亡していること、マイルスがアメフトの試合で地元の負けに何度も賭けていることを知った。マイルスが院長室に戻って来たので、カーソンは窓から外へ出た。彼は飛び降りて逃げようとするが、着地に失敗して意識を失った。
モーテルに戻ったカーソンは、カリフォルニアから4人の男が訪ねて来ていたことをフロント係に知らされた。カーソンは彼に金を渡し、同じことがあれば知らせるよう頼んだ。同じ夜にアメフトの試合が行われており、ハッピーの度重なるミスで地元チームはリードを許していた。ハッピーはタックルを受けて意識を失い、担架で運び出されるが死亡した。現場に駆け付けたカーソンは、泣き出すベッキーを抱き締めるジェインと目が合った。カーソンは彼女に声を掛けず、その場を後にした。
モーテルに戻ったカーソンはジェインからの電話を受け、話があるから家に来てほしいと言われる。翌日、カーソンはジェインの邸宅へ出向き、「チャーリーは?」と彼女に夫について質問する。「心臓発作で死んだわ」とジェインが答えると、カーソンは「何の仕事をしていたんだ?」と訊く。ジェインは「石油関係よ」と言い、カーソンが「シンプルな事業だ」と語ると「そうでもないわ。今でもよ」と否定した。それからジェインは、助けが必要なので雇いたいとカーソンに告げた。
ジェインはカーソンに、ハッピーの死が事故ではないと町の人々が噂していること、ビングも他の原因を求めていることを語る。ジェインはカーソンに、「ここは酷い町よ。貴方が去った時は恨んだけど、賢い選択だった。ハッピーはローズと遊び歩いてた。妻である娘が一番に疑われる」と話す。彼女はチャーリーの死後に療養所に入っていたことがあると語るが、カーソンが「バーバラに会えない理由は何だと思う?」と尋ねると「分からないわ」と答えた。
カーソンはジェインの依頼を引き受け、邸宅を後にした。彼はベッツィーに連絡しようとするが、なぜか電話は解約されていた。検死官に会ったカーソンは賄賂を渡し、ハッピーの血液からエフェドリンや他の薬物が検出されたこと、研究所に分析を依頼していることを聞く。ジェインはドクを訪ね、「ハッピーの死に娘は関与してない。保安官に口添えできるでしょ」と言う。ドクが「手を引かせたとして、その見返りは?」と質問すると、彼女は「何が欲しい?」と訊く。するとドクは、「沖合の物に興味がある」と答えた。
ドクはジェインに「誰が君の夫を守ってたと思う?毒性を示す数々の報告書。彼から金を受け取った」と語り、共同経営者として株式の51%を譲渡するよう要求した。ジェインが「弁護士に連絡させるわ」と告げて立ち去ろうとすると、ドクは「カーソンに調査をやめさせろ。下手に嗅ぎ回られると事業に支障が出る」と述べた。カーソンはバーでスライドと会い、マイルスがドクに多額の借金を作ってロレンゾを手放したこと、ロレンゾがドラッグを扱っていることを聞かされた。「ハッピーはロレンゾからドラッグを買っていたのか」とカーソンが質問すると、彼は買うなら医師であるマイルズの方だろうと告げた。
カーソンは検死官から、ハッピーが劣悪な覚醒剤で死亡したことを知らされた。彼はローズの店を訪れて情報を得ようとするが、何も聞き出すことは出来なかった。店にいたドクは、カーソンをドライブに誘った。彼は別荘へカーソンを連れて行き、バーバラの居場所を教えるから町を出て行けと要求した。「俺の事業を嗅ぎ回られるのは困るんだ」とドクが言うと、カーソンは「アンタの事業に興味は無いよ」と告げる。ドクが「ジェインの依頼を受けただろ。療養所も調べてる。だが無駄だ」と話すと、カーソンはバーバラの居場所を尋ねた。ドクは彼に、バーバラは死んだと告げた。
ドクが「ウォルシュに手配させるから、調書を持ってロサンゼルスへ帰れ」と語ると、カーソンは「俺は前にジェインを裏切った。もう二度としたくない」と言う。別荘を去ったカーソンはロサンゼルスから来た2人の刺客に襲われるが、返り討ちに遭わせた。ドクはビングから報告を受け、「今度こそ出て行かせろ」と命じた。「ジェインは?」とビングが訊くと、彼は「こっちが有利になるよう締め付けろ。石油は俺が貰う」と述べた。
翌朝、カーソンがダイナーにいると、ビングがやって来た。カーソンが「ベッキーに手を出すな」と言うと、彼は「それは無理だが、感謝してる。派手に動いてくれて注目が集まった」と口にする。ヒングはカーソンに、「ジェインは有罪になる。夫が石油で一帯を汚染した。ここはビーチタウンだから、必死に隠してる」と語った。彼はベッキーがハッピーの暴力を受けていた証拠写真を見せ、「なぜハッピーを捕まえなかった?」と問われると「スター選手を逮捕できるか?」と質問で返した。
カーソンはジェインの家を訪れ、ベッキーがハッピーの親友であるドンと喋っている様子を目撃した。ドンが去った後、彼はベッキーに声を掛けて「ハッピーはヤクをやっていたのか?」と尋ねた。するとベッキーは、それを全面的に否定した。カーソンはハッピーのDVを内緒にしていたことでジェインを責め、「俺に助けてほしければ隠し事をするな」と鋭く告げた。「君の夫が町を汚染したらしいな」と彼が指摘すると、ジェインは正直に話すよう彼が要求するとことを承諾した。
ジェインはカーソンに、「夫は採掘を続けるために、州の調査員を買収してた。やがて住民が体調を崩し、地下水を調べたけど汚染物質は出なかった。全てチャーリーの死後に知った」と話す。カーソンに詰め寄られた彼女は、「娘を幸せにしたかった。私と貴方の娘を」と口にした。ベッキーが自分の娘だと知ったカーソンは驚き、ジェインと抱き合った。カーソンは検死官からの電話で、ハッピーから医師の処方が必要な抗がん剤が検出されたことを知らされた。
翌朝、カーソンがモーテルにいると、ベッキーが現れた。彼女はカーソンが父親だと知って、会いに来たのだった。2人が話していると、怪我を負ったスライドが部屋に来て倒れ込んだ。カーソンは「ロレンゾに会いに行ったな」と言い、スライドがハッピーの試合に賭けていて金を受け取りに行ったことを指摘した。彼が脅しを掛けて尋問すると、スライドは「ハッピーはドクに借金があっって、清算するために八百長を持ち掛けられた。しかし欲を出して報酬の上乗せを要求し、ミッチェルに殺された」と説明した…。

監督はジョージ・ギャロ、脚本はリチャード・サルヴァトーレ、製作はオスカー・ジェネラーレ&ジェフ・エリオット&リチャード・サルヴァトーレ&アヴィ・ラーナー&アンドレア・イェルヴォリーノ、製作総指揮はジョン・トラヴォルタ&ジョージ・ギャロ&デヴィッド・E・オーンストン&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ&ジェフリー・グレーンスタイン&ジョナサン・ヤンガー&アンドレイ・ジョルギエフ、共同製作はベン・ルーディンジャー&ヨルグ・K・フィッシャー&イヴァン・ゴーティエ&ジゼラ・マレンゴ、共同製作総指揮はアンソン・ダウンズ&リンダ・ファヴィラ&クリス・マリナックス&ライアン・ブラック&マイケル・シェファーノ&トレイシー・マリナックス&ロニー・ラマティー、撮影はテリー・ステイシー、美術はジョー・レモン、編集はイヴァン・ゴーティエ、音楽はアルド・シュラク。
出演はジョン・トラヴォルタ、モーガン・フリーマン、ブレンダン・フレイザー、ロバート・パトリック、ファムケ・ヤンセン、カット・グレアム、ピーター・ストーメア、エラ・ブルー・トラヴォルタ、ブレリム・デスタニ、デヴィン・エルリー、ジュリー・ロット、フランク・レンズーリ、ドリュー・エイター、ニック・ヴァレロンガ、クリス・マリナックス、メリッサ・グリーンスパン、ナディーン・リューイントン、アシュリー・アトウッド、ジミー・マリーノ、ネブ・チューピン、ティム・ニュートン、ジェフリー・アシュトン・モズリー、シーラ・シャー、アンソン・ダウンズ、ビル・ラケット他。


ジョン・トラヴォルタとモーガン・フリーマンが初共演した作品。
監督は『ダブル・テイク』『あいつはママのボーイフレンド』のジョージ・ギャロ。
映画プロデューサーのリチャード・サルヴァトーレが、初脚本を務めている。
カーソンをジョン・トラヴォルタ、ドクをモーガン・フリーマン、マイルスをブレンダン・フレイザー、ビングをロバート・パトリック、ジェインをファムケ・ヤンセン、ローズをカット・グレアム、スライドをピーター・ストーメア、ロレンゾをブレリム・デスタニが演じている。
ベッキー役のエラ・ブルー・トラヴォルタは、ジョン・トラヴォルタとケリー・プレストンの娘。

冒頭、映画館では『マルタの鷹』が上映されていることが示される。雰囲気を作り出すBGMが流れ、カーソンがモノローグを語り出す。
この冒頭部分だけで、これがクラシカルなハードボイルド映画を意識していることは明白だ。
ただ、カーソンが自分のことをクールに紹介しているんだから、少なくとも最初の内はカッコ良く振る舞う様子をアピールすべきだろう。でも実際には、男たちが来たので慌てて逃亡する様子が描かれるのだ。
「あんな奴らは片付けられたが、部屋で争うとレイモンドが怯える」というモノローグが入るんだけど、下手な言い訳にしか聞こえないぞ。

その連中は借金取りなのかと思ったが、しばらくすると「かつてカーソンはグレゴリーという男から娘を連れ戻す依頼を受け、それに関連してトラブルになっている」ってことが明らかになる。
でも、これって今回の依頼案件と何の関係も無いトラブルなのよね。後になって、そこが上手く絡み合うわけでもない。
なので、そんな要素を持ち込んでいる意味が全く分からない。
そんなトコで話の厚みや広がりが出ていることなんて皆無なんだから、今回の依頼に話を絞り込んだ方が絶対に得策だ。

普通なら主要キャラの1人として大きく扱われそうなカーソンの助手と依頼人が、冒頭シーンだけの出番で終わっている。
これはキャラの扱いとして上手くない。助手に至っては、顔もハッキリ写らず、名前さえ分からないまま終わっているし。
だったら、そんな奴は最初から出さない方がいい。
依頼人のベッツィーにしても、彼女の依頼から話が始まっているのに、そこが「いてもいなくても何の支障も無い」というキャラになっているのはダメだろ。

ハードボイルドな探偵物だから、主人公の語りで進行するのは王道だ。だけど、「わざわざ言わなくても分かるし」とツッコミを入れたくなる箇所も少なくないんだよね。
例えばカーソンが療養所を訪れた後、「医師と会って引っ掛かる物を感じた。探る必要がありそうだ」という語りが入るけど、これって全く要らないでしょ。カーソンがマイルズが話しているシーンを見れば、「マイルズを怪しんでいる」ってことは一目瞭然なわけで。
しかも、その語りを入れるのって、カーソンがモーテルに行き、部屋に入ってからなのよね。
それはタイミングとして、あまりにも遅すぎるでしょ。入れるにしても、せめて療養所を去る時でしょ。

そういうトコで無駄にしか思えない説明を入れている一方、あまり語ろうとしない情報もある。特にカーソンの過去については、なかなか明らかにされない。
それは「本人にとって嫌な過去だから語りたくない」ってことなんだろうけど、アメフト選手だったことさえ登場人物の台詞に出てくる断片的な情報を繋ぎ合わせなきゃいけなくなっている。
あと、ハッピーが有名アメフト選手ってことも、台詞から推測せざるを得なくなっている。最初はプロなのかと思ったら、しばらくして「どうやら大学のアメフト選手っぽい」と分かって来るし。
そこはカーソンの語りで説明しても、何の問題も無いでしょ。

カーソンの旧友を紹介するためのモノローグも、入れるタイミングが遅い。
カーソンがポーカーを始めた時に「ドクは大物ブローカーで」などと語り出すんだけど、そこまで引っ張る意味なんて全く無いからね。
ドクに関しては、カジノバーを訪れた時点で説明してもいい。ビングとスライドにしても、店で会ったタイミングで説明すりゃいい。
何か意味があってタイミングを遅らせているならいいけど、特に何も無いからね。少なくとも、プラスの効果は出ていないからね。

そもそも、「カーソンは有名アメフト選手だったけど、八百長で人生を棒に振った」という要素が、今回の話に上手く絡んでいるとは到底思えないんだよね。
同じアメフト選手として、カーソンがハッピーに自分を重ね合わせるわけでもないし。
「カーソンが嫌な思い出のある故郷に久々に戻った」という入り方をするにしても、八百長じゃなくてもいい。
それどころか、もはや「嫌な思い出のある故郷」という要素でさえ、上手く使い切れていないし。

ハードボイルド映画の王道パターンとしてカーソンの語りで進行しているのなら、基本的には彼の視点で話を進めるべきだろう。しかし、カーソンがカジノバーへ入る直前や、ポーカーを始める前に、店外で停めた車に乗っている謎の女の様子が描かれる。
これは構成として、どう考えても上手くない。何しろ、彼女についてカーソンは何も語れない状態にあるわけだからね。
ちなみに、それはベッキーなんだけど、その時点では誰なのか良く分からないし。
そこは例えば、「ハッピーが店を出て行くのをカーソンが観察していたら、ベッキーが車にいて拳銃を掴むが出て来ないまま泣き出すのを目撃する」みたいな描き方でもいいわけだし。

ジェインが登場すると、彼女がドクを尋ねるパートもあるけど、そうやってカーソンの視点から外れるシーンが増えれば増えるほど、話のまとまりが弱くなっていく。
そういうシーンを何度も挟まないと、物語が上手く転がらなかったり、必要な情報を提示できなかったりという問題があるってのは分かる。
ただ、それは根本的に、シナリオに問題があるのだ。
ずっとカーソン視点で進めても大丈夫なシナリオを構築すべきなのよ。

カーソンは院長室を調べて窓から脱出した後、ダイブして逃亡を図る。彼は意識を失って倒れ、気が付くと患者の老女が近くで心配している。この患者がバーバラだったりするのかというと、全くの別人。
そこはバーバラじゃなくても構わないんだけど、「この手順はホントに必要なのか?ってのが大いに疑問。
普通に「窓から脱出して逃げる」というだけでも事足りるし、いっそのこと「マイルズが戻ったら誰もいない」というのを見せるだけでも充分だ。
わざわざカーソンの失敗を粒立てているのは、何の狙いなのか。これがコメディー調を強く押し出しているなら分からんでもないけど、その意識は皆無なんだし。

ハッピーの死が「町にとって大きな出来事」として扱われているが、彼が住民にとってどういう存在だったのか全く分からない。品行方正とは到底言えないような男だったようだが、それでも「地元チームのスター」ってことで住民からは愛されていたのか。
その辺りが全く分からないので、「ハッピーの死が事故ではないと人々が噂する」という流れも腑に落ちない。
「タックルを受けて死亡する」ってのは、「そんなことは有り得ない」という全否定するような事故ではない。それなのに、なぜ「事故じゃなくて殺人だ」という噂が広まるのか。そんな風に多くの人々が感じる根拠は何なのか。
それも全く分からない。

カーソンはベッツィーから依頼を受けて、バーバラに会うために故郷へ戻っている。療養所を訪れ、マイルスが何か隠していると睨んで調べようとする。しかしジェインから依頼を受けると、そっちの仕事は後回しになっている。
この2つの依頼案件を、上手く絡ませることが出来ていない。
ハッピーの死に絡んでドクとマイルスが結託していることが判明し、表面的には結び付く形になる。
でも綺麗に連結しているわけではなく、いびつ丸出しのツギハギ状態なのだ。

ドクとマイルスの関係が明らかにされても、「なるほど、そういうことだったのか」とスッキリすることは皆無だ。
ここを繋げたいのなら、もっとうまい方法が幾らでもあるんじゃないかと言いたくなる。
その2人の結託が判明しても、「ベッツィーからの依頼」と「ジェインからの依頼」という2つの案件が1つの線になったという印象は皆無なのよ。
ベッツィーの依頼はカーソンを故郷へ行かせるための設定に過ぎず、それが終わると「別に無くても困らない要素」に成り下がっちゃうのよね。

映画も終わりに近付いた頃、「マイルスは患者が死んでも隠蔽して家族に金を請求し、それを元手にロレンゾと事業を始めた」ってことが明らかになる。で、そっちの一件が片付いた後、最後になって「ジェインはベッキーを守ってもらうため、カーソンがバーバラの案件を受けて故郷に戻って来るように手を回していた」ってことが判明する。
つまり最初の依頼から、全てはジェインの差し金だったてことだ。
そしてハッピーを殺したのも彼女の仕業ってのが明らかにされて映画は終わるが、この解決篇が驚きや興奮に全く繋がっていない。
「緻密に張り巡らされた伏線が綺麗に回収された」とか、「パズルのピースが1つに組み合わさった」という形になっていないのでね。

(観賞日:2020年11月24日)


第40回ゴールデン・ラズベリー賞(2019年)

ノミネート:最低スクリーン・コンボ賞[ジョン・トラヴォルタ&彼が受け入れた全ての脚本]

 

*ポンコツ映画愛護協会