『ポカホンタス』:1995、アメリカ

17世紀初頭。ラトクリフ総督率いる英国の開拓隊は、新大陸を目指す船に乗り込んだ。船員の中には、仲間のベンやロンたちから英雄視 されているジョン・スミスの姿もあった。船が嵐に襲われる中、スミスは弱気になる若い船員トーマスを勇気付け、みんなに適確な指示を 飛ばす。トーマスが船から落ちた時、スミスは危険も顧みずに荒れ狂う海へと飛び込み、彼を救出した。
アメリカ大陸。インディアンのポウハタン族の娘ポカホンタスは、部族の首長である父パウアタンが戻ってきたことを親友ナコマから聞き 、アライグマのミーコとハチドリのフリットを連れて村へと戻った。パウアタンは、敵との戦いで勇敢に戦ったココアムを称賛していた。 ポカホンタスは父に、「不思議な夢を何度も見る、きっと素晴らしいことが起きる」と告げた。するとパウアタンは「ああ、素晴らしい ことが起きる。ココアムがお前を嫁に欲しいと言っている」と口にした。
ポカホンタスは困惑し、「私の夢は違う道を指していたわ」と述べた。パウアタンは決まった道を歩くよう促し、亡き母の首飾りを渡す。 だが、好奇心旺盛なポカホンタスは、新しい道を選びたいと考えていた。彼女はカヌーに乗って川を下り、森の奥へと入った。そこには 大きな柳の木があり、それは生きていた。ポカホンタスは柳の老婆に、「森を駆けていると、矢がクルクルと回り始めて急に止まる夢を 見る」と告げる。すると老婆は「アンタの進むべき道を示している」と述べた。
ポカホンタスが進むべき道について尋ねると、老婆は「周囲にいる精霊たちに聞くのさ。そうすれば道は分かる」と言う。ポカホンタスが 風に耳を澄ますと、「何かがやって来る」というメッセージが聞こえた。遠くを眺めると、船の帆が見えた。初めて船を見たポカホンタス は「大きな雲よ」と口にした。それは開拓隊を乗せた船だった。宮廷でも嫌われているラトクリフは、今回の任務を栄誉を得るための チャンスだと考え、絶対に黄金を発見しようと意気込んでいた。
スミス、トーマス、ベン、ロンの4人は、小舟に乗り換えて上陸した。その様子をポカホンタスは物陰から覗き見た。スミスは景色を見る ため木に登った。ミーコがぶつかってきたので、スミスはビスケットを与えた。パウアタンは呪術師ケカタに、上陸した連中のことを占う よう求めた。するとケカタは「火を吹く武器を持ち、全てを食い尽くす」と告げる。ココアムが「奴らと戦ってみせます」と名乗り出るが 、パウアタンは「白い奴らと戦うのは初めてだ。仲間を連れて様子を見て来い」と指示した。
上陸したラトクリフは、船員に「この土地と資源を全て我々の物とする。この土地はジェームズタウンと名付ける」と宣言した。彼の指示 を受けたスミスは、先住民が近くにいるかどうかの調査に向かった。残った船員たちに、ラトクリフは「掘って掘って、堀りまくれ。 そして金塊を見つけろ」と命じた。船員たちは木を伐採し、地面を掘り、自然を破壊した。
森を歩き回るスミスを、ポカホンタスは密かに尾行した。川で水を掬ったスミスは、そこに映る人影に気付いた。彼は物陰に潜んで銃を 構え、尾行者を待ち伏せた。しかしポカホンタスの姿を見ると、攻撃する気持ちは消えた。彼女が逃げ出したので、スミスは「待って」と 叫んで追い掛けた。「大丈夫、何もしない」と言うスミスに、ポカは警戒心を解いた。たちまち2人は恋に落ちた。
ココアムは仲間2人と共に、採掘の様子を物陰から見ていた。それに気付いたラトクリフは、武器を取れ」と叫んだ。激しい銃撃を受けた ココアムたちは木の影から弓矢で反撃するが、一人が脚を撃たれた。ココアムは撃たれた仲間を抱えて退散した。パウアタンはココアムに 「島中の仲間に使者を送り、共に戦うのだ」と指示し、村人たちに「あの白人たちは危険だ、奴らに近付くな」と命じた。
そんなことは全く知らず、ポカホンタスとスミスは水辺で語らっていた。スミスはポカホンタスに握手を教え、ポカも部族の挨拶を教えた 。ポカホンタスはスミスが住むロンドンという場所に強い興味を持ち、「私も見てみたい」と口にした。するとスミスは「君も見られるよ 。ここに町を作る。立派な家を建てて、土地の上手な使い方を教えてあげるよ」と告げた。
「何も知らない人々に良い生活を」スミスが言うので、ポカホンタスは腹を立てた。慌てて釈明するスミスに、彼女は自然の素晴らしさを 説き、「貴方が知らない世界を知ろうとしていないだけ」と述べた。その時、村から太鼓の音が聞こえた。ポカホンタスは引き止める スミスに「もう会えない」と告げ、村に戻った。開拓隊は先住民の襲来に備えて、砦を作った。黄金が全く見つからず、ラトクリフは焦り を感じた。彼は執事ウィギンズに「この土地に黄金があるから、奴らは襲ってきたのだ」と告げた。
ポカホンタスがナコマと一緒に畑でトウモロコシを調達していると、スミスがやって来た。慌ててポカホンタスは、叫ぼうとするナコマの 口を押さえた。彼女は「内緒にして」とナコマに頼み、スミスを連れて畑から去った。スミスが黄金を取りに来たことを説明すると、 ポカホンタスは「この辺りには無いわね」と告げた。スミスは柳の老婆に挨拶されて驚いた。ベンとロンがスミスを捜しに来るが、老婆が 枝で尻を打って追い払った。スミスはポカホンタスに「今夜会おう」と告げて立ち去った。
ポウハタン族の村には、他の部族の面々も集まってきた。共に白人と戦うためだ。ポカホンタスは父に「戦いはやめて、他の道を探して。 彼らと話をして」と頼むが、「奴らは話などしない」と言われる。「もし誰かが話すと言ったら、お父様は聞いてくれる?」と訊くと、 パウアタンは「もちろん聞くさ。だが、ここまで来たら、もう簡単には済まない」と述べた。
砦に戻ったスミスは、「あの邪魔者を一人残らず葬り去るのだ」と主張するラトクリフに「そんなことはさせない。彼らと戦う必要は無い 。話をした。彼らは敵じゃない」と告げる。スミスはポカホンタスから貰ったトウモロコシを差し出し、「ここに黄金は無い」と言う。 しかしラトクリフは「デタラメだ。奴らを見つけてすぐ撃ち殺さなかったら、反逆罪で吊るしてやる」と通告した。
その夜、ポカホンタスは引き止めるナコマを振り払い、スミスと会うため村を出た。ナコマはココアムに、ポカホンタスが白人に会いに 行ったことを打ち明けた。ラトクリフは砦を抜け出すスミスに気付き、トーマスに「奴を追って行き先を確かめろ」と銃を渡した。柳の木 の下で、ポカホンタスとスミスは密会した。スミスはポカホンタスに「僕の仲間が君たちを襲う」と告げた。「お父様と話して」と頼む ポカホンタスに、「もう戦いは止められない」とスミスは言う。
柳の老婆はスミスに、水に出来た波紋を見るよう告げる。そして「まずは小さな輪から始めるんだ。もし戦いが始まったら、一緒には いられないんだよ」と諭した。スミスはパウアタンと会うことを承知し、ポカホンタスとキスをした。それを目撃したココアムは、激昂 してスミスに襲い掛かった。スミスを助けようとしたトーマスの銃弾を浴び、ココアムは死んだ。ポウハタン族の面々が来たため、スミス はトーマスに「砦に帰れ」と叫んだ。スミスは拘束され、パウアタンは「日の出と共に、この男は死ぬのだ」と処刑を宣言した…。

監督はマイク・ガブリエル&エリック・ゴールドバーグ、脚本はカール・ビンダー&スザンナ・グラント&フィリップ・ラゼブニク、製作 はジェームズ・ペンテコスト、製作協力はベイカー・ブラッドワース、編集はH・リー・ピーターソン、アート・ディレクターはマイケル ・ジアイモ、歌曲作曲はアラン・メンケン、歌曲作詞はスティーヴン・シュワルツ、伴奏音楽はアラン・メンケン。
声の出演はアイリーン・ベダード、ジュディー・キューン、メル・ギブソン、デヴィッド・オグデン・ステアーズ、ジョン・カッサー、 ラッセル・ミーンズ、クリスチャン・ベイル、リンダ・ハント、ダニー・マン、ビリー・コノリー、ジョー・ベイカー、フランク・ ウェルカー、ミシェル・セント・ジョン、ジェームズ・アパウマット・フォール、ゴードン・トゥートゥーシス他。


実在したポウハタン族の女性ポカホンタスの逸話を基にしたディズニーの長編アニメーション映画。
ポカホンタスの声をアイリーン・ベダード、彼女の歌声をジュディー・キューン、スミスをメル・ギブソン、ラトクリフ&ウィギンズを デヴィッド・オグデン・ステアーズ、ミーコをジョン・カッサー、パウアタンをラッセル・ミーンズ、トーマスをクリスチャン・ベイル、 柳の老婆をリンダ・ハントが担当している。
ディズニーのアニメでは珍しく、ハッピーエンドではない。

この映画が公開された時、インディアンの団体は「白人至上主義的な人種差別映画であり、史実を捻じ曲げている」として 激しく抗議した。
彼らが激怒するのも当然だろう。
だって、ジョン・スミスが名声を得るためにデッチ上げた作り話をモチーフにしているんだから。
しかも、そんな作り話に、さらにディズニーが脚色を加えた内容を、まるで史実であるかのように宣伝しているんだから。

まず、ポカホンタスというのは彼女の本名ではなく、幼い頃の呼び名に過ぎない。本名はマトアカだ。また、劇中でポカホンタスが着て いる衣装がポウハタン族らしさに著しく欠けた、セクシャルなイメージを強調するものであることや、劇中で描かれる部族の生活風景が ポウハタン族の文化とは大きく異なっていることは、吹き替えに携わったインディアンの声優が認めている。
父がジョン・スミスを処刑しようとしたのを止めたと言われているが、これが事実だという証拠は何も残っていない。後にスミスが、その ように語っているだけだ。
ヴァージニア植民地に入植した当時、スミスはポウハタン語が理解できなかった。
そのため、ポカホンタスが身を投げ出したとしても、それがスミスを救おうとしての行動だったかどうかは分からない。

それ以前の問題として、スミスが嘘をついている可能性もある。
スミスはイギリスに帰国してから植民地に関する論文を幾つも書いているが、その中ではポカホンタスについて全く触れていない。彼が ポカホンタスとの関係について主張し始めるのは、それから17年も後になってからのことだ。
その時、既にポカホンタスは死んでおり、まさに「死人に口無し」の状態だった。
スミスの移民仲間は、彼が野心に満ちた男だと証言しており、彼が名声を得るために話を捏造した可能性が高いというのが、多くの歴史家 の意見だ。

劇中ではスミスとポカホンタスが出会った途端に惹かれ合っているが、当時のポカホンタスは10歳か11歳だったため、スミスと恋に落ちる というのは、現実的に考えて有り得ない。
実際に2人の間にロマンスがあったとすれば、スミスはロリコンの性犯罪者ということになる。
実際のポカホンタスは、イギリスに渡った際にスミスと遭遇したが、激怒して追い払ったという記録がある。

なお、ポカホンタスは白人とインディアンの架け橋のように扱われているが、実際は白人に利用された哀れな女性である。
映画では描写されないが、1612年にポカホンタスは捕虜となり、解放の条件として、ジョン・ロルフというイギリス人と望まぬ結婚をして いる。
その後、彼女はロルフによってイングランドに連れて行かれ、ヴァージニア植民地に新しい入植者を勧誘したり、投資家を探したりする ためのキャンペーンに利用された。

そのような事情を知ったせいかもしれないが、スミスというキャラクターが、ちっとも魅力的に見えない。
むしろ不快感を抱かせる。
ポカホンタスがナコマと一緒にいるところにノコノコと現われるシーンなんて、「お前は部族に捕まって殺されろ」と言いたくなって しまった。
それと正直、ポカホンタスにも魅力を感じない。こっちはこっちで、やっぱり不愉快なキャラに感じる。
ポカホンタスもスミスも、「シビアな現実を無視して、愛で周囲が見えなくなって暴走している」という風にしか受け取れないの よね。
「2人の愛が争いを止める」という展開にも、ずっと不快感が消えなかった。ココアムがトーマスに殺されたのだって、「もとを糺せば、 テメエら2人が密会していたのが原因だろうが。ポカホンタスにトーマスを非難する権利はねえよ」と言いたくなる。

ラトクリフだけを悪党にして、船員は文句を言いながらも従っているだけで、最後は命令に背く。
そういう風に、「入植した白人が全て悪いわけじゃないのよ、悪いのは一人だけなのよ」としてあるのも、かなり醜悪だ。
また、「異文化を尊重すべし」というメッセージを内包しているにも関わらず、ポウハタン族は最初から英語がベラベラなので、 ポカホンタスとスミスの「言葉や人種の壁を越えて愛し合う男女」という設定が成立しなくなっている。
あと、今回は動物キャラが疎ましい存在になっている。

(観賞日:2010年6月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会