『プレーンズ』:2013、アメリカ
プロップウォッシュ・ジャンクションという田舎町で働く農薬散布機のダスティ・クロップホッパーは、レース機になることを夢見ている。友人である複葉機のレッドボトムは肥料散布の仕事に満足しているが、ダスティは退屈で仕方が無い。彼は性能に自信があり、世界一周レースへの出場を決めていた。燃料トラックのチャグはダスティの夢を理解し、レースに向けた練習に付き合ってくれる。しかし練習のせいで機体が傷んだので、整備をしているフォークリフトのドッティーから叱られる。それでもダスティは全く気持ちを変えず、週末の予選に来てほしいと彼女を誘った。
ダスティはチャグから、戦争の英雄であるスキッパー・ライリーに飛行教官を頼もうと提案される。ダスティは「何十年も飛んでいない老人に頼みたくないね」と乗り気ではなかったが、チャグに勧められて会いに行く。ダスティが世界一周レースに向けたコーチを頼むと、スキッパーは無言で格納庫を閉めた。ダスティが粘ろうとすると、スキッパーは冷淡に「帰れ。背伸びし過ぎだ」と言い放った。
週末、ダスティとチャグとドッティーは予選大会の行われるネブラスカ州リンカーンへ赴いた。世界チャンピオンのリップスリンガーがゲストとして呼ばれており、華々しく登場した。5位までが本選に出場できるタイム・トライアルに出場したダスティは、残念ながら6位に終わった。しかし5位だったフォンツェレッリの不正が発覚して失格になったため、レース競技委員のローパーはダスティに繰り上がりで予選通過となったことを知らせた。
スキッパーはダスティの元へ行き、レース出場を思い留まるよう説いた。彼は「一流レーサーでも途中棄権する難コースだ」と言い、予選レースにおけるダスティの甘さを指摘した。しかしダスティが「同じ畑の上を行ったり来たりしているだけで、どこにも行っていない。貴方は戦争で活躍した英雄でしょ。僕も農薬散布以外のことが出来ると証明したい」と訴えると、スキッパーはコーチ役を引き受けた。スキッパーの整備士のスパーキーを呼び寄せ、ダスティのトレーニングを開始した。
スキッパーが最速で上昇するよう指示すると、ダスティはすぐに高度を下げて着陸してしまった。ダスティはスキッパーに、高所恐怖症だと打ち明けた。するとスパーキーがアイデアを出し、スキッパーは「低空飛行で行こう」と告げた。チームは低空飛行で速度を上げる方法を練り、ドッティーは馬力を上げるための改造を施した。ダステイはJFK空港に降り立ち、イギリス代表のブルドッグやインド代表のイシャーニメキシコ代表のエル・チュパカブラたちと会った。
世界各国から21機の代表が集まった世界一周レースは、リップスリンガーの4連覇が確実視されている。当然のことながら、農薬散布機はダスティだけだ。7区間3万1千キロに及ぶレースがスタートし、最初の区間はニューヨークからアイスランドへ向かって北大西洋を飛行する。いきなり大きく出遅れたダスティは、そのまま最下位でアイスランドに到着した。翌日、ドイツへ向かう障害物区間でブルドッグが墜落の危機を迎えると、ダスティは救助に駆け付けた。ダスティの助言でブルドッグは墜落を回避し、無事に滑走路へ辿り着くことが出来た。ブルドッグは「命の恩人だ」とダスティに感謝するが、リップスリンガーは「だから最下位なのさ」と馬鹿にして笑った。
エアロカーのフリーゲンホーセンはダスティに「貴方のファンなんです」と話し掛け、速く飛びたいなら農薬散布用のパイプやタンクを外すべきだと提案した。その助言を受け入れたダスティは身軽になり、インドへ向かう第3区間で一気に8位まで順位を上げた。取材を受けた彼は、スキッパーにコーチしてもらったことを語った。リップスリンガーはダスティに強い不快感を抱き、子分のネッド&ゼッドに妨害工作を命じた。
ヒマラヤ山脈を越えてネパールへ向かう第4区間のレースを控え、ダスティはイシャーニから声を掛けられた。彼女に誘われて観光飛行に出掛けたダスティは、「低空飛行が得意なのよね。代わりに鉄のコンパスを辿ればいい。山脈の谷を通る鉄道よ」と言われる。次の日、ダスティはイシャーニの助言に従って線路の上を飛ぶが、そこには高い山が待ち受けていた。ダスティは高度を上げることが出来ず、思い切ってトンネルの中を飛ぶことにした。彼は向こうから走って来る汽車と激突しそうになるが、間一髪で回避した。トップでネパールにゴールしたダスティは、イシャーニがリップスリンガーから新型プロペラを貰うために自分を騙したことを知って激怒した。
中国を目指す第5区間でも、ダスティはリップスリンガーを抑えてトップの座を守った。続く第6区間は太平洋を横断してメキシコへ向かうルートであり、ダスティはスパーキーに「昔の任地でしょ。アドバイスは?」と訊く。スパーキーは「1941年のウェーク島の戦いで、レンチ隊員は強風に遭遇した。用心しろ」と告げ、チャグとドッティーは旅費を稼いでメキシコへ応援に行くことを明かした。ダスティはスキッパーも来ることを知り、大いに喜んだ。
第6区間のレースが始まると、リップスリンガーの指示を受けたネッドとゼッドはダスティのGPSアンテナを破壊した。ダスティは完全にルートを見失った上、燃料切れが迫った。ダスティが危機に陥った時、戦闘機のエコーとブラボーが現れた。ダスティが事情を説明すると、2機は空母フライゼンハワーまで誘導してくれた。着艦したダスティはレンチ隊の栄誉を記した壁を見て、スキッパーが一度しか任務に出ていないことを知った…。監督はクレイ・ホール、原案はジョン・ラセター&クレイ・ホール&ジェフリー・M・ハワード、脚本はジェフリー・M・ハワード、製作はトレイシー・バルサザー=フリン、製作協力はトニー・コサネラ&キップ・ルイス、製作総指揮はジョン・ラセター、共同製作はケン・ツムラ、編集はジェレミー・ミルトン、アート・ディレクターはライアン・カールソン、アニメーション・ディレクターはシェリル・サーディナ・サケット、音楽はマーク・マンシーナ。
声の出演はデイン・クック、ステイシー・キーチ、ブラッド・ギャレット、テリー・ハッチャー、ジュリア・ルイス=ドレイファス、プリヤンカー・チョープラ、ジョン・クリーズ、セドリック・ジ・エンターテイナー、カルロス・アラズラキ、ロジャー・クレイグ・スミス、アンソニー・エドワーズ、ヴァル・キルマー、シンバッド、ガブリエル・イグレシアス、ブレント・マスバーガー、コリン・カウハード、ダニー・マン、オリヴァー・カルコフェ、ジョン・ラッツェンバーガー他。
2006年の映画『カーズ』のスピン・オフ作品。
監督は『ティンカー・ベルと月の石』のクレイ・ホール、脚本は『ティンカー・ベル』のジェフリー・M・ハワード。
ダスティーの声をデイン・クック、スキッパーをステイシー・キーチ、チャグをブラッド・ギャレット、ドッティーをテリー・ハッチャー、イシャーニをプリヤンカー・チョープラ、ブルドッグをジョン・クリーズ、レッドボトムをセドリック・ジ・エンターテイナー、チュパカブラをカルロス・アラズラキ、リップスリンガーをロジャー・クレイグ・スミス、エコーをアンソニー・エドワーズ、ブラボーをヴァル・キルマー、ローパーをシンバッドが担当している。日本語吹替版ではダスティーの声を瑛太、サクラを仲里依紗、ブラボーを山口智充が担当している。
スキッパーの声を担当した石田太郎は、これが声優としての遺作となった。
ちなみに仲里依紗が声を担当したサクラは日本代表のレース機で、エル・チュパカブラが好意を寄せる相手として登場する。しかし、このキャラクターは公開国によって名称やカラーリングが異なっている。
北米版ではカナダ代表のロシェルというキャラクターに変更され、ジュリア・ルイス=ドレイファスが声を担当した。日本でも字幕版の場合、サクラではなくロシェルという設定が使われている。冒頭、映画が始まってすぐに、ディズニーのロゴマークが表示される。
『カーズ』はピクサーの長編アニメーション映画だったのに、そのスピン・オフである本作品がピクサーじゃなくディズニーのロゴマークから始まることに、やや違和感を抱く。
しかし、この映画を製作したのはピクサーではなく、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ傘下で主にビデオ作品を手掛けるディズニー・トゥーン・スタジオズなので、それはもちろん間違いじゃない。
なぜディズニー・トゥーン・スタジオズなのかというと、当初はオリジナルビデオ作品として北米で発売される予定で、後に劇場公開が決定したという経緯があるからだ。序盤でダスティがチャグに促され、スキッパーにコーチを依頼するシーンがあるが、これは要らない。
そもそもダスティは「何十年も飛んでいない老人に頼もうとは思わない」と言っていたんだから、「だから頼まない」という流れの方が自然だろう。スキッパーの元へ行ってコーチを依頼し、一度拒否されても二度目のチャレンジをするってのは、どうにも違和感がある。
っていうか、どうせ予選に通過しないと本選には出られないんだから、「予選通過を果たしたダスティがスキッパーにコーチを頼もうとする」という形にしておけばいいでしょ。で、スキッパーから醜状を思い留まるよう諭されるという形にしておけばいいでしょ。
あと、「何十年も飛んでいない老人」と馬鹿にしていたダスティが、スキッパーの指導を素直に受けるのは違和感があるぞ。
「貴方は戦争の英雄でしょ」と言ったり、素直に指導を受けたりするのなら、最初から「チャグに勧められるまでもなく、ダスティ自らがスキッパーを戦争の英雄として尊敬しており、指導してほしいと望む」という設定にしておいた方がいいでしょうに。序盤でスキッパーを馬鹿にするような台詞を吐かせるのは、明らかに邪魔でしょうに。本作品で何より厳しいと感じるのは、「エアレースの醍醐味」ってのが伝わりにくいということだ。
序盤に予選の様子が描写されるが、同時に同じコースを飛んで順位を競うわけではなく、順番に飛んだタイムで順位が決まる。そのため、どの飛行機がどれぐらい早いのか、どれぐらい技術や性能に違いがあるのかが、かなり分かりにくいのだ。
映像が常に同じポジションや距離から飛行機を捉えてくれれば、その違いは分かりやすくなるだろう。
だが、飛行機が変わる度に、それを捉えるカメラのアングルやカット割りも変化する。「映像的な面白さ」ってことを最優先で考えれば、どんどんアングルやカット割りを変えて行くのは理解できる。しかし、「最初に飛んだフォンツェレリは速かった」「ダスティもフォンツェレッリと同じぐらい速かった」ということを伝えるためには、その変化は邪魔になる。
ただし、じゃあ同じポジションやカット割りで見せたらダスティのレース運びや速さが素晴らしかったことが充分に伝わるのかというと、これも難しいところなんだよね。レースの途中でチャグが「追い上げてる」と言っても、こっちには全く伝わらない。
そもそもタイムの差って、トップと2秒ぐらいしか無いし。でもタイム・トライアルだから、「掛かった時間」以外の部分でしか優劣は付かないんだよね。
例えば、画面の隅にタイム表示を出すとか、通過ポイントでトップや予選通過ラインとの時間差を出すとか、そういった配慮があっても良かったんじゃないか。その予選大会の描写は、他の部分でも微妙な内容になっている。
ダスティが参加することを知った実況アナウンサーや会場の車たちは、みんな「農薬散布機がレースに出るなんて」と馬鹿にした態度を取っている。
だったら、そこからの展開は「ダスティがレース専用機に負けない速さを披露し、馬鹿にした奴らを驚かせる」か「自信満々のダスティだったけど、実際のレースは想像以上に厳しくて惨敗する」か、その二択で考えるべきだろう。
しかし実際には「それなりに速かったけど予選落ち」という微妙な結果であり、馬鹿にした奴らのレース後のリアクションも描かれないのだ。また、「予選敗退が決まったダスティが落胆して農薬散布の仕事に戻るが、そこへローパーが現れて繰り上がりの予選通過を通達する」という手順は完全に無駄。
予選敗退が決まってダスティがガッカリしていると、フォンツェレッリの不正が発覚して繰り上がり通過が決まるという形にしておけばいい。
「翌日」という手順を踏んで、予選敗退のシーンと繰り上がり通過のシーンを分割する意味が全く無い。
その1日の間に、ダスティと周囲のキャラを使った何かしらのドラマが描かれるわけでもないんだし。前半の内に「ダスティは高所恐怖症」という弱点が明らかにされるが、その時点で「お前はアホか」と言いたくなる。
高所恐怖症の奴がエアレースでチャンピオンになろうとしているって、そりゃアホと言われても仕方が無いでしょ。
これが「農薬散布機でもレーサーになれる」ということを示す挑戦だったら、共感するのも応援するのも難しくないだろうよ。
だけど高所恐怖症ってことになると、状況がガラリと変わって来る。レースが云々とかいう以前に、まずは高所恐怖症を治せと言いたくなる。これが「かつてはレーサーだったけど、なにかのトラウマで高所恐怖症になって引退した。でも、またレースに出たいという気持ちになった」ということなら、それは受け入れられる。
でも、最初から高所恐怖症だと分かっている奴が、「世界一周レースに出場して優勝するぞ」なんてことを平気で吹聴しているってのは、まるで共感できないわ。
それはボールが怖いのに「俺は世界一の野球選手になる」と言っているようなモンだぞ。そりゃあ「アホか」ってことになるでしょ。
だから、高所恐怖症が判明してもスキッパーが「じゃあ低空飛行で行こう」と言い出すのも、「なんでやねん」とツッコミを入れたくなるのよ。
そうじゃなくて、ダスティの高所恐怖症を克服させようとすべきじゃないのかと。レース本選は一斉に全機がスタートするので、速度や飛び方の違いが分かりやすくなるはずだと感じた。
しかしダスティはスタートから大幅に出遅れてしまい他の機体との比較なんて全く出来ない状況になってしまう。
その上、第一区間は「ダントツのビリでゴールした」ということが描かれるだけで、内容はほとんど無い。
それでダスティが「やっぱり自分は駄目だ」と落胆するとか、何かのきっかけで意欲を取り戻すとか、そういうドラマも用意されず、さっさと次の区間へ移ってしまう。第2区間ではダスティがブルドックを墜落の危機から救って感謝されるが、このエピソードも「だから何なのか」と思ってしまう。
これが「ダスティはレースでトップになることを目指しており、しかも優勝候補になっていた」とか、そういうキャラ設定なら分かるのよ。
でもダントツのビリであり、しかも本人に「必ず優勝するぞ」という意欲が見えないので、そんな奴が他の機体を救うエピソードを描いても、あまり盛り上がらないのよ。それによって大幅に順位を落とすわけでもないし。
そもそも、「農薬散布機がレースに出て自己存在を証明しようとする」とか、「高所恐怖症の奴がレースに出る」という話で進めていたはずなのに、そこに来て急に「ダスティは性格のいい奴」ってのを描くのはズレてると感じるし。ダスティが順位を上げると、他の飛行機と絡む様子が描かれるが、やはりレースの醍醐味や面白さは伝わらない。
しかも、他の飛行機と絡むのは申し訳程度で、基本的には単独飛行だし。
あと、ダスティが順位を上げるきっかけが「散布装置を外して身軽になる」ってのは、「なんで今まで外さなかったんだよ」とツッコミを入れたくなる。
「だったら最初から速かったってことだろ」と言いたくなる。後半に「スキッパーが1度しか任務に出ていないことを知ったダスティがショックを受ける」という展開を用意するなら、そこまでに「ダスティとスキッパーの絆」ってのを重視した物語を描いておくべきだろう。
しかし実際には、レースが始まるとスキッパーの存在は脇に追いやられ、「出遅れたダスティが身軽になって順位を上げて、リップスリンガーの妨害工作を受ける」という筋書きが描かれる。
そもそもスキッパーは現地へ同行していないから、たまに通信する程度の存在でしかない。しかも、ダスティが出遅れた時に元気付けるとか、身軽になるようアドバイスするとか、そういうことは全く無い。
つまり、いざレースが始まると、スキッパーの存在はダスティの気持ちや順位に全く影響を及ぼしていないのだ。前半の内に「ダスティは高所恐怖症」という弱点を明かしているんだから、「そのせいでダスティは順位を落としたり、レースを続けることが困難になったりする。しかし高所恐怖症を克服し、レースに勝利する」というドラマを用意すべきだろう。
しかし、イシャーニに騙されるエピソードではトンネルを抜けることで危機を回避し、高所恐怖症はダスティの順位に何の影響も及ぼさない。
そして終盤に入り、リップスリンガーを追い掛ける中で、あっさりとダスティは高所恐怖症を克服してしまう。
そこには盛り上がりなんて皆無だ。勇気を出せるようになるきっかけとか、そういうのは何も無い。スキッパーが一度しか任務に出ていないと知ったダスティはショックを受け、そのせいで集中を失った彼は機体を損傷させる。スキッパーはダスティに、哨戒任務中の不意打ちで訓練部隊が全滅して自分だけが生き残ったこと、罪悪感に苛まれて飛ばなくなったことを明かす。
でも、その過去が、物語の大きな流れに乗っていない。
そもそもダスティがスキッパーの指導を受ける上で、「何度も任務を遂行した」ということが大きな意味を持っていたような印象が無い。
また、その過去をスキッパーが話すことでダスティはレース続行を決めるけど、そもそも「ショックでレースを辞めようとする」ってことじゃなくて「損傷が激しいからレース続行は無理」ってことでしかない。そして、スキッパーの過去を知らされても、ダスティが高所恐怖症を克服するきっかけになるわけではない。
つまり、「スキッパーの過去」と「ダスティの精神的成長やレーサーとしての成長」ってのが、上手く絡んでいないのだ。(観賞日:2015年6月3日)