『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』:2011、アメリカ

スペインのカディス。漁師たちの網に、漂流していた瀕死の男が引っ掛かった。男が200年前に死んだポンセ・デ・レオンの船を探していたと知った漁師たちは、フェルナンド王の元へ連れて行く。フェルナンドが男の持っていた手帳を調べると、そこには生命の泉のことが記されていた。フェルナンドは側近に対し、すぐに船を出すよう命じた。一方、イギリスのロンドンでは、ジャック・スパロウの裁判が行われる。それは形式上のことであり、実際は既に絞首刑が決定していた。法廷に連れ出されたのは、ジャックでしなくギブスだった。彼は人違いだと訴えるが、誰も聞く耳を貸さなかった。
本物のジャックは裁判長に化けて法廷に現れ、ギブスに「ジャック・スパロウでない罪で減刑する。牢獄で過ごせ」と宣告した。ギブスがロンドン塔へ送られる護送車に、ジャックは乗り込んだ。御者を買収したという彼は、ロンドンに来た理由をギブスに尋ねた。するとギブスは、ジャックがロンドンに船を持って来て、乗組員を探しているという噂があったことを話す。今夜、“キャプテンの娘”という酒場でジャックが乗組員を雇うことになっているらしい。それはジャックの知らないことだった。
ギブスから「生命の泉は諦めたのか」と訊かれたジャックは地図を見せ、まだ探し求めていることを話す。ジャックは御者の買収に失敗し、ジョージ王の宮殿へ連行された。ジョージ王はフェルナンドが生命の泉の場所を突き止めたという情報を聞き、苛立ちを募らせていた。彼はジャックに、遠征隊の案内役を要求する。ジャックが「船と船員を用意してくれ」と告げると、ジョージは「それに船長もな」と言い、バルボッサを部屋に招き入れた。
宮殿から逃げ出したジャックは。父親のティーグと遭遇した。ティーグと共に“キャプテンの娘”へ出向いたジャックは、泉では儀式を行うこと、そのためにはポンセ・デ・レオンの銀の聖杯2つが必要なことを教えられた。ティーグが消えた後、ジャックは自分の名を騙る偽者を見つけるが、それは彼が捨てた元恋人のアンジェリカだった。2人が言い争っていると、兵隊が酒場に乗り込んできた。ジャックはアンジェリカと共闘して逃げ出すが、彼女の手下に吹き矢を浴びて眠りに落ちた。
バルボッサはギブスを「絞首刑にする」と脅し、生命の泉に関する情報提供を要求した。ギブスはジャックから盗み取った地図を燃やし、「ルートは俺の頭の中にある。俺も連れて行け」と告げた。ジャックが目を覚ますと、そこは“アン女王の復讐”号の船内だった。それは海賊も恐れる黒ひげの船である。ジャックは雇われ船員のスクラムたちと共に、労働を強いられた。マストに縛られている男を見つけたジャックは、スクラムに尋ねた。男は宣教師のフィリップで、乗っていた面々は皆殺しにされたが、アン女王の復讐号の一等航海士が命を張って助命を嘆願したため、縛られているのだという。
フィリップの助命を嘆願した一等航海士とは、アンジェリカだった。ジャックは彼女を捕まえ、事情を問い詰めた。するとアンジェリカは、自分が行方知れずの娘だと黒ひげに信じ込ませたこと、黒ひげがゾンビの操舵手から「2週間以内に義足の男によって殺される」と予言されたために生命の水を手に入れようとしていることを話した。反乱を企てたジャックは、黒ひげが船長室に閉じ篭もっており、船員の誰も姿を見ていないことを知った。ジャックは船員たちに「これは黒ひげの船じゃない。騙されたんだ」と訴えた。
ジャックの扇動によって反乱が勃発するが、そこに黒ひげが現れると一気に形勢が逆転した。黒ひげは反乱した船員たちを捕まえ、見張りに立っていたコックを始末した。黒ひげはジャックを船長室に呼び、泉へ案内するよう要求した。ジャックは「あの女は娘じゃない」と告げるが、黒ひげは信じなかった。彼は呪いの人形でジャックを脅し、案内役を承諾させた。
深夜、ジャックは甲板でアンジェリカと2人きりになり、自分たちだけで生命の泉へ行かないかと持ち掛けた。アンジェリカは「儀式には泉から汲んだ水、人魚の涙、聖杯が必要で、それを使えば人の寿命を奪うことが出来る。だから2人で行っても無駄。生贄が必要なの」とジャックに教えた。アンジェリカは彼に、黒ひげが奪った船を入れているボトルキャップの棚を見せた。ボトルキャップの1つには、ブラックパール号が入っていた。アンジェリカはジャックに、望みが果たされたら船を渡すと持ち掛ける。彼女は自分が黒ひげの本当の娘であることを明かし、父を助けたいのだと話した。
アン女王の復讐号はホワイトキャップ湾に到着し、黒ひげはフィリップやスクラムたちを小舟に乗せる。人を食う人魚たちをおびき寄せるためのエサにしたのだ。人魚の群れは小舟に誘い出され、フィリップたちに襲い掛かる。数名の犠牲者が出るが、黒ひげは人魚のシレーナを捕まえることに成功した。一行はシレーナを水槽に入れ、ジャングルを進んだ。しかし断崖で吊り橋が落ちていたため、先へ進めなくなった。黒ひげはジャックを脅し、1人で聖杯を取って来るよう要求した。
ジャックは崖から川に飛び込み、ポンセ・デ・レオンのサンティアゴ号を探しに行く。残りの面々は泉を目指すが、途中で水槽が割れてしまう。シレーナが人間の姿に変わると、フィリップが上着を掛けてやった。黒ひげは歩くことを強要するが、シレーナは上手く立てずに倒れ込んでしまう。フィリップは彼女を抱き上げ、運んで行くことにした。シレーナはフィリップに他の人間とは違う優しさを感じ取り、フィリップはシレーナに心を惹かれていた。
ジャックがサンティアゴ号に足を踏み入れると、バルボッサが先に来ていた。2人は聖杯の箱を見つけるが、中身は石だった。彼らよりも先にスペイン軍が来て、聖杯を奪って行ったのだ。ジャックはバルボッサと協力し、聖杯を手に入れようとする。一方、黒ひげはシレーナの涙を採取しようとするが、彼女は泣かなかった。シレーナの恋心を悟った黒ひげは、目の前でフィリップの首を切った。シレーナが気丈に振る舞って泣かなかったので、黒ひげはフィリップを捨てた。まだ生きていたフィリップは、シレーナを助けに戻る。シレーナが喜んで泣いた途端、黒ひげ一味が来て涙を採取した。全てはアンジェリカの立てた作戦だった…。

監督はロブ・マーシャル、キャラクター創作はテッド・エリオット&テリー・ロッシオ&スチュアート・ビーティー&ジェイ・ウォルパート、着想はティム・パワーズ、映画原案&脚本はテッド・エリオット&テリー・ロッシオ、製作はジェリー・ブラッカイマー、製作総指揮はマイク・ステンソン&チャド・オマン&ジョン・デルーカ&バリー・ウォルドマン&テッド・エリオット&テリー・ロッシオ、製作協力はパット・サンドストン&メレッサ・リード、撮影はダリウス・ウォルスキー、編集はデヴィッド・ブレナー&ワイアット・スミス、美術はジョン・マイヤー、衣装はペニー・ローズ、視覚効果監修はチャールズ・ギブソン、音楽はハンス・ジマー、音楽監修はボブ・バダミ&メリッサ・ムイク。
主演はジョニー・デップ、共演はペネロペ・クルス、イアン・マクシェーン、ジェフリー・ラッシュ、ケヴィン・マクナリー、サム・クラフリン、アストリッド・ベルジュ=フリスベ、スティーヴン・グレアム、リチャード・グリフィス、グレッグ・エリス、オスカー・ジャネーダ、キース・リチャーズ、ダミアン・オヘア、アントン・レッサー、ロジャー・エイラム、ジュディー・デンチ、クリストファー・フェアバンク、ポール・ベイズリー、ブロンソン・ウェッブ、リチャード・トムソン、松崎悠希、ロビー・ケイ、スティーヴ・エヴェッツ、イアン・マーサー、デオビア・オパレイ、ジェマ・ウォード、セバスチャン・アルメストロ、ホアン・カルロス・ヴェリド他。


ディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」から着想されたシリーズの第4作。今回はティム・パワーズの小説『幻影の航海』(本作品の公開に合わせて『生命の泉』へと改題)から着想を得ている。
監督は、3作目までを担当したゴア・ヴァービンスキーから『SAYURI』『NINE』のロブ・マーシャルに交代している。
前の3作からの続投は、ジャック役のジョニー・デップ、バルボッサ役のジェフリー・ラッシュ、ギブス役のケヴィン・マクナリー、ティーグ役のキース・リチャーズ、イギリス軍海軍のグローヴス中尉役のグレッグ・エリス、同じくジレット中尉役のダミアン・オヘアの5名。
他に、アンジェリカをペネロペ・クルス、黒ひげをイアン・マクシェーン、フィリップをサム・クラフリン、シレーナをアストリッド・ベルジュ=フリスベ、スクラムをスティーヴン・グレアム、ジョージ王をリチャード・グリフィス、フェルナンド王の側近をオスカー・ジャネーダ、 「アン女王の復讐号」のアジア人船員ガーヘンを松崎悠希が演じている。また、ジャックがジョージ二世の宮廷から逃亡する際、落下する馬車に乗っている上流階級の婦人の役で、ジュディー・デンチが1シーンだけ出演している。

3部作で完結するはずだったが、第3作『ワールド・エンド』が大ヒットしたことを受けて、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズはシリーズの続行を決定した。
3部作で重要な役割を演じたウィル・ターナー役のオーランド・ブルームとエリザベス・スワン役のキーラ・ナイトレイは出演オファーを断ったが、「ジャック・スパロウさえいれば何の問題も無い」ということで、この4作目が作られた。
しかし、実はオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイが出演を断ったことは、このシリーズに大きな影響を与えている。
特にポイントとなるのはウィル・ターナーで、エリザベスも含めて不快感を抱いていた人もいるだろうが、実は彼の存在ってのは、ジャックを活かすためにも必要なのだ。

というのも、ジャックはシリーズの主役ではあるが、いわゆる「典型的な主役キャラ」ではない。むしろ、真っ当な言動を取るキャラが真ん中に居て、その隣で「食えない男」として位置することによって、魅力を発揮するタイプのキャラだ。そして、そういう「比較対象」として、ウィル・ターナーというキャラは重要だったのだ。
今回、そういう「ジャックを魅力的に見せるための噛ませ犬」としての常識人キャラが登場しない。
アンジェリカは元恋人だから役回りが違うし、ホントは信仰心が厚くて正義感のあるフィリップが適任なんだろうけど、こいつはジャックの相棒にならない。
しかも、こいつはシレーナとの恋愛劇が用意されているんだけど、そこにジャックが全く関与していないこともあって、そのストーリーが生命の泉を探す冒険劇と上手く相乗効果を発揮していない。

ジャックには一応、船員としてコンビを組むスクラムという男が登場するんだけど、こいつは常識人キャラってわけではない。それに、船を降りると全くコンビじゃなくなっちゃうし。
ジャックとコンビを組む真っ当なキャラは、この映画には存在しない。少年漫画の主人公みたいな若者が、ホントはベストじゃないかと思うんだけどね。
そういうタイプがいないことで、キャラクターを配置する際の、チームとしてのバランスが悪くなっている。
ジャック・スパロウって、ピンだとあまり活きないキャラなんだよな。

3部作で一応は完結したはずなんだから、今回は一から仕切り直せばいいものを、「生命の水を探す」というのは前作から引き続いてのストーリー展開になっている。
それこそ3部作を見ていない人でも楽しめるような中身にした方がいいんじゃないかと思うんだけどね。
しかも、それに関連してジャックは泉の場所を示す地図を持っており、それをギブスが盗み取るという展開も序盤にあるのだが、そんな地図が無くても普通にジャックたちは泉まで辿り着いている。
だったら、地図の必要性って皆無じゃねえか。それなら、序盤に重要な道具てあるかのように示すのはダメでしょ。

3部作は「まず個性的なキャラクターありき」で、っていうかジャック・スパロウというキャラクターに「おんぶにだっこ」に近い状態で、物語の中身は大雑把でチョー適当だった(特に3作目は酷かった)。
この4作目も、そういうダメな部分は律儀に引き継がれている。
っていうか、中身のスッカスカさに関しては、3部作よりも悪くなっている。
説明不足で話の飛躍がシャレにならなかった前作よりは遥かに分かりやすくなっているが、中身が薄いから分かりやすいだけだ。

ジャックのキャラクターが、良く分からないことになっている。
序盤、ジャックはギブスを助けるために法廷へ現れるのだが、宮殿から逃げる際は平気で彼を置き去りにしている。その後もギブスのことを気にする様子は一度も見せないまま、航海を続けている。ギブスの方も、ジャックから地図を盗んでいる。
「騙し騙され、裏切り裏切られがあるけど、共闘することもある」というルパン三世と峰不二子みたいな関係性で見せたいのかもしれないが、単にキャラの動かし方がフワフワしているとしか感じない。
しかも、ジャックは常に相手を騙そう、裏切ってやろうと考えているのかと思ったら、バルボッサとは素直にタッグを組むし。

今回のボスキャラは黒ひげのはずなんだが、どうもインパクトに欠ける。悪党としての凄みやアクの強さが足りず、バルボッサに完全に食われている。
剣を振るうとロープが触手のように動いて反乱軍を宙吊りにするし、奪った船を縮小化してボトルシップに入れているし、ゾンビを手下にしているし、たぶん妖術が使える設定なんだろう。
だったら色んな場所で妖術を利用すればいいんじゃないかと思うけど、人魚を捕まえる時もジャングルを移動する時も使わない。
船の上じゃないと使えないという設定のようだけど、そのせいで下船してしまうと弱っちい奴になってしまう。
最後はカエルの毒で死んじゃうんだから、すげえ情けないぞ。

それと、黒ひげは妖術まで使いこなす奴なんだけど、「人間離れした恐ろしさ」ってのが感じられない。
海賊も恐れるほどの存在という設定なんだけど、「そうかなあ」と違和感を覚えてしまう。
それに、「自分が死の宣告を受けたから生命の水を探している」という行動目的も、ボスキャラとしては、ちょっと情けない。
しかも、そのお告げはゾンビによるものなんだけど、簡単に信じちゃってるんだよな。
ただビビってるだけのチンケな男じゃねえか。

あと、黒ひげってジャックに負けず劣らず、行動がデタラメなんだよな。
ジャックから「アンジェリカは娘じゃない」と言われた時には「愛する娘。私が人生で成した唯一の良きこと」と口にしているのに、断崖ではロシアン・ルーレットをジャックに要求して彼女を撃たせ、死んでも構わないといった態度を見せる。
新鮮な人魚の涙が必要だからシレーナを運んでいるはずなのに、人間の姿に変わると「歩くか、死ぬかだ」と置き去りにしても構わないような態度を見せる。
どうなってんだよ。

黒ひげが予言にビビッてるのは「自分を殺すのが、恨みを持っているバルボッサだと気付いているから」ってこともあるんだけど、どっちにしろビビってるんだよね。
あと、黒ひげとバルボッサの因縁はセリフでチョロッと触れているだけだから、物語に厚みや面白味を加える要素になっていないし。
で、そこの因縁に関連して、「だからバルボッサは英国海軍に下った」ということなんだけど、その立ち位置にしたことがバルボッサのキャラまで薄めているように感じる。
新キャラのアンジェリカもこれといった見せ場は無いし、せっかくペネロペ・クルスが演じているのにディズニーだからなのかお色気サービスは弱いし。
フィリップとシレーナの恋心を利用して涙を手に入れる卑劣な女だから、ヒロインとしての魅力も感じないし。

(観賞日:2013年12月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会