『ピラニア リターンズ』:2012、アメリカ

ヴィクトリア湖での惨劇から1年が経過した。大規模なピラニア根絶計画によって湖は生き物が棲息できない環境に変貌し、その影響で街 の経済は大きな打撃を受けた。ヴィクトリア湖は隔離され、街はゴーストタウンと化した。一方、アリゾナ州マーキン郡のクロス湖。 クレイトンとモーという男たちが、桟橋から湖に足を踏み入れた。彼らは牛の死体に近付き、引き上げようとする。だが、牛の体内に 産み落とされていたピラニアの卵が次々に孵化し、2人は惨殺された。
夏季休暇に入った大学院生のマディーは帰郷し、継父のチェットと共同で所有権を持つウォーターパークに戻った。するとチェットは ストリッパーを集めて「アダルト・プール」という区域を設け、2日後に“ザ・ビッグ・ウェット”という施設名でオープンしようとして いた。マディーは抗議するが、チェットは「多数決を取れば、俺に賛成する人間が51パーセントを超える」と強気に言い放った。
その夜、ウォーターパークでパーティーが開かれた。マディーはウォーターパークで働く親友のシェルビーとアシュレイに会った。2人は 、それぞれジョシュ、トラヴィスという恋人と一緒だった。さらにマディーは、やはりウォーターパークで働く幼馴染のバリー、保安官と して警備に当たっている元カレのカイルとも再会した。シェルビーはジョシュを誘って湖へ行き、服を脱いで水に入る。1匹のピラニアが 、シェルビーの陰部に入り込んだ。シェルビーはジョシュの仕業だと思い込み、不機嫌になって湖から出た。
アシュレイとトラヴィスはバンの中で、セックスを始めようとする。だが、アシュレイの伸ばした足が、ハンドブレーキを解除してしまう 。バンは坂道を滑り、湖に落ちてしまった。アシュレイはバンから脱出し、助けを呼びに行こうとする。車内に取り残されたトラヴィスは 、ピラニアの群れに襲われて死亡した。バンの上に立ったアシュレイはピラニアに包囲され、必死で大声で助けを求める。だが、彼女の声 は、誰にも届かなかった。
翌朝、ウォーターパークでは、バリーやシェルビーたちがオープンに向けて働いている。バリーは下品な遊びをしている同僚のビッグ・ デイヴを見つけ、呆れ果てた。マディーはバリーたちの所に来て、「アシュレイとトラヴィスが見当たらないんだけど」と問い掛けた。 バリー、シェルビー、ジョシュは、「知らない」と答える。シェルビーは急に気分が悪くなり、勢いよく嘔吐した。カイルや同僚たちが 見守る中、湖からバンが引き上げられた。カイルはマディーとシェルビーの元へ行き、バンの中には誰もいなかったことを知らせる。 シェルビーはアシャレイの携帯に掛けてみるが、留守電になっていた。
マディーはシェルビーと一緒に桟橋へ行き、彼女を慰める。そこへピラニアの群れが出現し、2人に襲い掛かった。桟橋が壊れてマディー とシェルビーは湖に落ちるが、何とか陸に避難した。1匹のピラニアが飛んで来るが、マディーたちは石で撲殺した。駆け付けたバリーは 、ピラニアを見て驚いた。マディーとバリーはカイルにパトカーを出してもらい、1年前の惨劇を知るグッドマンの元へ向かう。彼は ユー・チューブに動画をアップし、ピラニアの脅威について警告していた。
グッドマンはマディーたちに、「ピラニアは地下の河川や配管を通って移動しているのだろう」と言う。彼は彼は「興味深い物を見せて やろう」と口にすると、研究用に飼っているピラニアの水槽に、配管と同じ素材の鉄板を差し込んだ。エサのカエルを水槽に入れると、 ピラニアは鉄板を突き破った。グッドマンが「プールなどの給排水がピラニアに大きな影響を与える」と語ると、マディーは「プールが湖 と配管で繋がっている」と不安げな表情になった。
アシュレイのことで沈んでいるシェルビーは、泣きながらジョシュに「私を抱いて」とせがむ。一方、マディーはプールと繋がっている パイプを調べるため、湖に赴いた。手伝いを頼まれたバリーは、泳げないことを打ち明ける。カイルは2人から離れ、電話でチェットと 密かに話す。マディーは湖底に潜るが、ピラニアの群れに襲われ、慌てて逃げ出した。カイルが湖に入り、彼女を引き上げた。
シェルビーとジョシュは、激しいセックスを始める。だが、その最中にシェルビーの体内からピラニアが飛び出し、ジョシュのペニスに 噛み付いた。苦悶してシェルビーから離れたジョシュは、自分の股間を見て驚愕する。彼はピラニアを引き離すため、ナイフを手に取って 自分のペニスを切り落とした。カイルはチェットと密会し、金を受け取る。カイルは違法行為を見逃す代わりに賄賂を受け取り、チェット は彼にマディーの見張りを頼んでいた。返り血を浴びたシェルビーが、マディーとバリーの元へやって来た。マディーたちが病院に連絡し 、担ぎ込まれたジョシュは鎮静剤で眠らされた。
翌朝、“ザ・ビッグ・ウェット”のオープニング・イベントにゲストとして呼ばれている俳優のデヴィッド・ハッセルホフは、近くの モーテルで目を覚ました。彼が電子ピアノを演奏して自作の歌『ラブ・ハンター』を練習していると、一夜を共にしたドーンとロシェルが ベッドで目を覚ました。ザ・ビッグ・ウェットには、1年前の惨劇で両脚を失いながらも生き残ったファロン保安官代理と、ポルノ監督の 助手だったアンドリューも来ていた。アンドリューはファロンの付き添い役で、「子供用プールでの歩行練習が回復への第一歩になる」と 説く。だが、ファロンは水に入ることに極度の恐怖を抱いていた。
オープニング・イベントの挨拶に立ったチェットは、世界一のライフガードとしてハッセルホフを紹介した。ハッセルホフはノリノリで、 集まって来た女性客と一緒に写真を撮る。マディーはチェットが湖に穴をあけて地下水をプールへ供給している現場を発見し、厳しく糾弾 する。しかし彼女がピラニア襲来の危機を指摘しても、チェットは全く相手にしない。女性客から「プールでピラニアを見た」と聞いた マディーは、すぐに閉演するようチェットに要求する。しかしチェットは無視し、カイルは客に避難を促すマディーを連行しようとする。 その直後、プールに侵入していたピラニアの群れが、人々に襲い掛かった…。

監督はジョン・ギャラガー、キャラクター創作はピーター・ゴールドフィンガー&ジョシュ・ストールバーグ、脚本はパトリック・ メルトン&マーカス・ダンスタン&ジョエル・ソワソン、製作はマーク・キャントン&マーク・トベロフ&ジョエル・ソワソン、共同製作 はピーター・ゴールドフィンガー&ジョシュ・ストールバーグ、製作協力はジョナサン・ショア、製作総指揮はボブ・ワインスタイン& ハーヴェイ・ワインスタイン&ベン・オーマンド&マシュー・ステイン&チャコ・ヴァン・リューエン、撮影はアレクサンドル・レーマン 、編集はデヴィン・C・ルシエ&マーティン・バーンフェド&カーク・モリー、美術はエルマノ・ディ・フェボ=オルシーニ、衣装は キャロル・カットシャル、特殊メイクアップ&ピラニア効果はゲイリー・J・タニクリフ、音楽はエリア・クミラル、音楽監修は リチャード・グラッサー。
出演はダニエル・パナベイカー、マット・ブッシュ、デヴィッド・ハッセルホフ、クリストファー・ロイド、ゲイリー・ビジー、 デヴィッド・ケックナー、クリス・ジルカ、カトリーナ・ボウデン、エイドリアン・マルティネス、ポール・シェアー、クルー・ ギャラガー、ジャン=リュック・ビロドー、メーガン・タンディー、ポール・ジェームズ・ジョーダン、シエラ・フィスク、マシュー・ リンツ、シルヴィア・ジェフリーズ、ジェナ・ハート、ロズリン・パパ、アリサ・ハリス、ステイシー・ラボン他。


2010年の映画『ピラニア3D』の続編。
監督は『The FEAST/ザ・フィースト』のジョン・ギャラガー。
マディーをダニエル・パナベイカー、バリーをマット・ブッシュ、チェットをデヴィッド・ケックナー、カイルをクリス・ジルカ、 シェルビーをカトリーナ・ボウデン、デイヴをエイドリアン・マルティネス、ジョシュをジャン=リュック・ビロドー、アシュレイを メーガン・タンディー、トラヴィスをポール・ジェームズ・ジョーダンが演じており、TVシリーズ『ナイトライダー』『ベイウオッチ』 のデヴィッド・ハッセルホフが本人役で出演している。
グッドマン役のクリストファー・ロイド、アンドリュー役のポール・シェアー、ファロン役のヴィング・レイムス(アンクレジット)は、 前作に引き続いて登場している。
前作の冒頭シーンでは『JAWS/ジョーズ』のリチャード・ドレイファスがピラニアに殺されていたが、今回は『ビッグ・ウェンズデー 』のゲイリー・ビジー(クレイトン役)と『バタリアン』のクルー・ギャラガー(モー役。ジョン・ギャラガー監督の父親でもある)が 食い殺されている。

前作は2Dを後から3Dに変換していたが、今回は最初から3Dカメラで撮影されている。
前作は一部の熱狂的なマニアから絶賛されたが、決して興行的に成功したわけではない。そのため、続編は作られたものの、製作費は前作 の2400万ドルから500万ドルへ大幅に減額されている。
っていうか、そもそも前作の興行収入が芳しくなかったんだから、続編なんて作らなきゃいいのに。
で、そんなに製作費を減らした続編だが、興行的には前作と比較にならないぐらいボロボロにコケた。

私は『The FEAST/ザ・フィースト』を見ていないのだが、ホラー映画の「お約束」的なシーンを多く盛り込み、セオリーから予想される 展開をことごとく裏切っていくという内容になっていたらしい。
ジョン・ギャラガー監督は本作品でも、それと同じことをやっている。
『ピラニア3D』はホラー映画のお約束を裏切らない中でエロとグロに特化していたが、それとは真逆の方向性というわけだ。
単純に怖がらせようというだけでなく、おバカ映画という前作のテイストも受け継いでいるようだから(それは製作サイドの意向だろうと 推測される)、「お約束を裏切る」というのは、そういう意味では悪くない考え方だ。
やり方次第ではあるが、ホラー映画にありがちなシーンを用意した上で、そこから予想される展開を覆すことによって、ホラー・ コメディーとして味付けすることが出来る。

ただし、ここで問題になるのは、「やっていいセオリー崩しと、やってはいけないセオリー崩しがある」ってことだ。
例えば、全裸で湖に入ったアシュレイとシェルビーの元にピラニアの群れが来るのに、2人が殺されずに済むってのは、ルール違反では ない。
「陰部にピラニアが入ったのに気付かないって、どんだけシェルビーはアホなのか」とか、「陰部でピラニアが生き続けるって、そんな ことが可能なのか」とか、そういうことは気になるが、それは置いておくとして。

後半、プールに来ていた大勢の客がピラニアの犠牲になる。
前作の場合、犠牲となるのは、浮かれポンチな若者たち、バカな行動を取った若者たちばかりだった。
『13日の金曜日』シリーズに代表されるように、「愚かな若者たちは殺される」というのがスプラッター映画における鉄則だ。
とは言え、じゃあ何の関係も無い人、愚かな行動を取っていない人は、スプラッター映画において殺されちゃいけないのかというと、そう ではない。
この映画では「愚かな奴ら」が登場するので、犠牲者はそこに限定しておいた方がいいようにも思えるが、しかし「やってはいけない セオリー崩し」とまでは言えない。

前置きが長くなってしまったが、この映画がやらかしている「ダメなセオリー崩し」は、終盤に待ち受けている。
ハッセルホフが救ったデヴィッドは、とりあえず騒ぎが収まった直後、ピチピチしているピラニアに近付いて動画を撮影しようとする。
母親が「危ないわ」と警告しても、「大丈夫だよ、動きがノロいから」と無視する。
だが、ピラニアは進化して陸上でも歩行できるようになっていたのだ。
そのピラニアはデヴィッドに飛び掛かる。デヴィッドは頭部をパックリと食われ、首チョンパ状態になる。
それは「絶対にやってはいけない」演出だ。
それはセオリーを崩しているのではなく、暗黙のルールに違反している。

ホラー映画に限らず、どんなジャンルの映画であっても、幼い子供が無残に殺される様子や、幼い子供の無残な死体というのは、 ハッキリと描写してはいけない。これは何があっても守らなければならない。
前作でグロ描写をやりまくったアレクサンドラ・アジャも、そこだけは守っていた。
そのルールを守れない奴は、少なくとも商業ベースで映画を撮るべきではない。
ワシはガチガチのモラリストってわけじゃないけど、そこに関しては、「ダメなものはダメ」とキッパリと言い切っておく。
あと、お約束を裏切っていくのであれば、まず冒頭の2人がセオリー通りに殺されちゃうのはダメでしょ。
そこからして、お約束を裏切らないと。

人々が襲われる中で、デヴィッドという少年から助けを求められたハッセルホフはノンビリした態度で「一人を助けたところで、どうにも ならんだろう」と全く動こうとしない。
しかし「ミッチ、ライフガードでしょ」と『ベイウォッチ』の役名で呼ばれた途端、やる気になってBGMと共にプールへ飛び込み、 デヴィッドを救う。
それは、コメディーのノリをやる場所を完全に間違えている。
大勢の人々が犠牲になっている中で、何もせずに傍観しているってのは、ただの不愉快な奴になってしまうのよ。

クライマックスとなる惨劇が開始されたら、もう喜劇テイストが入り込む余地は無いはずだ。
デイヴがケツに突っ込んで来たピラニアをバリーに引き抜いてもらうとか、マディーを助けるためにプールへ入ったバリーが「これは無理 だな」と上がっちゃうとか、そういう描写も邪魔。
恐怖演出がバカバカしくて笑えるモノになっているということなら、それは別に構わないけど。
前作だって、ホラーとしての荒唐無稽な描写、おバカな描写はあっても、惨劇にコメディーのノリは持ち込んでいなかったぞ。

デヴィッドが飛んで来たピラニアに襲われて首チョンパになったのを見たハッセルホフが冷徹な態度を取るのも、すげえ不愉快なだけだ。
あっさり殺されるゲイリー・ビューシイよりも出番が多く、かなり目立つ役割を与えられ、そして最後まで生き残るハッセルホフの方が、 その扱いが悪いのよ。
笑われるような扱いにするのはいいけど、悪役でもないのに、ただの不愉快な奴にされちゃってるんだよな。
彼がラジー賞にノミネートされたのは妥当だよ。

(観賞日:2013年3月7日)


第33回ゴールデン・ラズベリー賞(2012年)

ノミネート:最低助演男優賞[デヴィッド・ハッセルホフ(本人役)]

 

*ポンコツ映画愛護協会