『ピラニア3D』:2010、アメリカ

アリゾナ州のヴィクトリア湖で、マット・ボイドという老人がボートを浮かべて釣りを楽しんでいた。釣り糸に反応があったので、マット は飲んでいたビールの瓶を湖に投げ捨て、竿を引いた。マットが魚を釣り上げた直後、湖底が激しく揺れて地割れが起きた。刹那、湖で 大きな渦巻きが発生し、ボートが飲み込まれた。投げ出されたマットは、湖底から出現した魚の群れに襲われて死亡した。
地震のあった場所から遠く離れた湖畔では、スプリング・ブレイクのフェスタが開催されており、大勢の若者たちで賑わっていた。高校生 のジェイクは音楽教室へ妹のローラを迎えに行く途中、幼馴染のケリーと遭遇する。DJをしている同級生のトッドたちとライブに行く 予定があり、待ち合わせをしているのだという。ケリーから「一緒に行かない?」と誘われたジェイクは、「フェスタの期間中は、家で弟 と妹の面倒を見なきゃいけないんだ」と断った。そこに現れたトッドは、ジェイクのTシャツにジュースを投げ付けて嘲笑い、ケリーを車 に乗せて走り去った。
ジェイクがローラの元に到着すると、彼女はダニーというオッパイの大きい美女と話していた。ダニーはポルノ女優で、監督のデリック・ ジョーンズや助手のアンドリュー、女優仲間のクリスタルと撮影に来ていた。デリックはジェイクが地元の人間だと知り、「手伝わないか 。金は払う。スタッフにドタキャンされて人手が要るんだ」と持ち掛けた。ジェイクが返答に迷っていると、彼は「決まりだ。明日10時、 遅れるなよ」と勝手に決めてしまった。
ジェイクは保安官をしている母のジュリーがフェスタの警備で多忙なため、ローラと弟ゼインの世話をするよう頼まれていた。帰宅した彼 はジュリーに「ちゃんと子守りをするよ」と言い、バイトのことを内緒にした。その夜、ジュリーは保安官助手のファロンに呼び出され、 仕事に出掛ける。マギーの夫マットが釣りに出掛けたまま、戻らないというのだ。桟橋の近くで、ボートだけは見つかっていた。ファロン はジュリーに、「ゴードンから電話があった。地震の時、湖の底で大きな揺れを感知したらしい。専門家が潜って調査するそうだ。君に 案内を頼む」と話した。ボートを調べようとして湖に落ちたジュリーは、無残に変わり果てたマットの死体を発見した。
翌朝、ジェイクはゼインとローラに、バイトのことはジュリーに言わないよう頼んだ。ローラは口止め料60ドルで承諾した。ジュリーは 地質調査員のノヴァク、ポーラ、サムを案内するため、ボートに乗り込んだ。ジェイクがフェスタ会場へ行くと、ダニーとクリスタルが 船上で踊る様子をデリックとアンドリューが撮影し、それを大勢の若者たちが見物して盛り上がっていた。デリックの元へ行こうとした ジェイクは、ケリーと遭遇する。バイトのことを隠そうと狼狽するジェイクだが、デリックが気付いて話し掛けて来た。
ジェイクが「ガイドをするだけだよ」と言い訳すると、デリックは「ロケハンだよ。君も来ないか。シャンパンもある」とケリーを誘う。 興味を抱いたケリーは、「連れて行って」と乗った。一方、ゼインは家にいるという約束を破り、カヌーで出掛けようとする。ローラは 注意するが、ゼインが言うことを聞かないので、付いてことにした。ジェイクは撮影スポットに向かう途中、アンドリューから「デリック は無垢な女を求めてる。ケリーみたいに」と言われ、不安を募らせた。撮影スポットに到着すると、ダニーとクリスタルは全裸になって 遊泳し、それを見学したジェイクは興奮する。
ゼインがカヌーの結び方を間違えて流されたため、彼とローラは小島に取り残される。調査チームは太古の地底湖があると思われる場所に 到着し、ポーラとサムが潜る。湖底の割れ目を調べた2人は、地底湖の入り口を見つけた。サムが中に入って行くが、無数の魚に襲われて 死亡した。異変を察知したノヴァクは急いで潜水し、魚の群れに襲われているポーラを見つけた。ノヴァクはポーラを船に引き上げるが、 既に変わり果てた姿となっていた。死体を引き上げた時、未知の魚が一匹、船に飛び込んでいた。
ジュリーとノヴァクは、熱帯魚店を営むカール・グッドマンの元に魚を持ち込む。するとグッドマンは、200万年以上も前に絶滅したはず のピラニアの祖先だという。「だが、どうやって生き延びていたのか」と疑問を抱くグッドマンに、「地底湖が地震で割れたんです」と ノヴァクは説明した。グッドマンは「共食いをして生き延びたんだろう。一刻も早く手を打たねば」と険しい表情を浮かべた。
ケリーはビールの飲み過ぎで気分が悪くなり、船室のトイレで嘔吐する。その間も、クルーザーは移動しながら撮影を続けていた。カメラ を任されたジェイクは、パラセイリングを楽しむ巨乳の女性を撮影した。カメラをパンさせた彼は、小島で助けを求めているゼインと ローラを発見する。デリックはジェイクが「助けに行かないと」と言っても、撮影を続行するよう指示する。しかしジェイクが「ウチの ママは保安官だよ」と告げると態度を急変させ、「あの子たちをボートに乗せよう」と述べた。彼らのクルーザーが小島へ向かった直後、 パラセイリングをしていた女性はピラニアの群れに両脚を食われて死亡した。
フェスタ会場ではビショ濡れTシャツコンテストが始まっていた。ジュリーたちは人々を避難させようとするが、誰も言うことを聞かない 。ジェイクたちはゼインとローラを船に乗せてフェスタ会場へ戻ろうとするが、スクリューに何かが絡まって動かなくなる。フェスタ会場 にはピラニアの群れが出現し、人々に襲い掛かる。デリックは強引に船を動かそうとするが、岩に乗り上げて座礁する。船底には穴が開き 、湖に投げ出されたクリスタルとデリックはピラニアの犠牲になった…。

監督はアレクサンドル・アジャ、脚本はピーター・ゴールドフィンガー&ジョシュ・ストールバーグ、製作はマーク・キャントン&マーク ・トベロフ&アレクサンドル・アジャ&グレゴリー・ルヴァスール、製作協力はマーティン・J・バラブ&デヴィッド・ホップウッド、 製作総指揮はボブ・ワインスタイン&ハーヴェイ・ワインスタイン&アリックス・テイラー&ルイス・G・フリードマン&J・トッド・ ハリス&チャコ・ヴァン・リューエン、撮影はジョン・R・レオネッティー、編集はバクスター、美術はクラーク・ハンター、衣装は サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ、視覚効果監修はデレク・ウェントワース、特殊メイクアップ効果はグレゴリー・ニコテロ&ハワード ・バーガー、クリエイティヴ・デザインはネヴィル・ペイジ、音楽はマイケル・ワンドマッチャー。
出演はエリザベス・シュー、アダム・スコット、ジェリー・オコンネル、ヴィング・レイムス、リチャード・ドレイファス、 クリストファー・ロイド、ジェシカ・ゾー、スティーヴン・R・マックイーン、ディナ・メイヤー、リカルド・チャビラ、ケリー・ ブルック、ポール・シェアー、コーディー・ロンゴ、セイジ・ライアン、ブルックリン・プルー、ライリー・スティール、デヴラ・ コーウィン、イーライ・ロス、ブライアン・クーバッハ、アシュリン・ブルック、キャヴィン・グレイ=シュナイダー、ボー・ジャコバー 、フランク・カルフォーン、ジュヌヴィエーヴ・アレクサンドラ、ニック・マギー、ジャンナ・マイケルズ、ボニー・モーガン、 グレゴリー・ニコテロ他。


1978年にジョー・ダンテがロジャー・コーマンのNew World Picturesで撮った『ピラニア』のリメイク。
とは言っても、「ピラニアが大勢の人々を襲う」という部分しか共通項は無く、登場人物も内容も大幅に異なっている。
監督は『ヒルズ・ハブ・アイズ』『ミラーズ』のアレクサンドル・アジャ。
ジュリーをエリザベス・シュー、ノヴァクをアダム・スコット、デリックをジェリー・オコンネル、ファロンをヴィング・レイムス、 マットをリチャード・ドレイファス、グッドマンをクリストファー・ロイドが演じている。

他に、ケリーをジェシカ・ゾー、ジェイクをスティーヴン・R・マックイーン、ポーラをディナ・メイヤー、サムをリカルド・チャビラ、 ダニーをケリー・ブルック、アンドリューをポール・シェアー、トッドをコーディー・ロンゴ、ゼインをセイジ・ライアン、ローラを ブルックリン・プルー、クリスタルをライリー・スティール、グッドマンの妻をデヴラ・コーウィン、スケスケTシャツコンテストの司会 をイーライ・ロスが演じている。
「スティーヴン・R・マックイーンってのは、本名だったら有名すぎる大物スターにクリソツで可哀想だなあ。芸名だったら、思い切った 名前を付けたなあ」と思っていたら、その大物スターの孫だった。
祖父のスティーヴ・マックイーンもデビュー間もない頃にはB級SF映画『マックイーンの絶対の危機』に出演しているし、スティーヴン ・R・マックイーンも将来はビッグスターになるかもしれない。人気TVドラマ『ヴァンパイア・ダイアリーズ』にはレギュラー出演して いるしね。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』と『PART3』のエリザベス・シュー、『スタンド・バイ・ミー』のジェリー・ オコンネル、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』3部作のクリストファー・ロイドといった面々は、オタク心をくすぐるキャスティング と言えるんじゃないか。
その中では、ジェリー・オコンネルの弾けっぷりが素晴らしい。
ハイテンションでキレやすく、エロエロでマヌケなポルノ監督を楽しそうに演じている。
その哀れな死に様も素晴らしい。

さらにオタク心を刺激するのは、冒頭で死ぬのが『JAWS/ジョーズ』のリチャード・ドレイファスってこと。
そもそもオリジナル版『ピラニア』は、『JAWS/ジョーズ』のヒットを受けて作られた亜流作品だった。
その本家のドレイファスが出演していて、しかも役名の「マット」は『JAWS/ジョーズ』の時と同じ。
苗字はフーパーじゃなくてボイドになっているけど、その格好は、明らかに『JAWS/ジョーズ』のマット・フーパーを意識したものだ。

吹き替え版を観賞したのだが、ファロンの声がヴィング・レイムスのイメージと全く違うし、あまり演技も上手くないなあと思っていたら 、声優をやっているのが出川哲朗だった。
他の吹き替えが三石琴乃や小山力也、坂本真綾や釘宮理恵といったプロの声優陣なので、そこだけ分かりやすく質が落ちている。
ただ、上手くないとはいえ、せっかく出川哲朗が真面目に演技をしているんだから、「リアルに」とか「ヤバいよ」とか言わせちゃ ダメだろ。

ジャンルとしてはホラー映画になるのだが、しかし観客を怖がらせようという意識は、監督の中には、そんなに無かったはずだ(全く 無かったわけではないだろうが)。
これはホラーではなくバカ映画になっているが、結果的にそうなってしまったのではなく、たぶんアレクサンドル・アジャ監督は故意犯で ある。これは「バッカでえ」「くっだらねえ」とニヤニヤしながら見るとか、「なんでやねん」「おかしいだろ」とツッコミを入れながら 見るとか、そういう鑑賞法が適している。
カップルがデートで見るには向かないし、仲間で集まって楽しむには向いているんじゃないか。
ただし、「オシャレな仲間」「ブルジョワな仲間」「真面目な仲間」なんかで集まる時には、この映画は絶対に向いていない。「下ネタが 好きな仲間」「バカ騒ぎが好きな仲間」「お下劣なノリが好きな仲間」なら、楽しめる可能性は高くなる。
何しろ、分かりやすく言えば、「赤と黒」じゃなくて「エロとグロ」で構成されている映画なのでね。

もう少し詳しく「エロとグロ」について説明すると、「エロい姉ちゃんたち」→「無残な死に様」→「エロい姉ちゃんたち」→「無残な 死に様」という繰り返し。
しばらくの間は、これが同じようなリズムで繰り返される。
終盤はエロが無くなり、阿鼻叫喚の地獄絵図となる。
しかも、ピラニアに殺されるだけでなく、人為的な仕業で無残な死体に変わり果てる連中も続出する(一人だけ逃げようとしたトッドの ボートのスクリューに髪が絡み付き、それでもトッドが強引にスクリューを回そうとするので死んじゃう女とか)。

この映画の見所はエロとグロだが、裏を返せば、それ以外は何も無いと言っていい。
他の要素は徹底的に無視して、そこだけに全てのバカ・エナジーを注ぎ込んでいる。一点豪華主義ならぬ、二点豪華主義だ。
「ストーリー?人間ドラマ?それってつおい?」(by則巻アラレ)ってな感じである。
ちなみに、エロい姉ちゃんたちの中には、ちょっとだけケリーも混じっている(脱ぐことは無いけど)。
実質的な主人公であるジェイクの片思いの相手だから、ヒロインと呼んでもいいポジションなのだが、そんなキャラクターなのに強い ビッチ臭が漂っているのは、監督の趣味なのかね。

ポストプロダクションの段階で2Dから3Dに変換したはずなのだが、最初から3Dを想定していたかのようなシーンが多く盛り込まれて いる。
ひょっとするとアレクサンドル・アジャは、撮影を始める時点で3D映画にすることを決めて、それを意識した映像を多く撮影して いたのかもしれない。
『アバター』が大ヒットして以降の新世代の3D映画は「奥行き」を意識しているケースも多いが、これは日本では「立体映画」と 呼ばれていた頃の、つまり昔の3D映画を感じさせる。
つまり、「飛び出す映像」ってことだ。

この映画で飛び出して来るのは、オッパイ、ピラニア、オッパイ、ピラニア、ケリーのゲロに、かじられたチンコってな具合だ。
冗談みたいだが、ホントのことだ。
「かじられたチンコ」ってのは、ピラニアに食い千切られたデリックのチンコのこと。
それが湖に落ちたところへピラニアが来てガブッとやって、でも美味くなかったのか、吐き出してしまうので、かじられた跡が残っている 哀れなチンコがフワフワと漂い続けるのだ。

最初から3Dカメラで撮影していない上、食い千切られたチンコが飛び出しちゃうんだから、そりゃあデジタル3D映画ブームの火付け役 であるジェームズ・キャメロンが「これは3Dの最悪な使い方をした映画だ」と厳しく批判したくなるのも、まあ分からないではない。
ただし、ジェームズ・キャメロンは『ピラニア』の続編である『殺人魚フライングキラー』を撮ったことについて嫌な思い出しか残って いないらしいのよね。
だから個人的な感情もあって、『ピラニア』のリメイクを嫌っているんじゃないかという気がしないでもない。
ちなみに、『ピラニア』を撮ったジョー・ダンテは、クロージング・クレジットで「Special Thanks」として名前が表記されている。

(観賞日:2013年3月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会