『ピラニア』:1978、アメリカ

ある夜、テキサスの山中で道に迷ったデヴィッドとバーバラの若者カップルは、金網で囲まれた立入禁止区域に辿り着いた。誰もいない様子だったので、2人は野営しようと侵入した。地図にも記されていない場所であり、2人は秘密の施設ではないかと考える。プールを見つけたデヴィッドとバーバラは、服を脱いで水浴びを始める。だが、2人は何かに噛まれて血だらけになり、命を落とした。その直後、建物に灯りが付き、男が出て来た。
数日後、調査代行会社で働くマギーは、キャンプで山に入ったデヴィッドとバーバラの捜索をボスのアールに命じられた。マギーは自信を見せるが、テキサス行きの飛行機に搭乗する直前で「チケットが無い」と慌てふためき、アールを呆れさせた。テキサスに到着した彼女は、山小屋で暮らすポールの元を訪れ、カップルのことを尋ねる。ポールが「知らない」と無愛想に告げると、マギーは「他に宿泊できる場所は?」と問い掛ける。ポールは「川の近くに友人ジャックの家があるが、そこも違う。軍の実験所が近くにあるが、そこは数年前に閉鎖された」と述べた。
マギーはポールに、実験所の案内を求めた。実験所に侵入したマギーは、プールサイドでバーバラのネックレスを見つける。マギーは「プールの水を抜けないかしら」と言い出す。建物に入ると、実験室の水槽には奇妙な生物がいた。デヴィッドとバーバラの荷物を発見したマギーは、ポールの制止を無視し、プールの放水パイプを回す。そこに男が現れ、「やめろ」と叫んでマギーを突き飛ばす。男は放水パイプを戻そうとするが、ポールに殴り倒されて気を失った。
水が全て川へ放流された後、ポールとマギーはプールの底で犬の骨らしき物を発見した。意識を取り戻した男はジープを奪って逃走するが、事故を起こして横転した。男は怪我を負って気絶した。駆け付けたポールとマギーは男を山小屋へ連れ帰り、両腕を縛った上で介抱した。目を覚ました男は、「排水して川に流したな。みんな殺されるぞ」と激しく怒鳴った。ポールはマギーに、離婚して10年が経つこと、娘がいることを語った。
翌朝、マギーが「彼、大怪我かも。町まで運ばないと」と口にすると、ポールは「ジープが無いと無理だ。ダムまで行けば何とかなるかもしれん」と言い、筏を使うことにした。ポールの娘スージーはダム近くのサマーキャンプに参加していたが、川を怖がっていた。班長のローラが「泳がないとバッジが貰えないわ。何も怖いことなんて無いから」と励ましても、彼女は沈んだままだ。川の生物が怖いという彼女に、隊長のデュモントは「人は魚を食べるが、魚は人を食べない。ガッツがあれば泳げる」と告げる。
ジャックは川に両足を浸け、飼い犬のブランデーに話し掛けていた。その時、水中から何かが現れ、彼の足に襲い掛かった。ポールとマギーは男を筏に乗せ、下流へと進んでいた。男はロバート・ホークと名乗り、水に手を付けたマギーに「やめろ。死ぬぞ」と警告した。彼は「ピラニアがいる。君が排水した時に流れ出た」と告げた。ブランデーの吠える声を耳にしたポールは、筏を着岸させる。彼とマギーが周囲を見回すと、両脚を食い千切られたジャックが絶命していた。
ローラは「競技に出なくてもいい方法があるわ」とスージーに言い、怪我をしたフリをするよう促した。息子と共にカヌーに乗っていた父親は、引っ掛かったネットを外そうと腕を水中に入れていた。その父親がピラニアの群れに襲われ、カヌーは転覆した。ロバートはポールとマギーに、「ベトナム戦争時代、ピラニアを改良して兵器として使う軍の計画に携わっていた。戦争が終結したため、軍は不要となったピラニアを毒殺した。しかし毒に強い変異種も作っていたため、全滅しなかった。生き残ったピラニアは、死んだ仲間を食べて繁殖した。最も凶暴な種が生き残った」と説明した。
ポールは「水位の調整で2日おきにダムの放水が行われる。川下で子供たちのサマーキャンプがある」と顔を強張らせる。ダムへ向かう途中、彼らは転覆したカヌーの上で取り残されている少年を発見した。ロバートは川に飛び込んで少年に手を伸ばすが、ピラニアの群れに襲われる。ポールたちが少年を筏に避難させるが、ロバートは死亡した。彼の死体から流れ出した血に引き寄せられ、ピラニアが筏に群がった。そのため、丸太を結んでいる縄が緩み始める。ポールたちはロバートの死体を川に流し、筏が崩壊する寸前で岸に辿り着いた。ポールはダムへ走り、職員が水門が開ける寸前で放水を止めさせた。
連絡を受けたワックスマン大佐と女性科学者のメンジャース博士は、軍隊と共にポールたちの元へやって来た。ワックスマンたちがすぐに毒薬を川へ流し始めたので、ポールは「用意がいいな。全て予想してたのか」と嫌味っぽく告げる。ピラニアが支流に逃げこむ可能性があると考えた彼は軍の作戦に反対するが、ワックスマンは聞く耳を貸さない。さらにワックスマンは計画やピラニアの存在が公表されることを懸念し、ポールとマギーに見張りを付けた。
ポールはマギーと共に逃亡し、友人の記者に電話を掛けて危機を訴えるが、信じてもらえなかった。パトロール中の州警察官に止められた2人は事情を説明するが、やはり信じてもらえず、事務所へ連行された。ワックスマンからの電話で指示を受けた警察官は2人を拘留し、パトロールに出た。ワックスマンはロスト・リヴァー開発の社長バック・ガードナーに電話を掛けた。バックはロスト・リヴァー湖にリゾート施設を作り、翌日にオープンを控えている。裏で出資しているワックスマンは事情を説明し、「初日にパニックは困る、万一に備えろ」と忠告した。だが、バックはピラニアのことなど全く信じなかった。
翌朝、マギーは水道管を壊して見張りの警官を牢に誘い込み、殴って気絶させる。マギーは鍵を奪い、ポールと共に脱獄する。2人はパトカーに乗り込み、サマーキャンプの場所へ急ぐ。リゾート施設はバックの挨拶でオープンし、大勢の人々で賑わった。サマーキャンプでは水泳競技が開始され、班長のベッツィーとローラが浮き輪を付けた子供たちを川に入れる。スージーは膝の怪我を理由に見学しようとするが、デュモントは「早く行け」と強要した。スージーは隙を見て逃げ出し、身を隠した。彼女が覗き込む中、子供たちとスカウトの3人にピラニアの群れが襲い掛かる…。

監督はジョー・ダンテ、原案はリチャード・ロビンソン&ジョン・セイルズ、脚本はジョン・セイルズ、製作はョン・デイヴィソン、共同製作はチャコ・ヴァン・リューウェン、製作総指揮はロジャー・コーマン&ジェフ・シェクトマン、撮影はジェイミー・アンダーソン、編集はジョー・ダンテ&マーク・ゴールドブラット、アート・ディレクションはビル・メリン&ケリー・メリン、クリーチャー・デザイナー&アニメーションはフィル・ティペット、特殊メイクアップはロブ・ボッティン&ヴィンセント・プレンティス、音楽はピノ・ドナッジオ。
出演はブラッドフォード・ディルマン、ヘザー・メンジース、ケヴィン・マッカーシー、キーナン・ウィン、バーバラ・スティール、ディック・ミラー、リチャード・ディーコン、ベリンダ・バラスキー、メロディー・トーマス、バリー・ブラウン、ブルース・ゴードン、ポール・バーテル、シャノン・コリンズ、ショーン・ネルソン、ジェニー・スクワイア、ロジャー・リッチマン、ビル・スマイリー、グイチ・クーク、ジャック・ポールソン、エリック・ヘンショウ、ロバート・ヴィンソン、ヴァージニア・ダナム他。


ロジャー・コーマンのNew World Picturesで編集マンとして修業を積み、『ハリウッド・ブルバード』で監督デビューしたジョー・ダンテが、2本目に撮った作品。
前作は共同監督だったので、単独でのメガホンは本作品が初めてだ。
ポールをブラッドフォード・ディルマン、マギーをヘザー・メンジース、ロバートをケヴィン・マッカーシー、ジャックをキーナン・ウィン、メンジャースをバーバラ・スティール、バックをディック・ミラー、アールをリチャード・ディーコン、ベッツィーをベリンダ・バラスキー、ローラをメロディー・トーマス、ワックスマンをブルース・ゴードン、デュモントをポール・バーテルが演じている。

かつて日活で活動していた女優で、アメリカに渡って映画プロデューサーとなった筑波久子(チャコ・ヴァン・リューウェン)が携わった映画の中で、たぶん最も有名な作品だ。
次に有名なのは続編の『殺人魚フライングキラー』、その次に有名なのは本作品をリメイクした『ピラニア3D』、その次は『ピラニア3D』の続編である『ピラニア リターンズ』かな。
って、もはや『ピラニア』シリーズしか作っていないみたいに思えて来るよな。
まあ当たらずとも遠からずだけど。

New World Picturesの製作なので、もちろん低予算&短期間で作られている。製作費は66万ドルで、撮影日数は30日だ。
しかし、監督は『グレムリン』や『インナースペース』を撮ることになるジョー・ダンテ、シナリオは『セコーカス・セブン』や『エイトメン・アウト』で監督と脚本を務めるジョン・セイルズ、特殊メイクアップには『トータル・リコール』や『ミッション:インポッシブル』のロブ・ボッティン、クリーチャー・デザイン&アニメーションには『スター・ウォーズ』『ロボコップ』シリーズのフィル・ティペットと、後にビッグネームとなる面々が関わっている。
出演者に関しては、大半の人は「誰だよ」と思ってしまうような無名の顔触れだ。
ただし、『大襲来!吸血こうもり』『燃える昆虫軍団』のブラッドフォード・ディルマン、『怪奇!吸血人間スネーク』のヘザー・メンジース、『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』のケヴィン・マッカーシー、『デビッド・クローネンバーグのシーバース』のバーバラ・スティール、『魔鬼雨』『オルカ』のディック・ミラー、『巨大生物の島』のベリンダ・バラスキー、『デス・レース2000年』『爆走!キャノンボール』で監督を務めたポール・バーテルといった顔触れは、B級映画を愛する一部のマニアからすると、興味が沸くかもしれない。

1975年にスティーヴン・スピルバーグの『JAWS/ジョーズ』が大ヒットして以来、『グリズリー』(1976年)、『オルカ』(1977年)、『アリゲーター』(1980年)など幾つもの亜流作品が作られた。
本作品も、その中の1つだ。
マギーが登場する時に遊んでいるのが「JAWS」という名のサメのビデオゲームなんだから、ロジャー・コーマンは亜流であることを隠そうともしていない。
本家を製作したユニバーサル・スタジオは盗作で訴えようとしたが、スピルバーグが本作品を高く評価したこともあって、告訴は取り下げられた。
後にスピルバーグは『グレムリン』を製作した際、ジョー・ダンテを監督に起用している。

冒頭の若いカップルは、「アホな行動を取った若い連中は必ず殺される」というセオリー通りになっている。
問題は、彼らと同じぐらい、あるいはそれ以上にアホな行動を取った奴がいて、そいつは平然と生き残るってことだ。
そのアホな奴ってのは、ヒロインのマギーだ。彼女が立入禁止区域に無断で侵入し、勝手にプールの水を抜いたことによって、人食いピラニアの群れが川に放流されてしまったのだ。
つまり、大勢の犠牲者が出た直接の原因は彼女にあるのだ。
その時点で既にヒロインとしての資格に疑問符が付くわけだが、おまけに彼女、自分がやらかしたことに対する責任を全く感じていないんだよな。

アホと言えば、ロバートもアホだよなあ。
転覆しているカヌーの上で取り残されている少年を見つけた時、彼は迷わず川に飛び込むのだが、何がしたかったのかと。
ロバートはカヌーに辿り着いて少年に手を伸ばすんだけど、それだと少年は、一度は川に落ちなきゃいけなくなるわけで。
そうなると、ピラニアに襲われちゃうでしょうに。
筏を近付けて少年を移動させればいいだけなのに、それを待たずに川へ飛び込んでピラニアに襲われるんだから、完全に無駄死にじゃねえか。

後半に入り、サマーキャンプの子供たちが襲われるシーンが訪れる。
その時だけは、なぜかピラニアの殺傷能力がガクンと落ちているのか、なかなか子供たちは死なない。それどころか、そんなに大きな怪我も負わない。
っていうか、ピラニアに飛び掛かられたデュモントでさえ、元気に動き回れる程度の怪我をしただけ。
結局、殺されるのはベッツィーだけだ。
「幼い子供たちが無残に殺される姿は描かない」「幼い子供の無残な死体は写さない」というのが映画における暗黙のルールなので(これはホラー映画に限らない)、ある意味では正しいことなんだけど、もうちょっと上手く処理できなかったのかなあとは思ってしまう。

スピルバーグは気に入ったようだが、では絶賛するような傑作かというと、そんなことはない。
「低予算にしては頑張っている」「亜流の作品群の中では最もマシな仕上がり」といった程度だ。
ロジャー・コーマンの作る映画ってホントに予算が少なくて、どれだけ脚本や演出で工夫したり努力したりしても、それだけでは補い切れない。
どうしても、映画全体から漂ってくるチープさは隠し切れない。

そのチープさが最も顕著に見えやすいのは、やはり特殊効果の部分ということになるだろう。
この映画で特殊効果に使われた予算は、わずか5万ドル。
当時はCGでモンスターを描くような技術が無かったので、もちろんキグルミで作ることになるわけだが、それは『JAWS/ジョーズ』も同じこと。
ただし本家の場合、総製作費は800万ドルと言われているから、そりゃあ大幅に事情が異なる。
そのぐらい予算を使った本家でさえ、サメが作り物であることを分かりにくくするためか、その登場時間は短くしてあった。

で、この映画だが、実を言うと、特殊効果の部分で見えるチープさってのは、それほど大きくはない。
人に襲い掛かるピラニアはゴム製で、棒の先端にくっ付けてスタッフが操っているので、チープであることは確かだ。
ただ、「標的を何度も突っつく」ということで細かく&素早く振動させているのと、「襲われた人の血が流れ出す」ってことで水を赤く着色して、その姿がハッキリとは見えにくいようにしてあるのだ。
ただし、じゃあ怖いのかと言われたら、それは話が別。
まあ、怖くはないよね。

全体の製作費が少ないんだから、特殊効果に費やす予算も出来る限り抑えなきゃいけないはずなのに、そんな中でジョー・ダンテは、ピラニアとは別のクリーチャーを登場させている。
ポールとマギーが実験所に侵入した時、ストップモーション・アニメーションで動くクリーチャーが現れるのだ。
しかし、このクリーチャー、ポールたちには気付かれずに通り過ぎるだけだし、その後は二度と登場しない。
何のために登場したのか全く存在意義が分からないんだけど、どうしてもストップモーション・アニメーションのクリーチャーを出したかったんだろうなあ、ジョー・ダンテは。
彼のオタク趣味は、電話を掛けるワックスマンの傍らで州警察官が見ているテレビに『大怪獣出現』(1957)のカタツムリ怪獣(日本名は大怪獣メギラ)が写っている辺りにも表れている。

(観賞日:2013年3月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会