『ピンク・フラミンゴ』:1972、アメリカ

巨漢の女ディヴァインは「最も卑猥な女」として新聞に取り上げられ、すっかり有名になった。そこで彼女はバブス・ジョンソンと名を変え、メリーランド州ボルティモア郊外のトレーラーハウスで密かに暮らしている。彼女の同居人は親友のコットン、息子のクラッカーズ、母親のイーディーだ。オツムの弱いイーディーは卵しか食べず、その日も駄々っ子のように卵売りのエッグ・マンが来るのを待っている。ディヴァインは母のいるベビーベッドへ行き、「まだ卵はあるから大丈夫」と優しく声を掛けた。一方、ボルティモアの町内に住むレイモンドとコニーのマーブル夫妻は、ディヴァインの評判を妬んでいた。
ディヴァインはデートの約束があるクラッカーズと共に、車で町へ向かう。ジョギング中の男に車をぶつけようとしたり、ヒッチハイクしてた男を乗せると見せ掛けて走り去ったりと、ディヴァインはタチの悪いイタズラを楽しんだ。コニーは女性2人が赤ん坊を引き取りに来たので、執事のチャニングに指示を出した。チャニングが地下室へ行くと、スージーという女が監禁されていた。その傍らには赤ん坊と死んだ女性の姿があった。マーブル夫妻は女を監禁し、ドラッグを与え、妊娠させ、赤ん坊を売って金儲けをしているのだ。
ディヴァインは町でクラッカーズと別れ、買い物に出掛けた。肉を購入した彼女は、それを股に挟んで店を出た。レイモンドは町で目を付けた女性たちを尾行し、接近して自分のペニスを見せ付けた。マーブル夫妻のスパイであるクッキーは2人の元を訪れ、「上手く行けばディヴァインの息子とデートする」と報告した。「何を探ればいいの?」と尋ねる彼女に、夫妻は「ディヴァインは世界で最も卑猥な女として有名だけど、自分たちの方が卑猥」と告げた。
さらに夫妻は、「あの赤ん坊売買にしても、常に女2人を監禁して、種付け男のチャニングが妊娠させるの。赤ん坊をレズに売り付け、それを資金源にしてる。ポルノ・ショップを隠れ蓑にして、小学生に麻薬まで売ってる。ただの人殺しのくせに、ディヴァインの方が有名なのは許せない。油断している間に攻撃する。奴らの生活。人数と名前、予定を知りたい。奴の恥知らずなど、我々に比べればクソだと思い知らせてやる」と述べた。
クラッカーズは相手がスパイとは知らず、クッキーをトレーラーハウスに連れ帰った。クラッカーズから報告を受けたコットンは、「今日はどこんな趣向なの?」と待ち切れない様子で尋ねる。クラッカーズは「いいことを思い付いた。俺の鶏を使うんだ。きっと気に入るぜ。アンタが見てるから、俺は興奮するんだ」と告げた。昼寝から目を覚ましたイーディーは、隣にいたクッキーに「パーティーがあるんだ。アンタも出るといい」と言う。「いつ?」とクッキーが訊くと、彼女は「バブスの誕生日よ」と答えた。
クラッカーズはクッキーにコットンを紹介した後、「鶏を見せるよ」と告げて鶏小屋へ連れて行く。クラッカーズは鶏をクッキーに抱かせ、その上で彼女を犯した。その様子を、コットンが窓から覗き見る。エッグ・マンが卵を売りに来たので、イーディーは大喜びする。コットンから「バブスの誕生日にイーディーの介添えをお願い」と依頼された彼は、「光栄だ」と承諾した。エッグ・マンがケースを開けて卵を見せると、イーディーは「全て頂戴」と口にした。
マーブル夫妻は女を車で拉致するが、抵抗されたので殺してしまう。死体を地下室に運び込んだチャニングは、服を脱がせてオナニーした。その様子を見せ付けられたスージーは嘔吐した。クッキーはマーブル夫妻に電話を入れ、ディヴァインの情報を教えた。夫妻は郵便局へ行き、「世界で最も卑猥な人間」という差出人名でディヴァイン宛てに小包を送る。ディヴァインは郵便局員が小包を届けに来たので受け取るが、脅して追い払った。
ディヴァインが小包を開けると、中身は犬の糞だった。同封されていたカードをコットンが読むと、「お前はもう世界一ではない」と書かれていた。「私の地位を狙ってるんだ」とディヴァインは怒り狂った。彼女は「手を打つよ。鼻を明かして死んでもらう」と宣言した。チャニングはマーブル夫妻の外出中に女装し、2人の真似をして遊ぶ。戻って来た夫妻に知られて怒りを買った彼は、泣いて謝罪した。しかし夫妻の怒りは収まらず、チャニングを部屋に閉じ込めた。
エッグマンはイーディーにプロポーズし、2人は結婚することになった。ディヴァインの誕生パーティーには、大勢の仲間たちが集まった。マーブル夫妻は草陰に隠れ、その様子を観察した。2人は警察に電話を掛け、「パーテイーで猥褻な行為が繰り広げられている」と説明してトレーラーハウスの場所を教えた。ディヴァインと仲間たちは駆け付けた刑事と警官4名を殺害し、その肉を食べた。ディヴァインは犯人がマーブル夫妻だと知り、仕返しに出る。彼女はクラッカーズと共に、夫妻の留守中に家へ乗り込んだ。一方、マーブル夫妻はトレーラーハウスに侵入し、ガソリンを撒いて火を放った…。

製作&監督&脚本&撮影&編集はジョン・ウォーターズ。
出演はディヴァイン、デヴィッド・ローチャリー、メアリー・ヴィヴィアン・ピアース、ミンク・ストール、ダニー・ミルズ、エディス・マッセイ、チャニング・ウィルロイ、クッキー・ミュラー、ポール・スウィフト、スーザン・ウォルシュ、リンダ・オルガーソン、パット・モラン、ジャック・ウォルシュ、ボブ・スキッドモア、パット・ルファイヴァー、ジャッキー・シデル、ジュリー・マンシャウアー、スティーヴ・イェーガー、ナンシー・クリスタル、ジョージ・フィッグス、ジョン・オデン他。


バッド・テイストの巨匠、ジョン・ウォーターズ監督の代表作であるカルト映画。
主演を務めたのは、監督の盟友である女装の怪人、ディヴァイン。
レイモンドをデヴィッド・ローチャリー、コットンをメアリー・ヴィヴィアン・ピアース、コニーをミンク・ストール、クラッカーズをダニー・ミルズ、イーディーをエディス・マッセイ、チャニングをチャニング・ウィルロイ、クッキーをクッキー・ミュラー、エッグ・マンをポール・スウィフトが演じている。

「世界で最も悪趣味な映画」とも言われるような作品だが、実際の中身は、そうでもない。
当時としては強烈だったんだろうけど、今となっては、それほど大したことは無い。
確かにゲロや犬のウンコが写し出されるし(劇中に登場するウンコとゲロは全て本物)、最後はディヴァインが犬のウンコを食べているので、その部分だけを切り取ればエグい。
だけどトータルで考えると、下品は下品だけど、そこまで強烈でもないかなと。
ウンコ食いだって、シネマジックのスカトロAVみたいなモンだと思えば、まあね(そこと比べるなよ)。

ディヴァインとマーブル夫妻は、「世界一の卑猥」という称号を巡って争う。マーブル夫妻が警察に通報したことを知ったディヴァインは、仕返しをするため、クラッカーズと一緒に家へ乗り込む。
で、何をするかというと、室内にある物を片っ端から舐めまくり、テーブルに唾をダラダラと垂らす。
「なんだ、そりゃ」と思うかもしれないが、でも「下品な争い」としては、そう外れちゃいない行動に思える。
それよりも、トレーラーハウスを放火するマーブル夫妻の方が、目的からズレているように感じる。

そもそも、犯罪行為でディヴァインより有名になりたいのなら、居場所が分からないようにして自分たちのことを宣伝すりゃいいわけで。
終盤にディヴァインは雑誌記者たちを呼び寄せ、その前でマーブル夫妻を処刑しているが、そういうことをやればいいだけだ。
「自分たちの方が卑猥で下品な犯罪者として世界一であることを知らしめる」という目的と、「ディヴァインに犬の糞を送り付けて嫌がらせをする」ってのは、整合性が取れていないようにしか思えないぞ。

劇中、ディヴァインは新聞で「The filthiest person in the world」と評されている。
これを日本語に訳すと「世界で最も卑猥な人間」となるわけだ。
「filth」には、「卑猥、下品」といった意味、また「汚い、不潔」といった意味があるので、「最も下品な人間」とか「最も汚い人間」ということでもいいだろう。
で、その日本語訳からのイメージだと、ディヴァインが人を殺したり人肉を食べたりしているのは、ものすごく違和感がある。
それは「卑猥」とか「下品」というのとは違うんじゃないかと。

生肉を股に挟んで町を歩くとか、肛門をパクパクと開閉させるとか(誕生パーティーに来た男がそういう芸を披露する)、犬のウンコを食べるとか、そういった行為は、確かに下品だ。
それを見た多くの人が、不快感を抱くことだろう。しかし、見なければ済むことだ。
つまり、そういった行為は、他人に迷惑を掛けるような行為ではない。
ただの個人的な変態趣味や下品な特技に過ぎない。

しかし劇中、ディヴァイン一家とマーブル夫妻は、拉致、監禁、強姦、放火、殺人といった行為をやらかしている。
そうなって来ると、もはや「見なければ済む下品な行為」の枠内に留まっていない。何の関係も無い素人さんに迷惑を掛けている。
どうやら劇中では犯罪行為も含めて「filth」という解釈になっているようだが、そこに大きな違和感がある。
英語の「filth」だと、そういった行為も含めるのかもしれないが、日本語で考えた場合、「卑猥」とか「下品」とか、そういうモノと、劇中の犯罪行為は全く質が異なる。
「モラルなんてぶち壊してしまえ」というレベルじゃない。

誘拐や強姦、殺人といった行為は、非道徳的とか、倫理観に欠けているとか、そういうレベルではない。
それらは凶悪な犯罪だ。下品な行為と一緒にしちゃダメだ。
ジョン・ウォーターズは自分がゲイであることから、保守的なボルティモアでの生活に上手く馴染めず、同じように社会生活不適合者の仲間を集めて本作品を作ったらしい。
だけど、例えばゲイとチャイルド・マレスターを「性的マイノリティー」として仲間にしてもOKなのかっていうと、そこは全く別だと思うのよ。

この映画で「拉致監禁」「強姦」「殺人」といった行為を「生肉を股に挟む」とか「犬の糞を食べる」といった行為と一緒の扱いにしているのは、それと同じようなことじゃないかと。
個人的な趣味嗜好と、他人を傷付ける犯罪行為は、完全に切り離して考えないとダメだよ。
だから、ディヴァイン一家とマーブル夫妻を「醜悪で凶悪な犯罪者」に設定するのなら、そっちの行動だけに限定しておくべきだ。
そこに「鶏を含めての3P」とか「ウンコ食い」といった行動は除外すべきだよ。

「ディヴァインとクラッカーズがマーブル夫妻の家へ乗り込んで室内にある物を片っ端から舐めまくる」と上述したけど、それも、その行動だけを取り出せば、「下品な行為」として何の問題も無く成立している。
ただ、その直前、ディヴァインと仲間たちは刑事と警官を殺害し、その肉を生のままで食べているのだ。
だから、「下品な行為」「汚い行為」の基準がメチャクチャになってしまっている。
「下品だから」ということではなく、「下品の基準がメチャクチャ」という意味で、これはダメな作品だと思う。

(観賞日:2013年8月27日)

 

*ポンコツ映画愛護協会