『ピンク・キャデラック』:1989、アメリカ

追跡屋のトム・ノワックは保安官事務所から凶悪犯のランディー・ベイツに電話を掛け、ラジオ局ディレクターを詐称して「懸賞に当選した。ドリー・パートンと一夜を過ごせる。黒のリムジンが迎えに行く」と語った。すっかり信じ込んだランディーは大喜びし、リムジンを待った。トムはリムジンの運転手としてランディーの家を訪ね、正体を明かして「カリフォルニア州サクラメントの裁判所に連行する」と通告した。彼は暴れるランディーを取り押さえ、保安官が届けた車で連行した。
トムはクラウンに扮装してロデオ大会に参加し、選手として出場していた犯罪者のジョン・キャプショーを捕まえた。彼は中華デリへ行き、保険会社のバディーに「人を訪ねる」と告げて金を貰った。トレーレーハウスで暮らすルー・アン・マッグインは赤ん坊のミルク代が払えなくなり、大家のバートンに頼んで渡した家賃を返してもらった。帰宅した彼女は、純血団のウェイクロスたちと一緒にいる夫のロイに「これはミルク代」と言い含めた。しかしロイは仲間の前で紙幣を燃やし、ニヤニヤと笑った。
これまでロイは愚かな儲け話に手を出し、ことごとく失敗していた。盗品ビデオを売って逮捕された彼は6ヶ月の刑務所生活を送り、そこで、純血団のメンバーになって戻って来た。ロイはルー・アンに大量の偽札を見せ、それを使って大儲けする計画があると話した。ルー・アンは「赤ん坊のためにサイコたちを追い払って」と訴えるが、ロイは「この偽札を数日だけ預かり、隠し場所を探す。今度こそ金になる話だ」と自信を見せた。
ルー・アンが偽札のせいで逮捕されるが、裁判ではウェイクロスたちが傍聴席にいるので他の人間の関与を明かさなかった。ウェイクロスが保釈金2万5千ドルの支払いを申し出るとルー・アンは拒否し、弁護士に「保釈業者からの借用を希望する」と告げた。彼女はネバダ州に住む姉のダイナと夫のジェフに赤ん坊を預け、ロイのピンク・キャデラックを盗んでトレーラーハウスから逃走した。ロイは「マズいことになった」と焦り、ウェイクロスはリーダーのアレックスに説明するよう要求した。
トムはバディーから、保釈金を踏み倒したルー・アンを捕まえる仕事を依頼された。バディーはルー・アンが夫から逃げようとしていると言い、ロイが純血団のメンバーだと教える。過激派集団と関わり合いになることを嫌うトムは、その案件を断ろうとする。しかしバディーが「たまには正義のために働いてみろ。女が口封じで殺されてももいいのか。彼女を助けてやれ」と言うと、渋々ながら承諾した。ルー・アンは逃走の途中、車に大量の偽札を入れた袋が積んであるのを発見した。
ロイはウェイクロスと共に、純血団のアジトへ赴いた。アレックスは「もっと武器を買い入れたいが、お前の女房が資金を持ち逃げした。取り戻してもらおう」とロイに語り、ウェイクロスに手伝うよう命じた。「女を捕まえた後は?」とウェイクロスが訊くと、彼は「好きにしろ」と告げた。ルー・アンは姉夫婦の家に到着し、2万3千ドル分の偽札があると話す。姉夫婦は純血団が家に来ると確信し、ルー・アンにリノで楽しむよう勧めた。ダイナとジェフは赤ん坊を預かって家を去り、ルー・アンはリノへ向かった。
ロイとウェイクロスはダイナたちの家に着き、誰もいないことを知った。リノのカジノに入ったトムは、偽札を使って楽しむルー・アンを発見した。トムが店から連れ出そうとすると、ルー・アンは「バッグを盗まれた」と騒いで警備員にトムを取り押さえさせた。ルー・アンは逃亡を図るが、すぐにトムが立ちはだかった。ルー・アンは「8ヶ月の赤ん坊がいる」と同情を誘おうとするが、トムは「知るか。俺はただの配達係だ」と冷ややかに告げて自分の車に乗せた。
トムが車を発進させると、ルー・アンは「残ってる偽札を警察に差し出せば罪が軽くなる」と語って取りに行かせてほしいと頼む。トムは「君の刑なんか俺には関係ない」と突き放すが、ピンク・キャデラックまで戻った。袋に入った紙幣を見た彼は本物だと指摘し、「奴らは偽札を少しずつ本物と取り換えてたんだ」と述べた。ロイとウェイクロスはアジトへ戻り、ルー・アンを発見できなかったとアレックスに報告した。アレックスはダイナの家を見張るよう命じ、「5日待てば金を取り返せる。その後で女を始末する」と口にした。
ルー・アンはトムに、「姉の元へ行かせて。赤ん坊に会わせて」と頼む。一度は拒絶したトムだが、結局は了承した。彼はバディーに電話を入れ、ルー・アンに逃げられたと嘘をついた。バディーはリノのカジノに犯罪者のジャック・バスが現れることを話し、捕まえる仕事を要請した。ルー・アンはトムに、手伝いを申し出た。トムは作戦を説明し、カジノへ赴いた。彼は店のPR担当重役を詐称し、ジャックに接触した。しかし事情を説明してあった店の幹部が「刑事さんが逮捕するから場所を空けて」と客に言ったため、ジャックは逃げ出した。トムはジャックを取り押さえるが、車をオシャカにされてしまった。
トムはジャックを警官に引き渡した後、ルー・アンに「私と組まない?」と誘われて「車も無いのに、ふざけるな」と苛立ちを示した。彼はルー・アンをピンク・キャデラックに乗せ、リノを出発した。ロイとウェイクロスはジェフとダイナの帰宅を確認し、家に乗り込んだ。ウェイクロスは拳銃を構え、赤ん坊を奪い取って人質にした。トムとルー・アンが来たので、彼は拳銃を向けて「金を返せ」と要求した。トムは隙を見て発砲し、ウェイクロスに深手を負わせた。ロイは赤ん坊を奪い、ウェイクロスを車に乗せて逃走した。
トムは泣き出すルー・アンに、必ず赤ん坊を取り戻すと約束した。ピンク・キャデラックのダッシュボードを調べた彼は、ロイの偽造IDが何枚も入っているのを発見した。トムは旧知の仲であるリッキーZが作った物だと確信し、彼の印刷所へ赴いた。リッキーZはトムの訪問を歓迎し、ルー・アンの偽造IDを作ることを約束した。トムは彼から、シスラの山中に純血団のキャンプ場があることを聞き出した。一方、アレックスは絶命したウェイクロスの遺体を埋葬し、トムへの復讐を誓った…。

監督はバディー・バン・ホーン、脚本はジョン・エスコウ、製作はデヴィッド・ヴァルデス、製作総指揮はマイケル・グラスコフ、撮影はジャック・N・グリーン、美術はエドワード・C・カーファグノ、編集はジョエル・コックス、音楽はスティーヴ・ドーフ。
主演はクリント・イーストウッド、共演はバーナデット・ピーターズ、ティモシー・カーハート、ジョン・デニス・ジョンストン、マイケル・デ・バレス、ティファニー・ゲイル・ロビンソン、アンジェラ・ルイーズ・ロビンソン、ジミー・F・スキャッグス、ビル・モーズリー、マイケル・チャンピオン、ウィリアム・ヒッキー、ジェフリー・ルイス、ゲイリー・ハワード、ダーク・ブロッカー、レニー・ガーナー、ボブ・フェイスト、ゲイリー・レヒュー、ボブ・ハーヴェイ、ジェリー・バンマン、ジェリー・フープマン、トラヴィス・スウォーズ、ポール・ベンジャミン他。


『ダーティファイター/燃えよ鉄拳』『ダーティハリー5』のバディー・ヴァン・ホーンが監督を務めた作品。
脚本のジョン・エスコウは、これがデビュー作。
トムをクリント・イーストウッド、ルー・アンをバーナデット・ピーターズ、ロイをティモシー・カーハート、ウェイクロスをジョン・デニス・ジョンストン、アレックスをマイケル・デ・バレスが演じている。
ガソリンスタンドの店員役で歌手のブライアン・アダムス、ラウンジのエンターテイナー役でジム・キャリー(James Carrey名義)、モーテルのフロント役でジェームズ・クロムウェルが出演している。

とにかく色んなトコにユルさが出ている。ここで言う「ユルさ」は決して喜ばしいことではなく、「粗さ」とニアリー・イコールだと解釈してくれて構わない。
まず冒頭、ランディーの家にトムが懸賞当選の電話を掛けているが、その段階で「職業を詐称して保安官事務所から嘘の電話を掛けて、犯罪者を騙して捕まえようとしている」ってことを明かしている。
これは仕掛けとして、ものすごく勿体無い。そこはランディー側だけを描き、トムが家に着いた時に初めて「実は逮捕のために騙していた」ってのを明かす形にした方がいい。
そりゃあ懸賞の内容からして嘘ってのはバレバレだけど、それでも見せ方としては、やっぱり「実は」という形にしておいた方がいい。

その後、トムがクラウンに化けてジョンを捕まえるシーンがあるが、これは要らない。
「身分を詐称して変装し、犯罪者を騙して身柄を確保するのがトムの手口」ってことをアピールするために、ランディーのケースだけじゃなくてジョンのケースも描いているんだろう。
だけど、そのために重ねたいのなら2つは中途半端で、手短に済ませていいから3つ目が欲しい。
ただし、のっけから間延びしてテンポが悪くなる恐れもあるので、だったら1発だけでいい。

トムが中華デリを訪れ、バディーと会うシーンも要らない。店を出る時に弁護士からやり口を批判され、軽くあしらうシーンも要らない。
どっちのシーンも、特に必要性は感じない。トムはバディーに「人を訪ねる。金をくれ」と言っているけど、その人を訪ねるシーンは全く描かないんだから、何のための台詞だったのかと言いたくなるし。
場面が切り替わり、ロイが仲間の前で紙幣を燃やすシーンがあるが、これは謎の行動になっている。
ミルク代じゃなく自分や仲間のために使うならともかく、燃やすのは何のつもりなのかと。
「偽札で金儲けが出来るから、そんな金は要らない」という強気で余裕の態度を見せる意図なのかもしれないけど、ホントに意味不明。

ルー・アンが裁判に掛けられるのは、どういう経緯があったのかサッパリ分からない。なぜトレーラーハウスに家宅捜索が入ったのか。
警察にマークされていたとすれば、ルー・アンしかいない時に家宅捜索が入るのは変だ。でも何の情報も無かったら、警察が家宅捜索することはあり得ない。
ってことは、「トレーラーハウスに偽札がある」という情報が警察に入ったから、家宅捜索が行われたはず。しかし、どういうルートで情報が漏れたのか。
それと、他にも大量の偽札があると睨んでいるはずなのに、警察がロイたちの動きを全くマークせず、逃げたルー・アンを追うことも無いのは変だ。この話で警察の動きが皆無ってのは、どうなっているのかと。

時限爆弾のシーンは、実行犯の行動が色々とバカすぎる。
まず目的はナンシーを殺すことじゃなくて、脅しを掛けてディーリアの調査から手を引かせることのはずだ。殺すつもりなら、座席に爆弾を置かず、見つからない場所に仕掛けるはずだからね。
でも脅しとしては、爆弾は明らかにやり過ぎだ。下手すりゃナンシーが死んでしまう威力の爆弾なんだから。
あと脅しが目的なんだから、「ナンシー車に戻ったら残り10秒」という時限爆弾じゃなくて、リモコンか何かでタイミングを見計らって爆破できるような装置の方が確実だろ。
それと爆風で倒れたナンシーがネッドに起こされてから、車で逃げるってのも行動として変だし。

ルー・アンがピンク・キャデラックを奪うのは「ロイから逃げたかったから」ってことだが、保釈金を踏み倒していることに対する意識が欠如しているのは引っ掛かる。
そんなことをしたら、追われる身になるのは分かり切っているはずで。
しかも偽札を見つけた後も逃げるだけでなく、それをカジノで使って楽しむってのは、どういう感覚なのか。
偽札を持ち逃げしたら、純血団が追い掛けて来るのは分かり切っている。「もしも捕まったら酷い目に遭わされるかも」という想像力は、ルー・アンには無いのか。

ロイは純血団に加入し、偽札を使った儲け話に乗り、ルー・アンの前で紙幣を燃やす。
どうしようもないバカのクズだが、ルー・アンが逃げた後はオロオロして弱々しい部分が目立つようになっている。明らかに純血団のメンバーとは異なる類の人物として描かれ、ルー・アンを始末することへの躊躇を見せる。
でも、そんなのを今さら見せても、屁の突っ張りにもならんですよ。
「ルー・アンへの愛はある」みたいに見せたところで焼け石に水で、同情心を誘うことなど出来ていない。そこで色分けをしても面倒なだけなので、純血団と同じ穴のムジナでいいのよ。

トムはバディーからルー・アンの追跡を頼まれた時、純血団と関わることを嫌って断る。「たまには正義のために働いてみろ」と言われると、渋々ながらも引き受ける。
ルー・アンを捕まえた時、偽札を取りに行くのを一度は拒否するが、すぐに戻る。赤ん坊に会いたいという頼みに怒りを見せるが、すぐに承諾する。
「偏屈で頑固だが、根は優しい奴」として描きたいんだろうけど、「苛立って拒むけどOK」という同じパターンを何度も繰り返されると、「めんどくせえな」と感じる。
「そういうのがカッコイイとか渋いとか思っているなら、それは大間違いだぞ」と言いたくなる。

トムがジャックを捕まえるエピソードは、全く要らない。100%混じりっ気無しで、ただの道草になっている。ルー・アンが単なる傍観者に留まっているのもダメだし。
どんな形であれ、トムがジャックを捕まえる時にルー・アンが関与しているなら、そのエピソードに必要性は生じるだろう。
でも、「ルー・アンはトムが目を離している間も逃げずに残った」というだけなら、そこは要らない。
せめてアクションとしての見せ場になっていればともかく、そういう類の力も無いし。

トムが純血団のキャンプ場の情報をリッキーZに教えてもらった頃、アレックスはウェイクロスの仇討ちを誓っている。
ここでクッキリと対決の構図が出来上がっているので、後はクライマックスの戦いを描けばいいはずだ。
しかし実際には、ここから結末までに40分ぐらい掛かっている。単に時間だけの問題じゃなくて、色々と手間を掛けている。
それは物語を面白くするための手間じゃなくて、ただモタモタしていると感じさせるだけだ。

まずトムはキャンプ場の情報を知った後、すぐに乗り込んだり赤ん坊を奪還する作戦に取り掛かったりするわけではなく、モーテルに宿泊してルー・アンと一夜を共にする。
いつの間に惚れ合っていたのかサッパリ分からず、そこで関係を持つだけでも既に安っぽい。
そりゃあ、この手の映画では主人公とヒロインがカップルになることなんて、お約束中のお約束だ。
しかし、そこを歓迎できる予定調和にするためのドラマは、全く用意されていない。

一方、純血団はリッキーZを襲撃し、印刷所に火を放つ。そして翌日になり、トムとルー・アンは洗車場で純血団に襲われる。トムは逃走してキャンプ場に電話を掛け、アレックスに取引を持ち掛ける。
この時点で既にモタついていると感じるのだが、「せめて取引現場で決着を付けてくれたら」と淡い期待も抱いた。
しかし残念、ここでも終わらない。
純血団は赤ん坊に模した爆弾人形でトムとルー・アンを騙し、金の入った鞄を奪い去る。
しかしトムも鞄の中身を入れ替えており、中は現金ではなく紙の束。

その後、トムは夜の酒場に純血団が出入りしている情報を知る。ロイとウェイクロス以外には顔を見られていないので彼は酒場へ出掛け、純血団に接触する。
彼は同類の人間を装い、キャンプ場に誘われる。翌朝になってから、トムはルー・アンを連れてキャンプ場へ向かう。
ここでロイが急に協力者になるが、「今さら」でしかない寝返りだ。
この後、ようやく最終決戦になるが、ここでもテンポ良く進めることはなく、また余計な手間を掛けて最後の最後までモタモタするのであった。

(観賞日:2025年11月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会