『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』:2021、アメリカ&オーストラリア

ピーターはベンジャミンやフロプシー&モプシー&コットン=テイルと共に、ビアとトーマスの結婚式に出席した。ピーターはトーマスに不満を抱いて喧嘩をする妄想を膨らませるが、実際は素直に指輪を渡して見守った。トーマスはウィンダミアで玩具店を開き、ビアの絵本も置いた。絵本のコーナーでは、「売り上げの3割を環境保全に使う」と宣伝している。ジョニーはチーズの試食会でウィンダミアを訪れ、ピーターに挨拶した。「絵本を読んだ。子供たちも大ファンだ」とジョニーが言うと、ピーターは得意げに「子供たちには僕みたいなヒーローが必要だからね」と告げて看板に体を預けた。
看板が倒れて窓が割れたため、トーマスは「行儀が悪い」と腹を立てた。ビアが諫めたので、トーマスはピーターを褒めた。しかし叱責を受けると予期していたピーターは耳栓を付けており、何も聞こえていなかった。バジル=ジョーンズ出版社の社長を務めるナイジェルから手紙が届き、ビアは絵本の出版を提案されて喜んだ。トーマスとビアが帰宅すると、動物たちが畑の野菜を自由に荒らしていた。しかしピーターが育てているトマトには、誰も手を出さなかった。
ピーターはビアが落とした原稿に気付いて元に戻すが、トーマスは悪戯していると誤解して「触るな」と注意した。トミー・ブロックがトマトを盗み食いしようとするのを見つけたピーターは、駆け付けて注意した。ピーターはトマトを回収するが、トーマスは彼が盗もうとしたと誤解して腹を立てた。ビアとトーマスはウサギ5羽を伴ってロンドンへ行き、ナイジェルと会った。ナイジェルは「まず5000部発行したい」と言い、続編のプランもあるのかと質問する。ビアが全23巻のシリーズ化を想定していることを話すと、ナイジェルは「最高だ。必ずベストセラーになります」と口にした。
ナイジェルは一番人気の動物がウサギだと言い、続編では各々の個性を強調したいと説明する。彼がピーターを「悪党ウサギ」と評すると、トーマスは「その通り」と同意した。ナイジェルは巨大な看板広告も用意しており、そこでもピーターは悪党面で描かれていた。不満を覚えたピーターは、ビアたちと離れて街へ繰り出した。八百屋で桃を盗む老ウサギのバーナバスと出会った彼は「万引きが珍しいか、いい子ちゃん」と鋭く言われ、「僕はいい子じゃない、悪党だ。子供が失敗するのは仕方ない。失敗から学ぶのに、僕だけ悪党認定。だから、いい子は辞める」と語った。
バーナバスはピーター気に入り、桃を盗むよう促した。ピーターが失敗して店主に見つかると、バーナバスは一緒に逃亡した。ピーターの名前を聞いたバーナバスは、「マグレガーを知ってる」と驚いた。バーナバスがピーターを先導して道路に飛び出すと、パイパーソン・ペット店の店員に捕まった。車に乗せらたバーナバスは、ピーターに「俺が守ってやる」と告げた。ビアはナイジェルと出版契約を結び、「とても個人的で大切な物語なの。勝手に手を加えられたり、商業的なキャラにされるのは嫌。アメリカ映画とか」と話す。ナイジェルは「君の権利は守る金目当ての奴は近付けない」と約束するが、コットン=テイルは胡散臭い男だと感じた。
ナイジェルは「ウサギにスニーカーを履かせてTシャツを着せれば本の売り上げは伸びる。でも、君の意思を尊重する」とビアに告げた。出版社に高級オープンカーで画家のマーヴィンがやって来ると、ナイジェルは「ウチの作家だ」とビアとトーマスに告げる。マーヴィンは地味な蝶の絵本を作ったが、250冊しか売れなかった。しかしナイジェルの助言で蝶をカートゥーン的なキャラに変えて、スケボーに乗る内容に変更すると、1500万部の大ヒットになった。
ピーターとバーナバスはペットショップで展示され、アメリアという少女に気に入られた。アメリアの母親は渋い顔をしながら、仕方なくピーターたちを購入した。帰宅したアメリアは弟のリアムを呼び、一緒にピーターたちの体を洗った。姉弟はピーターたちをドライヤーで乾かし、派手な服を着せた。母親はアメリアとリアムに「お祖母ちゃんの家へ行くわよ」と告げ、ピーターたちを檻に入れて外出した。バーナバスは檻を開け、冷蔵庫や戸棚の食料を漁り始めた。彼は御馳走にありつくため、わざと捕まったのだ。
ピーターとバーナバスが手頃な食べ物を集めると、運び屋であるネズミのサムエル・ウィスカーズ、猫のトム・キトンと妹のミトンズが家にやって来た。バーナバスたちが食べ物を運び出そうとすると、アメリアの母親が戻って来た。バーナバスたちは食べ物を諦めて逃げようとするが、ピーターは「あんな人間、撃退できる」と自信満々に告げた。彼はバーナバスたちに協力してもらい、アメリアの母親を翻弄して食べ物を運び出した。彼らは仕立て屋の地下室に食べ物を運び、仲間である豚のロビンソンも合流した。
バーナバスはピーターと街を歩きながら、「マグレガーは俺の師匠だった」と話す。ピーターが「ここ、好きだよ。僕を悪党扱いしない」と言うと、バーナバスは「仲間を増やして、デカい仕事をしたい」と語った。ピーターを捜索するビアとトーマスが来たので、バーナバスは姿を隠した。ピーターはビアたちとマグレガー家へ戻り、バーナバスとの出会いは運命的だったとベンジャミンに語った。ビアは「この自然を守らなきゃ」と言い、トーマスは「僕らの子供たちに」と話す。ビアは冗談めかして「ウサギにスニーカーを履かせて山を買う?」と語り、トーマスが「Tシャツを着せたら谷も買えるよ」と乗ると「バカらしい」と笑った。
ピーターはベンジャミンに、「ここでは野菜を盗むと悪だけど、バーナバスと出会って当たり前だと分かった。ビアたちに子供が出来たら、僕らの地位はガタ落ちだ」と述べた。彼はベンジャミンと妹たちを伴い、バーナバスがいるグロスターの街へ戻った。ビアとトーマスが玩具店にいるとナイジェルが現れ、完成した絵本を見せた。「みんなが続編を待ってる」と彼が言うと、ビアは「少し変えたの」とウサギにTシャツとジーパンを着せた絵を見せた。
ナイジェルはビアの絵を見て絶賛し、「いっそ背景も楽しくしたら?例えばビーチ。サーフボートや小さなギターを持たせて」と告げる。ビアは小さなギターを「ウクレレ」と修正し、その提案に乗り気な態度を示した。トーマスが「ウサギはウクレレを弾かないし、ビーチにも行かない」と口を挟むと、ナイジェルは「それがどうした?読者は非現実を求める」と反論した。バーナバスはピーターたちに、計画を明かした。彼らはファーマーズ・マーケットを襲撃し、市場の中央にある店からドライフルーツを奪おうと目論んでいた。
ドライフルーツを売っている少女のサラ・ナカモトは、向かいのチーズ店の息子であるウィリアム・ペンバリーに惚れていた。バーナバスはウィリアムを襲ってサラの気を逸らし、ドライフルーツを盗む考えを説明した。仕立て屋の主人がマーケットに来るので、戦利品を彼のトラックに積んでアジトに運び込むというのがバーナバスの計画だった。数が必要だと言われたピーターは、仲間のピグリン、ジマイマ、ジェレミー、ティギー、トミー、フェリックスも誘ってグロスターへ連れて行くことにした。
ビアはウサギがビーチや宇宙へ出掛けるイラストを描き、それを見たトーマスは驚いた。ビアはナイジェルから、高級なスポーツカーをプレゼントされた。トーマスはナイジェルに会い、「自分の利益のためにビアを操るな」と注意した。それを知ったビアは怒って「余計な口出ししないで」とトーマスを責め、「足を引っ張らないでサポートしてよ」と言う。トーマスが「君はウサギたちの美しい物語を描いていただろ」と告げると、彼女は「売れるようにしただけよ」と反論した。
ピーターたちはマーケットで作戦を実行するが、トマトを売りに来ていたトーマスは巻き込まれてブースが台無しになった。ピーターは彼を気にしながらも、バーナバスたちと共に逃亡した。バーナバスはピーターの仲間を騙し、ペットショップの店員に捕まるように仕向けた。彼はピーターに非難され、「田舎者にお宝を分けると思ったか。こっちの言いなりになる連中が必要だったのさ」と馬鹿にして言い放つ。トラックを飛び降りたピーターはトーマスと遭遇し、一緒に仲間たちを連れ戻そうとする…。

監督はウィル・グラック、原作はビアトリクス・ポター、脚本はウィル・グラック&パトリック・バーリー、製作はウィル・グラック&ザレー・ナルバンディアン&キャサリン・ビショップ&ジョディー・ヒルデブランド、製作総指揮はダグ・ベルグラッド&ジョナサン・フルジンスキ&ジョイソン・ラスト&エマ・トッピング&トーマス・メリントン、共同製作はケリー・バイジェント&フェリシティー・ストーントン&ジェイソン・バス、撮影はピーター・メンジースJr.、美術はロジャー・フォード、編集はマット・ヴィラ、衣装はリジー・ガーディナー、アニメーション監督はサイモン・ピーカード、視覚効果監修はウィル・ライヒェルト、視覚効果プロデューサーはフィオナ・チルトン、音楽はドミニク・ルイス、音楽監修はウェンド・クロウリー。
出演はローズ・バーン、ドーナル・グリーソン、デヴィッド・オイェロウォ、ティム・ミンチン、タラ・モリス、デイヴ・ローソン、アレックス・ブリアス、ジュード・ハイランド、ニール・ヘイズ、ネヴィーン・ハンナ、ショーナ・タフ、トム・ゴールディング他。
声の出演はジェームズ・コーデン、マーゴット・ロビー、エリザベス・デビッキ、レニー・ジェームズ、シーア、コリン・ムーディー、デイモン・ヘリマン、ヘイリー・アトウェル、エイミー・ホーン、ルパート・ディガス、サム・ニール、ユエン・レスリー、デヴィッド・ウェンハム、ウィル・ライヒェルト、マット・ヴィラ、スチュワート・アルヴェス他。


ビアトリクス・ポターの児童書シリーズを基にした2018年の映画『ピーターラビット』の続編。
監督は前作に引き続き、ウィル・グラックが務めている。
脚本はウィル・グラック監督と、これが初長編映画となるパトリック・バーリーによる共同。
ビア役のローズ・バーン、トーマス役のドーナル・グリーソン、ピーター役のジェームズ・コーデン、フロプシー役のマーゴット・ロビー、モプシー役のエリザベス・デビッキ、ティギー=ウィンクル役のシーア、ベンジャミン役のコリン・ムーディーは、前作からの続投。
ナイジェルをデヴィッド・オイェロウォが演じており、バーナバスの声をレニー・ジェームズ、キトンをデイモン・ヘリマン、ミトンズをヘイリー・アトウェルが担当している。

冒頭でフロプシーのナレーションが少し入るが、そこだけで止まる。
しかし完全に忘れ去った頃、ピーターが泥棒計画のために動物たちをグロスターへ連れて行った朝、「この朝、農園は空っぽだった。動物たちは自分探しの旅に出掛け、ビアは名声への第一歩を」と語りが入る。
そこで急にナレーションによる説明を入れても、得られる効果は何も無く、ただ違和感を覚えるだけだ。
しかも、ナレーションが無かったとしても、映像と台詞だけで内容は全て伝わるんだよね。

今回のピーターは、表面的には「良い子」として振舞おうとしている。しかしトーマスに誤解されて何度も注意され、不貞腐れてしまう。
そういう経緯があるので、同情の余地はある。
ただし今までのことを考えると、ある程度は自業自得じゃないかと言いたくなる。あまりに前科が多すぎて、「そんなに簡単にトーマスの信用は得られないでしょ」と言いたくなる。
しかもバーナバスに感化され、すっかり悪党になるので、「やっぱり性根は何も変わってねえじゃん」と言いたくなるし。

ビアはナイジェルと出版契約を結ぶ時、「とても個人的で大切な物語なの。勝手に手を加えられたり、商業的なキャラにされるのは嫌。アメリカ映画とか」と話す。
この台詞が出て来た時に、「どの口が言うのか」とツッコミを入れたくなる。
ウィル・グラックは前作でも今作でも、『ピーターラビット』の原作に勝手に手を加えて、思い切り商業的なキャラに改変しているのだ。
わざわざ説明しなくてもいいかもしれないけど、それって皮肉にもなっていないからね。
ひょっとするとウィル・グラックの中には「自分は金目当てじゃないから」という意識があるのかもしれないけど、やってることは同じだからね。

ナイジェルの「ウサギにスニーカーを履かせてTシャツを着せれば本の売り上げは伸びる。でも、君の意思を尊重する」という台詞にも、大いに引っ掛かる。
その台詞では、「ウサギにスニーカーを履かせてTシャツを着せる」という脚色が批判的に示されている。
だけど、ピーターラビットって普通に服を着ているからね。それは映画だけの脚色じゃなくて、原作でも服を着ているからね。
その服がTシャツに変わっただけで批判の対象にされるのは違うでしょ。

ナイジェルとビアが「ウサギをビーチに行かせてサーフボートやウクレレを持たせる」というアイデアで意気投合すると、トーマスが「ウサギはウクレレを弾かないし、ビーチにも行かない」と指摘する。
それに対して、ナイジェルは「読者は非現実を求める」と反論する。
このやり取りでは、非現実な脚色が批判されている。
だけど前作でも今作でも、さんざんピーターたちに「普通のウサギじゃ有り得ない行動」を取らせておいて、今さら何を言い出すのかと。

ナイジェルは「儲けのために原作を平気で歪めようとする悪人」として描かれており、それは最後まで変わらない。
だけど、そもそも原作のピーターラビットだって擬人化されていたわけで。なのでウサギに服を着せたり、ウサギらしくない行動を取らせたりするのを全否定すると、原作の否定に繋がっちゃうでしょ。
とは言え、ビアがナイジェルの提案にホイホイと乗って、どんどん内容を派手に改変していくのは、どういうつもりなのかと言いたくなる。
あれだけ「大切な物語だか手を加えられたくない」と強く主張しておいて、あっさりと言いくるめられているんだよね。

ピーターはバーナバスと出会って感化され、仲間たちも悪党の道へ引きずり込む。ビアはナイジェルに感化され、商業主義の絵本作家へと変貌していく。
そういう2つの物語が並行して描かれるが、まるで上手く連動していない。ずっとバラバラのまま、平行線で進んでいく。
「悪党の影響を受けて変貌する」という共通項はあるが、じゃあバーナバスとナイジェル、ピーターとビアを重ね合わせるような形になっているかというと、それは無いし。
2つの物語で中身が厚くなっているとも感じない。「どちらか片方に絞って、そこを厚くすればいいのに」と感じる。ピーターの物語にはビアが全く絡まず、ビアの物語には動物たちがほとんど絡んで来ないからね。
どちらに絞るかというと、そりゃあ絶対にピーターの方が。何しろ、主人公はピーターのはずだからね。

すっかりナイジェルに感化されていたビアは企画会議に出席し、ここで初めて「ここは私の世界じゃない」と言い出す。
だけど、さんざんウサギがビーチや宇宙へ行くイラストを描いてナイジェルのプランに前向きな態度を示しておいて、今さら何を言い出すのかと。
トーマスが駆け付けて「ナイジェルの目を見るな」と指示する展開があり、どうやら「ナイジェルの目を見ると催眠状態に陥る」という設定があるらしい。でも、そこまでに「ナイジェルは催眠術師みたいな奴」という描写なんて、まるで無かったはずで。
っていうか、そういう描写があるか否かに関わらず、その設定自体が要らないわ。そこのキャラに特殊能力の要素を用意するのは、話のリアリティー・ラインを完全にボヤけさせちゃうぞ。

ペットショップから売られた動物たちを連れ戻すためにトーマスとピーターが手を組んだ後、ようやく目が覚めたビアも加わる。ここに来て、ようやくビアが「ピーターとバーナバスのストーリー」に絡んで来るわけだ。
まあ、それを言い出したら、実はトーマスだって全く絡んでいなかっんだけどね。
それを考えると、やはり根本的に構造の問題があるんじゃないかなあ。
せっかくトーマスがマーケットに店を出すんだから、そこの人間と絡ませておけば、「ピーターがバーナバスに感化されて泥棒計画に加担して」というストーリーとの距離も近付けることが出来たんじゃないかと。

(観賞日:2023年11月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会