『ピーターラビット』:2018、アメリカ&オーストラリア&イギリス&カナダ

若いウサギのピーターラビットは、青いジャケットを着てパンツは履いていない。彼はマグレガー老人の畑を目指して失踪し、リスを追い掛けていたキツネのトッドを懲らしめた。ピーターはカエルのジェレミーに挨拶した後、ハリネズミのティギーに土産としてカリフラワーを取って来ることを約束する。マグレガーの家に近付いた彼は、見張っていた腹違いの従弟のベンジャミンと合流する。さらに三つ子の妹であるフロプシー、モプシー、カトンテールとも合流した彼は、畑から野菜を盗み出す作戦を開始した。
ピーターはベンジャミンたちに見張ってもらい、芝刈りをしているマグレガーに気付かれないよう畑に忍び込む。彼は次々に野菜を盗み、三つ子に投げ渡す。マグレガーに気付かれたので、ピーターは慌てて身を隠した。ベンジャミンがトマトを投げてマグレガーの気を逸らし、その間にピーターを逃がそうとする。ピーターはマグレガーの尻に人参を突き刺し、罠で髭が挟まれたのを見て嘲笑した。マグレガーが激怒したのでピーターは逃げようとするが、ジャケットが網に引っ掛かってしまう。そこでジャケットを脱ぎ捨て、敷地の外へ飛び出した。マグレガーが襲い掛かろうとすると、隣に住むビアという女性が駆け付けてピーターを助けた。
ビアは自分の家にピーターと仲間たちを招き入れ、食事を与えた。ビアは画家で、絵を描くために田舎へ引っ越していた。ビアの描いた絵を見たピーターは、父のことを思い出した。かつて父は畑に侵入してマグレガーに殺され、パイにされて食べられていた。ビアは畑に侵入しないよう忠告し、ピーターたちを外に出した。ピーターはジャケットを取りに畑へ戻り、マグレガーに捕まった。しかしマグレガーは心臓発作で倒れ、そのまま息を引き取った。
ピーターは自分がマグレガーを退治したと思い込み、大喜びで野菜をベンジャミンたちの元へ持ち帰った。不摂生で死んだマグレガーの死体が救急車で運ばれた後、ピーターはベンジャミンたちと畑へ行って「今は我々の土地だ」と勝ち誇る。彼は畑の野菜を好き放題に取り、邪魔者の消えた生活を楽しんだ。彼はアナグマのトミー、アヒルのジマイマ、鹿のフェリックス、豚のピグリンといった森の動物たちに畑を解放し、家に上がり込んで自由気ままに荒らした。
マグレガーの甥であるトーマスは、ハロッズで10年前から働いている。彼はわずかなミスも見逃さず、部下たちに細かく注意する神経質な性格だ。支配人に呼ばれた彼は、昇進の話だと確信して喜んだ。彼は支配人から「大叔父が死んだと連絡があった」と言われるが、大叔父の存在さえ知らなかったたので全く気にしなかった。トーマスが昇進について尋ねると、支配人はバナマンが副支配人に決まったと告げる。トーマスが「あいつが無能だ」と言うと、支配人は「でも彼は社長の甥ですから」と述べた。能天気なバナマンの態度を見たトーマスは我慢できずに店で暴れ、クビになってしまった。
トーマスは配達人から封筒を受け取り、大叔父の土地と家を相続したことを知る。彼は配達人から「あそこの家なら高く売れますよ」と言われ、家を売却してオモチャ屋を開く資金にしようと考えた。彼は電車とタクシーを乗り継ぎ、マグレガーの家へ向かう。ピーターたちは慌てて隠れるが、見つかったので逃亡した。翌朝、トーマスは散らかっていた家を掃除し、ゴミを片付ける。ピーターたちは離れた場所から観察し、トーマスが家の門を全て閉じる様子を目にした。
ビアはピーターたちに話し掛けてから、トーマスの元へ挨拶に向かった。トーマスは彼女に、家を綺麗にして売却し、オモチャ屋を初めてハロッズを潰す考えを語った。ビアはバードウォッチングに使うよう勧め、双眼鏡をプレゼントした。トーマスが鳥を眺めていると、ビアは「門は開けておきましょう」と提案した。ビアは門を開け、ピーターたちが畑に入れるようにした。しかし彼女が去った後、トーマスは全ての門を封鎖した。
ピーターはベンジャミンを引き連れ、別の場所から庭に侵入する。しかしトーマスが待ち受けていたため、慌てて逃げ出す。ベンジャミンは逃げ遅れて捕まり、袋に入れられた。トーマスが袋を持ってトラックで出発したので、ピーターと妹たちは荷台に飛び乗った。橋で車を停めたベンジャミンはベンジャミンを袋ごと川に投げ込もうとするが、思い留まった。彼は街へ行き、害獣駆除の道具を買おうとする。店員のフィルとクリスはビアからトーマスのことを聞いており、すぐに「ウサギだろ」と告げる。彼らはトーマスに、ビアはウサギを家族だと思っているので駆除のことは内緒にするよう忠告した。
フィルとクリスからダイナマイトを勧められたトーマスは、「それはさすがに」と難色を示す。荷台に乗っていたピーターたちに気付いた彼は捕まえようとするが、逃げられて腹を立てる。ダイナマイトを購入して戻ろうとしたトーマスは、自転車で町に来ていたビアと出会う。彼は自転車を荷台に積み、ビアを助手席に乗せた。トーマスと話すビアの笑顔を見た三つ子が「彼のことが好きなのよ」と口にすると、ピーターは「親切なだけだ」と激しく反発した。
トーマスはビアを家まで送り届け、ブラックベリーと水をグラスに入れて渡した。「ブラックベリーがダメなんだ。体に合わなくて」とトーマスが言うと、その様子を隠れて見ていたピーターは悪態をついた。ビアはウサギについて、トーマスに「欠点の無い完璧な生き物」と告げた。2人は惹かれ合ってデートを重ね、ピーターは不機嫌になった。我慢できなくなった彼はトーマスに飛び掛かろうとするが、ビアが見つけて抱き上げた。彼女がピーターを紹介すると、トーマスは作り笑顔を浮かべた。
ビアはトーマスとピーターに、絵のモデルにほしいと持ち掛けた。彼女が席を外した隙に、ピーターはトーマスを攻撃した。トーマスは彼を捕まえて外へ投げようとするが、ビアが戻ったので仲良くしている芝居をする。またビアが席を外すとトーマスとピーターは激しく争い、戻って来ると誤魔化した。またビアが奥へ引っ込んだのでトーマスは絵筆をピーターの口に押し付ける。その際、ビアの絵が筆に付いていた絵の具で汚れてしまった。戻って来たビアはピーターが絵を台無しにしたと思い込み、腹を立てて追い出した。
ピーターは怒りに燃えてトーマスとの全面戦争を決意し、ベンジャミンと妹たちに訓練を積ませた。彼らはマグレガー邸に幾つもの罠を仕掛け、トーマスを痛め付けた。トーマスは電気フェンスを仕掛けるが、トーマスたちは逆に彼が感電する細工を施して失神に追い込んだ。トーマスは巣穴にダイナマイトを投げ込み、爆破しようとする。しかしビアが来たので、慌てて誤魔化した。トーマスとビアの楽しげな様子を見たピーターは、次の作戦を決行することにした。
翌朝、ピーターたちはビアが外に出て来るように仕向け、彼女に気付かれない場所からトーマスをパチンコで攻撃した。トーマスが反撃できないのをいいことに、彼らは容赦なく攻撃を続ける。飛んで来たブラックベリーを飲み込んだトーマスはアナフィラキシーショックで倒れ、慌てて注射した。何とか死を免れた彼は激昂し、ダイナマイトを次々に投げてトーマスを捕まえた。そこへビアが来たので、彼は誤魔化そうとする。ピーターはトーマスが落とした起爆スイッチを押し、彼がダイナマイトを使ったことをビアに教えた。しかし巣穴のダイマナイトも爆発し、木が倒れてビアのアトリエが壊れてしまう。ビアはトーマスに激怒し、ピーターたちを連れて去った…。

監督はウィル・グラック、原作はビアトリクス・ポター、映画原案&脚本はロブ・ライバー&ウィル・グラック、製作はウィル・グラック&ザレー・ナルバンディアン、製作総指揮はダグ・ベルグラッド&ジョディー・ヒルデブランド&キャサリン・ビショップ&スーザン・ボルソヴァー&エマ・トッピング&ロブ・ライバー&ジェイソン・ラスト&ジョナサン・フルジンスキー、共同製作はクリスチャン・ガザル、製作協力はフェリシティー・イトーントン&ジェイソン・バス&ブライアン・リンチ&モネット・デュビン、撮影はピーター・メンジースJr.、美術はロジャー・フォード、編集はクリスチャン・ガザル&ジョナサン・タッピン、衣装はリジー・ガーディナー、視覚効果監修はウィル・ライヒェルト、アニメーション監督はロブ・コールマン、音楽はドミニク・ルイス。
出演はローズ・バーン、ドーナル・グリーソン、サム・ニール、マリアンヌ・ジャン=バプティスト他。
声の出演はジェームズ・コーデン、コリン・ムーディー、マーゴット・ロビー、エリザベス・デビッキ、デイジー・リドリー他。


ビアトリクス・ポターの児童書シリーズを基にした作品。
監督は『ステイ・フレンズ』『ANNIE アニー』のウィル・グラック。
原案&脚本は『アレクサンダーの、ヒドクて、ヒサンで、サイテー、サイアクな日』のロブ・リーバーとウィル・グラック監督による共同。
ビアをローズ・バーン、トーマスをドーナル・グリーソン、マグレガーをサム・ニール、ハロッズの支配人をマリアンヌ・ジャン=バプティストが演じている。ピーターの声をジェームズ・コーデン、ベンジャミンをコリン・ムーディー、フロプシーをマーゴット・ロビー、モプシーをエリザベス・デビッキー、カトンをデイジー・リドリー、ジマイマをローズ・バーン、ジェレミーをドーナル・グリーソン、トミーをサム・ニールが担当している。

冒頭、鳥たちが空を飛び、「例え今は小さくても、大きな夢を持とう」と爽やかに歌いながら着陸する。そのまま歌を続けようとすると、走って来たピーターが蹴散らす。
そしてナレーターが、「これ、そういう教育的な映画じゃないの。実はピーターラビットのお話」と語る。
でも、原作シリーズって、決して「教育的ではない作品」とは言い切れなかったはず。
私が読んだのは1冊だけで、しかも随分と昔なので詳しい内容は覚えていないよ。でも、こんな話ではなかったはずだ。

ピーターは原作でもイタズラ好きで、やんちゃなキャラクターだった。ただ、作品としては、教訓めいた要素も含まれていたはずなのよ。
ウィル・グラックは自分も投影しつつ、ピーターのキャラクターの「イタズラ好き」という部分だけを大きく膨らませて改変したらしい。
監督が自作に本人を投影することは、絶対にダメだとは言わない。でも原作付きの映画が、ここまで主人公を改変しちゃったらダメでしょ。
原作に対する愛やリスペクトが、まるで感じられなくなっているぞ。

ウィル・グラックは原作にあった「小さな子供たちのための教訓」を完全に排除して、この映画ではピーターを単なる傍迷惑な奴に変更している。しかも、「イタズラ好き」というレベルではなくて、悪質な犯罪を繰り返す不愉快な奴になっている。
この映画の倫理観には、まるで賛同できない。
何しろ、「ピーターたちは大半の部分で正しく、マグレガーとトーマスが大半の部分では悪党」という扱いになっているのだ。
でも、それは言い換えれば、「人間は存在そのものが悪であり、動物は善」ってことになってしまうのよ。

序盤、ピーターの一家が暮らす土地へマグレガーが来て、畑を開墾して柵で囲った様子が描かれている。これにより、「ピーターの父が畑に侵入して殺され、パイに調理された」という出来事は、「全面的にマグレガーが悪い」ってことになっている。
でも、人間が田舎へ来て土地を開墾し、畑を作るってのは、そんなに非難されるようなことなのか。そして自分が開墾した畑を荒らしたウサギを殺し、パイにして食べるのは、そんなに悪いことなのか。
ジビエ料理ってのもあるから、食べることも含めて、そこまで全面的に非難されるようなことには思えないんだよね。
もちろんピーター側からすると、「父を殺した憎き敵」であることは確かだけどさ。

しかも、ピーターが畑を荒らして野菜を盗むのは、「父を殺された復讐」ってことでもないんだよね。
「そこは自分たちの土地」と彼は思っており、だから「畑の野菜を取っても悪くない」という考え方なのだ。
でも、かつては一家が暮らしていた場所かもしれないが、そこを開墾し、種を撒き、水をやって野菜を育てたのはマグレガーなのだ。
なので、ピーターたちが野菜を盗むことを正当化するのは、まるで賛同できないのよね。

マグレガーが急死した時にピーターが「ついにやっつけた」と大喜びするのも、不愉快でしかない。
そりゃあピーターから見れば憎き敵だろうけど、こっちからすると「頑張って耕した畑を何度も荒らされ、ようやく犯人のウサギを捕まえた老人」でしかないわけで。
後から「マグレガーは長年の不摂生で死んだ」と説明されるけど、そういう問題じゃねえよ。
ピーターは「我々の土地だ」と言うけど、テメエらの土地じゃねえし。家に上がり込んで荒らすけど、それもテメエらが建てた家じゃねえし。
だから家や土地を守ろうとするトーマスの方が、よっぽど筋が通っているわ。

ピーターたちに優しく接するビアを「親切な善人」として描いているのも、まるで賛同しかねる。
こいつは優しい善人どころか、不愉快で身勝手なだけの偽善者だぞ。畑を荒らすピーターたちを擁護するのなら、テメエで畑でも耕して野菜を好きなだけ与えろよ。
例えば、自分が頑張って完成させた絵を全てピーターたちが荒らしてメチャメチャに破壊したら、それでもビアは優しく許せるのか。実際、ピーターが絵を台無しにしたと誤解した時、ビアは腹を立てて追い出しているじゃねえか。
マグレガーが畑の野菜を盗まれるのをビアに置き換えたら、そういうことになるんだぞ。

ビアはトーマスが引っ越して来ると、ピーターたちに「ちゃんと話せば分かってくれるはずよ、ここはみんなの土地だって」と言う。
でも、周囲はピーターたちの土地かもしれないけど、マグレガー家の敷地はトーマスの物だ。決して「みんなの土地」ではない。
「最初に動物が住んでいて、後から私たちが来た」と彼女はトーマスに話すけど、それを言い出したら終わりでしょ。
だったら、自分は動物たちに生活を脅かされても平気なのかと。朝から晩まで、ずっと家を動物たちに解放しているのかと。寝ている時に邪魔されたり、絵を描いている時に邪魔されたりしても平気なのかと。

ビアは門を開け、ピーターたちが畑を荒らして野菜を盗み出せるようにするのだが、最低な奴じゃねえか。
それは決して動物愛護の精神に満ちた慈愛の人なんかじゃないぞ。過激な考えの環境テロリストと似たようなモンだぞ。
そんなビアが守ろうとするピーターたちは攻撃をどんどんエスカレートさせ、ついにはブラックベリーを使ってトーマスを殺そうとする。ただのクソ野郎どもだ。
公開後に批判を受けて配給元のソニー・ピクチャーズが謝罪したけど、作ってる時点で誰も「これはさすがにマズいだろ」と気付かなかったのかよ。
不快感が強烈で、微塵も笑えないし楽しめないぞ。

ビアはトーマスが「ピーターが起爆スイッチを押した。幾つもの罠を仕掛けて攻撃していた」と説明しても信じず、極悪人と決め付ける。
彼女はウサギを神格化しているので、「ウサギは絶対に酷いことなんてしない」と決め付けているのだ。
そもそもウサギが畑を荒らすことを推奨している時点でビアは唾棄すべき人間だが、そこに来てトドメを刺している。
もちろん、「後で誤解は解けてヨリが戻る」という展開が用意されているけど、まるで祝福する気にならんよ。ビアの根っ子の腐り具合は何も変わっちゃいないんだから。

リアリティー・ラインが良く分からないってのも、この作品の大きな欠点になっている。
ピーターはジャケットを着ているのに、それを人間は誰も「動物なのに変だ」とは指摘しない。つまり、この作品では「動物が服を着て生活するのは当たり前」という世界観になっているわけだ。
ところがピーターが人間の言葉を話すと、トーマスは「人間の言葉を話すなんて」と驚くのだ。
服を着ているのは普通なのに、人間の言葉を喋るのは異常ってことなのか。

あと、ピーターたちってトーマスの前では人間の言葉で喋るのに、なぜかビアの前では最後まで喋ろうとしないんだよね。ピーターが自分の罪を明かす時も、ジェスチャーだけで表現しているのよね。
どういうことなのか。
トーマスが「ホントに喋れるんだな」と言った時にピーターが「素直な心になったから聞こえるようになったんだ」と説明するけど、まさか「ピーターたちはウサギの言葉を喋っているけど、トーマスが理解できるようになった」という設定だったりするのか。
でも、それならビアが理解できないのは変だろ。そこを曖昧にして誤魔化しても何の得も無いし、上手く処理できなくて逃げただけにしか思えないぞ。

(観賞日:2021年4月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会