『パッセンジャー』:2016、アメリカ

宇宙船アヴァロンはコロニー「ホームステッド2」へ向けて、自動操縦で航海を続けていた。乗務員258人と乗客5000人は、全員が冬眠ポッドでコールドスリープの状態に置かれている。しかし巨大な隕石と衝突した影響で宇宙船が激しく振動し、その影響で乗客のジム・プレストンのポッドが開いてしまう。目を覚ましたジムはホログラムの案内係から、120年の冬眠が終わってコロニーまで残り4ヶ月だと説明される。案内係は最後の航海を楽しむよう勧め、キャビンへ案内する。
シャワーを浴びて服を着替えたジムは、他の乗客が誰もいないことに気付く。困惑した彼は船内を捜索し、目覚めたのが自分だけだと知る。情報を教える船内の音声に質問した彼は、まだ地球を出発してから30年しか経過していないこと、コロニーまで約90年の位置にいることを知る。彼はホームステッド社に助けを求めるメッセージを送るが、返信が来るまでに最短でも55年は掛かるとコンピュータは説明した。バーへ出向いたジムは、バーテンダーのアーサーを見つけて安堵する。しかしアーサーは人間ではなく、アンドロイドだった。
エンジニアのジムは、マニュアルを見て冬眠ポッドを修理しようと試みる。しかしポッドは起動するものの、再び冬眠することは不可能だった。ジムは乗務員用のポッドを使おうと考えるが、その権限が無いので部屋に入ることさえ出来なかった。落胆するジムから助言を求められたアーサーは、人生を楽しむよう提案した。そこでジムは、スイートルームに入ったり、レストランで食事を取ったり、ゲームに興じたりしてみた。しかし孤独と退屈に見舞われ、すぐに苛立ちを覚える。
目覚めてから約1年が経過したジムの生活は荒れ、酒に溺れるようになっていた。宇宙服を着て船外に出た彼は、すぐに船内へ戻る。今度は宇宙服無しで外へ出て死のうと考えるが、迷った末に思い留まった。逃げるようにポッドの部屋へ滑り込んだジムは、オーロラ・レーンという女性に目を奪われた。彼はプロフィールを検索し、彼女の情報を調べる。オーロラのインタビュー映像を何度も見ている内、ジムは彼女を目覚めさせたいという欲求を抱くようになる。
ジムから相談を受けたアーサーは、「いい考えですね」と軽く告げる。一度は諦めて気持ちを切り替えようとしたジムだが、とうとう我慢できなくなってしまう。ジムはオーロラのポッドを調整して目覚めさせ、気付かれないよう慌てて走り去った。彼はポッドを出て歩いているオーロラを見つけ、偶然を装って声を掛けた。ジムや案内音声の説明で事情を知ったオーロラは激しく動揺し、冬眠に戻れるはずだと主張する。彼女は1年以上も同じ状況だったジムに、「辛かったでしょうね」と告げた。
ジムはアーサーの元へ行き、自分がやったことを秘密にするよう指示した。オーロラが目覚めたことで、ジムは自分の費用では無理だったゴールドクラスの食事を取れるようになった。ジムは「何か方法があるはず」と言うオーロラに、「1年以上も試したが無理だった」と諦めるよう諭す。納得できないオーロラは船内を捜索して方法を調べるが、ジムと似たような行動を繰り返すだけだった。ジムはオーロラを誘い、船内の娯楽施設を一緒に楽しんだ。
少しずつオーロラとの距離を縮めたジムはロボットを使ってメッセージを届け、正式なデートに誘う。2人は正装してレストランへ行き、ディナーを取りながら会話を楽しんだ。ジムはオーロラを宇宙遊泳に連れ出し、船内に戻った2人は肉体関係を持った。オーロラの誕生日、ジムは彼女とレストランでディナーを取り、ケーキを用意した。バーで飲みながらケイトはアーサーに「私たちに秘密は無いの」と言う。ジムはアーサーから「そうでしたか?」と問われ、それを認めた。
ジムはプロポーズを計画しており、トイレで指輪を確認する。その間にオーロラはアーサーと話し、ジムが自分を起こしたことを知った。バーへ戻ったジムはオーロラに質問され、自分が起こしたことを認めた。激しいショックを受けたオーロラは、呼び止めるジムを拒絶して立ち去った。その後も彼女はジムを無視し、ついには寝室へ乗り込んで何度も殴打する。オーロラは殺意さえ抱いていたが、思い留まって部屋を去った。
オーロラがジムを敬遠する日々が続く中、船内では様々なシステムに異常が起き始めた。そんな中、デッキ・チーフのガスが目を覚ました。彼はジムとオーロラを連れて制御室に入るが、問題の原因は分からなかった。ガスはオーロラとジムに、手分けしてデッキを調べるよう指示した。しかし彼は冬眠の後遺症で体調が悪く、調査は中断する。その間に重力が無くなるトラブルまで発生し、オーロラとジムはガスを起こして原因を分析してもらう…。

監督はモルテン・ティルドゥム、製作はスティーヴン・ハメル&マイケル・マー&ニール・H・モリッツ&オリ・マーマー、製作総指揮はデヴィッド・ハウスホルター&ベン・ブラウニング&ジョン・スペイツ&ブルース・バーマン&グレッグ・バッサー&ベン・ウェイスブレン&リンウッド・スピンクス、共同製作はグレッグ・バクスター、撮影はロドリゴ・プリエト、美術はガイ・ヘンドリックス・ディアス、編集はメリアン・ブランドン、衣装はジェイニー・ティーマイム、視覚効果監修はエリック・ノードビー、音楽はトーマス・ニューマン。
出演はジェニファー・ローレンス、クリス・プラット、マイケル・シーン、ローレンス・フィッシュバーン、アンディー・ガルシア、ヴインス・フォスター、カラ・フラワーズ、コナー・ブロフィー、ジュリー・サーダ、オーロラ・ペリノー、ローレン・ファーマー、エメラルド・メイン、クリスティン・ブロック、トム・フェラーリ、クアンセイ・ラトリッジ、デズモンド・リード、ジェズス・メンドーサ、アルファ・タカハシ、マシュー・ウルフ、ジャン=ミシェル・リショー、カーティス・グレコ、ジョイ・デンヴァー・スピアーズ他。


『ヘッドハンター』『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のモルテン・ティルドゥムが監督を務めた作品。
脚本は、『ダーケストアワー 消滅』『プロメテウス』のジョン・スペイツ。
オーロラをジェニファー・ローレンス、ジムをクリス・プラット、アーサーをマイケル・シーン、ガスをローレンス・フィッシュバーン、ノリス船長をアンディー・ガルシアが演じている。
日本語吹替版ではJUJUの『Because of You』がテーマ曲に使われた。

映画が始まると、すぐにジムが目を覚ます手順が訪れる。始まった時点では全員が眠っているので、そのままの状態を長く続けるわけにもいかないからだ。
さすがに「無機質な宇宙船の様子だけを延々と描く」ってのは、スタンリー・キューブリックでも避けるだろう。
ただ、その流れはいいとして、「隕石の衝突でポッドが開いてジムが目を覚ます」って、それはシステムに問題があり過ぎだろ。そういう状況を全く想定していなかったのかと。
あと、その衝撃で開くようなポッドだとしたら、1つだけってのは都合が良すぎるだろ。

根本的な問題として、「なぜ120年も費やして、大勢の乗客が遥か遠くのコロニーへ移住しなきゃならないのか」という事情がサッパリ分からないんだよね。
最初は全員が眠っているから説明してくれる人間がいないし、ジムが目覚めても1人だから話し相手はアーサーしかいない。なので、その辺りまでは事情を説明しなくても、まあ仕方が無いかなとは思う。
でも、最後まで明かされないままなので、「劇中で起きるような事故のリスクもあるのに、それでも移住を目指すメリットは何なのか」と言いたくなる。オーロラとジムは理由を語るが、他にも大勢の乗客がいるからね。
っていうかオーロラとジムにしても「ジャーナリストとしての探究心」とか「エンジニアとしての興味」という程度なので、「それだけかよ」と感じるし。

宇宙船の意匠だけは丁寧に作り込んでいるし、「いかにも本格SFでございます」という印象を与えることには成功している。しかし前述したような「設定」の部分に粗さがあるので、トータルのディティールとしては不満が残る。
ただ、それも話が進む中で、「なるほど、そういうことなのね」と理解した。
ようするに、これって本格SFではないのだ。
本格SFっぽいのは序盤だけで、やりたいのは恋愛劇だ。セカイ系とまでは言わないが、SFとしての意匠は恋愛劇を盛り上げるための背景に過ぎない。
だから、本格SFとして考えた場合はディティールが不充分になっているわけだ。「でも本格SFじゃないので、別にいいでしょ」ってことなのだ。

それでも恋愛劇として魅力的であれば、それはそれでOKとしてもいいだろう。
しかし肝心の恋愛劇が、まるで乗れない内容になっている。もはや、「それは真っ当なラブストーリーとして成立しているのか」と疑念を覚えるほどなのだ。
何しろ粗筋でも触れているように、ジムは身勝手な理由でオーロラを目覚めさせているわけで。真相を知ったオーロラの「殺人よ」という非難は、その通りなのだ。
最終的に2人がカップルとして成立しても、「いや無理だわ」と言いたくなる。
ひょっとすると「ジムの罪を赦すことが出来るのか」というのが映画のテーマなのかもしれないけど、だとしたら「無理でしょ」と答えておく。

「もしも自分が同じ立場に置かれたら、どうなのか」と問われたら、ジムのような行動を絶対に取らないとは言い切れない。
でも、だからと言って、ジムの行為を肯定する気は全く起きない。「それはそれ、これはこれ」として、クズだと感じるだけだ。
もはや、どんなことをやっても取り戻せないぐらいの重罪だろ。
一応は罪悪感を見せているけど、それも最初の内だけだ。しばらくすると完全に忘却してしまうし、だから自分から真相を打ち明けて謝罪することも無い。

「ずっと一人ぼっちなので、他の人を目覚めさせたい。それも若くて美人のネーチャンを目覚めさせたい」という欲望にかられることは、充分に理解できる。
しかし映画のシナリオとして、なぜ欲求だけに留めず、実際に行動を取らせたのかと疑問を禁じ得ない。
例えば「そういう欲求にかられて葛藤していたら、誤って開けちゃう」とか、そういう形にでもしておけばいいでしょ。
そうすれば、「ジムは罪悪感を抱くが、何しろトラブルなので情状酌量の余地があるよね」ってことになるでしょ。

っていうか、男女の恋愛劇として構築したいのなら、むしろ逆にしてもいいんじゃと思うぐらいなんだよね。
つまり、「オーロラは事故で目をさましたけど、ジムが身勝手な理由で自分を起こしたと誤解して怒りや憎しみを抱く」という始まりにするってことだ。
で、そこからは「宇宙船で過ごすためには手を借りたり協力したりせざるを得ないので我慢する」という手順になる。
そして、「彼と過ごす中で少しずつ心境に変化が生じ、やがて自分が目覚めた本当の理由を知って云々」みたいな流れにするってことね。

後半に入り、乗務員のガスが目を覚ます。かなり話が進んでから登場するぐらいなので、重要な役割を背負っている。
彼が担当する重要な仕事は、ザックリ言うと「ジムの弁護」である。
ガスはジムがオーロラのポッドを開けたことを見抜いた上で、1人も孤独だったことを聞いて同情心を抱く。そしてジムを非難するオーロラに、彼を擁護する言葉を告げる。余命わずかと知り、お互いを大切にするよう2人に告げる。
つまり「2人の関係を修復させる」ってのが、彼に与えられた最重要任務だ。
もう1つ、ガスには「船の状況を説明し、助かるために必要な権限を与える」という仕事も用意されている。
どっちも含めて、「都合良く使い捨てにされる奴」という印象が強い。その2つの仕事を終えたら、さっさと死ぬのでね。

船が危機的な状況に陥ってもオーロラとジムと他のポッドを開けようとしないのは、「なんでだよ」と言いたくなる。
重大なトラブルが起きているのに、2人だけで何とかしようとしているが、そういう時こそ船長や乗務員を起こして頼るべきじゃないのかと。
そのままだと船が吹き飛ばされて全員が死ぬんだから、それを避けるために起こして助けを求めても許されるだろ。
あとジムに関しては、そんな状況でもポッドを全く開けないことによって、「そんな奴がオーロラだけは起こした」ってことで余計に罪の重さが強く伝わるぞ。

ガスが死んだ頃には、もう船のトラブルが深刻な状態に陥っている。なのでオーロラも、もはやジムを無視している場合じゃない。助かるために、オーロラとジムと協力する。
そういう状況へ追い込むことで、ジムの罪をオーロラが許したように見せ掛けているのだ。
それより前から、オーロラの気持ちが和らいだことを匂わせるような描写が無かったわけではない。
だが、それだけでは不充分だし無理があるので、「怒りや憎しみを忘れなきゃいけないような状況」へ追い込んでいるわけだ。

ジムの行動を知って「私の人生を奪った」と激しく非難していたオーロラが、彼を許すどころか再び愛するという展開は、段取りとしては正解だ。
しかし表面的には上手く進めているつもりかもしれないが、まるで誤魔化し切れていない。その答えに至るための真っ当な方程式が用意されていないからだ。
途中の計算式を飛ばして、いきなり答えだけを提示しているような状態なので、まるで腑に落ちない。
「それは本当の愛情じゃなくて、ただのストックホルム症候群でしょ」と言いたくなる。

終盤、「ジムがオーロラのために自己犠牲を支払って命を落とす」というチャンスが何度か訪れる。
前述したように、もはや何をしても取り戻せないほどの重罪を犯しているが、せめてもの贖罪として、それぐらいの展開はあってもいいだろう。
しかし、ある意味ではベタな筋書きを避けたかったのか、そのチャンスを全て回避するシナリオになっている。
ジムが船を救うために命を捨てる決意を固めてオーロラに別れを告げた時も、「オーロラが必死になって救う」という展開に至っている。

その後には、「ジムは医療用ポッドを使えば冬眠できることを突き止めるが、1つしか無いのでオーロラに使わせようとする」という展開がある。
そこはベタでもいいから、ジムが犠牲となってオーロラを冬眠させるべきだろう。ハッキリ言って、それ以外の選択肢を取ることなど愚の骨頂だ。
ところが、その愚の骨頂を本作品は選ぶのである。なんとオーロラは冬眠を拒否し、残りの人生をジムと生きることを選ぶのだ。
それで「美しい恋愛劇」としてまとめたつもりかもしれんが、違うだろ。そこはジムがオーロラを騙すなり、昏倒させるなり、どんな手を使ってもいいいから冬眠させなきゃダメだろ。

(観賞日:2018年5月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会