『パリで一緒に』:1964、アメリカ

カンヌで友人や若手女優たちと休暇を楽しむ画プロデューサーのアレックス・マイヤハイムは、パラマウント映画に「脚本は大丈夫だ。大ヒット間違いない」と電報を送ることにした。作品の脚本家がリチャード・ベンソンだと知った女優は、「この春に出会って付き合ったけど、私を置き去りにした最低な男よ」と口にした。友人から「ベンソンに書かせたが、最後の10ページは酒酔いのせいで意味不明だ」と言われたアレックスは、「書き上げるまで酒を断つ約束だ」と告げた。
パリにいるリチャードは脚本を書かず、酒を飲んで寛いでいた。そこへタイピストのガブリエル・シンプソンが来て、映画が大好きなので有名脚本家と仕事が出来るのは嬉しいと語る。リチャードは新作について、『エッフェル塔を盗んだ女』というタイトルだと教える。内容について問われた彼は、「アクション、サスペンス、ロマンティックなメロドラマ。コメディーでもある。根底には社会的メッセージが込められている」と説明した。
リチャードは原稿用紙を床に並べながら全体の構成を語り、ガブリエルにキスをした。アレックスがパリに来るのは2日後だが、彼は1枚も書いていなかった。これまでの19週間、リチャードは延々と遊び続けていたのだ。彼は脚本を書こうとするが、なかなか思い付かない。冒頭シーンの構想を何度もやり直すが、一向に決まらなかった。しかしガブリエルが革命記念日に俳優のフィリップとデートすることを聞いたリチャードは、アイデアをひらめいた。
リチャードは『エッフェル塔を盗んだ女』のヒロインとして、ガブリエルに良く似たギャビーを登場させた。彼女は恋人で俳優のモーリスとデートするため、カフェで待っていた。しかしモーリスは急な撮影が入り、デートをキャンセルした。そのカフェにはリチャードと良く似た宝石泥棒のリックが現れ、ギャングから仕事を請け負った。インターポールのジレー警部は、リックを張り込んでいた。ギャビーに目を付けたリックは、ダンスに誘った。
リックはギャビーを誘い、一緒にレストランヘ行く。その展開にガブリエルが違和感を示すと、リチャードは言葉巧みに説得した。彼はリックとギャビーが惹かれ合ったと言い、そこからの展開についてガブリエルに尋ねる。ガブリエルはリックがギャビーを洞窟へ案内して吸血鬼の正体を現し、ギャビーが馬車で逃げてリックが馬で追い掛け、複葉機による戦闘でギャビーがリックを墜落死ざせる展開を妄想した。ガブリエルは自分が考えた展開なのに、「彼を殺してしまった。悪いのはギャビーよ」と泣き出した。
リチャードは早く寝るよう勧め、ガブリエルを寝室へ行かせた。彼はアレックスに電話を掛け、「脚本は完成しない」と伝えようとする。だがガブリエルのネグリジェ姿を見たリチャードは考え直し、電話をキャンセルした。次の朝、ガブリエルが目を覚ますと、リチャードはラブソングを歌って笑顔を浮かべた。彼は朝までに大量の原稿を書き上げており、その内容をガブリエルに読み聞かせた。リックは運転手を務める助手に、「女を連れて行くのはジレーの目を欺くためだ」と説明した。しかしギャビーはジレーのスパイで、モーリスも警察の人間だった。
リックはギャビーを車に乗せ、「オフィスに立ち寄る」と言って撮影所に向かった。ギャビーの不審な行動を見たリックは、彼女が警察のスパイだと見抜いた。オフィスから逃亡したギャビーはスタジオに入り込み、追い掛けて来たリックに拳銃を向けた。彼女はリックに、ジレーが囮にするつもりで自分を仮出所させたことを話した。ギャビーは計画を聞き出すため、リックをベッドに誘う。彼女はリックと体を重ねるが、すっかり惚れ込んで警察を裏切ることにした…。

監督はリチャード・クワイン、原案はジュリアン・デュヴィヴィエ&アンリ・ジャンソン、脚本はジョージ・アクセルロッド、製作はリチャード・クワイン&ジョージ・アクセルロッド、製作協力はカーター・デ・ヘイヴン&ジョン・R・クーナン、撮影はチャールズ・ラングJr.、美術はジャン・ドボンヌ、編集はアーチー・マーシェク、音楽はネルソン・リドル。
出演はウィリアム・ホールデン、オードリー・ヘプバーン、ノエル・カワード、グレゴワール・アスラン、レイモン・ビュシェール、クリスチャン・デュヴァル、トマス・ミシェル、ドミニク・ボシェロ、エヴィ・マランディー他。


1952年のフランス映画『アンリエットの巴里祭』をハリウッドでリメイクした作品。
監督は『マイ・シスター・アイリーン』『逢う時はいつも他人』のリチャード・クワイン。
脚本は『ティファニーで朝食を』『影なき狙撃者』のジョージ・アクセルロッド。
リチャードをウィリアム・ホールデン、ガブリエルをオードリー・ヘプバーン、アレックスをノエル・カワード、ジレーをグレゴワール・アスランが演じている。
アンクレジットだが、モーリスをトニー・カーティス、ジキル博士とハイドをメル・フェラーが演じており、マレーネ・ディートリッヒが本人役で1シーンだけ登場している。

リチャードについてはガブリエルが「有名な脚本家」と言うだけで、それ以外の具体的な情報が無い。
そうなると、関係者からの評判が悪いにも関わらず、アレックスが彼に脚本を任せ、「大ヒット間違い無し」と断言できる根拠が全く分からない。
ちょっと台詞で説明するだけで済むのに、そういう作業を怠っている。
あるいは、リチャードが担当した作品のポスターでも出して、そこにフランク・シナトラやフレッド・アステアの名前を使ってもいいんじゃないの。

リチャードは新作の構成を説明する流れで、いきなりガブリエルにキスする。でもガブリエルは全く嫌がらないし、その後もリチャードが口説きモードに入っているのに、不快感を示すことは無い。その日が初対面なのに、しかもリチャードが女たらしとしての分かりやすい態度を見せているのに、ガブリエルは簡単に惹かれている。
リチャードとガブリエルがカップルになるのは最初から分かり切っているけど、それにしてもロマンス描写が適当すぎる。
リチャードがプレイボーイなのにガブリエルが簡単にキスを受け入れるのは、ただの尻軽にしか見えないぞ。
そもそもリチャードとガブリエルを初対面の設定にせず、以前からの知り合いにしておけば良かったのよ。それならゼロから関係を作っていく手間が省けるし。

リチャードとガブリエルのロマンスを、劇中劇のリックとギャビーの関係に重ね合わせて描こうとしている。
でもね、なんか寒々しささえ感じるんだよね。
だって、プレイボーイのリチャードがガブリエルを口説き落とそうとしていて、その流れで自分に似たリックを登場させ、ガブリエルに似たギャビーとの恋愛劇を目の前で作っているわけで。
これが「売れない脚本家が美女に惹かれ、実生活では叶いそうにないので劇中劇で恋を成就させようとする」みたいな仕掛けなら、何の問題も無いけどさ。

ガブリエルの妄想の中でリックは吸血鬼に変貌し、ギャビーとリックの追い掛けっこは競馬のレースになり、そこから戦闘機による対決に切り替わる。
そういうのは「映画を使った遊び」として描かれているけど、これも完全に外している。
そういう遊びがダメなんじゃなくて、雑に放り込んでいるのがダメなのだ。
あと恋愛劇を描いていたのに、ガブリエルが急に変な方向へ妄想を膨らませるのもキャラ的に無理があるし。
自分が考えた展開なのに「彼を殺してしまった」と泣き出すのは、「情緒不安定か」と言いたくなるし。

劇中劇は行き当たりばったりな部分も少なくないが、それは「リックが書きながら考えている」という設定だから、当然っちゃあ当然なのかもしれない。
ただ、行き当たりばったりであることが面白さに繋がっているのかと問われると、それは無いんだよね。
劇中劇の導入部は「何度も考え直す」ってのをネタとして使っているけど、それすらも喜劇としては弱い。
後半にはリックがギャビーを連れて撮影所へ行く展開があるが、その舞台を有効活用しているとは言い難いし。

前述したようにトニー・カーティス、メル・フェラー、マレーネ・ディートリッヒがアンクレジットで出演しているだけでなく、フランク・シナトラとフレッド・アステアも歌声の形でゲスト参加している。
特別ゲストの顔触れは豪華なんだから、劇中劇を映画産業の話にでもすれば良かったんじゃないの。
そんで楽屋落ちの遊びやセルフ・パロディーを幾つも盛り込んで、本人役で豪華ゲストに出演してもらう形にすれば良かったんじゃないの。
台詞では映画に絡めたネタも幾つかあるけど、そっち方面のアプローチも半端なんだよなあ。

現実パートにおけるリチャードとガブリエルの恋愛劇だけでなく、劇中劇におけるリックとギャビーの恋愛劇も強引だ。まあ現実の関係を重ねる形で進行するから、そっちに無理があれば劇中劇にも無理を感じるのは当然だろう。
この映画ってザックリ言えばロマンティック・コメディーなんだけど、そこのシナリオと演出が適当過ぎるのよ。
そんな冴えない恋愛劇をダラダラと続けているので、「リチャードが去ったガブリエルを追い掛けて愛を告白し、カップルになる」という予定調和の結末も、低調のままになっている。
アンクレジットなのに出番の多いトニー・カーティスは頑張っているけど、焼け石に水でしかないね。

この映画に出演した頃のウィリアム・ホールデンは、重度のアルコール依存症だった。
『麗しのサブリナ』で彼と共演していたオードリー・ヘプバーンは、自身の出演が彼の飲酒問題の解決に繋がるのではないかと期待した。
しかし残念ながらホールデンのアルコール依存症は全く改善されず、撮影にも大きな影響を及ぼした。
それでもオードリーは、撮影を楽しんだらしい。
その一方、映画の出来栄えについては嫌っており、ようするに本人も駄作だと認めていたようだ。

(観賞日:2023年8月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会