『パワー・ゲーム』:2013、アメリカ&インド&フランス

ニューヨーク。アダム・キャシディーは貧困地区で生まれ育ち、7歳で母を亡くした。父のフランクは病気を患っており、アダムは看護師に自宅介護を頼んでいる。アダムは対岸のマンハッタンで成り上がる野心を抱き、世界的テクノロジー企業のワイアット社で働いていた。彼は仲間のケヴィンなアリソンら5人でチームを組み、スマホ「エシオン」の新しい機能を開発している。月曜日のプレゼンを控え、彼はケヴィンと共にクラブ・ライズへ繰り出そうとする。しかし店員は彼らを一瞥し、入店を拒否した。
アダムはセント・ジョー病院からフランクが運び込まれたという連絡を受け、すぐに駆け付けた。以前にもフランクが倒れたことがあり、今回も迅速な処置で命に別状は無かった。しかしアダムは病院の看護師から、2度の治療費が保険でカバーできないことを知らされる。ワイアット社の経費削減によって、知らない内に保証が削除されていたのだ。4万ドルの大金が必要だと知らされたアダムは、何の当ても無かったものの、「何とかします」と答えるしかなかった。
アダムはエシオンのプレゼンによって、人生が変わるはずだと信じていた。しかし社長のニコラス・ワイアットは、アダムの提案した機能を全く評価しなかった。アダムは批判的な口調で反論するが、ワイアットは冷徹に一蹴した。アダムはチームごとクビになるが、経費用のクレジットカードを勝手に持ち出していた。彼はケヴィンたちに「俺がおごるよ」と言い、ライズへ繰り出した。カードのおかげで入店できたアダムたちは、酒を飲んで大いに盛り上がった。
アダムは踊っている1人の女性に興味を抱き、すぐに口説いた。女性はアダムを自分の家へ招待し、関係を持った。しかし翌朝になると、彼女は「もう用は無いわ」とアダムを冷たく追い出した。アダムが「寝た仲だろ」と食い下がると、彼女は「対岸の男の味見が好きなの」と軽く告げた。アダムはミーチャムという男に声を掛けられ、「ワイアット社長が呼んでる」と言われる。彼は車に乗せらせ、ワイアットの元へ連行された。アダムはワイアットから、エシオン開発費の不正利用を指摘された。
アダムは「弁償します」と言うが、ワイアットは受け入れずに「これは犯罪だ」と告げる。しかし彼は「君を金持ちにしてやろう。仲間も再雇用する」と、別の方法を提案した。ワイアットは「アイコン社のジョック・ゴダード社長は私の師匠に当たるが、独立した私を躍起になって潰そうとしている。新しいスマホ「オキュラ」の情報を盗むため、アイコン社に潜入しろ。潜入に成功すれば50万ドル、情報を盗むことが出来れば百万ドル分の株を渡そう」と語った。
その場には行動心理学の専門家であるジュディス・ボルトンが同席しており、アダムの生い立ちや父の入院費が必要なことを調べ上げていた。アダムはワイアットの邸宅へ案内され、ジュディスからスパイ行為を成功させるための秘訣を教わった。ジュディスはゴダードが麻薬で息子のディランを亡くしていることを教え、「貴方は7歳で母親を亡くしている。彼に自分と似ていると思わせ、信頼を得るのよ」とアドバイスした。
アイコン社の雇用担当幹部であるトム・ラングレンと会う約束を取り付けたアダムは、指定の場へ赴いた。トムに同行したマーケティング部長のエマ・ジェニングズがライズで出会った女性だったため、アダムは驚いた。初対面を装って面接を受けた彼は、破格の報酬で雇用された。ジュディスはアダムのために、アイコン社幹部にふさわしい邸宅を用意していた。ミーチャムはアダムに、50万ドルを振り込んだことを知らせた。ジュディスはエマのことを調べ、アダムに「彼女に近付いて。使えるわ」と指示した。アダムはミーチャムから専用の携帯を渡され、連絡したら必ず出るよう指示された。
アダムがアイコン社に初出社すると、トムが出迎えた。トムはオフィスへ案内し、社内を移動するには指紋を記録したカードが必要であることを説明した。アダムはオキュラと異なるタイプXという端末の開発を指示され、チームと会合を開いた。タイプXはSNS用として開発されており、GPSではなく3DPSを採用していた。それによって正確に現在地を特定できるが、デメリットもあった。売りが無いと感じたアダムだが、エマはプレゼンが3日後に迫っていることを告げた。
アダムから相談を受けたジュディスは、ワイアット社の開発部を集めようとする。しかしアダムは兵士には有益だと気付き、ケヴィンとアリソンに協力を求めた。すぐにケヴィンはタイプXを改良し、アダムのアイデアを実験してみせた。ケヴィンはアリソンに好意を寄せているが、まるで相手にされていなかった。3日後、アダムはプレゼンの場で初めてゴダードと対面した。アダムは「タイプXはSNS用としては無価値だ」と切り捨てた上で、軍事利用に適していることを説明した。
アダムのプレゼンは、ゴダードに高く評価された。ゴダードは別荘でのパーティーにアダムを招待し、オキュラの販売戦略チーフを務めるエマを紹介した。密かに書斎を探ろうとしたアダムはゴダードに見つかり、その場を取り繕った。彼はゴダードの息子であるディランの写真を見つけ、そのことを話題にした。ゴダードは息子のことを話し、「災難は誰にでも起きる」と言う。アダムはジュディスから貰っていた助言を思い出し、自分の家庭環境を語ることでゴダードの気持ちを掴もうと試みた。
アダムはエマに父親のことを話して関心を惹き、セックスに持ち込んだ。エマがシャワーを浴びている間に、アダムは彼女のパソコンからオキュラの情報を盗み出した。アダムの家には、5年前からワイアット社を調査しているFBI捜査官のギャンブルが現れた。彼は2009年にワイアット社の研修生が不審死していること、アイコン社に転職した社員のロスやアダムのアイデアを転用したマカリスターも死んでいることを話す。「無事では済まない。長くは続かないぞ」と警告されたアダムだが、FBIへの協力は拒否した。
アダムはオキュラのデータをワイアットに渡し、「仕事は終わった。約束の報酬をくれ」と求める。しかしワイアットは「データだけでは駄目だ」と言い、ゴダードが金庫室に保管している試作機を盗み出すよう要求した。アダムが反発すると、ワイアットはフランクを監視していることを明かして脅迫した。彼は下準備として、エマの指紋を入手するよう指示した。ジュディスとミーチャムは、アダムに与えた邸宅も監視カメラでチェックしていた。
ミーチャムはアダムに、「逆らえば友人か女を殺す」と告げた。ケヴィンはアリソンと歩いている最中、車にはねられた。幸いにも怪我だけで済んだが、アリソンから連絡を受けたアダムはワイアット一味の仕業だと悟った。逃亡を図ったアダムはミーチャムに捕まり、拳銃を突き付けられた。「決行は今夜だ。エマの携帯を手に入れろ」と命じられたアダムは、エマと会ってセックスに持ち込んだ。彼はエマが眠っている内に携帯電話を盗み、アイコン社へ赴いた。彼はエマの携帯と指紋を使い、金庫室に侵入する…。

監督はロバート・ルケティック、原作はジョゼフ・フィンダー、脚本はジェイソン・ホール&バリー・L・レヴィー、製作はアレクサンドラ・ミルチャン&スコット・ランバート&ウィリアム・D・ジョンソン&ディーパック・ナヤール、製作総指揮はスチュアート・フォード&サム・イングルバート&シドニー・デュマ&クリストフ・ランデ&アレン・リウ&ウィリアム・S・ビーズレイ&デヴィッド・グレートハウス&ダグラス・アーバンスキー&ライアン・カヴァナー&タッカー・トゥーリー、撮影はデヴィッド・タッターサル、美術はミッシー・スチュワート&デヴィッド・ブリスビン、編集はダニー・クーパー&トレイシー・アダムズ、衣装はルカ・モスカ、音楽はジャンキー・XL、音楽監修はボブ・ボーウェン。
出演はリアム・ヘムズワース、ハリソン・フォード、ゲイリー・オールドマン、アンバー・ハード、リチャード・ドレイファス、ルーカス・ティル、エンベス・デイヴィッツ、ジュリアン・マクマホン、ジョシュ・ホロウェイ、アンジェラ・サラフィアン、ウィル・ペルツ、ヘイリー・フィネガン、ケヴィン・キルナー、クリスティン・マルツァーノ、チャーリー・ホフヘイマー、マーク・モーゼス、ジェン・コーバー、イシドラ・ゴレシュテル、メレディス・イートン、ダニ・ガーザ、レベッカ・ペイス、レベッカ・チョウドリー他。


ジョゼフ・フィンダーの小説『侵入社員』を基にした作品。
監督は『男と女の不都合な真実』『キス&キル』のロバート・ルケティック、脚本は『愛とセックスとセレブリティ』のジェイソン・ホールと『バンテージ・ポイント』のバリー・L・レヴィーによる共同。
アダムをリアム・ヘムズワース、ゴダードをハリソン・フォード、ワイアットをゲイリー・オールドマン、エマをアンバー・ハード、フランクをリチャード・ドレイファス、ケヴィンをルーカス・ティル、ジュディスをエンベス・デイヴィッツ、ミーチャムをジュリアン・マクマホン、ギャンブルをジョシュ・ホロウェイが演じている。

アダムがエシオンの新機能としてプレゼンしたのは、「音声操作でテレビに携帯の画面を表示できる」というモノだ。
まるで画期的とは思えないし、本人は「社長は消費者のニーズを分かっていない」と反発するけどニーズに合っているとも思えない。ただの思い上がり&勘違いにしか感じない。
そこから「自信家だった主人公が現実の厳しさと直面して鼻をへし折られる」という流れになるのかと思いきや、そんなことは全く無い。
そこに関しては、アダムの反省や成長は全く無いまま終わる。

ワイアットがアダムをスパイとして使うのは、もちろん弱みを握ったからだが、それだけでなく「使える人材だ」と思ったからだろう。無能な人間だと思っていたら、大事な仕事を任せることなど無いはずだ。
しかしプレゼンの内容からしても、アダムが優秀な人材という印象は全く受けない。
アイコン社に多額の報酬で雇われるのも、インチキを使ったわけでもコネがあったわけでもなく、純粋に能力を評価されたからってことのはずだが、そこが全く腑に落ちないのだ。
ところがアイコン社の面接を受けるシーンで、トムはアダムがプレゼンしたエシオンの新機能を称賛している。つまり、「音声操作でテレビに携帯の画面を表示できる」ってのは「ニーズに合わない機能」ではなく、「素晴らしい機能」という設定になっているのだ。
そこは乗れないわ。

アダムは会社のクレジットカードを持ち出し、経費を遊興費に不正利用する。
後でワイアットから「君はカードの金を入院費に使うことも出来たのに、遊ぶことを優先した」と指摘されているが、そういう理由での不正利用なので、そのせいでワイアットからスパイ行為を強要されても「自業自得だろとしか思えないのだ。
アダムに大きな落ち度があるので、全面敵に応援したり同情心を寄せたりすることは無理だ。
せっかく冒頭で「父の入院費が必要」という要素を提示したのに、何故そこを使って「止むを得ない事情で経費を不正利用した」という形にしなかったのかと。

アダムがワイアットからスパイ行為を強要される前に見せられるのは、「アダムは全くニーズの無さそうな機能を得意げにプレゼンする自信過剰な男であり、自分の行為でクビになったのに逆恨みで経費を不正利用する愚かな男であり、出掛けたクラブで女をナンパする軽薄な男である」という事実だ。
これが「調子に乗っている野心家の若者が大物の仕事を手伝うが、醜い現実を知って離れる」という定型の映画なら、それでもいいかもしれない。
だが、そうではないので、そういう第一印象を観客に与えるのは上手くない。
そのことが、後になってもマイナスとして響いてしまう。

アダムは弱みを握られ、渋々ながらスパイ行為を引き受けたはずだ。
ところが、大きな邸宅を用意されると喜んでおり、アイコン社での仕事には積極的に取り組んでいる。
そこには嫌な仕事を仕方なく引き受けていることへの苦悩も、犯罪に加担していることへの罪悪感も全く見えない。むしろ、「この仕事をきっかけに成り上がってやろう、ワイアットたちの仲間入りをしてやろう」という野心に満ちた意識が強く感じられる。
両方を持ち込んで、それが上手く消化されていれば問題は無い。だが、どっち付かずにしか思えない。

最初に「弱みを握られ、脅しを掛けられる」という手順を入れるのであれば、アダムを「悪党に利用される被害者」として描いた方がいい。
その上で、「最初は苦悩や葛藤を抱えながらも指示に従っていたが、正義感の方が強くなっていき、やがて逆襲に出る」という展開を用意すればいいだろう。
アダムの「野心家」としての部分を見せたいのなら、そこを徹底した方がいい。つまり「脅されて仕方なく従う」という形ではなく、「成り上がるためにスパイ行為を快諾する」という入り方にするのだ。
その上で、「自身の行為に疑問を抱くようになり、やがて野心より虚しさなり正義感なりが強くなって」という流れを用意すればいいだろう。

アダムにアイコン社への潜入を要求したワイアットは、「ゴダードのために貢献したのに利用され、礼を尽くして独立したのに潰そうとしている」と語っている。つまり「向こうが悪党なので、スパイ行為に協力してくれ」と持ち掛けているわけだ。
そういう説明をするのであれば、ワイアットは「自分は被害者」と見せ掛けるべきだろう。
ところが、スパイ行為を要求している時点で、彼も悪玉であることは明確になっている。そのため、ゴダードに関する説明で「自分は被害者で、向こうが悪党なのだ」と説明している意味が全く無いのだ。
これが例えば「ワイアットの説明ではゴダードが悪党のように思えたけど、実は善人だった」という展開でもあれば、その説明も意味を持って来る。
しかしゴダードは説明された通りの悪玉なので、やっぱり意味が無いのである。

アダムはエマとセックスし、シャワー中にパソコンからデータを盗み出しても、まるで罪悪感を見せない。
だったら「脅されて仕方なく」ではなく、「成功のために行動する野心家」ってことにしておけばいい。
もちろん、そんな奴には全く好感が持てないが、それは後からリカバリーするしかない。
っていうか、「脅されて仕方なく」だったにしてもエマの気持ちを利用して欺くことに変わりは無いわけだから、どっちにしろ後からリカバリーする必要はあるんだし。

しかし、そういうリカバリーをアダムが出来ているのかというと、答えはノーだ。
後半、ワイアットやミーチャムから「フランクを監視している」とか「友人や女を殺す」と脅された後、エマの携帯を盗む時には罪悪感を見せているけど、「オキュラのデータを盗んだのは別に何とも思っちゃいなかったくせに。今さら罪の意識を感じてんのかよ」と言いたくなってしまう。
結局、エマに対して罪悪感を抱くのは「本格的にヤバい連中と関わっちまった」という恐怖心からであって、「エマに本気で惚れたから」とか「正義感に目覚めたから」とか、そういうことではないのよね。

前半戦で「アダムは成り上がりたい野心を抱いてワイアットから指示された仕事をやっている」ってのを見せちゃったもんだから、後半に入って「フランクを監視している」「友人や女を殺す」と脅されても、まるで同情できないのよね。
アダムはFBIの協力要請を拒むけど、それも「ワイアットに脅されているから」ではなくて、「協力したら成り上がるチャンスを失うから」ってのが理由だし。
そんなわけだから、後半に入ってアダムが追い詰められても「自業自得でしょ」と冷めた気持ちになってしまう。
そのことが、アダムがピンチに陥ったことによって本来は感じるべき緊張感も薄めてしまう。

完全ネタバレだが、アダムが金庫室に潜入しても試作機は存在しない。
そこへ全て知っていたゴダード(ジュディスが彼のスパイなのだ)が現れ、「君とワイアットの会話とメールは記録している。過半数の株を売らないと、FBIに証拠を渡すと彼に伝えろ」と要求する。
アダムは「僕を騙したな」と責めるが、単にゴタードが利口だったと感じるだけだ。
「アダムは卑劣な悪党に騙された可哀想な被害者」という印象は、まるで受けない。

とにかくアダムには主人公としての魅力が乏しいし、共感も同情心も全く誘わない。
「大物の悪党2人の争いに利用されて追い詰められるが、終盤になって逆襲に出る」ってことで、ホントならクライマックスに爽快感を抱くべきなのよね。でも、そもそも逆襲する前の状況を成立させられていないから、反撃に成功しても全くスカっとしない。
それに、あれだけ狡猾だったゴダードとワイアットが、それまではボンクラ一直線だったアダムの作戦で簡単に騙されるのが不自然極まりないので、そういう意味でも乗れない。
アダムに切り捨てられた上に彼のせいで襲われたケヴィンが積極的に協力してくれたり、騙されて利用されたエマがヨリを戻してくれたりするのも、あまりにも都合が良すぎて全く乗れないし。

(観賞日:2016年4月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会